全世界が嘘をつく日
嘘がつける日なんて素敵ですね。
誰が決めたんでしょうか。
嘘なんて年一回でいいよね
嘘ってなんだろうってよく考える。怒られる嘘もあれば悲しくなる嘘もある。この二つに共通して言えるのは、嘘がばれた時に起こるというところだ。
嘘にも多分、人間でいう時効みたいなものがあって、ある一定の期間嘘がばれなければ、それは本当になって、許されてしまう。嘘ってそんなもんだ。
4月1日の今日はエイプリルフール。別に待ち望んでいた訳じゃないけど、今日の午前中は、どんな嘘でもついていい。
でも意識して嘘をつくのは、案外難しい。変な言い方かもしれないけど、素晴らしい嘘を吐きたいじゃないか。
「あー、やられた」って言わせられるような。
そこで俺は彼女を呼んだ。
「もしも俺がちょっと前に起こった銀行強盗の犯人の一味だったらどうする?」
そんな質問を彼女にした。もちろんこれは嘘だ。
「どうしましょう。もしもそうだとしたら、私はとてもじゃないけど、この場所には居られないわ」
返答からして、気付いているのだろう。今日が何の日かなのか。しかしながら俺の嘘は続く。
「そうだね。でもよく考えてみて欲しいんだ。君と僕が出会ったのはいつだったかな?」
「えっと…4が月前。…あ!事件の5日後!」
「そう。僕が落としたハンカチを君が拾って、声をかけてくれた。それからいろいろ発展して今に至った。と君は考えているだろうが、実は違う。君がハンカチを拾うことからすべて計算通りだったというわけだ」
彼女の顔が少し曇る。
「なんのために…?」
「逆に…なんのためだと思う?」
彼女はうーんと考える。
「わからないだろうね。でもね、組織的には、君が必要なんだよ。やっぱり人質とか経歴とか、色んなものを捏造するにあたって、彼女というのは非常に便利なんだ。付き合った時期が過去の俺のアリバイ証明になるだろ?そういうことだ」
ここで彼女は俯いてしまい、表情は見えなくなった。
ゴーンゴーンと、ここで12時の鐘がなった。エイプリルフールの終わりだ。
「さてと、俯いているところ悪いけど…」
『『答え合わせをしよっか』』
俺と彼女は同時にその言葉を口にした。
「…うん?あ、気付いてたって事か。そりゃそうだよな」
「ううん。違うの。そのままの意味よ?答え合わせをしましょう」
彼女はゆっくりと台所向けて歩く。
「まず初めに、銀行強盗は3人組で行われました。組織なんか存在しません。私たちの単独犯行です」
戸棚を開いてマグカップを二つ出す。
「そして4ヶ月前のあの日。ハンカチを事前にカバンから盗んでおいて、落としましたよと声をかけたのも、あなたとここまでの関係になったのも、私の計画通りです」
ケトルのお湯が沸く。引き出しから紅茶パックを二つ取り出して、それぞれのコップにいれる。
「あなたに接近した理由は、あなたの地位と土地。私はここにいれば安全だし、この屋敷にお金を隠してしまえば、二度と見つかることはない。そういうことよ」
僕の前に入れた紅茶を出して、彼女はニコッと笑った。
「どうかしら?よくできてるでしょ?」
紅茶を飲みつつ、彼女が言った。
「よくできてるもなにも、エイプリルフールは、午前中で終わりだよ?知らなかったのかい?」
紅茶を飲みながら言った。
「んふふ。知ってるわよ。だから、言ったじゃない」
彼女は飲んでいた紅茶をおいて言った。
「答え合わせをしよっか。って」
「…あー。やられたよ」
口からポロポロとこぼれ落ちるように言って、僕は意識を失った。
全世界が嘘をつく日
確か聞いた話によると、エイプリルフールでついた嘘は、一生叶わないとか。
誰が決めたんでしょうね。