practice(182)



 尻尾にあたるところのは小さくて,頭にあたるところは大きい。金属みたいなもので繋がってる。木片と木片の隙間からそれが見える。いつも新しい。買ってきたばかりのネジみたい。ボクの帽子掛けに使ってるものと違う。取ってみたいけど取れない。壊れちゃうから,覗き見るだけにしてる。電灯の下からとか,真っ暗にして窓の外に向けてとか。明るい空が広がる。綺麗な金物の色が見える。サビなんてない。だから,動かないのはこれのせいじゃない。どれのせいだろう?椅子に座って,修理屋さんが診てくれている。高い帽子を被って,失礼にあたるからと今は部屋の中で脱いでる。足を組んで,細い。
 それは頭が重いからヘビみたいに動く。左に傾いたり,右に傾いたり,真横にすれば,どっちにも動く。ニョロニョロして,僕はお気に入り。木こりのお爺ちゃんがそれを作ってくれた。一緒にヤスリで表面を削った。つるつるとして,丸い感じで,撫でたら生きてる感じがした。目を入れて,名前を付けようとした。ヤスリもある。道具箱はお爺ちゃんが残していってくれた。でも,まだしてない。そのまま遊んでる。丸めて仕舞って,引き出しから出して,オハヨウって言う。それは,オハヨウっては言わない。
 お気に入り。木の匂いも。
「長くなるかもね。一晩はかかるかも。」
 丸い筒を片目に嵌めて,物を大きくして見てる修理屋さんが僕に言ったから,僕はイイヨ!と言った。窓の外の,森の向こうから鳴き声が聞こえて,修理屋さんがくすっと笑った。置かれた帽子はちょっと直されて,
「じゃあ,ゆっくり診るね。」
 と見ながら言った。
「ちゃんと直してね。」
 と僕は言った。
 くすりと笑って,笑われて,僕は毛布を引き上げた。ごわごわとして肌に触れる。くしゃみをした。隠れて消えた。葉っぱがざわざわして,ぱたって静かになる。望遠鏡でなら,そこがよく分かるんだよとお父さんが僕によく言ってた灯りは現れて,少し傾いてた。その瞬間を初めて見たから,修理屋さんに言った。
「そうかい?」
 修理屋さんはそれを見ていた。約束は守られてた。嬉しかった。僕は欠伸を隠した。温かい感じになる。手もとの本が見えなくなる。一日が遅くなっていく。
 時計の鳴き声が出てくる。ポッポー。夢を見ていることにする。
 枕の上で横になる。

practice(182)

practice(182)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted