背徳の密 第2話

背徳の密 第2話

ル・コルドン・ブルー

二月のはじめ

その日は朝から冷え込んでいて
朝の情報番組で
お天気おねえさんが言っていた通り
昼頃から降りだした雨は
夕方には雪に変わっていた。

店を訪れる人の数も少なく
商品の買い付けに出た店長に
留守を任されていた私は
早めに店を閉めようかと考えながら
家路を急ぐ人々をぼんやりと眺めていた。

こんなとき思考は彼の姿を追う。


今日はどんな仕事をしているのだろう。
バラエティの収録、ドラマの打ち合わせ
それともグラビアの撮影。
もしかしたらロケに出ているのかもしれない。
今ごろ自分の雨男ぶりを嘆きながら
「さみーなー」なんて言ってたりして。

かわいい彼の仕草を思い浮かべて頬がゆるむ。

もうすぐバレンタインデー。
じっくりとチョコを選んだのは
何年ぶりだろう。
彼のために用意した
ル・コルドン・ブルー ショコラデコール。

多忙を極める彼は
頻繁に店を訪れるわけではない。
今月中に渡せるといいんだけど……


ちらちらと舞う雪の中を
ぴたりと寄り添って歩く恋人たちを見て思う。
彼はきっと
たくさんチョコをもらうのだろう。
彼から女性の話は聞いたことがないけれど
芸能界で仕事をしている彼のまわりには
朝の情報番組に出ているような
きれいで可愛らしい女の子が大勢いる。
アイドルといっても大人の男性。
彼女がいたっておかしくはない。

私は毎朝テレビで観る
お天気おねえさんの顔を思い出し
ふたりが裸で愛し合う姿を想像する。

上品で可憐な顔が
彼に突かれるたびに歪み
明るくお天気を伝える声が
悦びを伝える喘ぎに変わる。

肝心の彼の姿は、うまく像を結ばない。
どんな顔をして彼は
女が昇り詰めていくのを見るのだろう。

私は自分の想像に嫉妬を覚える。
そして彼女を自分に置き換える。

彼の腕の中で快感に身をよじる自分の姿。
我慢できず声を漏らす自分の姿。
彼に見られながら達する自分の姿。

その想像に体の一部が熱くなる。
彼にふれて欲しくて
彼が欲しくて、熱くなる。
情欲に支配された私の思考。

私はふうっと大きく溜息をつく。
こんなことばかり考えて
十以上も年下の男にどうかしてる。

私は気分を変えようと
閉店の準備に取りかかった。



「さみーなー」

ふいに耳に飛び込んできた聞きなれた声。
驚いて振り向くと
いつものように少し背中を丸めて
肩についた雪をはらいながら店に入ってくる
彼の姿があった。

背徳の密 第2話

背徳の密 第2話

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-04-04

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