商職戦闘のセカイ
1章 スターキーとキータス
ここは魔法が存在する世界。
この世界には大きく分けて2種類の人間がいるそれはスターキーとキータス。
スターキーは魔法を使うことができ、
キータスは魔法を使うことができない。
ただ少し独特なのはスターキーは商人と職人にしかなれないという事、逆にキータスはどの職業にもなることができるという事。
職人として仕事をするならば『何を作りたいのか政府に自ら申し出をしないといけない』という決まりがある。
破ったら…重い罰に処されることになっている。
本書名 一般知識と基礎知識
著者 バトラーナ カシス
8020年 カンタス地方
ーガリラヤ村 宿屋ー
パタッ俺は読み終わった本を横の机に置いた。
「そんなこと知ってるっつーの」
「テット? ちゃんとその本読んどいたんでしょうね?」
ポニーテールにしていた長い黒髪をほどきながら、マミが近づいてくる。
「読んだけどさ、別に読む必要無かったんじゃねーの?」
はっきりいって読書なんか柄でもねーし興味ないんだけど。
「何言ってんの? あんたがスターキーとキータスの違いを理解してないからこんなことになったんでしょ? カシスさんの本は読みやすいからあんたに読ませたんだからねー」
上手い言い訳が見つからない……確かに、キータスのごついおっさんに雷魔法使おうとしたけど……。
「別にいーじゃん結局使わなかったんだから。てかっあいつが戦おうってうるせーからで……」
「言い訳無用!今、ツバサとルーサスが謝ってくれてるんだからね? あんたの為に!」
……なんか納得いかないが、マミはキレると手が付けられなくなる……この辺で諦めるか……。
「ただいまー」
ルーサスの声が聞こえた。
ナイスタイミングだぜルーサス!
「お疲れーあれ? ツバサとペンペンは一緒じゃないの?」
確かにルーサスしかいない。
「ツバサならペンペンと買い物して帰るそうですよ」
「分かったわ、もう7時だしツバサが帰って来てから夕食にしようか」
「つったてほとんどルーサスがやってんじゃねーかよ」
マミは料理がド下手だ。
「うっさい、あんたは作りもしないじゃないの。そんな奴にどうこう言われたくないわ」
2
ー翌日の昼ー
「テットー! 起きろー!」
目を少し開くと黄色いものが見えた。
ツバサの髪の毛である。
「起きろー! 早く起ーきーろー! 起きろバカ」
誰がバカだ誰が。
痛っ、ついに暴力をふるいだした。
「いってーな!分かった分かった起きるから、叩くな……」
「お前なんで昼にも寝るんだ?」
「今日は何か寝みーし」
部屋には二人だけか……。
「なあ、他の皆は?」
「あぁ、他の三人ならー」
何かが爆発したような音が振動と共に二人に届く。
「爆発音!? 一体何処から!?」
その爆発音の直後あたりが一瞬光り、ペンペンが現れた。
「テット、ツバサ大変だペン! キーガの襲撃だペン!早く来るペン!」
「ペンペン!? どうした!?」
ペンペンは瞬間移動がつかえる俺の自慢の相棒だ。
「いいから来るペン! テットも早く来るペン!」
俺、寝起きなんだが。
「テットいくぞ!」
「お、おう」
ペンペンの話によると、ガリラア村の道具屋でマミとルーサスの3人(?)で買い物をしてたら、いきなりキーガが襲ってきたらしい。
ちなみにキーガというのはイノシシ科のモンスターだ。
「で、マミとルーサスは?」
「今キールと戦ってるペン! あ、そこの角を左だペン!」
ペンペンがアクセサリー屋の先の角を指して言った。
「マミ! ルーサス! 大丈夫か!?」
「ツバサ! テット! 早く手伝って!数が多くて私とルーサスとじゃ手に終えないのよ!」
「よっしゃ!久々に暴れますか!」
「安眠妨害だしな……」
3
「いくぜ! 草魔法 カトリット!」
ツバサ君の手から無数のカッター弾が飛び出していく。
「私だって! 風魔法 エアスロー!」
風が凄い勢いでキーガを叩きつける。
「やるなマミ!」
「当然でしょ!」
『ゴゴゴゴゴーフゴー』
「やべっ後ろからかっ」
「雲魔法 フワフワの眠り!」
フワフワな雲でキーガを眠らせる。
『フゴゴーフーzzzzZZZ』
「大丈夫ですか?」
「ごめんルーサス、完全に油断してたわ……」
「いえいえー」
『フゴーフゴフゴフゴー』
まずい...私の雲魔法でキーガを眠らせてはいるけど、量が多くて対処しきれない。
「ちょっとテットー! あんたも手伝いなさいよー!」
マミちゃんが叫んだ。
「何言ってんだ、俺だってやってるっつーの。ったくどこ見てんだよ」
「あーテット君は魔法で建物を守ってくれてるんです」
マミちゃんはふーんと頷きじゃあ私も、とキーガに向かっていった。
「風魔法 ウィンドカッター!」
ツバサ君も応戦している。
「俺も! 草魔法 グローラン!」
二人の二段攻撃が炸裂する。
『ゴーフゴーゴーガッゴ』
キーガの数も大分減ってきた。
「これくらいなら一掃できる......!光魔法 カトリラ!」
……村全体に鮮やかな光が満ち、キーガの影が消えた。
「やった、キーガ大量討伐完了よー!」
「キーガとはいえ、眠ってる敵にそこまでするか?」
「勝てば良いのよ、勝てば」
ちぇっ、俺なんの見せ場も無かった。
ってか動いたらまた眠くなってきた……。
「テットー、まだ寝ちゃだめだペンー!」
4
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったら良いものか……」
キーガとの戦いが終わった後、村長が御礼に来た
「いえいえとんでもないです。私達は特別な事をした訳ではないですし」
とかマミは言ってるけど、心の中ではどう思ってるか分かったもんじゃねぇよな……
「確かにそうペン!」
と、ペンペンがにやけながら言った
ペンペンは俺の思ってることが分かったらしい。流石俺の相棒!
「これは、わしらからのほんのお礼です。どうぞ受け取って下され」
村長がマミに手に持てるほどの大きさの木箱を手渡す
「わあ、ありがとうございます、村長!」
ーガリラヤ宿屋ー
戦いから宿屋に帰って来た私達は村長から貰った木箱を開けてみることにした
「で? 何貰ったんだ? 早く開けてみようぜ」
ツバサ君は目を輝かしている
「はいはい、ツバサはほんっとせっかちねー」
「テットだって気になるよなー?」
zzzzzZZZっテットさんは寝ているようだ
しかもうつ伏せで寝ている為、赤色のもじゃもじゃがある様にしか見えない
「って寝てるし……」
「開けるよー」
ツバサが木箱を開く。
「これってもしかして宝石じゃない?よかったわねツバサ」
「職人の腕がなるぜ」
ツバサ君は嬉しそうだ。
そういえばツバサ君って宝石加工(アクセサリー)職人だったもんな。
「できれば食材も欲しかったです」
実は私は料理職人だ。
「あ、でも、さっきキーガの肉いっぱい貰ったのよー」
「もしかして……今後しばらくキーガの肉なのか?」
キーガの肉はまずいわけではないんだけど、スジが多くおまけに硬いのでとっても食べにくいという致命的な欠点がある。
私は結構好きなんだけどな……。
「まじかよーーー」
「どうでもいいけど、ツバサはやくアクセサリー作りなさい。明日朝市で売るんだから」
私達は、明日の朝市の為にはるばるガリラヤ村にやって来たのである
「はーい。ってかテットはいいのか?」
「テット君なら、朝一でペンペンと作ってましたよ」
「テットのやつ鍛冶のこととなるとやる気が違うからなー。まあ、そうゆう事なら俺も頑張りますかー」
5
ー翌日 朝市ー
「ここでしか見れない物ばっかだよー! ぞうぞ見ていってね」
ここ、ガリラヤ村はラバーナ大陸の中央に位置するため、やって来る人も多い
「こんな朝でも結構人が多いのな」
「そうですね……、今はマミちゃんとツバサ君が頑張って接客してくれてますが、今日の午後には村を出発する予定なんですよね……」
「もうちょっとこの村に居たかったペン」
「まあ、この村も案外楽しかったしな」
大変だったけど
「ルーザスー、テットー、そろそろ交代お願いー」
「はーい今行きますー」
「だってさ、ペンペンいくぞ」
「分かったペン!」
あの後2回ほど交代をし、朝市は終了した
「やっぱテット君達の作った物はよく売れますねー。」
「確かに、たまにモンスターが落とすアイテムなんかより全然客引きが良いもの。」
「だろー、俺の作るアクセサリーはそこらのとは格が違うんだよ、格が。」
まあ、武器が売れてよかったけど……ってかまた眠くなってきたんだが…
「何眠そうにしてんのよ、この後すぐ出発なんだから寝る暇なんか無いわよ」
「そうだぞー、やっとグループに帰れるんだから我慢しろ」
グループとは同じスターキーの集まりのこと、俺たちの仲間もそこで仕事をしている
「まあいいわ、早く出発するわよ」
歩きながらルーザスが今後の進路を説明してくれた
「私達はガリラヤ村を出発したあと東に進みテラーヌ湾沿いを南東に歩きます。だんだんモフック湖が見えてきたら、そこがグループのあるモフック街です」
テラーヌ湾はラバーナ大陸で一番大きな湾で、モフック湖はラバーナ大陸二大湖の一つ、南東にある
また、モフック湖の近くにあるので通称モフック街
「要するにまずはテラーヌ湾を目指せばいいんだな」
「そういう事だ」
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ーテラーヌ湾道中ー
ガリラア村からテラーヌ湾に向かって歩く俺達
ここら辺は北に畑作地帯、その近くに流れるカートン川、そして南にカートン山脈と、自然にあふれている
「南の方に一つだけ山肌が出てる山があるけど、あれ何なの?」
マミが山の方を見ながら訊ねた
「あれはガンキス山っていうんだ」
「へぇ、結構ツバサって物知りなのね」
「そりゃ、宝石加工職人だし。当然だよ」
カートン山脈の中でも、ガンキス山は鉱石が最も豊富な事で有名だ
「それなら、俺も知ってるぜ。あそこに神銀があるらしいからな」
神銀とは、世界一丈夫でとても貴重な鉱石のこと
防具にも武器にも農具にも、何にでも使える為、世界中で重宝されている
「まあでも、神銀を加工するには、国の許可が必要なんだぜー」
まだ俺は持ってねーが……
「あれ?ペンペンじゃん、どうしたこんなとこで」
後ろの方で誰かの声が聞こえた
銀色の髪、派手なアクセサリー、渋い声
「……あ」
「トーラスさんじゃないですか! 何してるんですか?」
トーラスさんは俺達のグループの先輩で、グループの中では五本指に入る実力者だ
「ああ、ちょっと仕事でなー、お前達こそなにしてんだ?」
「私達ガリラア村からの帰りで、今からテラーヌ湾沿いの道に行くんです。」
「テラーヌ湾に行くのか……?」
先輩の表情が一瞬曇った気がした
「どうしたんすか先輩?」
ツバサもきずいたらしい
「い、いやっ何でもねえ……お前達テラーヌ湾に行くなら、絶対夜に出歩くなよ」
「へ?何で……」
「絶対にだ!分かったか!」
「はっはい……分かりま……した」
いきなり先輩が強く言ったからかツバサは少し驚いていた
「おかしい……」
「うん……確かにおかしいわね……」
「確かに先輩なんであんな髪跳ねてるんでしょうか?」
?
「いっいや、確かに先輩の髪凄い跳ねてたけど、今疑問に思うのはそこじゃないからね?もっとこう……あるでしょ? なんか引っかかる所が!」
……ルーサスは結構あほなのかもしれない
7
「違うわよ!どう見ても先輩の様子おかしかったでしょ?」
確かに、トーラス先輩があんなに怒ってるなんて珍しい。ましては怒鳴るなんて...何か事情があるとしか思えないのだが……。
「テラーヌ湾で何かあったのか?」
「そう考えるのが妥当だろうな……」
……?ペンペンが何かを見つけたらしい
「何みてんだ?」
ペンペンは手に持っているものを見せた
モサッ
「んっ? モサッ?」
って
「おい! 毛虫じゃねーか! 何持ってんだよペンペン!」
俺は虫全般苦手だ
ペンペンはごめんペン、と持っていた別の物を渡した
「……?なんだこれ?」
少なくとも渡された物を俺は見たことが無い
「何ですかこれ?」
さあ?と俺とペンペンは首をかしげた
ルーサスはそれ見せてくださいと俺が持っていた物を取っていじると
「これ開きますよ?」
と言い
パカッと開けた
「……?なんだ?ボタン付いてるぞ、それに何か変な穴が……」
少しの間二人と一匹は黙って考えていた
「まあ考えていてもしょうがないですし、グループに帰って皆に訊いてみましょうか」
2章 血とゲームと勘違い
ーテラーヌ湾 近郊ー
日が沈むころ、やっとテラーヌ湾に着いた俺達は、目の前の光景に驚いていた。
「どうゆうことだ? これ?」
ツバサがこう、口にした。
混乱してるようだが、俺だって正直意味が分からない。
何故なら......
遠くから見ても、街の様子が普通過ぎるからである。
「確か、夜に出歩いちゃいけないんですよね?」
「ああ、先輩はそう言ってたな」
......まあいい、街にいってみれば分かるだろ。
ーテラーヌ湾 街中ー
街はまだ活気に溢れている。
ツバサとルーサスは宿をとるため別行動をし、とりあえず、俺達は街の人に色々訊いてみる事にした。
「あ~その事だ?怯えててももったいないんだで、時間が。でも皆、日が沈んで見えなくなったら、急いで家にかえるだよ」
「結構度胸あるんですね、皆さん」
「まあ......怖くなって逃げた人もいるだよ」
おじさんは笑顔だったが、どこか悲しげに見えたのは気のせいではないだろう。
「あの、えっとごめんなさい......。変なこと思い出させちゃって......」
マミは、たまらず謝っている。
「いいだいいだ、気にしないでくれだよ。それよりもう店じまいだよ、帰ってくれだ」
おじさんは、そう言うと店の奥に消えて行った。
2
テット君とマミちゃんと別れ、私はツバサ君と宿を探して歩き回っていた。
「あんま、宿無いなぁ......。」
今までに3つ宿を見つけたけど、どれも空きが無かったり、閉まっていたりで、中々上手くいってない。
「仕方がないですよ、近くに来ている旅人も大勢いるそうですし」
夜に現れる“何か„の話が出てから、テラーヌ湾に来る人が大分減ったらしい。でも仕事なんかで来るしかない人もいるようで、そんな人達が宿を利用しているみたいだ。
「探すしかないかなぁ......」
「はい、頑張りましょう!」
「きゃーー!!」
突然前方から悲鳴が聞こえ、声の方を見ると1匹の青い犬が走って来ていた。
「翼? あの犬、翼が生えてる!」
犬には白い翼が生えていたのだ。
「とっ、とにかく捕まえなくちゃ!」
そう言うとツバサは犬の方へ駆け出し、私も追って駆け出した。
だが、その犬は角を曲がりそのまま何処かへ消えてしまう。
「くそ、どこいった⁉︎」
「しかし、あの犬何だったんでしょう?」
私は17年生きてきてあんなに綺麗な犬を見たことがない。
「あの犬も今回の事件に関係してるのか?」
「分かりません……。」
二人共少し考えていたが、まあいいと悲鳴のあった方へ事情を訊きに行ってみる事にした。
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「あの~、ちょっと訊きたい事があるんですが......よろしいですか?」
とりあえず、草むしりをしていたお姉さんに訊ねてみる。
「なんです? えーとっ、ショート君とショートちゃん?」
ショートちゃんかぁ、なんかいいかも......。まあ......それは置いといて、お姉さんにさっきの事を話した。
「あの犬の事? さぁあんまりよく知らないわね......。でも噂によると吸血鬼のハーフだって」
あぁ、だから羽が生えていたんだ。
あれ?でも吸血鬼の羽って白かったっけ?亜種?
「アレと関係してるんじゃない?」
「アレ?アレって何ですか?」
「あら?知らなかったの?ごめんさいね、アレっていうのは吸血鬼の事。最近夜によく暴れてる怪物知らない?」
まさか怪物が吸血鬼だなんて......だから夜に外に出るなって先輩が言ってたのね。
「っていゆうか何で吸血鬼なんかが暴れてるんですか? 何かしたんですか?」
「してないわよ。そもそもそれが分かってたら街だって何か手を打ってるわ」
確かにお姉さんの言ってる事はごもっともである。
「そう言えばあのワンちゃんは何をしてたんですか?」
「さあ?私にもよく分からないのよ。いきなりやって来てはゴミ箱やら木箱やらを漁るんだもの。酷い時は人の持ち物まで漁るのよー」
外見と性格が一致しないのは私だけなのかなぁ?
「もう、日が見えなくなっちゃったから話はおしまい。ていうか二人ともどこ住んでるの?」
あ......、
「やばい!! 宿とってないぞ!! 今日どうしよう......テットとマミに怒られちまう!!」
「あら、その2人も一緒にお姉さんの家留まってく?」
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私達は結局そのままお姉さんの家に留まることになった。お姉さんの家は思っていた以上に普通で、大人っぽい雰囲気をかもし出している。
「廊下をまっすぐ行ったところにトイレがあるから、お手洗いがしたかったらそこにいきなさい。後、今日は2階の一番奥の洋室と、その手前の和室、2部屋貸してあげるからそこを使いなさい」
お姉さんが手際よく説明をしている。
テットとマミには後で私から説明しておこう。......どうせツバサ君は聞いてないだろうし、
「夕食は出来たら私が呼ぶし、お風呂はあんまり遅くなければいつでも入っていいから」
お姉さんはトイレの右側のドアを指して言った。
「夕食は7時頃だからそれまで自由時間ね」
「ありがとうございます」
私達は廊下を曲がった突き当たりにあ
る螺旋階段を上っていった。
「俺は和室ねー」
そういうとツバサ君は自分のだとばかりに部屋に荷物を置く。
「まあ、それは別にいいですけど、これからどうするんです?」
「とりあえずテットとマミと合流しないと駄目だね後、ペンペン」
確かに私達じゃ吸血鬼にはきついと思う...メイン火力はあの二人だし。
「しょうがない、もう夜だけど二人を探しにいくか」
少し危ないけどそうするしかない、か。
私も洋室に自分の荷物を置いた。
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私達は2人を見つける為、月の明かりを頼りに街を歩いていた。
「予想してたけど、やっぱり人居ないですねえ」
もうすっかり黒に染まった街は人の気配もない。みんな吸血鬼に怯えているのだろうか。
「逆に2人を見つけやすくなったんじゃないか?」
「ツバサ君は本当にポジティブで、羨ましいです」
こうゆう性格は本当に得だと思う。
...でも何か出そうだ。
明かりが少ないせいかな?
カタッ、背後から音が聞こえた。
「何っ!?」
「誰かいるのか!?」
後ろに振り向くと何者かの影があり、私達に気ずいたのかこちらに振り向いた。
一体何なのか確認しようとしたが、相手の背後から月の光が照らしてる為、真っ黒でよく分からない。
「...............、」
何かを言いながら近づいて来る。
「誰ですか!?」
何を言っているのか聞き取れないから余計に怖い。
「...............ン!」
「............ペン!」
?、ぺん?覚えのある語尾だ。
「やっと見つけたペン!ツバサー、ルーサスー!ペンペンだペン!分かるペン?」
「ペンペンじゃないか!いきなり現れないでくれよ!あーびっくりした...」
そうか、ペンペンは瞬間移動出来るんだっけ?すっかり忘れてたよ...。
「大変だったペン...まあいいペン2人とも宿あったペン?」
「まあ、宿ではないけれどありましたよ」
ペンペンは少し安心したようで、肩を撫で下ろしている。
「とりあえず、テットとマミを連れて来るペン」
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「到着だペン!」
「お疲れペンペン」
流石にペンペンは流石に疲れたようで、ペタンと座ってしまっている。
「2人共なんか収穫あった?」
ツバサがこっちを向いて訊いた。
「んー、簡単に言うと街のみんな、時間が勿体無いから昼間は外に出てるらしいよ?」
いや、これじゃツバサもルーサスも分からないだろ。
現に2人共キョトンとしてしまっているし。
「2人と別れた後お店にいたおじさんに訊いたんだけど、なんか日が昇ってるうちは安全だからってさ。...あれ?でも何で安全なんだろ?」
「あーそういうことか」
ツバサは一人で納得したようだ。
「どういう事だ?」
「俺らが泊まっている家の人が言ってたんだけど、街を襲ってる怪物は吸血鬼なんだって」
「吸血鬼って確か血を吸う奴?」
確か、ニンニクと十字架と流水も駄目だったな。後、日光も...あっ
「だから昼間は安全だったのか」
マミも理解した様だ。
「ところで、その泊めてもらったっていう家は何処にあるんだ?」
ルーサスはついて来て下さいと、後ろを向いて歩き出した。
今俺たちがいるテラーヌ街は、ラバーナ大陸の東のに位置し、大陸1の大きさを誇るテラーヌ湾に沿うような形で形成されている。テラーヌ湾を全て埋め立てると、大陸の17分の1面積が増えるそうだから本当に大きい。
また、この世界では、1つの大陸=1つの大きな国であり、国という、大きなくくりの中で個々の魔法文明が発展している。
しかし、流石に大きな大陸を、1つの国でまとめるのは限界があった。そのためそれぞれ1方角中枢都市が東西南北に1つずつあり、6ヶ月に1度大陸のどこかにある定められた場所に、1方角の代表者4人(16人)が集まって文明・経済発展会議がなどが行われている。
少し話が逸れたが、テラーヌ街は東部(細かく言えば湾から下なので南東)の中枢都市だ。この街は大陸唯一の湾があり、湾内の波も比較的穏やかな為に貿易が特に発達した。他にも観光業が盛ん。街が湾を円状に囲む独特な形なので、月を背に海から見た夜景を楽しんだりする観光客も多い。
「…やっぱり良い街だな」
観光客ように綺麗に整えられた道路や、街並みにそう呟いてしまった。
7
ルーサスに案内されてきた俺らは、大通りを右に曲がりニュータウン通りを歩いて来た。
「ここです」
俺らが泊まらせてもらうという家は、外見は洋風でオレンジ色の壁、こじんまりとした庭がある、よく見る普通な家だった。
少し珍しい物を挙げるとすると、屋根の上に大きなアンテナが付いている事くらいか。
「ここの家の人はどんな感じなの?」
マミが訊いた。
「優しくて綺麗なお姉さんですよ。歳は25歳前後ですかね?」
ルーサスがツバサを見る。助けを求めたのか、しかしツバサは全く気づいていないようだ。
「結婚してないのか?」
「してないと思うよー、旦那居なかったし」
「遠距離恋愛なんじゃないの?」
ツバサは少し考えていたが、見る方が早いと、インターホンを鳴らした。
ロックが開き、ドアを開ける。
そこにお姉さんの姿無い。
?なんとなく違和感を覚えた。
その後、キッチンで料理をしていたお姉さんに俺とマミとペンペンが挨拶をし、二階に俺たちが寝る部屋があるそうだから二階に行った。
「ちなみに俺が和室でルーサスが洋室だからね」
そう言い残すとツバサは部屋に入り、マミはルーサスと同じ部屋がいいと洋室のドアを開ける。
...俺の選択権ねーじゃん。
「ペンペン、俺らは和室だぞ」
観葉植物を眺めていたペンペンが、こっちにやって来てふすまを開けた。
部屋は入り口から見て右側にタンスと押し入れ、真ん中にコタツ、左奥の低い台の上にテレビと、思っていた以上に殺風景だ。
って、ツバサは既にテレビ観てるし。
「案外普通だぺん」
ペンペンの素直な感想が聞こえた。
8
ツバサの荷物の横に自分の荷物を置き、窓の近くの椅子に座った。
「それ何だ?」
ツバサが尋ねてきた。
目線は俺の手に持っている物に向いている。
ガラリア村からの道中に拾った、開くとボタンがある直方体の物体に。
「これ?テラーヌ街に着く前にペンペンが拾ってきたんだよ、よく分かんないから俺が預かってるって訳」
「爆弾とかなんじゃないのか?ボタンを押すと爆発するとか」
始めは俺もそう思っていた。でもルーサスが勝手にボタンを押しても、何の反応も無かったから危ない物ではないはずだ。
「お前もしそれが爆弾とかだったらどうするつもりだったんだよ」
「考えたくもねえな」
「結局それ何なんだペン?」
ペンペンが来て言った。
ボタンと穴があるだけだ、何なのかなんて検討もつかない。
とりあえず俺のバックに戻した。
「まあいいペン。テット、お風呂入り行こうペン」
最近ろくにお風呂入れてないから体がベタベタするし、せっかくだから入る事にした。
ー風呂場ー
風呂場もやっぱり部屋と似て普通だった。
椅子とシャンプー、リンス、ボディーソープそれに湯槽の横に観葉植物が置いてあるだけ。
別におかしい訳ではないが、すこ生活感が足りない気がする。
「意外と広いんだな」
6畳は有るだろうか。
「でも大きさの割に小さな窓だぺんね」
それに窓は入り口から1番遠い所にある。
湯槽にお湯はもう張ってあったので、ペンペンをボディーソープやシャンプーで洗い流し、ペンペンを湯槽に入れた。
「いいお湯だペン...ちょっと足が届かないけどペン」
早くもペンペンは頬を赤く染めている。
「お前どのお風呂でも足届かないだろ、見栄張ってんじゃねーぞ」
実は浮き輪をしているペンペンは、少し照れていた。
9
俺も髪の毛と体を洗い流した後、湯槽に入った。
「いいお湯だペン」
「ああ、確かにそうだな」
しかしどうなってるんだろうか、吸血鬼に白い翼を持った青い犬、それによく分からない物体。別に関連性があるわけではないしな...。やはり吸血鬼に直接会って訊いてみるしかない、か...。
「よしペンペン、作戦会議だ」
「作戦ペン?吸血鬼を倒す為のペン?」
「そうだ」
俺が考えた作戦はこうだ、
1、このテラーヌ街を4つに分ける。
2、1区切りごとに1人ずつ人を配置する。
3、一晩、形はどうであれ見回りをする。
4、不審な事(吸血鬼が暴れる)が起きた場合、そこに4人が集まり戦う。
「でも他の区切りを受け持った人が、吸血鬼に気づかなかったらどうするペン?1人で戦うペン?」
「ここで重要になってくるのがペンペン、お前の役目だ」
そう、この作戦はペンペンの持つ瞬間移動能力がないと成立しない。なぜなら通信手段が無いからだ、携帯はグループにあるし、しょうがない。
「ペンペンには町全体が見渡せる所にいてもらう、例えば建物の上とか。で、吸血鬼のいる区間にいる誰かに何か目印になる事をしてもらうから、それを見たら瞬間移動で他の仲間を連れて来てもらう」
そして他の3人も吸血鬼がいる場所へ行けたら成功だ。
もう今日は間に合わないから、結構日は明日かだな。
「詳しいことは夕食の後...」
俺が見た時は、早くもペンペンは夢の世界に旅立っていた。
「しょうがねぇなぁ、ほら起きろ、のぼせるぞ」
ペンペンの目が開く。
「だって話しかけてもずっと黙ってるしペン。なんか眠くなっちゃってペン」
「ほんっとお前は自由なやつだな」
えへへとペンペンは照れている。
「別に褒めてるわけじゃねーぞ」
10
午後8時半、和室で吸血鬼討伐の為の作戦会議が始まった。
……といってもほとんど考えるのは俺だが。
大まかな作戦内容はペンペンが説明してくれたらしく、俺は詳しい集合場所、吸血鬼が現れた時にどうするかなど、作戦を成功させる為の細かい事を説明するらしい。
「明日の作戦の細かい事を説明するぞ。一応言っておくが今回の作戦の要はペンペンだ、よく聞いとけよ」
ペン!とペンペンのいい返事が聞こえた。
テラーヌ街は元々、広く長い海岸の上で発展した街だ。その為街自体が南北に伸びており、区切るならロールケーキを切るように東西に区切る方が効率がいい。というか、この街の区の分け方も東西に分けられている。
「配置は南寝蔵区にツバサ、中南文化区にルーサス、中北港区に俺、北海緑区にマミだ」
「北海緑区ってセレブの集う区じゃん!テットのくせに気がきくねー」
そういうつもりで配置したわけでは無いのだが、喜んでるならいいか……。
この街は南端に住宅が多くある南寝蔵(みなみしんかく)区、一つ北上して娯楽施設、ショッピングモールが多くあり、駅がある中南文化(ちゅうなんぶんか)区、そのまた北が、この街の栄えた理由である港がある中北港(なかきたみなと)区、そして唯一海水浴場があったり、ホテルがあったりと、リゾート地として栄える北海緑(きたかいりょく)区と、計4つの区に分かれている。
ちなみに今いる、お姉さんの家は南寝蔵区だ。
北海緑区はマミの言う通り、セレブの多くいる街なので当然地価が高い。ここに住めるのは超セレブだけ。
「ペンペンには中南文化区にある高層商売ビル『SIDO』と、北海緑区にある高級ホテル『Lucky』の屋上を瞬間移動で往復してもらう」
この2つの建物から見える夜景を合わせれば
テラーヌ街の大体は余裕で見渡せる。
「もし吸血鬼がいたら敵の見えない所でペンペンが見える程度の目印を建ててくれ。建てるものは後でペンペンに伝えとけよ」
俺は自分のバックからある物を出した。
そう、GPS機能を搭載した腕輪である。ツバサに結構前に作ってもらった腕輪に、GPSを付けたものだ。
別にこの腕輪をつけたからといって防御力が上がるわけではない。
「そしてこれを全員につけてもらう。ペンペンは個々の腕輪がどこにあるか分かる、このタブレット端末を持っていてくれ。くれぐれも落としたりして壊すなよ」
朝まで見回りをしている可能性が高いし、明日は午後5時くらいまでねていたほうがいいだろう。
11
ー翌日午後6時ー
4時にはもう起きていた俺らは、軽い夕食を摂り、見回り中お腹が空いた時食べるおにぎりやパンを持って玄関に集合していた。
「皆頑張るみたいだから、お茶買ってきたわよ、はい1人1本ずつね」
お姉さんがお茶を渡している。
「「「「ありがとうございます」」」」
「ペンペンGPSちゃんと機能してるか?」
「バッチリだペン」
「よし、各自決められた配置についたら作戦開始だ」
ー作戦開始ー
ー午後6時半ー
中北港区に着いた俺はとりあえず歩いて街の様子を観察することにした。俺が持つ雷魔法は飛行への応用が利かないからしょうがない。
マミは風魔法の力で今は2体までなら分身出来るらしいし、ルーサスの使う雲魔法は名前から分かるように雲に乗ればいいし、ツバサも草魔法で大木を育てて観察すればいいし......便利だよな、本当に。
まあ雷魔法は他の魔法より攻撃に特化してるから別にいいんだけど。
「まだ特に異常無し、か」
もっと楽な案考えときゃ良かった。
「あーめんどくせぇ......」
ー7時15分ー
「やっぱり雲はいいなあ、ふわふわだし」
私は雲の上に乗って街を観察していた。
見回りの仕方は自由って言ってたし別に大丈夫だよね。
もし吸血鬼が現れたら雲から降りないと行けないのかぁ、できれば中南文化区にはでないで欲しいかなぁ。
お茶を一口飲んで、街をもう一度見下ろした。
ー8時ー
担当が南寝蔵区なので皆と違って動く必要がなかった俺は、街の空き地に大木を生やして観察している。特に変わった事はないし、暇だから持ってきたおにぎりを食べ始めた。
「やっぱおにぎりには、お茶だよなー」
でもやっぱり超暇だから、早く吸血鬼来て欲しい。できれば俺の所に。
ー8時50分ー
話によればこの時間帯が1番吸血鬼が出やすいそうだ。
さすが有名なリゾート地なだけはある。街の夜景が最高にロマンティックだ。
「こりゃ北海緑区にしてくれたテットに感謝しなきゃいけないかな」
出来ることなら海に入りたかったが、そういう訳にもいかず飛んで街の観察をしている。
風魔法は応用すれば分身も出来るし、風魔法『翼風(よくふう)』を使えば飛行も可能......と、とっても便利。
「少し攻撃力が低めなのがたまに傷だけど......」
それでも私は風魔法に誇りを持っている。
「でも私にかかれば吸血鬼の1体や2体、楽勝
だわ」
12
9時半
日は既に海へと帰り、今は月が私を照らしている。
体を優しく包んでくれている雲と、異様な静けさに私はウトウトしてしまっていた。
その時だった。
「グガアアアアアアアア!」
頭痛がするほどの奇声が街の方から聞こえたのである。
「もしかして……!いや、絶対これは吸血鬼!」
私は、不快なアラームのもとへ降りていった。
ー中南文化区 野外特設ステージ前ー
思っていた以上に吸血鬼は大きくすぐに見つけることが出来た。
今はステージの裏に隠れて吸血鬼を観察している。
「とりあえず目印を建てないと……」
雲で自分の前に高く太い塔を立て、下から光魔法で照らす。
「よし、これでペンペンも分かってくれるよね?」
私は皆が集まるまで再び観察することにした。
……それにしても吸血鬼は全く動かない。私が作った塔にも見向きもしない。
私にとっては好都合だけど……。
何かを探しているのだろうか?
「……っ⁉あれは!」
私の予想は間違っていた、本当は人間を襲おうとしているのだ。
吸血鬼の目線の先は……?
「何であんなところに女の子が……?」
その女の子は吸血鬼の目の前で座ってしまっている。
よく見ると、吸血鬼は少しずつ動き出していた。
何故この時間に歩いているのかは分からない。けど……!
「あの子が危ない!」
意識してか、それとも無意識か__
私は走り出していた。
「小さい子に手を出そうなんて!この……、鬼!悪魔!」
少しでもあの子から意識をずらそうと、走りながら、出来る限りの大声で叫んだ。
「グガア?」
吸血鬼の意識をずらすことに成功し、どうにか女の子の元へたどり着くことが出来た。
「大丈夫ですか⁉」
「……お、姉ちゃん!……う……」
突然、私に抱きついてきた。その子の目には、溢れんばかりの涙がたまっている。
「グガアアアアアアアア!」
気づいた時には、吸血鬼は目の前におり、腕を振り上げていた。
「雲魔法!クラウドブロック!」
少しでも時間を稼ぐため、雲の塊を出す。
しかし、吸血鬼は振り上げていた手とは逆の手で、私を横から殴り付けてきた。
「ぐ……っ」
私は数十メートル離れた建物の方へ突き飛ばされた。
意識が飛びそうなほどの痛みが私を襲う。
それでもなんとか持ちこたえ、しっかり女の子を抱きしめた。
「……お姉ちゃん!」
「大……丈夫だか……ら、手を……離し……ちゃ駄目……だよ」
「グアアアアア」
吸血鬼がやって来た。
もう一撃くらったら、本当に死んでしまうかも知れない。
心臓の鼓動が速まる。
「......」
どうしようもなく怖くて、恐くて、声が出せなかった。
「グガアアアアアアアア!」
吸血鬼が手を振り上げている。
魔法を出そうとしたけど出来なかった、それ以前に動けなかった。
「グガアア!」
「......っ」
13
「雷魔法 壱爆句 デト」
前方からかすかに声がし、気づいた時には吸血鬼は黒く焦げていた。
テット君が助けてくれたのだ。
「ルーサス!大丈夫か?」
「はい……なんとか……それより……」
それより今は女の子の安全が優先。
「女の子の……家族を探さないと」
よく見たら、もうすでに気絶していまっていた。
「今は動くな、すぐにツバサとマミが来るからそれまで待ってろ」
「はい……すみません……」
そうだ、これだけは伝えとかないと……!
「テットさん……『炎は地上の太陽』……で……す」
視界が闇に染まった。
「『炎は地上の太陽』……?」
……どういうことだ?
「テット!マミは⁉」
ルーサスが気を失ってしまった後、すぐにマミがやって来た。
「大丈夫だ。少し気を失ってるだけ」
そしてマミに今の状況をについて軽く説明し、気絶してしまっているルーサスと女の子を広場のベンチへ連れていった。
ルーサスの体にはいくつものアザや傷がある。
こいつのことだから、この子を守ろうとしたんだろう。
俺は全く動く気配のない女の子に自分のジャケットをかけた。
少ししてツバサとペンペンがやって来た。
「治療をしようにも、ルーサス以外誰も治癒魔法覚えてないもんね……」
基本的に俺とマミは攻撃魔法しか知らない。
「しょうがねぇ、ペンペン、この女の子の家族を探して来てくれ。後……念のためにツバサはルーサスと女の子、後ペンペンにも四の魔法をかけてくれるか?」
四の魔法とは能力アップの魔法、ツバサはこういう系統の魔法が使える。
「了解!一応全員に魔法かけとくぞ、草魔法 四防句 植物の願い!」
この場にいる全員の防御ステータスが一時上昇した
「わかったペン。行ってくるペン」
ペンペンの周りに光が満ち、ペンペンの姿が消えた。
その時、一匹の黒犬が俺たちの元へ走ってきた。
……いや、羽が生えているから怪物?
「あれは……一昨日街でゴミ箱とか荒らしてた犬だ!」
ツバサが叫んだ。
「もしかしてあれも敵なのか⁉」
「わかんないけどなんか可愛くない?」
マミの発言のせいで、攻撃するべきなのかしないべきなのかわからなくなってしまった。
14
俺たちは、その犬の言った一言に大きな衝撃を受けた。なぜならその犬は、
皆さん吸血鬼と戦ってくれたんですか!?と言ったのだ。
今までこの犬は敵の仲間とばかり考えていたから、というのももちろんあったが、何より喋るとは思わなかったのである。
「君って吸血鬼の仲間じゃなかったの?」
マミは、なぜだろうかとっても嬉しそうだ。
「吸血鬼の仲間⁉そんなこと絶対ないです!自分は吸血鬼の敵ですよ!」
犬の声がさっきより大きくなっている。
「じゃあ、何で街の人を襲ったりしてたんだ?街の皆はお前のこと吸血鬼のグルだって噂してたぞ?」
「それは……ある探し物をしてたんです」
犬は目線を落とし、うつむいた。
「探し物?どんな?」
今のはマミの言葉。
「……コントローラーです。吸血鬼が自分……いや、吸血鬼の血が混ざっている動物を操るための。……やっと逃げ出せると思ったのに」
「グギャアアアアアアア!」
吸血鬼が再び目を覚ましたようだ。
今の俺では、さすがに吸血鬼ともなると一撃では倒せない。せいぜい擦り傷くらいだろう。
「そんなものがあったなんて……、ルーサス達の事もあるし、私があいつを倒してやろうじゃない!」
「いいえ、これは自分の責任です。自分の問題くらい、自分でなんとかします!」
「……皆で協力すればいいだろうが」
「グガガガガガ!」
吸血鬼がこちらへ向かって来ている。
正体不明のこの犬も戦うつもりらしいし、四対一だ。相手が吸血鬼だろうが勝てる可能性は十分ある。ツバサとマミは戦いになると周りが見えなくなるため、俺がルーサスと女の子がいるベンチを守らなくてはならない。
俺だって戦いは好きだから戦うが。
「まずは私!風魔法 弐斬句 ウィンドカッター!」
マミの手から無数の風の鎌が飛び出す
「こっちもだぜ!吸血鬼!草魔法!弐波句 グローラン!」
吸血鬼がマミに気をとられてる中、ツバサが背中を衝撃波で攻撃した。
「ここで絶対倒します!これ以上操られたくないんです!」
ファイアーボール五連撃、と言い、口から火の玉を出した。
この犬本当に何者なんだ……、口から火を吹いたんだが。
「こっちだ吸血鬼!雷魔法、壱静句 サンダー」
これは不意打ちだったらしい。防御も出来ずそのまま直撃した。
……ざまあみろ。
今は、吸血鬼の前 (道路側)に犬、後ろ(ステージ側)に俺とルーサス、女の子。そして左右にツバサとマミが、という形でバラけている。吸血鬼が向いているのは犬の方、隙を作りたいのか、二人は攻撃を繰り返している。
「ちょっ、バカか!ベンチの方に攻撃するな!」
「ごめんー、流れ弾だよ。そうゆうのはテットが防いどいて」
何で俺が……。
「はあ……」
「グギャアアアアア!」
「こいつどんだけ固いのよ!傷一つつかないじゃない!」
怪物のなかでも上位にいる吸血鬼だ、やはり強い。
「吸血鬼を倒すのは……日光か?」
「はあ!?ツバサ、あんた太陽が出るまであと何時間あると思ってんの!」
さすがにそこまでもつほどの体力と霊力なんてない。
「流水はどうだ?これも有名な弱点だろ?」
「流水なんかどこにあんの!」
「ギャアアアア」
いつの間にか、吸血鬼はツバサのに攻撃をしていた。
「望むところだ!バーカバー__っ、痛⁉」
ツバサは、段差に気づかずおもいっきり転んだ。その時にポケットから落ちたのか、四角いものが吸血鬼の前に転がっていった。
あれは……街へ来る途中ペンペンが見つけてきたやつ⁉
「何でお前それもってるんだ!」
「い、いやぁ、暇だったらそれ分解しようと思ってさ……」
そんなことを話してる間に、吸血鬼はそれを拾い上げていた。
15
ツバサが落としたものを吸血鬼がさわり始めた。
「あれはっ……!あのコントローラー!」
さっきとはうって変わり、明らかに動揺し始めている。
何であんなに動揺しているんだ?
コントローラー?……!
……もしかしてペンペンが拾ってきたあれを吸血犬は探していたのか……?
「やめ…!ぐっ…………」
「どうしたんだ?急に黙りこんで?」
ツバサが吸血犬に近づいていった。
今……吸血鬼の口角がかすかに上がった気がする。
「……ツバサ!近づいちゃダメ!」
そう瞬間、吸血犬はツバサめがけて体当たりをした。
「ぐふっ……」
「風魔法 弍斬句!カトリット!」
マミが吸血犬の近くに向かって攻撃をした。
「ツバサ!今のうちに逃げろ!」
「……お……おう」
ツバサがこっちに向かって走ってくる。
まだ、いまいち状況が掴めていないようすだ。
「いいか、ツバサ、一度しか言わないからよく聞けよ。おそらくあいつは吸血鬼に操られている、すなわちあいつは今敵だ。なんとかしてコントローラーを奪い取って壊さないと、勝てない」
「だから奪い取るために吸血鬼を倒すってことか?」
「ああ、多分それしかないだろう」
しかし、どうやって倒す?
流水は近場にないし、出すこともできない。
にんにくも持ってない、十字架もだ。
日光も……太陽が出ていない、ルーサスの光魔法……も……。
『火は地上の太陽』
ふいにルーサスの言葉を思い出した。
「......!」
……やっとルーサスの言葉の意図が理解出来た。
「どうしたのテット?」
火で太陽の代役をするといっても、松明位じゃ到底足りないだろう。
壮大な焚き火……か
「ちょっと!どうしたの!ツバサと2人じゃ火力不足なの!」
マミの叫び声が聞こえてくる。
当然だ、さっきまで4対1だったのがあっという間に2対2なのだ。
しかし、応戦はできない。
「ツバサ!お前吸血鬼の後ろに大木を生やせるか⁉︎できるだけでかいの!」
目があい、ツバサは小さく頷いた。
ツバサが大木を生やしてる間は攻撃ができないため現状1対2だが、マミには堪えてもらうしかない。
「草魔法、伍造句 ビルトウッド!」
吸血鬼の死角に天まで届きそうな大木が姿を現した。吸血鬼の攻撃力が1段階下がる。
「テットー!応戦して!」
マミの悲鳴が聞こえた。
だが……それは無理な話だ。
なぜなら__
「雷魔法 壱暴句、サンダー改!」
__溜め技は時間が必要なんだ。
一際明るい雷は大木を直撃し、地にまで電流が走った。
……焦げないでくれ
その願いは叶い、一気に地面近くにまで火が燃え移る。
広場は太陽が昇ったかのように明るくなった。
16
「グガガッ?」
吸血鬼の動きが止まり、速いスピードで灰になっている。
「どういうこと?今は太陽は出て無いのに……」
マミもツバサもまだ理解していない。
「まあ、後で説明してやるよ。後、ツバサすまんな」
どんな理由であれ、木という生命を殺したのだ。草を操るツバサにとって心地よいものでは無いだろう。
「大丈夫、大丈夫あの木は俺の魔力で作ったものだから」
ガシャッ、吸血鬼の手から落ちたリモコンは真っ二つに割れ、吸血犬は正気を取り戻したようだった。
そして、震え始めた。
「また、やってしまった……!」
なんと残酷な話だろう。操られてる時の記憶は綺麗に残っているようだ。
マミがずっと吸血犬を見つめている。
「先にお姉さんの家へ帰ってるからな」
マミはこちらを見ずに頷く。
そして……あたし励ましてくる!と言い残し走っていった。
あいつの職業はペットシッターだ。なんとかするだろう。
「よし、ツバサ、この2人を運ぶぞ」
「おう、女の子の家探さないとな」
ーお姉さんの家ー
吸血鬼退治の後、女の子の家を見つけてきたペンペンと合流し、そのまま女の子の家の前まで瞬間移動してもらった。
女の子のお母さんとお父さん、お姉さんはこの夜ずっとこの子を探していたらしく、ペンペンとは外で探している時に会ったそうだ。お母さんとお姉さんは女の子の顔を見た途端泣き崩れてしまい、慌てて死んでしまったわけでは無い、ルーサスが必死に守り通したと説明したが、どうやら泣いたのは悲しかったからではないらしい。
よく見ると、女の子は気絶しているわけではなく、寝息を立てて寝ていた。
多分、吸血鬼が灰になっている時目覚めて、安心感と疲労で寝てしまったのだろう。
それに子供は今は寝なくてはいけない時間だ。
マミは俺らが帰ってきたあと、少し経ってから来た。
吸血犬と一緒に。
「……で、この犬が仲間になったと」
「そう!もう名前は決めたの!サファイ君!体が青いからサファイアで、火をふくからファイアー。くっつけたの」
何故犬に君をつける必要があるのか分からないし、くっつけてもファイアーの部分は無くなる何を言っても無駄だろう。
それほど動物が大好きなのだ。
「よろしくお願いします!皆さん!」
ワンッ、始めてダクロが犬の声で鳴いた。
「ペンペン、仲間が増えたぞ」
ペンッ、ペンペンは絶対ペンギンの鳴き声では無い独自の声をだした。
ルーサスは今は寝ている。気絶しているときとは全く違う幸せそうな寝顔に見えた。
帰ろうとしたとき、お父さんに呼び止められ、何かが入っている青い箱を渡された。
渡されたものが何なのか分からないのは、お父さんにルーサスに始めに開けてほしいと頼まれたからである。
その箱はそっと横に置いておく事にした。
中身が何なのかはルーサスが起きてからじゃないと分からないから。
開けて騒がしくなっても悪いから。
___ルーサスの言う通り、炎は地上の太陽になった
一夜限りの真っ直ぐな太陽に
3章 モフック湖への旅路
朝になり街は賑わい始めている。
お姉さんは昨日俺らがした事は大方知っていたので、起こしに来る事はなく、下に行くと朝食を出してくれた。
昨日の疲れもあってテラーヌ街を今日出発する気にはならなかった俺らは、今日は自由に行動する事にした。
役所に行って吸血鬼を退治した事を伝えてはどうか、というお姉さんの提案もあったが、こういうのは噂で広まったほうが速いのである。
女の子のお父さんからもらった箱の中には、楽器と本が2冊入っていた。俺は楽器の知識はほとんど無いので、ルーサスにハーモニカだと教えてもらった。
今、俺とペンペンは海辺にいる。
ペンペンがどうしても海を見たいと言ったからだ。
マミに溺れないように監視をしろと言われているが、ペンギンだし瞬間移動できるし大丈夫だろう。
「あれ、君昨日の……」
急に話しかけられたので少し驚いてしまった。
俺の横にはあの女の子のお姉さんが立っていた。
「あっやっぱりペンギンと一緒にいるからそうかなってね。本当に昨日はありがとう。はっきり言って楽器や本くらいのお礼じゃ申し訳ないと思ってたの」
俺が何故こんなところにいるのかと尋ねると、仕事だからという返事が帰ってきた。
「ただでさえ最近不景気でお父さんの給料が少ないし、私は海の家のバイトだから休むわけにもいかないのよ」
最近のテラーヌ街の不景気はデビル景気と言われている。
吸血鬼のせいで日没後は家からでれないため夜は仕事ができず、その分の仕事は翌日する事になるから効率も悪くなる。
そうして企業の成績も落ち、社員の給料も悪くなる。この街最大の収入源である観光業も観光客が減少し……と最悪な悪循環に陥っているのだ。
「まあ、でも君たちが吸血鬼を倒したんでしょ?」
「ペン!テットたちが倒したペン!」
「ならこの街も少しずつ活気を取り戻すかな」
うちの店もね、と付け加えた。
「そうそう、これ」
お姉さんはポケットから、銀色でクロスマークのペンダントトップが付いたネックレスを取り出した。
「何ですかこれ?」
「これは、本当にすごいネックレスなんだ。なんと、これを首にかけていると技を同時に2つ繰り出すことができるんだって。昔海辺で見つけて頑張って図書館で調べたんだ」
こんな凄いものもらえないと、返そうとしたが、受け取ろうとはしなかった。
「私の家系はさ、代々キータスなんだ。魔法が使えない人間に、こんなの必要ないでしょ?道具は使われてなんぼなの。それに……」
彼女の顔は笑っている。
「君なら、上手く使いこなせる気がするんだよね」
だから……と俺の首にネックレスをかけた。
「これが私、琴音からのお礼。改めて妹を助けてくれてありがとう」
琴音はまだまだ賑わいに欠ける海の家に戻っていった。
商職戦闘のセカイ