アロロレラ

プロローグ

子供の頃住んでいた実家のある場所は、それはもうとてつもない田舎だった。

周囲を田畑に囲まれ、近所には十件ほどの瓦屋根の家がぽつぽつとある程度。
小中学校までは徒歩で一時間以上、自転車でも三十分ほどは掛かる上に、買い物も近辺にひとつしかない商店で殆ど済ませていた。

そんな外界と隔離された様な場所でも、孤独を感じたことはなかった。
漬け物をくれる近所のおばあちゃん、見回りに来る交番のお巡りさん
たまに家に遊びに来てくれる同級生達と、その同級生達にこれでもかと頻繁にお茶とお菓子を持ってくるお節介焼きの母
夜になると居間でよく一緒にテレビを観た、昔気質の無口な父親
そこでの自分は、人との繋がりを感じていた。

今はどうだろう。とふと思う。
工場が密集したこの街は、まるでアニメの巨大な機械仕掛けの城の様にいたるところが唸りをあげ、働く作業員達を潤す食堂や居酒屋が所狭しとあり、人に溢れている。
そんな賑やかな街の一角で、現在寝転がっているこの一室があるアパートにも十二世帯が密集しているというのに
自分は、人と繋がりを持てているだろうか?

夢の中で見た幼い自分を思い浮かべながら、ひとときの感傷に浸っていた

すぐに我に返り、気だるい身体を起こし、視界に現れた机上のノートパソコンに意識を移す。
マウスに手を置き魔法の杖を振るう様な仕草で軽く横に払うと、黒一色だったディスプレイが光を取り戻していく。

バイトが休みの日は、いつも昼前に胡座をかきながらサイト等で販売するフォントデータをソフトで作成している。それが自分の習慣であり、生き甲斐と言ってもいいかもしれない。

けれども近頃は、特に今日の作業は身が入らなかった。

三日前の木曜の朝も、ところどころ上の空になったり合間合間で作成中の画面を下に追いやり、検索ブラウザを開いては他愛もない見出しのニュースを読んだりしていた。
今朝に至ってはとうとうソフトを立ち上げて間も無く仰向けに倒れ込み、そのまま畳の上で眠りに付いてしまった。液晶の右下に目をやると「15:38」とある。

何か他にも印象深い夢を見た気もするが、イマイチ思い出せない。そんな下らないことを考えている内に、目の前の四角に縁取られた灯りは再び闇に吸い込まれていった。

…散歩がてら、タバコでも買いに行こう。
そう思い立ち上がると、ベッドの横に落ちているモッズコートを手に取り羽織ると、履き古したスニーカーに足を突っ込んでドアを開けた。

少し冷たい秋の風が、首筋を撫でる。

アロロレラ

アロロレラ

連載(予定)作品。文字に思いを込める人達の物語

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-03

Copyrighted
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