乱反射のこころ

明日。雪、降るかなあ。

鴨川沿いを上流から下流に向かって、ゆっくり歩いた。冬の鴨川は、陽の光に照らされてに乱反射を起こしていた。時々立ち止まっては、小石を川に向かって投げたりした。1時間前に買ったパンの残りを半分こしながら歩いた。鳥が近づいてきて少し驚いた。デルタの先っぽで川を横切りながら笑い合う若者たちを、穏やかな気持ちで見ていた。彼の、なめらかな京都弁が心地よい音楽みたいに聞こえた。

ふたりで歩いていると、何も知らないのに全部知っているような気持ちになれた。

冷たい空気がツンと鼻を刺して、昨日さ、はい、家帰ったらエアコン付いたままでさ、うわあ、地味に落ち込むやんそういうのって、ですね、せやから今日はエアコン付けんかったわ。

はあ。

何わろてんの。

へへ。

コーヒー飲みたい。

飲みましょう、飲みましょう。

わたしのとぼけた顔を見て、彼が笑った。それだけでもう、幸せなのだった。

寒い寒い、と照れを隠しながら腕を組んだ。あまり背の高くない彼の、肩の部分が右耳に触れて、あ、今、ふたりは近い、と思う。

乱反射のこころ

乱反射のこころ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-03

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