乱反射のこころ
明日。雪、降るかなあ。
鴨川沿いを上流から下流に向かって、ゆっくり歩いた。冬の鴨川は、陽の光に照らされてに乱反射を起こしていた。時々立ち止まっては、小石を川に向かって投げたりした。1時間前に買ったパンの残りを半分こしながら歩いた。鳥が近づいてきて少し驚いた。デルタの先っぽで川を横切りながら笑い合う若者たちを、穏やかな気持ちで見ていた。彼の、なめらかな京都弁が心地よい音楽みたいに聞こえた。
ふたりで歩いていると、何も知らないのに全部知っているような気持ちになれた。
冷たい空気がツンと鼻を刺して、昨日さ、はい、家帰ったらエアコン付いたままでさ、うわあ、地味に落ち込むやんそういうのって、ですね、せやから今日はエアコン付けんかったわ。
はあ。
何わろてんの。
へへ。
コーヒー飲みたい。
飲みましょう、飲みましょう。
わたしのとぼけた顔を見て、彼が笑った。それだけでもう、幸せなのだった。
寒い寒い、と照れを隠しながら腕を組んだ。あまり背の高くない彼の、肩の部分が右耳に触れて、あ、今、ふたりは近い、と思う。
乱反射のこころ