おじさんに拍手!

とびらがあいていきおいよく乗り込む
窓側で日があたらず景色がよい席をとるため

一瞬で見回しそこへ一直線に大股で行動する
いい席はみんなが狙っている
みんなみてないフリしてその感覚は研ぎ澄まされている
ホームで列をつくっているときは回りもみずスマホなでてるのに

こんないい席なのになぜ競争相手は無視して別の席へ散ってゆくのか
しめしめとおもってそこに腰をおろしてなにげなく自分の座ってるシートの隅をみると
白いティッシュをピンポン球くらいの大きさに丸めたものが無造作に残されていたりする

最近多いんですこういうこと
特にJRで
車掌も運転手もお偉い立場だから
始発の電車であっても発車するまえにみまわってチェックしないのかも
私鉄の乗務員はビニール袋もって長い電車の頭から尻まで車両をひとつひとつゴミを拾い歩いているのはみたことあるけれど

パンの食べカスに飲みさしのペットボトル
ストローがささったままのジュースの紙パック
銀紙にくるまれたガム

人間の飲食の残骸が
シートの隙間
肘掛けや窓の横とかに散乱している

人はまずゴミのない席をさがすのかな
こちらの戦略が間違っていたのか
良い席というのは最近はそうなってきたのだ

ゴミがあったらそこには座らない
これは地下鉄サリン事件の影響か
近寄ってもし毒だったら危険だから

それでもそこに座りたければ
そろっと指先でそのゴミをつまんでなるべく自分から離れるように移動させる
床へ落として前の席の下にもぐりこませたり
自分の足元に落として知らんふりしてそれを靴の後ろで蹴ったりする
ティッシュのゴミくらいだったらこれで対応できるが
缶コーヒとかペットボトルはそうはいかない

どんなゴミでもそれをゴミ箱へ持っていって片付ける人はみたことない
この迷惑な代物を移動させるだけなのだ
ゴミをなるべく自分からとうざけ自分の視界から消すのだ

車両の中にはゴミ箱ないのでしかたないけれど
最近は電車のホームにもゴミ箱がなくなってきているから
片付けたくてもできにくくなってきている

先日いままでで一番すごい光景に出くわした
それは電車が進んでいく方向にむかって左側の扉の近くの4人がけの席で
前方の窓側のシートにはジュースの紙パックの残骸となにかが入ったビニール袋
対面の通路側のシートにはお茶の飲みさしペットボトルが一本ころがっていた

幾人かは座りかけたけれどみんはすぐ去ってゆく
そのうち一人のおじさんがゴミを避けるように窓側の後方の席へ身をすべりこませ
それから10分後の乗客がたくさん乗り好んでくるK駅ではまたおじさんたちがそれらのゴミを席の下の床とかにすみやかにほうむって4人が腰掛けて席は満杯となった

ゴミをものともしないおじさんがそのときたくましくみえた
いつもおばちゃんに頭が上がらないおじさんだけれど
おばちゃんにはできそうもないことをみごとにやってのけてくれた

これはおじさんがいつもゴミ同様にあつかわられているからゴミのあつかいにもなれているだけかもしれないが
その勇気ある処置におじさんの生命力を感じた
「どうしたってここに座るんだ」という意気込み

おじさんに拍手!

おじさんに拍手!

おじさんに拍手!

自分もおじさんだけれど、拍手をおくりたいおじさんたちに遭遇しました。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-03

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