世界タイム
今日も世界タイムが始まる。
「……〜♪〜〜〜♪♪〜〜♪」
鼻歌を口ずさみながら、ひとつひとつボタンを外す。私にとっての至福の時間。
「♪♪〜♪〜〜〜♪〜」
安っぽい四つ打ちのリズム。安っぽいありきたりな歌詞。私も――安っぽい。
プチッと音をさせてホックを外すと、投げ捨てるように衣類を放る。
ドアを開けた先は――きれいできたない、私の世界。
私にとって、風呂とは世界だ。
ちゃぷん、と水面を楽しげに指が踊った。
「これは、隣のクラスの佐伯さん」
浴槽に浮かんだ髪の毛を指で掬う。
「これは、バイト先のえっちゃん先輩。これは、斜め前の家のゴン太」
ひとつ、またひとつ、と湯船に浮かぶ異物を取り除いていく。
異物は、嫌なもの。嫌なものは、いらない。
「…♪〜〜♪♪〜♪〜〜♪♪」
人差し指に絡まった髪の毛やゴミを見つめ、銃を撃つ真似をしてみる。
「いんでっくすふぃんがー…ライフル?」
ばきゅーん。「なーんちって」シャワーの水圧を上げた。
髪の毛とゴミは互いに絡まり合い、ぐるぐると流れていく。
ぐるぐる、ぐるぐる。
「――うん、綺麗になった」
きれいできたない、私の世界で。
私は今日も、生きていく。
私の世界は今日もきれい。
私の世界は今日もきたない。
どっちもほんとで、どっちも嘘。
「いってきます」
口ずさむ、何かのCMの曲。
「…〜〜♪〜♪♪〜きみはもうーいないーのにー♪」
斜め前の佐藤さんちに、もうフレンチブルドッグはいない。
歩く足が弾む。スキップ、スキップ。
「世界は今日もきれいだねぇ♪」
世界タイム
クリスマスプレゼントは終わり方を頼めばよかった。