恋するトリコロール

きっかけは、些細な出来事で、と言うのはお話の始まりの決まり文句だが、私の場合も客観的に言えばソレに当てはまると言えるだろう。


小さな液晶画面のその姿を、初めはまあよくあるグラフィックのキャラクターだと思っていたのだが、あれよあれよと言う間に、私はその彼に心奪われていったのだ。その、「あれよあれよ」の部分を詳しく話せと言われても、完全に惚れてしまっている今の私には、到底理論立てて説明できるはずもないが、そこをなんとか、がんばって、他人に理解してもらおうと頑張ってみる。
まずは、フランス人という設定。これも、ありがちと言えばありがちだが、これがじわじわとボディブローのように効いてくるのである。愛しい彼は、フランスをこよなく愛している。だから、フランス語しかしゃべれないし、しゃべろうとしない。主人公である私のフランス語のステータスをあげるイベントをこなしてからでないと、意思疎通すらできないのだ。初めは、こんなに面倒くさいキャラクター、だれが攻略するんだと思った。しかし、そう思った時点で、彼の魅力の沼に、もう、片方足を突っ込んでしまっているのと同じなのだ。
そして、言語の壁に阻まれて、基本的に孤独な彼。およそ日本人が抱くフランス人への幻想を体現したかのような麗しい容姿をもった彼だが、誰にも話しかけることもないし、話しかけられても、ふいと横を向いてしまう。そんな態度に、みんなが無愛想なやつだと思い、距離をおいていた。しかし、彼の心はただただ孤独だった。でも、その孤独をカッコ悪いものだと決めつけて、彼自身も届かないような心の奥底に眠らせていたんだ。今の私にはわかる。
それから、主人公との言語の壁が埋まってきても、なかなかすました態度を崩さない。これは、彼がシャイだともとれるが、たぶんそうじゃない。彼は、フランス人である事を誇りに思っている。だから、孤独の中にあっても日本語を話すようなことはしないし、まだたどたどしいフランス語の主人公にも、冷たい態度でいる。いや、それよりもっと悪くて、ちょっと嫌い、ぐらいの態度になる。きっと、主人公の幼稚なフランス語にイライラしたのだろう。しかし、愛する事の反対は無関心だと、えらい人が言っていたように、少し反応してくれた時は嬉しかったなあ。一周目ではメインキャラクターの攻略で手が回らなくて、二周目での事だったけれど。フランス語習得のイベント自体も出す条件が結構複雑で、攻略サイト見ながら何回かリセットしなくちゃいけなかった。
そして、ここからが彼のルートの真骨頂。ツンデレフランス人によるフランス語レッスンである。ほとんど「デレ」の部分は出ないんだけど、とにかく彼の母国フランスに対する愛が伝わってくる。初めは、これまでの複雑なルートのように、面倒な選択肢が目白押しなのかと思っていたが、蓋を開けてみれば単純明快。ここからのルートは、ただただ、ひたすらに、素直に、真面目に、フランス語講座を受ければいいのだ。何度も言うようだが、彼はフランスを愛している。だから、主人公がフランスに対して理解を深めれば深める程、彼は私に対して好感を持ってくれるようになる。私は、深く深く、彼の人柄というものに、引かれていった。祖国を愛する心。私は、こんなに持っていただろうか?そして、見知らぬ異国において、自分のルーツを大切にする彼のかっこよさったら。見せかけでない、一周目では拾いきれない彼の愛し方に、どんどんハマって行った。もう、メロメロだった。
彼を一度攻略してからも、何周も何周も彼のルートを巡った。彼の全てが知りたかった。攻略率100%をたたき出してもなお、私の愛は止まらなかった。私は、リアルでもフランスについて調べている事に気付いた。気づいたら、ググっていた。赤、白、青のトリコロール。首都パリ。エッフェル塔。世界遺産に登録されたフランス料理。ナポレオン。全ては、私の彼への愛の糧になった。もっともっと、彼の事を知りたいという想いを止める事は出来なかった。
実際に、フランス語をしゃべってみたくなった。愛を語る言葉、フランス語。彼も、画面の中で何度もそう言っていた。英語もろくにしゃべれなかったけど、英語の授業よりも断然集中して、何度も単語帳を読みふけった。日本語の発音のつたなさを実感したけれど、確かにそれは愛をささやくために在るような言葉である事が実感できた。私はますます彼に近付けたのが嬉しかった。しかし、私はこのあたりで、何かがずれてきている事に気づきはじめた。
私の思う彼は、もうほとんどフランスそのものにすり替わっていた。いや、もっと初めから、もしくは最初から私が惚れこんでいたのは、彼ではなく、フランスそのものだったのかもしれない。彼自身、自由と祖国をこよなく愛するフランス人そのものだったのだから。
私は、実際にフランス人に会ってみたい、フランスの地を踏んでみたい、と思うようになっていた。それは、もう恋としか言いようのない気持ちで、それさえ叶えばあとはどうだっていいと思った。オシャレで気ままなフランス人。花の都パリ。私は、このはやる思いをどうしても止められなかった。その他の全ては、お飾りで、後付けにすぎない。私は、フランスに恋をしていた。


そして、私は今、フランスに居る。表向きは、服飾関係の勉強のために。しかし、本当はそんなのはタテマエで、この地を踏みしめ、この空気を吸っている事こそが、私の目的だったのだ。しかし、それでも私の愛は止まらない。もっと、この愛しいフランスの事を知りたい。もっと言えば、一つになりたい。服飾関係の勉強にしたのは、それを学ぶのが一番、彼、つまりフランスを理解できるんじゃないかと思ったから。私の第一目標は達成されたけれど、まだまだ。この恋の成就のためにやらなければいけない事がたくさんあるようだ。





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恋するトリコロール

乙女ゲ―やった事ないですすみません。
読み返して、恋するトリコロールという題名は矛盾していると気付きました。

恋するトリコロール

「恋する~」 って小説が書いてみたくなったので。やまなしおちなしいみなしだが、ホモは出ない。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-02

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