最終兵器

 ここは、とある独裁国家の秘密軍事研究所。
 長年の研究が完成したとの報告を受け、この国の最高権力者である将軍がやって来た。将軍は、厳重なセキュリティに守られた特別研究室に入り、自分が呼ぶまで誰も近づかないよう命じた。護衛たちが完全に部屋の前から離れるのを待って、責任者らしい白衣の老人に尋ねた。
「教授、ついに最終兵器が完成したというのは本当か」
「本当でございます、将軍様」
「見せてくれ」
「少々お待ちください」
 教授は奥から小型のピストルのようなものを持ってきた。
 将軍の片方の眉がぐっと吊り上がった。
「どういうことだ。こんなちっぽけなピストルが、最終兵器だとでも言うのか」
 すると、教授は自信ありげに薄く笑った。
「将軍様、兵器というものは、何のためにあるとお考えですか」
 今度は、将軍の反対側の眉が吊り上がった。
「何をくだらんことを。敵をやっつけるために決まっておろう」
「つまり、敵を降伏させることが目的でございますね」
「もちろんだ」
「ですが、どれほど建物を破壊しようと、どれほど兵士を倒そうと、相手国が参ったと思わない限り、勝ったことにはなりません」
「そこをグウの音も出んように叩き潰すのだ。そのための兵器だろうが」
 教授はちょっと悲しそうに首を振った。
「それでは犠牲が増えるばかりです。要は、相手国が自ら降参してくれればよいのです」
 将軍の左右の眉が忙しく上がったり下がったりした。
「お前の言っていることの意味がわからん。わかり易く説明しろ」
 教授は小さなピストルのようなものを持ち上げて、将軍によく見えるようにした。
「この機械から出る光線は、相手の人間の脳に直接働きかけ、機械を操作する人間の命令に絶対服従させるのです。今は試作品なので、一度に一人の相手にしか効き目がありませんが、大型化すれば、一瞬にして相手国全員に降伏を命じることが可能となります」
「ほう、そうなのか。ちょっと見せてくれ」
 教授からそのピストルのような機械を受け取ると、将軍は銃口を教授に向けた。
「悪いが、ちょっと実験台になってもらおう」
 将軍は引き金を引いたが、教授はニヤニヤ笑っている。
「すみませんが、それはダミーです。あなたがわたしに支払う報酬を惜しんで、そういう行動に出るだろうということは予測できましたのでね。こっちが本物です」
 教授はまったく同じ形の機械をポケットから出した。
「や、やめろ。すまなかった。報酬はきちんと払う」
 教授はため息をつき、引き金を引いた。
「あなたは、ここで見たこと聞いたことを忘れ、わたしを無事に国外に脱出させ、その後はわたしのことを忘れなさい」
「はい、かしこまりました」
 将軍が出て行った後、教授はもう一度ため息をついた。
「これからどうしよう。相手国に亡命しても、結局は同じことになるだろう。いっそ、この機械を使って、世界中に向けてすべての戦争をやめるよう命じてみるか。そうすれば、本当の意味でこれが最終の兵器になるはずだ。しかし、大型化は一人ではできない。途中で秘密が漏れれば、誰かに奪われてしまうおそれがある。もし、悪い人間の手に渡ったりしたら、誰一人逆らえなくなってしまう。うーむ、しかたあるまい」
 教授はその機械を台に置き、大きな金槌を振り上げた。だが、なかなか振り下ろすことができず、額にあぶら汗がにじんできた。
 あなたなら、どうしますか。
(おわり)

最終兵器

最終兵器

ここは、とある独裁国家の秘密軍事研究所。長年の研究が完成したとの報告を受け、この国の最高権力者である将軍がやって来た。将軍は、厳重なセキュリティに守られた特別研究室に入り、自分が呼ぶまで誰も近づかないよう命じた。護衛たちが完全に…

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-02

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