未来 Ⅲ 最高の治療は

移り変わり

真田先生がいなくなってから、日々ぼんやりとすることが多くなった。
一日一日はあっという間だというのに、過ぎてしまった日のことは、随分前のことのように思える。
日記がわりにつけていたブログを読み返し、真田先生とのことを振り返ってばかり。

真田先生が最後だった日は、色々とやりとりしていたのもあり、うっかり薬を頼むのを忘れてきてしまった。
次の診察はまだ先だというのに、薬をもらうためにまた通院。
薬のみの受け取りで、窓口でナースの石塚さんに対応してもらう。
真田先生も浅田さんもいなくなってしまって寂しいですねと話していると、
最初からのメンバーはもう私だけだもんね、まだ私がいるからと笑顔で言ってくれる。
暫く二人で話をし、またよろしくお願いしますと挨拶をして、形成外科を離れた。
石塚さんがたくさん話をしてくれたのは、なんだか少しホッとして嬉しかったけど。
病院内を歩いていても、もう真田先生に会うことはないんだなって。
一階を歩いているとよくバッタリ真田先生に会ったことが思い出されて、
家にいるときより鮮明に真田先生の姿や顔が頭に浮かんだ。

「もう、誰もいなくなったよ。由木さん。」
甲斐先生達が異動した後の診察の時に、そう言って笑顔で現れた真田先生。
今はどうしているんだろう。
なかなかとれない長期休暇を満喫して、旅行にでも行ってるのだろうか。



三月末、九時少し前に形成外科をまた訪れた。土井先生が、診察室に呼び入れてくれる。
診察ベッドに乗りながら話していると、窓側でパソコンを触っている結城先生の姿がみえた。
大きな声の存在感がある真田先生の姿がない診察室。結城先生と土井先生、二人で穏やかな雰囲気の空間になっていた。
足の様子を土井先生にきかれる。
「もう症状固定に近づいてきていて、これ以上悪化することはないだろうと思ってたんですけど。傷が縮んできてるからか、最近足がかたくなってきていて。歩きにくいです。太ももの方は、真田先生が言われるほどきつくもないんですけどね。」
そんなことを言いながら、土井先生にアドバイスを受けたり。
「大分大きくなってきたので、今日の食塩水注入はいつもより少し量を減らしますね。」
ベッドに横になり、食塩水を注入してもらっていると、隣の診察室の方から声が聞こえてきた。

厄介なお年寄りの患者が、結城先生にあれやこれやと話しかけていた。
おだやかーなそつのない結城先生が、落ち着いた声で上手にやりとりをしている。
その患者は、なんだかんだと言いながら、次の病院の紹介状がどうなってるかなどと言い出した。
「紹介状なら、この前もう病院の方へ送ってますよ。」
土井先生が、後ろ向きのまま、隣の診察室に声をかける。
「えぇ~そう、まだきてないとかなんとか言ってたよ~。」
どうもまともな受け答えをしない、うるさいばかりの患者のようだ。
「だしてますよ~。大丈夫ですよ~。」
土井先生が、また声をだす。

「紹介状は、土井先生がもうだしてるらしいです。うそかもしれないけど。」
おだやかーなそつのない話し方で、普通に説明するように結城先生が患者に話しているのが聞こえてきた。
「うそじゃないですー!だしてますー!」
土井先生が、かわいい声で少しムキになって声をかける。
食塩水を注入されながら、顔が笑ってしまった。

普通にかわいい女の子にみえるが、しっかりしている土井先生。
若いのにいつも穏やかすぎでふざけたりしそうにない結城先生が、さりげなーく冗談を言っているのも意外で笑えた。
形成外科の主のような真田先生がいなくなって、若い二人の先生で和やかないい雰囲気が出来上がっているようだった。

月日は過ぎていく

月日の経つのは、早いもの。
桜はあっという間に散ってしまい、新緑の季節に。梅雨入りも早く、少しずつ夏の気配も感じるようになってきた。
来年の社会復帰に向け国家試験受験をするように考えており、夏に向けてただそのことだけに取り組むつもりでいた。

しかし、実際頭の中は、全く時が過ぎていなかった。心は、先に進んでいなかったのだ。
真田先生のことは、ずっと頭の中から消えなかった。
そんなある夜、ネットでなんとなく真田先生の名前を検索する。
真田先生の名前が表示され、気になるサイトをクリックすると、意外なことを知った。

真田先生は、今、地方の大学病院にいた。元々所属していた大学病院ではなく、他県の大学。
しかも、地方も地方。意味がわからなかった。
母方が医者の家でもあり、なんとなく医師の仕事については把握しているところがあったのだが。
他県の大学なんて…。真田先生は、どういう事情でよその大学病院へ行ったのだろうか。
もう真田先生とは、会うことも繋がることもないのはわかっている。
でも、今でも心の中にはずっと真田先生がいた。

真田先生と入れ替わりでやってきた部長先生は、三好先生という少し意外な人物だった。
真田先生とは、全く違う印象。とても若い雰囲気の医師。
最初の診察の際は、主治医の土井先生と窓際によりかかって話をしていたのもあり、研修の医師かと思ったほど。
異動してきたばかりというような少し緊張したような雰囲気…は、全くなし。
思ったよりも若くて元気な先生。少しちっちゃいし。
元気でフツーに色々話してくるから、初対面のような気がせず、気を遣わずやりとりできる感じだった。

真田先生から話をきいてるように、私に話しかけてきた。
足の傷がよくならないこと、歩きにくくなってること、
軟膏やクリームがいいだろうということ、貼ってきた太ももがきつくないか、そんな話をした。
とてもやりとりしやすそうな先生で、安心した…かな。

その後、主治医の土井先生がいつも食塩水注入を行ってくれていた。
結城先生や三好先生のどちらかが、入れ替わりで時々一緒に様子を確認。
治療は順調に進み、特別な不調もなく、組織拡張器は徐々に大きくなっていく。

生理食塩水注入がある程度完了したら、三ヶ月はそのままの状態にしておくという話だった。
通院は間をあけずに定期的にしており、なるべく早く手術ができるように考えていたのだが、
生理食塩水注入は思っていたよりも少し長くかかるようだった。

四月後半、春らしく薄いピンク色のカーディガンと白いふわりとしたスカートを着ていた。
形成外科の待合で椅子に座って待っていると、診察室にいる三好先生が一瞬こっちに視線を向けた。
診察の順番がまわってきて、診察台で横になり、結城先生に食塩水を注入してもらう。横になっていたから暫く気付かなかったが、いつのまにか結城先生と三好先生が入れ替わっていた。
三好先生は、ナースの木原さんと診察室内をかるく整理しているようで、顔まわりでウロウロしていた。土井先生や研修医の女の子と、傷テープや筋トレのことなど和やかに話す。三好先生も加わり、筋トレしたら組織拡張器が動いてよくないとか傷あとはその後どうかなど話す。終始和やか。
診察終了してでてくるとき、ゴチャゴチャしていた診察室がスッキリして、バックの置き場所がかわっていた。挨拶してサラッとそのまま出てくると、土井先生と三好先生の返事が聞こえてきた。
三好先生、いつも声かけしてくれるみたい。さりげなくて緊張したり気を使ったりしないし、話し方がなにげに優しいのかな。それに、きちんとしてる感じ。
ある日、いつものように土井先生の診察を受け始めたところ、三好先生もすぐに顔をだした。
組織拡張器が大分張ってきて最終段階になってきたため、三好先生が確認ということのようだ。
足首から先の傷の方も見せてほしいと言われ、靴下とガーゼをとり、足の傷を見せる。
定規で傷の大きさを図り、太ももの張り具合をよくよく触って確認。
傷を全て張り替えるほどの皮膚はとれないという話を、以前真田先生より聞いていた。
「足りませんか?」
三好先生が顔をあげた。
「真田先生から、全部は張り替えられない、きれいに皮膚が付いてる箇所はそのままだからって聞いてます。」
真田先生とどの辺りを張り替えるか少し話していた内容を伝えると、三好先生は笑顔をつくった。
どこを張り替えるのか一緒に考えて話してくれたり、
食塩水を入れおえた後は、暫く皮膚が伸びるまでおいておかないといけないと説明してくれたり。
三好先生とのまともなやりとりは、実は、最初の診察の時以来だった。親切でムダがなくて話しやすい。

その後は、土井先生が食塩水を注入してくれる。
次の手術の時期は何月になるかなど気になることを話し、この日の診察は終わった。いつもより少し長めの診察。
明細の受け取りを椅子で待っていると、診察室入口のカーテンが空いたままになっており、こちらむきに立っている三好先生の姿が目に入った。
三好先生の目は、私を見ていた。

パティシエとケーキ二つ

世界的に有名なパティシエのサダハルアオキ氏が、ホールのケーキ二つを私の目の前にだし、食べさせてくれた…という夢をみた。
スイーツ好きの私が、今一番尊敬しているパティシエがサダハルアオキ氏。
その人がとても優しげにニコニコしながら、私にホールのケーキを二つも食べさせてくれたのだ。

なんという素敵な夢だろうか。

あまりに印象的だったので、ネットで夢の意味について調べてみると、
なんとも意外な内容の夢であることがわかった。まぁ夢は夢だけど。

しかし…とても意外なことを意味する夢。
これがただの夢であるか、それとも本当に意味のある夢なのかは、後々わかることだろう。

真田先生に最後に診察をしてもらった日にも、実は夢をみていた。
美容室で髪を切る夢だったのだが、切ってくれたのは、なんと真田先生だった。
髪を切る夢は、恋愛の終わりを告げているものらしい。
しかも、髪を切ったのは、真田先生。
この夢は、正にその時に直面していた内容そのものだった。

七月七日、七夕。
結構な雨が降っていて、朝出遅れたのもあり、タクシーで病院へ向かった。
それなのに、急いで行った割に、待ち時間がかなり長びいていた。一時間近くなろうとしているのに、なかなか名前は呼ばれない。
そのうち隣に座っていたおばあちゃんが、話しかけてきた。
まだ今から他の病院へも行かなければならないのに、間に合いそうにないと心配しているらしい。
鞄から携帯をとりだし、連絡を入れようとしているのだが、携帯の操作がうまくいかないと言って、私に助けを求めてきた。
どれどれと携帯をみてあげていると、充電がきれてしまっていた。おばあちゃん、充電がきれた電話を一生懸命操作していたのだ。
「よければ、携帯お貸ししましょうか?」
とおばあちゃんに言うと、助かるわと言って私の携帯で連絡をいれることに。
スマホが初めてのおばあちゃんなので、次の病院に電話をかけてあげたところで、おばあちゃんにスマホを手渡した。
連絡をいれるだけだしとちょっと貸したつもりだったのだが、おばあちゃんの話は長かった…。
担当につないでもらうために保留にされている間など、スマホを片手に私になんだかんだと世間話をはじめたり。
「電話つながってます?」
とこっちが心配して声をかける有様である。やっと繋がり、スマホで話し始めたかと思うとそのやりとりがまた長い。

そうこうしているうちに、診察室から私の名前を呼ぶ声がした。
ナースの石塚さんが、ひょこっと顔をだし、私に声をかけた。はーいと返事をし、立ち上がる。
おばあちゃんの電話は、もう終わろうとしているのがわかったので、早く早くと笑いながらおばあちゃんに電話頂戴という動作で手を差し出す。
もう終わろうとしているのに、なかなかスムーズに電話をきれないおばあちゃんに更に早く早くという動作でやっとスマホを返してもらい、診察室に入っていった。

「携帯、返してくれなかったの?」
石塚さんが、笑いながら声をかけてきた。すぐに診察室に入ってこない私の様子をみに、また廊下に顔をだして気がついたらしい。
私も反射的につい、苦笑いをする。
石塚さんが、傍にいた結城先生にも声をかけた。
「おばあちゃんに携帯貸したら、なかなか返してもらえなくてさ。」
結城先生も咄嗟に笑い出す。
「ちょっと貸してって?」
高齢の患者さんたちの扱いには慣れているはずの結城先生と石塚さんでさえ、このおばあちゃんの行動に笑っていた。
「隣のおばあちゃんに携帯貸したら、結構長かった。」
そう言って私もやれやれと笑いながら、診察台に腰掛けた。

この日は、結城先生しか手があいてなかったらしい。
いつもは土井先生がやってくれる処置を結城先生が最初からやってくれる。
太ももに入れいている組織拡張器の張っている箇所を触って確認しながら、私に声をかける。
「針刺すとこ、ここ?」
診察台に横になっていたが、ムクッと起き上がった。結城先生が手を置いて確認している箇所から少しずれたところを自分で触る。
「いつもこのへんでされてるみたいです。」
指で指して教えた後、また診察台に横になる。
「針さします。」
「はい。」
チクっとした。やり直しらしく、もう一回。ちょっと痛かった。
「こんにちはー。」
途中から土井先生が現れて、声をかけられる。
だんだんわかりにくくなってきたよねと結城先生が土井先生に言っていた。

その後、帰る準備をしながら、土井先生と話をした。
あと一回で食塩水注入が終わるという話。経過観察で月一回くらい診察して薬もでるとのこと。
それから、足がすごく痛むことがあるけど、最終的に治療が終わったとしても
薬を飲み続けていかないといけないのかと尋ね、つい話し込んでしまった。
土井先生は、特に飲み続けなくても大丈夫だろうと言ってくれた。
診察室をでる際に、後ろから結城先生の声がきこえてきた。
少し話し込んでいたので、気になったのか土井先生に声をかけているようだった。


七月末。一月末から行ってきた食塩水注入もやっと最後の日となった。
年の初めに入院して手術を行ったのは、ほんの少し前という感じなのに。あれからもう半年が過ぎていた。
半年もかけて通院し、治療をおこなってきたとは。事故の日から、一年二ヶ月。
月日の経つのは、早いというか。なんとも不思議な感覚だった。

診察の順番を待っていうるうちに、ちょっとウトウトしていると、三好先生の声がして横を向く。
車椅子の患者さんを、呼びにきていた。
また暫く待っていて手のツボおしてたりしながら時間を潰していると、今度は車椅子の患者さんをおしてでてきた。
三好先生、働き者。シャキシャキ、テキパキしててあんまりゆっくりやりとりするヒマない感じ。
パーマかけたらしい。ますます若くなってた。パーマ、なんか意外。

この日の待ち時間は、四十分程。
「こんにちはー。」
挨拶しながら診察室に入っていくと、土井先生からおようございまーすと挨拶される。
おはようございまーすと返事をしながら、鞄を置いていると、続いて誰か男性の声でおはようございまーすと後ろから声がかかる。
後ろむきのまま、誰に言うともなくおはようござまーすと返事をする。

診察の際は、右足だけスカーを太ももまであげる。
慣れもあって、診察だからと特に気にすることもなくなっていた。
診察ベッドに乗ると、当たり前のよう自分からいつも足をだす。

診察の内容や患者さんによっては、診察室の中でも他の職員の目になるべく触れないようカーテンを閉めて診察をすることもある。
入院も長く、形成外科の全職員とやりとりしていた私については、最初の段階からカーテンを閉めてもらうことが殆どなかったのだが。

しかし、これは、どうも真田先生の性格によるところだったのだろうと思う。
真田先生の異動後、診察の際は、誰かがカーテンを閉めてくれるようになっていた。

この日も、自分からさっさと足をだす私だったが、いつの間にかカーテンが閉められていた。土井先生と話しながら、処置を行ってもらっていると、カーテンを少し開けて結城先生が顔をみせたり。今日が最後の食塩水注入ということもあってか、気にかけてくれているのだろう。

処置が終わり、土井先生がカレンダーを見ながら話を始めた。
「これから三ヶ月、このままの状態で皮膚が伸びるのを待つんですけど、手術の時期は、
十一月の初め…かな。」
ふーんと思いながら、口を開こうとすると、結城先生の声が耳に入った。
横を向くと、いつの間にかカーテンが開いていて診察台の前にキャスターつきの丸イスを持ってきて座っていた。
膝の上にいろいろと書き込んであるカレンダーをのせてみている。他の患者さんのスケジュール等を見ながら、私に声をかけた。
「入院は…三週間かな。」
「真田先生は、よく二週間二週間って言われてたみたいですけど。」
「なにもなかったらね。でも、やっぱり三週間かな。」
「そうですか。三週間かぁ。」

結城先生が診察にじっくり付き合ってくれることは、今までにあまりなかったのだが、今日は余裕があるのか、珍しいシチュエーションだった。ついでに、これまで診察の際に先生達と話していたことで、結局よくわからないままだったことを色々と訊いてみる。

退院する時は、靴を履いて帰れるか、
術後、どのくらいで、普通通り歩けるようになるか、
装具は使ったほうがいいか、
一ヶ月くらいで終日出歩いても大丈夫になるか。

「靴がですね、シューズみたいなのだといいんですけど、パンプスとかヒールがないような靴でもローファーとかを履くと、歩いているうちに右側だけ脱げちゃうんですよ。右も左も同じようにしてても右だけ。真田先生に訊いたら、わからんって言われて、整形の先生に訊いたら慣れって言われたんですけどねぇ。」
少し笑いながら、結城先生にどう思うか尋ねてみる。
結城先生は、私の右足の裏に手を当てて足を曲げるようにしながら、口を開いた。
「今、どのくらい曲がる?」
「九十度。」
「足が九十度までしか曲がらないからじゃないかなぁ。」
「あぁ、なるほど!そんな感じですね。たぶんそうですね。」
結城先生の回答に、スバリそうだろうと納得をする私。するどい。やっぱり結城先生、真面目でしっかりしてる、なんかできる感じ。
他にも、術後、足の形がどうなるかを尋ねてみた。傷痕はきれいにならないとしても、形はきれいになるのか、少し気になっていた。
怪我がきれいになおらず、足の甲の部分が盛り上がるような形になってしまっていたのだ。形だけでもきれいになれば、靴下やタイツを履いておけば、全く普通の足と変わらなくみえるだろう。そんなことを考えていた。
「人によって皮下脂肪の関係で皮膚の厚さが違うから、なんともいえないけど。
皮下脂肪がうすーい人は、割ときれいに平らになるけど、少し段差ができてきれいに平らにはならなかったりね。」
皮下脂肪による皮膚の厚さ?そんなこと、全く気にしておらず、それどころか少し太めにしておいたほうが皮膚がたくさんとれていいのかと思っていたくらいだった。
この話をきいて、皮下脂肪を薄くするべくこれからダイエットを始めなきゃと考えてみたり。

今日の結城先生はマスクをはめていたのだが、とても笑顔だったようにみえた。
なんかかわいい顔してニコニコしてたような。目を見て話してたら、チラチラ目をそらしたり。
いつもとちょっと違う感じ。いつももっとそっけないふうな感じだもんね。
目をそらしたのがちょっと気になったなぁ。一度じゃなかったし。
実は、シャイな人なのかしら??

食塩水注入完了後初めての診察は、八月の暑い日だった。今回は、一ヶ月ぶりの受診。
診察室のカーテンを閉め、三好先生が土井先生と一緒にすぐに診察を始めた。
組織拡張器を入れている太ももの方ではなく、怪我の方を見せてほしいと言われ、どうですか?と尋ねられる。

「靴を履いて歩きまわるとふやけて皮がむけるんですよ。汚くって。」
そう言いながら、怪我をしている足を出してみせた。
「靴にあたってすれるのかなぁ。」
傷を見せると、どの部分をはりかえるかという話になった。
「結構な量いるから、だから、真田先生が太ももから皮膚をとろうってしたんだろうね。」
三好先生は、暫く傷を触りながら、色々と言っていた。

どのくらい曲がるか、指の動き、腱がないことによる機能的な話等、丁寧に色々と話してくれた。
手術時期の話や、すぐ歩けるようになるか、シーネをニ週間はめて動かさないようにする、その間は、松葉杖じゃなくて車椅子、リハビリもある。
入院期間は、三週間前後。

手術日を今すぐ決められるかを確認し、十一月の一番早い手術日に決めてもらった。
盛り上がった皮膚は、きれいにぜんぶ取り除けるかという話から、
九月末か十月に、MRIの検査をして皮膚の内部がどうなっているか確認しましょうという話もあった。
三好先生に、入院時期等が大丈夫かということを何度か言われたので、少し笑顔をつくって話しかける。
「今年は治療専念で仕事を一年お休みしてるので、大丈夫です。」
「あっ!そうですか⁈」
三好先生は、少し笑いつつ驚いたような表情をしてみせた。

次の診察日を決めると、今度は太ももも見せてもらおうかなと言う。
三好先生とやりとりをしていたのだが、土井先生も近くにやってきた。
「なんか腫らしちゃったんですよね。保湿クリーム塗ったら、真っ赤に腫れちゃって。
もうひいたから、大丈夫だと思うけど。よけいなことはしない方がいいですね。」
スカートをあげて太ももを少し見せながら、土井先生の顔も見つつ笑いながら話をした。
その様子を見ながら、三好先生も笑っていた。

診察の途中、傷を診るのは終わったのだろうと、もうあとは話だけかなと思いながら、靴を履いて診察台に座り直した。
すると、三好先生は、結構な近距離、真横でまたじっくり話しだした。
話している時も結構目を見るから、なんだか逸らしてしまったり。真田先生や結城先生の時は、平気なのに。

三好先生とのやりとりは、久々だった。目がクリクリでかわいい顔。これかなぁ。
目が大きくてクリクリだから、じっと見られると逸らしちゃうのかも。
前回の診察の時からかかってたパーマは、いい感じになじんでいた。かわいい先生。

それにしても、あまりいつもじっくり話すことがなかったからか、
真田先生や結城先生の時みたいに、落ちついた気持ちで話せないなぁ。
慣れかなぁ。

診察の初めの方では、三好先生はマスクをしていた。
話している途中にマスクをひっぱって顔だして話を続けたのだが、実はその時に少しドキっとしてしまった。
診察終わりかと思って靴を履いて座って待っていると、真横にきてちょっとビックリするくらい距離の近いとこで話しだしたり。

前回の診察は二回続けて結城先生がじっくり対応してくれていた。
ニ人でやりとりした時は、結城先生の様子なんて見つつ、すごく結城先生に惹きつけられたのに。
今日は、結城先生、隣の診察室でずっと診察中だった。一度も姿を見ず。
穏やかな声だけが、少し聞こえた。

なんかよくわからない。パティシエのケーキニつの夢、当たってる感じ。

翌月の診察では、土井先生の姿はなかった。珍しく三好先生だけの診察。
組織拡張器でパンパンに張っている太ももの具合を、三好先生が沢山触って確認をする。
なにか話をしていて…先生がパソコンを触り始めたので、靴下と靴を履いてしまう。
あ、怪我部分近くの血管が浮き出てきていることについて話をした。
他に、太もも下のところが痛くなることがある話をしたり。
血管は、術後自然に治るかどうかはなんとも言えない、詳しくは血管のせんせに聞いた方がいいだろうって。
太もも下の痛みは、腫れたり、あまりに続くようなら、問題ありだけど、そうじゃなければ、大丈夫でしょう、
詳しい内容はハッキリしないけどと色んなパターンを教えてくれる。

ナースの石塚さんが、検査今日できるかもよと手配してくれる。
今日は、なんだか石塚さんがえらく色々話してくれた。ほんと、そんなに喋らなくていいよってくらい。
診察中、結城先生がカーテンのあいだから、少しこちらの様子を見ていた。
土井先生は、どうも連休中らしい。
事務の人とやりとりをしていると、明日までお休みなんですと教えてくれた。

その後、十月も手術前検査の為に受診したのだが、土井先生の姿を見ることはなかった。
実は、九月末で異動となったとのことだった。
一番若手の医師だったのだが、結局この病院には一年しかおらず、私とのやりとりは数ヶ月。
細々したことは、殆ど土井先生が対応してくれていたというのに、手術直前に異動とは…
主で対応してくれる先生は三好先生ではあるのだが。
ただ、あまりにも突然で、少し驚いてしまった。

思いもよらぬこと

十一月初め、予定通りに入院。
付き添いの母の都合で、少し早めに病院に入ったのだが、予定時刻にならないと病棟には入れないようだった。
形成外科のナースの木原さんと話をしてると、三好先生が診察室からでてきて、その場を通り過ぎる。目が合い、かるく会釈をした。
仕方なく荷物のみ預かってもらい、一時間程時間を潰す為、近くへコーヒーを飲みに行ったのだった。

予定時刻になり、説明された入院病棟へ入る。
過去二回の入院は同じ病棟だったが、今回は初めての病棟だった。なんだか静かなフロア。
三好先生は手術とのことで、翌日の手術の説明は夕方になるだろうとのこと。
遅くなりそうだったので、説明を聞くのは一人で大丈夫だからと母には帰ってもらった。
結局十八時近くになって形成外科に呼ばれ、それから一時間ちょっと手術の説明を受けた。
時間外だからか、形成外科入口はいつも開いているのに、この日は締まっていた。とりあえずドアを開けてみたのだが、二つある診察室の入口にもカーテンがかかっている。
とりあえずドアをしめ、とりあえずそのドアをノック。
そして、イスに座って待っていると、土井先生の後任らしい若い男性医師がやってきて、話しかけられた。
自己紹介をしてよろしくお願いしますと挨拶。新しい医師は、春田と名乗った。少し待っていてくださいねと言われ、大人しくそのまま声がかかるのを待つ。
暫くして診察室に呼ばれると、もう、事務の人の姿もナースの姿もなく、先生達だけだった。
最初に手術に関係する血管のチェック等を行い、その後、三好先生より手術説明が始まった。

三好先生はたくさん説明をしてくれたのだけれど…でも、ここにきて予想外な話もでてきて、結局どうすればいいのか、、、という感じになってしまった。まぁとりあえずのところで、話を終わらせる。
手術説明が通常業務時間外になる程忙しかったようだし、ただでさえ遅い時間なのになんだかよく解らないからとゆっくりと話をするのも少し気が引けたのだった。
手術は、明日。その前日になって色々と聞かれて確認されても…。
今回の手術については、今までのやりとりから大体の内容は把握していたし、手術内容もほぼ決まりきったものだろうと思っていた。、今更どうしたいもこうしたいもなく、先生達のやろうとしていることを、なんの疑念も迷いもなく信頼していた。

ここのところ、月一回の通院を続けていたが、先月は手術前検査のみだった為、三好先生と面と向かって話すのは二ヶ月ぶり。三好先生、少し痩せたように見える。ちょっと細くなった気がする。
手が結構きれい。色白い。パーマは、とれちゃってた。目、くりくり。
それから、ときどき方言がでた。久々にあんな方言がでる人を見た。今までの診察で普通に話していたときは、よくわからなかったけど。

大方の説明が終わり、輸血の承認等決まりきった内容に関する書類にサインをしなければならず、その説明を先ほどの若い医師、春田先生がしてくれた。見た目はかなり若くかわいらしい男性医師。見た目同様、まだ経験の浅い若い先生なのだろう。春田先生は、説明がヘタだった。それに、距離近すぎ。
説明がヘタなので、時々三好先生が横から覗き込む。すると、なにか威圧感のようなものを感じるのか、春田先生の体は、わかりやすく三好先生から逃げるように更に私の方に寄ってくる。
説明を聞きながら、笑いそうになっってしまった。もう。
なんとか説明が終了したので、明日はよろしくお願いしますと言って診察室をでた。

病室に戻ると、十九時をすぎていた。テーブルには、夕食のトレーが置いてある。夕食の時刻は、十八時と決まっており、もう一時間も前に配られていたのだ。
遅くなった夕食をバタバタと片付け、歯を磨き、説明を受けてきた手術の話や手術開始時刻等について、母へメールを送った。
ベッドに腰掛けてそのまま携帯を触っていると、また春田先生が現れた。
もう少し、明日の手術について由木さんの優先事項を話したいんですが、いいですかと言う。
「え、また形成外科に行って?」
驚いて、つい咄嗟に言ってしまった。だって、もう夜…二十時という時間だったのだ。
「いやいや、この病棟の家族説明室で。三好先生も一緒に。」
そう言って、春田先生は私を家族説明室へ案内した。

今回の移植は、皮膚が厚い為に盛り上がりがどうしてもでてしまう。
その為、どの範囲をどう処置するかという話だった。
色々と話していると、三好先生が参考になる本をわざわざ取りに行き、私に見せてくれた。
そして、なんだかんだと話し合う。
三好先生が本を取りに行って席を外している時に、春田先生とも色々と話す。
結局また一時間以上も時間をかけて話をしたのだった。
家族説明室を出て先生達と別れる際に私から声をかけた。
「のみこみ悪くてすみません。わざわざありがとうございます。明日よろしくお願いします。」
そうお礼を言うと、ニ人とも嬉しそうに会釈してくれた。結局二十一時終了。
ニ回もしかもこんな遅くまで話をつめてくれるなんて。
春田先生と話していたら、三好先生の性格みたいなことを言ってた。

この日、結城先生は、手術前の処置を受けている時に途中からきて一緒に足を触ったりしてた。
説明のときもチラリと姿があったり。結局今日は、結城先生の顔、全然見ることできなかったな。

明日の手術は、三好先生、結城先生、春田先生の三人もの先生が入ってくれるらしい。
そして、予定時間は、十時間。この長時間の手術になるという話も、今日初めて聞いて驚いていた。
今までの入院とは雰囲気が違って、どうなるかなと思ったりもしたけど、三好先生と春田先生とは良い感じでの始まりになったかな。
春田先生は、背が高くてスラリとしているのだが、見た目よりもずっと子供っぽい印象を受けた。まぁ話しやすいけど、話ヘタ。

「長時間の手術、大変でしたね。きつかったですね。」
意識が戻った私に気づいたナース達から、数回声がかかった。
目を覚ましたのは、薄暗い部屋の中。術後の患者の様子を見守る観察室という部屋だった。
十時間という長い時間を予定していた手術は、結局大幅に予定を超え、
十六時間近くかかって終了したらしい。

手術中は麻酔がきいている為、何も感じないどころか意識がないので時間の感覚すらない。
しかし、目が覚めると、状況は変わる。目が覚めた瞬間から、体はきつかった。
喉がとても乾いていて、水が欲しい。
そう何度かナースに言うのだが、まだお水はとれないんですよと言われてしまう。
ボーッとしつつ水をくださいと何度か言っているうちに、やっと少しの水を飲ませてもらった。

観察室にいたのは、術後半日程だったのではないだろうか。
翌日には病室に戻っていたのだが、ベッド上安静で身動きすらまともにとれなかった。
体を起こすことすらままならず、本当に動けない。水を飲むのも、コップではムリ。
ベッド横のテーブルにあるらくのみに手をのばして、なんとか口に運ぶ。
食事が運ばれてくるのだが、水を飲むのもやっとだというのに、とてもじゃないが食事をするどころではなかった。まともに起き上がれないのだから。
三好先生達が、ベッドまで処置のためにきてくれるのだが、その様子さえ、まともに覚えていない。
たぶん、挨拶だとかちょっとしたやりとりはしたのだろうと思うのだが。
結局術後ニ、三日は、こんな様子でぐったりだった。

母が毎日病室にやってきて、動けない私の世話をしてくれた。
手術は八時半開始だったのだが、母の話では、深夜一時までかかったとのことだった。
手術終了後、母に説明をしてくれた三好先生は、かわいそうなくらい疲れていて、目も潰れそうだったと話してくれた。
拘縮して盛り上がっていた傷あとを取り除くのが困難だったこと、また、数ミリの血管を顕微鏡をみながら繋ぐのも難しかったこと、そんな大変な手術だったらしいという話も聞いた。

手術から三日目。
この日は日曜日だったので、診察はないのだろうと思っていたのだが、
手術の時につけた背中の麻酔を、先生にとってもらわないといけないと病棟のナースが言い出した。
先生達は日曜でもよく来てるから、ちょっと連絡を入れてみるとのこと。
すると、午後になって結城先生が一人、病室に現れた。
最初に背中についたままだった麻酔を取り外してくれたのだが、その際にいっぱい汗をかいていると言って、なんとガーゼで背中の汗を拭いてくれた。まだ入浴も洗髪もできない状態だった為、とても人に触ってもらえる状態ではなく、申し訳なく思ったり。

「この前は長時間の手術ありがとうございました。三人も先生に入っていただいてたんですよね。
五時間くらいかと思ってたから、こんな大変な手術とは全然知らなくて。」
「また十分寝たので大丈夫です。」
包帯のつけかえを始めてくれた時にお礼を言うと、優しい返事が帰ってきた。
結城先生はつけかえをしながら、皮膚の話をしてくれたり、車椅子の話をしてくれたり。
そのうち、結城先生の口から意外な言葉がでてきた。
「個人的な話なんですが…。」
あまりにも意外でなんだろうとキョトンとしていると、次にでてきた言葉で話の内容に察しがついた。
「自転車…」
「あぁ…。」
前回入院していた時に同室だった女の子に、私が以前乗っていた自転車を貸していた。
かなりよい自転車だったので、乗らずに置いたままにしておくのももったいないようように思い、足の治療が終わるまでとのことで貸していたのだ。
結城先生は、二ヶ月程前にたまたま街中でその女の子がその自転車に乗っている時に声をかけらたらしい。入院前にその女の子と会ったのだが、そういえば結城先生にバッタリ会って自転車の話をしたと言っていた。
「あの自転車どこで買ったんですか?」
「すっごいマニアックな店で買ったんですよ。福岡で一番マニアックな店。」
そう言うと、更にその店のことを尋ねられたので、場所を言いかけ、ふと言うのをやめた。
「先生みたいな職業の方は乗らない方がいいですよ。絶対、ころびますもん。」
「そんなことないですよ。体育会系の人が多くて、自転車やってたりトライアスロンする人多いんですよ。」
「あぁ…まぁ、言われてみたら、タフじゃないとできない職業ですよね。」
そんなことを話しつつ、また少し雑談をしたり。
普段あまり余計な話をしない結城先生にしては、珍しいやりとりだった。予想外のやりとり。
結城先生、目を見て話さない。照れ屋って感じ。最後、動けない私に布団掛けていくの忘れてたし。
それにしても、麻酔のせいだろうが、喉の調子が悪くて、話しにくかった。

翌日になると、少し体調がよくなり、頭もスッキリしてきた。
「お食事、終わられました?」
十八時半過ぎになって、食事が終わった頃、三好先生が研修医を連れて病室にやってきた。
今日はもうつけかえはないだろうと思っていたのだけれど。
話をしながら、今日も手術だったんですか?と聞いてみた。
「はい。毎日です。」
「えー毎日ですか。」
驚いてしまった。
そして、もしかしたら、前言ったのかもしれないけれど、また十五、六時間もこの前はありがとうございましたと手術のお礼を言う。

太もものつけなおしで、横になる。
包帯がないようなことを三好先生と研修医が話していたので、忘れ物の包帯があると教えると丁度よかったと言って手にとっていた。
「昨日傷を初めて見て…やっぱり三好先生が言われたとおり、部分的にしてよかったです。」
そんなことを言いながら、少し気になることなど聞きつつ、途中からだまってみたり。
すると、暫くして結城先生もやってきた。
結城先生、最初に私の顔の方にきて、顔を覗き込んでいた。後から反対側に回って、三好先生の手伝いをしたり。

皮膚移植を行った部分の処置の時に起き上がって傷を見ていいか聞いてみると、
大丈夫だったらいいですよと三好先生に言われた。途中咳き込んだら、大丈夫ですか?って。
乾燥してるから咳がでてと言う。
「そういう意味じゃなくて、傷見るの大丈夫ですか?」
「それは、大丈夫です。最初傷見た時は、あまりの衝撃で真田先生にケチつけそうになった、、
ケチつけちゃったんですけど。」
少し笑いながら、余計なことを言ってしまった。最初に傷見た時って言ったけど、
三好先生達が手術してくれた傷のことを言ったように受けとられちゃったかもとも思ったり。
それからは、余計なことは言わずにだまっておいて、少しなにか話したかな。
処置終わりに研修医がなにか忘れたものを取りに行ったので、使えん奴やと三好先生。
処置台をさげようとする三好先生に、テーブルの上の忘れ物を先生忘れ物って渡してみたり。
「明日は外来に呼びましょう。多いから空いてる時間を見計らって呼びますね。」
そう言って、三好先生は帰っていった。
結城先生は、途中からいなくなっちゃったな。
なんだか昨日から喋りがおかしい、、私。いつもみたいにスムーズにいかないな。麻酔の影響かな。

十一月十日
今日から診察は、外来。朝の九時前、早い時間に呼ばれてしまう。
少し待った後、春田先生が車椅子の私を診察室に連れて行ってくれる。
結城先生は、パソコンを触っていて、窓際に向かって座っていた。
石塚さんと春田先生が処置してくれるのかなと思っていると、暫くして結城先生が入ってきて、その後、三好先生もやってきた。結局、三好先生が処置してくれる。
三好先生がいつも太ももをしっかり包帯で巻いてくれるんだよね。
この日は、診察台で寝たまま、処置をしてもらう。
痛みはどうですかとか上手に声かけしてくれる。
入院してからの三好先生の言動を見ていると、やっぱり部長らしい印象を受けた。話すのも上手だし。
結城先生は、上手なのに、照れ屋がちょっと災いしてるというかなんというか。
最後、石塚さんと春田先生が手伝ってくれて笑いながら車椅子へ。
春田先生に待合に連れていってもらい、終了。

十一月十一日
予想外に午後三時半頃、外来に呼ばれる。
午前中に呼ぶ余裕がなかったようだったから、午後の手術が終わって夕食後くらいになるかなと思っていたけど。
今日は、結城先生の姿はなかった。手術かな。
診察ベッドの方で、三好先生が診てくれる。
どうですか?っていつもの質問、日に日にいいですってお返事。
最初に太ももをしてくれて、石塚さんからもらったバスタオルを片足にかけてたら、
こうしときましょうねって、右足付け根部分までかけてくれた。
三好先生は、こういうデリケートな感覚がちゃんとあるみたい。ここポイント高いなぁ。

昨日、喋りすぎちゃったかなと思ったので、今日は余計なことは言わずに処置してもらう。
太ももを触った後、怪我部分の処置の時に、起き上がってマジマシと傷を見る。
診察ベッドだったこともあり、いままでより、よくよくはっきり見て確認できた。
すると、思っていた以上に形状が悪く、足の内側部分が大きくでっぱっていて、
靴が履けるのか、今まで履いていたスニーカーさえ、大丈夫なのかと不安になった。
ある程度処置が終わった後で、三好先生とよくよく話す。
今この形状で靴が履けるようになるのか、時間をかけて形状は落ち着いていくけど、
どれくらいの期間でどの程度になるのかなどなどなどなど。
質問しようとすると、三好先生の方から次から次に話がでて、本当によくよく説明してくれた。
しっかり目をみて。三好先生、本当にしっかり目を見て話す。こちらが、不自然にならないように
ときどき目をそらしてしまうくらい、ジーッと見て話す。
今日は、笑い声など出さず、真面目な顔をして気になることを確認したからか、
逆に三好先生は、とても笑顔が多かった。
結局、今回は、瘢痕をとり、ベースをつくる手術をした、、
今後時間をかけて形状を整えていく治療をしていかなければならない。
そうなると、最短で退院後三ヶ月後の手術。三月に手術。入院期間は1週間程。
その後は、テーピングをして形状を整える処置をしたまま、暫く靴を履くことになる。
今日は、こんな話。
皮膚内側の組織を切り取り、皮膚を薄くする手術の話がこないだからでていたけれど、
やはり今日もその話がでていたので、その手術をするべきなんだろうと思う。

真田先生としていた話をなんとなく含みながら、
今回が最終的な手術になると思ってたことをハッキリ話したけど、
ここにきてちょっと聞いてないよ的な話がでてきたことに困惑。
真田先生、あんなに何度も繰り返し説明してくれて、よく診てくれていたのに。
肝心な話がぬけてる。
とても信頼関係ができあがってたと思っていたけど、人によって感覚なんかが違うから難しいのだろうか。

その点、三好先生は最終的な確認を手術の直前までよくよくしてくれたし、
気になることはきちんとハッキリ話しておけば、行違い等なく治療をすすめてくれそう。
今日は、よくよく話をしたけど、すごく目を見て話してくれるし、
真剣な話をすればするほど、笑顔がでるし、いいお医者さんだと思う。
それに、土井先生がいて普段あまり関わらなかった時は、たまにちょっと話すくらいだし、
見た感じが若いのもあり、ちゃんとした先生とは思いながらもどこか若い感覚のある人物のように思っていた。
しかし、思っていたよりも、すごくちゃんとしている先生だった。
話せば話すほど、今までの印象と違って大人っぽくみえたり。男らしくみえたり。
なんか年上にみえたり。実際いくつなんだろう。
結城先生と三好先生。いったいどっちを見ていたらいいのか、まだハッキリわからない。

十一月十二日
外来休診の手術日だから、診察に呼ばれるのは夕方かと思っていた。というのに、九時過ぎに呼ばれる。
今日は、ナースの木原さんと結城先生が診てくれた。
結城先生がおはようございますと言いながら現れたので、おはようございますってお返事。
今日は、抜糸しようって。
「ドレーン(血抜きの管)も今日抜くんですか?」
「うーん。三好先生はなんて?」
「抜けたら今日抜こうかなとは言われてたけど、抜きましょうとは言ってなかったです。」
「もう少しおいてた方がいいかな。今週いっぱいくらい。まだ少し廃液がでてるから。」。
太ももの傷を抜糸した後、包帯を巻いてくれる。
怪我部分の処置の時に、起き上がって怪我を見てみる。
「この移植って結構違和感ありますね。想像と違った。」
「うーん。どうしても皮下脂肪の厚みが、普通の足の皮膚と違うからね。
小さくつけてどうかしようと思ってもムリだけど、大きくつけたら後から調整できるから。」
「あと…あ、この前のお話なんですけど、自転車の。
私、やめたほうがいいとか言っちゃって、先生お店探されてたんじゃないかなって思って。」
「いや、探してない探してない。」
「あ、そうですか。」
ならよかった的な話をした。
その後、足を直角に曲げるように足を触ってくれていて、いたいいたいっって、はいはいってやりとり。
傷を触ってる時も、一度痛くて足が動いちゃって、あ、ごめんなさいって。
帰りは、車椅子に乗せてくれた。。
結城先生が傷を触ってくれている時、おもいっきり先生の髪が視界に入ってきた。
一見全然見えてなかったけど、近づくと白髪がいっぱい。
やっぱ勉強とかなんとか疲れてるんだ。

十一月十三日
外来に呼ばれたのは、十五時半。
木原さんが廊下で話しかけてくれたので、お忙しそうですねなどと声をかける。
一人男性の処置まちで、その後、診察室に呼び入れてもらう。
今日は、三好先生、結城先生、木原さんの三名。
午後の一段落した時間なので、ゆっくり診てもらう。
結城先生が太もも、三好先生が足先を触ってくれる。
木原さんもついてくれて真横に立ってくれてたので、つい話しかけてしまう。
ここは、紅葉がきれいにみえますね、前のビルの上の方って鳥がいるらしいですけど、
見に行ったことあります?とかオウムとか真似するから結構面白いんですよねなどとお喋り。
三好先生や結城先生も、なにげに話を聞いていて、窓から見えるビルの方を見ていた。
太ももに入っていたドレーンを結城先生が抜いてくれて、三好先生は痛みがないかきいてくれたり。リハビリの先生がどこまで動かしてていいか聞いてみてと言っていたから、かくかくしかじかと聞いてみる。三好先生が、重心かけない、右足あげた状態なら、触っていいですよって。
結城先生が、続けて口を開いた。
「リハビリの先生だれ?」
「前からの先生で、今井先生です。」
三好先生と結城先生が一緒に足を触ってくれていたので、なにげに二人の様子を観察。
診察中は、顔を見るのを実は避けていた。なんとなく。
質問する部位なんかを見ながら、話すようにしてたり。
そんな感じで、顔はなかなかハッキリまじまじと見られないけど、
腕なんかを比べてみる。三好先生の方が細い。ちょっと意外。
結城先生は、背が高めでスラリとして見えるから、一見細いかなという感じがするけど、
結構ガッチリしてる。三好先生は、少し背が低いから、自分の感覚と似た感じがあって、
中肉中背かなって感じがしてたけど、最近どうも痩せてきたような。

十一月十四日
九時半頃、外来に呼ばれる。
石塚さんが呼び入れてくれて、春田先生の処置。
と思いきや、すぐに三好先生がきてくれて太ももを触ってくれる。
三好先生、太もも包帯まくの上手。
雰囲気的になんかまだ若い先生の感覚に思えるところがあるけど、
よくよくやりとりしてると、しっかりしてて安心する。
前の真田先生よりも、意思の疎通がやりやすいかも。
ここのとこつい喋りすぎちゃってたかなと思ったりして、今日は、わりと大人しくしてみる。
すると、三好先生から話しかけてきて、ちょっと色々と話す。
足の痛みがないことに関して、ある人はあるってことで、
私の場合慣れかなとか、拡張器入れてたからかもとか。薬なくていいんですねとか。
今までは、足を上げたままの状態にしておかなければいけなかったけれど、月曜から、足下げていいですよって。
「ということは、松葉杖もいいんですか?」
「不安定でなければね。」
ベッドにいるときは足をあげておいて、あとはウロウロしてもいいって。
今日の三好先生は、マスクをはめてたから、なんか目がクリクリしてかっこよくみえた。
目クリクリ。目の形いいね、先生。
最後、三好先生が車車椅子に乗せてくれて、表までだしてくれる。
明日は診察お休みですよねって言ったら、うん、はい、そうですねって。
結城先生もちょこちょことこっちに姿を見せてたけれど、やりとりはなし。
三好先生が、実質主治医というのもあるのか、いるときは、毎日必ず、ちゃんと処置に加わってくれる。

十一月十六日
十時半に、外来に呼ばれる。
人が多くて暫くまち。それに、今日は、春田先生が主。
結城先生がときどき来てチラミしたり、ウロウロ。
結城先生、やっぱりなんか大人しいのかなぁ。なんか本当に余計に滅多に話さない。
足が曲がるかいっぱい押してくれたけど。
最後の方で、隣の診察が終わった三好先生が来てくれる。
今日から足を下げていいという話をしていて、松葉杖の話がでる。
ギプスとか色々つけてて足が重いから、ちょっときつかもよという話をしてくれたんだけど、
前使ってたからたぶん大丈夫ですってお返事。
最後、車椅子に木原さんに手伝ってもらいながら移る時、結城先生も春田先生もいなかったけど、
三好先生は、最後までこっちを向いて笑顔で見送ってくれた。
やっぱり、三好先生かな。話しててらく。思いやりがある。よく気が付いてくれる。

十一月十七日
今朝は、思いがけず早く外来に呼ばれる。九時頃。
売店に行っていたので、行くのが遅くなってしまった。
待合の真ん中の席で待っていると、三好先生が患者さん呼びにでてきた。なんかよい雰囲気だった。
今日は、今回の入院の中で一番三好先生とのやりとりがよい感じだったかも。
ニコニコしていっぱい色々話してくれたし、最初から最後までしっかりみてくれた。
最初に診察室に入って行った際、松葉杖で行ったから、三好先生を中心に石塚さんや木原さんも
他の先生も皆で笑顔で出迎えてくれた。松葉杖上手上手って。
「前使ってたからね。事故の時。」
石塚さんがそう言うと、三好先生がそうなんだって。
春田先生が処置してくれたけど、三好先生がずっと真横について笑顔でたくさんこっちを見ながら、
色々と話してくれた。本当に笑顔で目をみてずっと。
帰りも出入り口でるまでみててくれたみたいで、木原さんに出入り口のカーテン開けてあげてって。
三好先生、気遣いの人だけど、素直にものを言ってくれるので、とても話しやすい。
笑顔がたくさんでるし。髪切ったみたい。短くなって、サッパリしてた。

十一月十八日
十六時過ぎくらいに、外来に呼ばれる。
待合でしばし、待ち。
車椅子のおすもうさんが診察室からでてきて、その後、三好先生が一度廊下の奥の方に
誰かに話にいって帰ってきた。
最近、せんせ、やっぱりちょっと痩せた。
木原さんに診察室に呼ばれて、お喋りしながら、診察準備。
すぐ三好先生が現れて、三好先生1人で対応してくれる。
夕方だったから、ちょっとゆっくり余裕持ってみたいな。
今週末にギプスシーネ外すとか、シャワーのとき太もも濡らしていいし、傷も洗っていいって。
「石鹸つけてもいいですか?」
「いいですよ。ちょっと抵抗あるなら、試しに今日ここで洗っていきましょうか?」
そう言って、足を丁寧に指の間まで洗ってくれた。話をしながら。
ちょっとくすぐったかったけど、がまん。
春田先生がやってきて三好先生におすもうさんの件で、話し始めた。
その話がおわってから、おすもうさん入院されたら、大変ですね、ま、車イスにおさまってたけど、
ってちょっと笑いながら世間話。三好先生、相撲のシーズンですからねって。
あと、リハビリの件とか、足がどのくらい曲がるかとか、かかとの傷のとこがのびなくて痛いとか。
脂肪吸引とかテーピングしてもガーっとは変わらないとか、減量の手術は、ニ回はした方がいいとか。
難しい手術じゃなくてニ時間くらいって。
最後の方で、包帯自分で負けますと言うと、そうですかじゃぁって三好先生が包帯を手渡してくれた。松葉杖で手がふさがるので、袋がいると言うと、三好先生がビニールをだして私の傍にいた春田先生に手渡した。
「これだとちょっと厳しいなぁ。」
そんなことを言いながら、ビニールをやぶって持つところをつくり、
ありがとうございましたとお礼を言って診察室をでようとした。
三好先生は、声をかけて見送ってくれた。

十一月十九日
十六時半頃、診察。他に誰も患者がおらず、三好先生がゆっくり診てくれた。
足の痛みのこときかれたりして、ときどきビリビリっと痺れるような痛みがあるときがあると話す。
太ももを春田先生がしてくれて、足先を三好先生がしてくれた。
昼に足を洗ってきた話をしたり。リハビリでどんなことをしているか聞かれたり。
足先全部に包帯をきれいにぐるぐる巻にしているのを見て、もう病棟で血流の音を確認しなくていいのか聞いてみたり。
「これから、体重はまだかけないけど、足を曲げる練習をしていきましょう。
来週から、体重かけて歩く練習。来週いっぱいまでそれして、それから退院考えましょう。」
三好先生は床にシートをおいて私の足をのせ、屈んで手で私の足を触りながら、
足首を曲げる練習をしてくれた。
帰りに包帯を持って帰るのに、またビニールをだしてもらった。
「新しいのじゃなくて、使い古しのとかでいいです。」
そういう私に、すぐきれいなビニールを出してくれた。
帰りも診察室を出るのを、最後まで見送ってくれたり。
三好先生、優しい。話しやすいし、緊張しないし。
結城先生は、久しぶりに姿を見たけど、こっちには、一切顔出さなかったな。
やっぱり三好先生なんだろうと思う。

十一月二十日
診察、十七時前。
三好先生が珍しくいなくて、結城先生に気になることをちょっと聞く。
ギプス外してよくよく足を見たり、先生達の今後の対応の話が気になったり。
帰り際、大きな声で、あー難しいですねぇ。困ったなぁ。ありがとうございました。と言って帰ってくる。
ふいにでた言葉だけど、意味深な言葉でもあり、結城先生には少しなにかを感じてもらえたかも。

十一月二十一日
土曜日。このニ、三日の機嫌の悪さと言ったら、というくらい不機嫌。イライラ。
手術後のこの足の状況、新人春田先生の手際の悪さや、信頼していたはずの真田先生のことを考えると、かなり頭にきてなんとも言えない状態。顔つきも変わってきたようで、本当に、、、という感じ。

今日は、シャワーとほぼ同時にお昼頃外来に呼ばれ、シャワーを終えてから十二時過ぎに車椅子で外来へ。
昼過ぎなので、外来は人の姿がなく、照明も暗め。
土曜なのもあり、誰も待合にいなくて、看護師さんの姿もなく。
診察室のカーテンが微妙に空いていて、少し入りかけて声をかけようかなと思ったら、
診察机があるほうの診察室から三好先生の声がかかる。
「こんにちは、どうぞー。」
結城先生が当番だと今日の担当ナース達が言っていたようだけど、三好先生がいた。
診察室には、結城先生がパソコンを触って後ろ向きに座っていた。
三好先生がすぐにきてくれて、診察台に上がる。
テンション低くて今日はどうしたもんかなぁと思いつつ、診察にきたけれど、
三好先生がやっぱりすぐに親切に対応してくれるので、いつものように診察を受け始める。

足先のガーゼを自分で外していると、いいですよと言って足を触ってくれる。
結城先生もやってきて、太ももを少し触ってくれる。
三好先生が太もものことを聞くから、特にもんだいなし、痛みもなにもなしと話しつつ、
太ももよりもこっちの方が気になると、移植した部分の話を始める。
自然に気になってイライラしてたことを一応控えめだけれど、ハッキリと話しだした。
イライラしてた話を抑え目にだけど、ちょっとどういうことだろうかとなにげにハッキリ三好先生に伝える。
話し始めると、丁寧ながらも少し気持ちも入りだし、まぁそのほうがいいだろうとは思いつつ、
ハッキリと厳しい話し方をしてしまう。

それなのに、三好先生は、困った顔や嫌な顔を全くせず、笑顔もみせながら、色々と話をしてくれた。
結構厳しい顔してものを言ったりもしたけど、北風と太陽みたいな感じというか、笑顔で対応してくれた。
ハッキリと厳しい話をしたというのに。なんだかニコニコしつつ、たくさん色々と話してくれた。
結城先生にチラリと話していたことを、聞いていたのかどうか。
でも、話の流れで、こっちから始めた話で、三好先生の方からあらかじめ準備してした話じゃ
なかったから、自然にそういう対応をしたんだろうけど。
なんだか三好先生の株が上がった。

それから、気になったのは、三好先生表情。
丁寧ながらもキツイことを言ってるのに、優しい顔して微笑んで私の顔を見ていた。ずっと。
距離近いし。
三好先生、黒縁メガネをしていて、それがとてもさりげなく似合ってて格好よくみえた。
足の包帯巻いてくれているとき、三好先生のお腹に足先が当たり出しちゃって。
お腹が足の先に暫く当たってた。
動きようがないからそのままにしてたけど。痩せた割に先生のお腹プヨだった。
三好先生が足を持ってるから、動かすのも気が引けて、そのまま。
プニョプニョ当たっちゃって。なんだか…。その状況に戸惑ったり。

最後は、車椅子に座った状態でも、私の目線に合わせて屈んでじっくり話してくれたし。
廊下まで送りだしてくれて、今日は車椅子?って声かけしてくれたり。
両方使いなんです、疲れたら車椅子って言ったら、笑ってた。
お礼を言って帰ってきた。

この三日くらいすごくイライラしてたのに、安心した。
今週に入ってから、特に、三好先生の対応が私に対してつきっきりの診察をしてるように思える。
今日の優しげに微笑むように見つめられたのには、ちょっと驚いた。
深刻な顔してきついこと言ってる私を見て、あんな表情で話すんだから。
私を見て笑顔になってるって感じがした。
なんだか三好先生との距離が、日に日に近づいてきているように思える。
そして、人柄にふれるほどに、格好よくみえてきた。
話すと安心する。いつも冷静に話ができて、大人っぽい。細かいところまでみててくれる。
三好先生のことを、じわじわ好きになってる。

十一月二十三日
日曜日の十三時頃、三好先生が病室に現れた。
昼食後、テレビみて笑ってたら、突然。
ムチャムチャ油断してたから、なんとなく視野に入ったのに気づかなくて、
由木さんって声をかけられて気づく。
「あれ?すっごいくつろいでた。」
驚いて笑いながら、言ってしまう。
三好先生は、1人で手に処置の道具持ってきていた。
様子を聞かれながら、リハビリの話等しながら、ベッドで処置をてもらう。
今履いているスニーカーが履けるかどうか今度試してみようかという話が先週でていたので、
靴は?と尋ねられた。ロッカーに入れててって話すと、また、来週でいいかなって。
今日の三好先生は、いつもより落ち着き気味で、いつもの勢いがあまりなかった。
視線もいつもは、真っ直ぐ見るのに、今日は弱め。
日曜なのに、ありがとうございましたとお礼を言う。
昨日の今日、明日は祝日っていうので、来てくれたのかな。

翌日は祝日で、診察なし。
その翌日は、午前中早くから呼ばれたが、シャワー順番の関係で、十二時過ぎに外来へ。
三好先生が、抜糸してくれる。この日も三好先生、大人しめ。

十一月二十五日
十一時過ぎ、診察。春田先生の処置。足先の状態でやっぱり気になっていることを、こそこそ聞いててみる。
若いから率直に知ってることを答えるだろうと思って。結城先生が、その様子を気にして傍をうろうろ。
ベテランナースの石塚さんが久しぶりに横に来たから、わざと真田先生に対する考えを疑問系で言ってみる。
三好先生も、暫くして傍に来て様子を見ていた。最後、一応穏やかに挨拶しつつ帰ってきたけど。
三好先生が後ろから声かけしてくれているのが、聞こえた。
先週土曜にキツイこと言ってから、三好先生の様子が変わった気がする。
なにか考えてくれてるとこ、大学病院に確認中のとこ、だからかもしれないけど。
今後の治療や退院の話は、なにもなく。いったいどうなるのか。意味がわからない。
三好先生は、一生懸命やってくれてると思うけど。

十一月二十六日
今日は、三好先生とのやりとり、嬉しかった。
足をずっと両手で握ってくれて、笑顔でたくさん話をしてくれて、
最後カーテンのところまでついてきて見送ってくれた。
退院の話も、由木さんの都合でいいですよって。
前みたいに笑顔でたくさん話してくれて、嬉しかったな。
足を長いあいだしっかり握ってくれたのも。

シャワーが終わって髪をクリップでまとめて、十一時過ぎに外来へ。暫く待ち。
車椅子の男の子が診察終わってでてきて、木原さんに呼ばれる。
見覚えのある男の子だったから、木原さんとその子の話をしながら診察室へ。
その様子を三好先生も見ていた。
外来休診の手術日だったので、結城先生も春田先生も姿なし。
三好先生が、何度も何度も同じ話をしながら、時間をかけて診察してくれた。
本当に嬉しかったな。
そして、今日の三好先生の様子を見ていて、先生、やっぱり独身なのかなって思った。
十一月二十七日
十四時頃、外来に呼ばれる。
春田先生がすぐに現れて声をかけられ、視野に先生達らしき姿が目に入り、
視線をむけると、三好先生がこっちを見ていた。挨拶をすると、挨拶を返してくれる。
春田先生にどうですかとまた言われ、返事をしつつ、三好先生にリハビリの先生と話したことを伝える。
明日退院の話をすると、ちょっと驚いてた。
リハビリは明日で終了だけど、調子悪ければ、形成から申し込んでまた通院すればいいからと
言われたこと、もともと去年半年くらいリハビリしてもらってたしなどと、そんなことを話す。
包帯は三好先生が巻いてくれた。
次の通院の話もでて、三好先生は、一、ニ週間後って言いながら、十二月四日金曜か次の週の金曜かって感じでカレンダーを指差した。
私が早い方がいいという話をしたのもあり、じゃ、四日かな…か、月曜か火曜水曜だったら比較的すいてて待ち時間が少ないかなって。
じゃあと火曜に決定。お礼を言って帰ってくる。
今日の三好先生は、昨日のような雰囲気ではなかった。顔や目を見て、まぁ話したけど。
三好先生、どういう気持ちなんだろう。

十一月二十八日
退院日。
朝からのリハビリを終えると、そのまま外来へ直接行ってくださいと病棟より連絡があり、十時過ぎに診察へ。もう退院準備をしてしまい、洋服も着替えてる状態。
診察室正面の椅子があいていて、そのまま座ってかなり待つ。途中二度程診察室からでてきた三好先生の姿を見た。
けれど、患者さんが多くて、患者さんを呼ぶのに直行。
結局1時間くらい待ったから、途中病室に携帯をとりに行ったりして席を外す。
迎えに来る予定の母から、連絡が入りそうだったから。
外来に戻戻ると、受付前の診察室が見えない椅子へ。携帯を触っていると、呼ばれてしまった。
診察室に入っていくと、春田先生がいた。木原さんが準備しますので、ちょっと待ってくださいねって。
すぐに準備ができたので、そのまま腰掛け、靴を履いた状態の足を見せながら、春田先生に話しかけた。
「今日靴履いてきたんです。靴に入ってるのは、かかとだけ。皮膚移植したとこはもう全く入らない。見てもらってた方がいいと思って。」
少しキツイことを言ってるようにも思うが、やはりこの足の状態には納得できていなかったのだ。
そんな気持ちから、この発言がでてきたのだった。

診察台に上がり、足先をだして春田先生と話していたら、三好先生も近くで聞いてたようだった。
次の形成外科診察の時、リハビリの先生が退院十日後くらいだから、みてくれると言ってくれた話をし、
足は、今朝洗ってきたとか、春田先生が足先にテープを貼っているのを見て、
太ももの方はテープを1日おきにはればいいということを三好先生に聞いていたけど、
こっちも一日おきに張り替えたほうがいいですか?と尋ねたり。
三好先生は、その様子を見ていた。
「それから、病棟の看護師さんで心配性な方がいて、先生に色々きいてくれって言われたんですけどね…。」
「あれ、なんて言ってたの?ソックスがどーのって。」
三好先生が近づいてきて、口を開いた。
かくかくしかじか話すと、笑顔で受け答えしてくれる。
包帯を春田先生が巻いてるのをみて、ゆるいだろってまた横からつっこんでた。
春田先生がそのまま緩めに巻くのを、こらって感じでつっこんでたから、
都合悪くなったら、自分でまくからいいですよと笑って言う。

春田先生は、本当に包帯の巻き方がヘタだった。
最後にテープを止める時、包帯の端が足の裏の方になってしまいうまくできそうになかった為、
つい手がでてしまい、手伝って包帯を足の上向きにひっぱってあげた。
「すみませんね。いいですよ。」
三好先生がそう言って包帯の端を持つのを変わってくれた。
この時、三好先生のの手がさりげなく私の手に触れた。
「包帯をひとつ渡しておきましょうか?」
「ああ、助かります。こういう包帯なかなか売ってないですもんね。」
「そうそう。」
きれいな包帯だして、三好先生は私に手渡してくれた。
処置が終わり、靴を履いてお礼を言って帰ろうとしていると、スマホがポッケから落ちそうになってたのを、木原さんがフォローしてくれた。笑いながら、すみませんってまたお礼を言う。
「じゃ、ありがとうございました。また、よろしくお願いします。」
そう皆に挨拶をし、診察室のカーテンをしめてでてきた。

前日、リハビリの先生と話して土曜に退院を決めたと言ったら、驚いていた。
土日は先生達交代みたいだから、もしかしたら、三好先生いないかもと思っていたけど、三好先生と春田先生がいた。三好先生がいて、嬉しかった。

でも、足の状態深刻。
三好先生のことを入院中によく知って好意をもつようにになったことや、
三好先生が私のことを気にしてるふうなことを感じるようになったこともよかったけど。
どうしたもんだろう。
明日、ゆっくりして、よく考えたりして、月曜から活動開始。
土曜日に退院できてよかった。


十二月。退院後、初診察。九時少し前に形成外科に着く。
椅子に座って一息ついたと思ったら、名前を呼ばれる。立ち上がりかけると、
三好先生が診察室入口まで出てきてくれて、笑顔で呼び入れてくれた。
挨拶しながら入っていくと、早速、足を診ましょうかと言われてベッドに腰掛け靴を脱ぐ。
「どんな感じですか?」
「調子は悪くはないけど、退院時から特には変わりないです。」
今後の治療について色々話さなきゃと前の晩から言い方とかを考えていたら、
失礼なことなるべく言わないようにしなきゃなんてことも考えて、えらくテンション低めになっていた。
足を診てもらいながら、三好先生の様子を見つつ、治療のことを話しだす。
今日は、感情的にはならず、なんかテンション低めで声もいつものようにでず。
三好先生は、絵を書いて説明してくれたり、色々話してくれたり、
こっちの話を全部聞いてくれたり。
「大学病院の診察を、今日連絡して予約とるようにしましょう。いつ頃がいいですか?」
「早ければ早い程いいです。」
私の希望を聞いて、大学病院の診察についてすぐ対応してくれることになった。
包帯のテープうを貼るのを手伝うように手を出していると、この前のようにいいですよと言って、
三好先生もまた手を出してきちんと処置してくれた。
この時も、三好先生の指は、私の指に触れた。
朝の忙しい時間だというのに、結局三好先生は時間をかけてゆっくりと診てくれた。

結城先生もパソコン触りながら、殆どこっちの診察室にいて話を聞いているのがわかった。
診察後なるべく早く大学病院に連絡を入れるので、リハビリが終わって帰る前にまた形成外来の窓口にくるよう三好先生に言われた。
リハビリが思ったよりも早く終わり、とりあえず窓口に大学病院予約の確認にいくと、まだだったらしく、また後から来ますと伝え、病院の外に時間を潰しに行ったのだった。

すると、それから十五分くらいして、病院から携帯に電話がかかる。形成外来の事務の女の子だった。今どこですか?と聞かれたので、近くにいますから、今から行きましょうか?と言うと、三好先生に変わりますと。

予想外に三好先生と電話で話し出す。
大学病院に連絡がとれて、教授の予定はいつでもいいとの話だったと。由木さんの都合は?って。
早いほうがいいので、都合よい時いつでも予約してもらっていいですってハイハイって言ってるのに、
三好先生が、うーん、じゃ、ってナンダカンダ長話になり。
紹介状も作ってもらわなければならないので、三好先生を気遣い、また、改めてでもいいですと言うと、じゃ、また、連絡しますって。結構な長話だった。

三好先生の声を耳もとで、ハッキリたくさん聞いてしまった。
なんか声大きいね。とおりがいいのかな。少しハスキー。
少し笑いも交えながら、丁寧によい感じで話をした。
今日の診察や今後の治療のことを心配してた割に、すごくよい感じになったように思えた。

そして、またまた予想外に、割と早く電話がかかってきた。
今夜家族でとりあえずの退院祝いを兼ねて忘年会をする予定だった為、
そのことで、予定の店に連絡を入れているところに、電話が入り、慌ててでてしまった。
病院の代表受付のような人が形成外来からですって。

形成外来に繋がってすぐに、はい、由木ですと口を開く。
今度は事務の女の子ではなく、三好先生から直接の電話だった。
私の声を聞いた三好先生も、ご丁寧に名乗ってくれる。

今大丈夫ですか?

はい、大丈夫です。

大学病院の予約センターに連絡をしたら、十二月中の金曜日は、十一日と二十七日は予約とれないらしくて、十八日の十一時だったら、取れるらしいんですが、由木さんのご都合はどうですか?

はい、大丈夫です。じゃ、その時間でお願いします。

そうですか、じゃ、十八日十一時で予約センターに連絡しておきますね。

はい、お願いします。

予約は十一時ですけど、十時半には外来で受付をお願いします。

はい、わかりました。

紹介状は…明日以降で…十八日までにご都合のいい時にとりにきていただいたら、いいので。

はい、すぐにでも伺います。
形成外来の窓口に受け取りにいくような感じで、いいですか?

はい、そうですね、今日中に準備しておくので、十八日まででいつでも大丈夫ですから。

はい、わかりました。
すぐに対応して頂いて、有難うございました。

いえいえ。笑

よろしくおねがいします。

はい、こちらこそ…みたいな感じだったかな?
失礼致しますってお互言い合って終了。

三好先生からニ回も電話もらっちゃった。
優しい。
電話応対も、すごくきちんとしてる。
ハキハキたくさん話してくれるし。
行動力ある。

それから、三好先生、最初の頃より、確実に痩せてきた。
今日はマスクしてて、あんまりお顔たくさん見られなかったけど。
でも、にっこり笑ってくれたし。

行動力があり、
きちんとしていて、
朗らかで、
優しくて、
笑顔がよくでるし、
コミュ上手、
そして、センスもそこそこ。
雰囲気的なところも、品がいい。



やっぱりこの足をなんとかしてほしい、なにか治療法を考えて欲しい、そう三好先生にお願いしたのは、退院から十日後のことだった。三好先生は、その日のうちに大学病院へ連絡を入れ、教授の診察を受けられるよう予約をとり、二度も私に電話をくれた。
そして、その二週間後、私は地方にある三矢大学病院に来ていた。
三矢というのは、南の地方にある都心からは大分離れた地域であり、なかなか行く機会はないところ。

しかし、地方とは言え、南の要とも言える商業の街として栄えた歴史のある大きな街だった。
実は、祖母の出身地でもあり、小さな頃時々祖母に連れられて訪れた場所でもあった。なんとなく知っているものの、記憶の中にある三矢は、古い街。もう暫く訪れていなかったこの街。そして、三矢大学病院については、全く知らない場所。

三矢大学病院の建物は、比較的新しいようだった。動線がうまく考えられているようで、大学病院だというのに、割と動きやすい。とりあえず、入口にあるカフェで一息つき、時間が近くなると総合受付へ、それから形成外科受付へと行く。
いつも通院している都心の病院とは雰囲気が違い、待合もやたらと広く、二つのスペースに分けられていた。最初の待合にいると、順番が近くなると奥へ進むようにと電子掲示板に表示がでる。奥の待合へ行くと、スペースの割に人が少なく、なんとなくポツンと長い時間待たされているような感覚がしてきたり。
まぁ大学病院なので、待ち時間が長いだろうというのは、想定内。そう思っていた為、意外と早く名前を呼ばれたなと思うくらいの待ち時間で診察室へ呼び入れられた。

勝木教授。
三好先生から紹介された教授は、割と大柄な体格だけれど、クリっとした可愛い目と穏やかな話し方をする先生だった。三好先生から話はきいてますからと、診察を始めてくれる。
「治療は、結果だからね。結果第一で考えて、できるだけ皮膚が薄くなるようにしましょう。」
そう言いながら、色々と話をしてくれた。大学病院での治療を受けることで、治療期間が短くできるのではないかと思っていたのだが、実際はその逆だった。結果第一で考えるというのは、それだけしっかりとした内容の治療を行うということ。それに当たっては、数回の手術が必要になるとの説明を受ける。手術の度に皮膚の状態をみて、次の手術を検討していく為、何回というのは最初の段階では言えないけれどと。

しかし、話を聞いていると、四回は手術が必要になりそうだった。そして、第一回目の手術を決めてくれたのだが、なんと四月の後半だった。術後三~六ヶ月は手術ができないという話を知ってはいたが、最初はとりあえず簡単な手術。それなのに、十一月の手術から六ヶ月近く後。今は、十二月後半なので、後五ヶ月待たなければならない。それが四回も繰り返されるということは、一年半~二年はかかるだろう。なんとか治療期間を短くできるように相談してみたが、それは無理な話だった。短い期間では、治療はできないと。
丁寧に説明を受け、丁度お昼ごろに終了。今後の通院については、三矢大学病院が遠い為、暫くはまだ今までの病院の方でいいでしょうという話もあった。
治療期間を短くできるのではと少し期待していただけに、なんとなく沈んだ気持ちになって大学病院を後にした。

赤いリボンのチョコレート

夢をみた。

昔一緒に仕事をしていた大嫌いな会社の先輩と、机に座って口論をしている。
近くでその様子を見ていた三好先生が、パッと私のところに現れて、
ササッと私をなだめ、何かを手渡し、またもとのところへ戻って私の様子を見ていた。
手渡されたものは、赤いリボンが結ばれた透明の箱。中には、金色の包のチョコがいくつも入っている。
他にも一緒に菓子をいくつかくれた。

夢の意味を調べてみると、とても嬉しい内容の夢だった。正夢だといい。

今年もあっという間に終わろうとしていて、今日は十二月二十五日のクリスマス。
十一月末に退院し、その十日後に退院後の初診察、その二週間後に大学病院の診察。
それから、一間後の金曜日だった。

大学病院での治療については、一度診てもらいましょうという言い方を三好先生はしていた。
大学病院の勝木教授は、四月に手術、その少し前に手術前検査で予約をとりましょうと。
通院については今までどおり元の病院で、二ヶ月に一回くらい診てもらっておくといいかなと。

今後の治療についてとりあえずの内容は把握したが、結局これからどうなっていくのか細かいところは、今の段階ではなんとも考えようがないような気がした。
大学病院での診察を受けたことで、今回の手術後のドタバタは一旦終了。二ヶ月後くらいに三好先生のところへ行けばいいのだろうか、暫くは様子見でいいのだろうかということを少し考えた。

大学病院で教授に手術をしてもらうとして数回の手術を半年おきにするならば、治療期間は長期となる。
しかし、期間をあけての手術をくりかえし、最終的には二年以上経過して治療が終了。その時点で、後遺障害の話をすることになれば、やはり事情をよく把握している先生に診てもらわなければいけないような気がする。大学病院は特殊な治療をするところであり、その特殊な治療の処置にしか対応しない、できないのではないかと思う。今まで診てもらっていた病院も難しい治療を行う大きな総合病院だけれど、今後足の治療がどうなっていくかよくわからないし、一時的にしかいけない大学病院だけでなく、長く通える病院で診てもらうことも必要だろうと思った。そんなことを考え、早いうちに三好先生に、今後のこと等相談というか尋ねに行こうと病院に診察の予約を入れたのだった。

十時頃に行っても一番混雑している時間帯だろうと午前中の受付が終わる頃、最後の方に病院へ行った。待合には、患者がいっぱい。石塚さんが窓口にいたので、受付をしてもらう。
朝早い時間に予約の電話を入れていたのだが、対応がなんともまずい感じの女性だった。誰か事務の人間だったのだろう。電話受付の感じが悪かっただけに、石塚さんとやりとりするとホッとしたり。
なんだか考え過ぎで緊張したのか、なんとなく貧血気味なのか、力が入らず、元気がでない。
三好先生とちゃんと話せるかちょっと心配したり。

暫く待った後、春田先生が待合に呼びにでてきてくれた。
名前を呼ばれたような気がしたけど、よく聞こえなくてわからなかった。目があってたから自分のことを指差して「私?」って顔をする。「そうっ。」て。

診察室に入って行くと、処置台にシートを敷いてくれていた。三好先生に相談というのが今回受診した理由だったので、こないだ大学病院で診てもらったばかりだから、今日は足は大丈夫かもって笑いながら言う。
「一応足を診ましょう。」
三好先生もすぐに現れて、笑顔で声をかけてくれた。
処置台に上がって座ったところで、三好先生が色々と話を始めてくれる。
この時三好先生は椅子に座ってたのか、私と同じ目線で笑顔でたくさん話してくれた。
顔が近かったのもあり、なんだかジッと見つめ返しにくくて、さりげなく目をそらすのに足の包帯を自分で外そうとしてみたり。

「大学病院の診察の後、勝木教授と話しました。」
そう言ってくれた三好先生にこちらも手術が決まったことや手術の回数が多くて時間がかかるという話、
通院こっちでもいいって言われたから来てしまってすみません等と話す。
「いえいえ、いいんですよ。」
笑いながら、三好先生が言う。三好先生は、とても優しい。
脂肪吸引の手術と減量の手術どっちもしましょう、結果第一で考えてできるだけ薄くしましょうと言われたことを話すと、脂肪吸引や減量した時の皮膚の状況について詳しく話してくれた。
手術をしたら三矢の方に通院になるんでしょうけどと言うと、こっちでできることはこっちでいいですよと笑顔で言ってくれる。
足の状態を診てもらってテープを貼ってもらい、太ももの傷跡から糸がでてきた話をして、皮膚にとけるいとだから大丈夫って説明してくれたり。この糸のこと、春田先生にハサミで切ってって指示してた。

後遺障害の話を、整形外科で担当の先生が異動になった去年の三月に話していてと、説明する。
「誰先生?整形外科も皆三矢大の先生だから、三矢大にいかれたのかなって。」
田中先生っていう三十くらいの先生で田原市に異動になってたと伝える。
「次の先生に引き継いでいかれるように言われてたけど、整形の先生達一度に三人もごそっと異動されて。
たぶん近藤先生がご存じなんじゃないかと思いますけど。」
「ああ、近藤先生が元からいらっしゃる先生ですからね。」
三好先生は、今日はまたとても笑顔が多く、色々と話をしてくれる。
「三矢大、結構待ったでしょう。」
「いや、そうでもないかな。」
「へー結構待たないといけないことが多いけど。なぁ。」
そう言って春田先生に同意を求めてたり。
「春田も九月まで大学病院にいたんですよ。」
「そうですか。大学病院JRと私鉄にはさまれてる場所にあるから、割と行きやすいですね。」
「そうでしょう。」
病院が広いという話から、この病院のことをここが一番狭いかなって。
でも、狭いと動きやすくていいですね、診察呼ばれたら、すぐこれるしって皆で笑ったり。

通院については、どうしたらいいだろうって思ってて、特にってことがなくて自分で足にサポーターして気をつけるくらいでよければ、
保湿のお薬をまとめていただいておこうかなって思いますけどと言ってみる。
手術した患者さんは月に一回くらいのペースで傷の状態をみせてもらってますと言ってくれて、次は一月かなって。
診察日いつがいいか聞かれたので、一ヶ月後の火曜日にしてもらう。

診察が終わり、お礼に持ってきていたチョコを渡さなきゃとさっと靴を履き、荷物をとっていると、
三好先生に希望時間きかれたり、じゃ、次は二十六日って言われたり。
そして、荷物に隠してたチョコを取り出す。
「先生、あの、これお礼に。」
そう言うと、三好先生が少し驚いた顔をしてわぁすみませんと。
午前中の診察がほぼ終わり、手があいてきたらしく、石塚さんも傍にきていたので、
笑顔をむけて皆にまた声をかける。
「皆さんで召し上がって下さい。色々ありがとうございました。お世話おかけしました。」
たまたま、春田先生石塚さんも揃っていたところで、三好先生にもすごく笑顔でお礼を言われてしまう。
ありがとうございましたと診察室をでると、患者さんはもう殆どいなかった。
すぐ三好先生が診察室からでてきて、車椅子のおばあちゃんとやりとり。
おばあちゃんが三好先生の名前を言ったらしいが、やっぱり春田先生が担当だったらしく、春田先生の下の名前をまさきーって呼びながら、診察室に戻っていった。
おばあちゃんの勘違いだったらしく色々言っていたので、つい一緒に笑ってしまう。

石塚さんがカルテを持ってきてくれて、またチョコのお礼を言われたので、いえいえとんでもないですって笑顔で帰ってきた。
ちょっと心配して受診したわりに、いい感じになったので良かった。三好先生の対応に、とても安心した。

それから、気になったのは…
三好先生が三矢大三矢大って言ってたこと。
なんか、三矢大の話や先生達の話が詳しくでるのを、嬉しそうに話してた印象。
自分のこと、環境のことを知ってもらいたいっていう感じの印象を受けたり。

それにしても、三好先生がやっぱりとっても優しくて安心した。
すごく笑顔で距離が近くてたくさん話してくれて。先生、八重歯の感じがとってもかわいい。
通院も月一で話してくれたし。
最初の担当だった甲斐先生は、手術後は、二ヶ月に一度のペースの診察になるように前に言っていた。大学病院の勝木先生も、二ヶ月に一度くらいのペースでと話してたのに。
お礼に渡したチョコは、金色の箱に入っていて赤いリボンが結んであった。
夢で三好先生にもらったチョコのような包装。わざとそんな包装にしてもらったのだった。

そして、今日は、三好先生にとても見つめられた気がする。嬉しかった。


クリスマスが終わると、すぐに新年がやってきた。
新年はすぐにやってきたというのに、次の診察日は待ち遠しくなるくらいなかなかやってこないような気がした。何故か、本当に。今までで一番。
そして、一ヶ月ぶりの診察日がやっとやってきた。寒波の影響でこの二日ほどは大雪だったのだが、この日はなんとか天気が持ち直した。と言っても、天気は悪く、雪ではないが雨だった。とても冷えるのでハイネックを着てみたり。天気を心配して早めに家をでたのもあり、予約時間より早めに病院へ到着。
頼んでいた必要書類を総合受付にとりにいったりしつつ時間を潰し、予約の五分前に形成外科へ。
朝早いというのに、患者が多く、待合は席がほとんど空いていなかった。
受付側の座りにくい席が空いていたので、とりあえずそこへ座った。診察室がよく見えず、形成外科の前というより横の方といった感じの席。席に落ち着いて、鞄をごそごそと触っていると、結城先生が不意に前を歩いていくのを見かけた。
暫くして、いい席が空き、形成外科正面の壁際へ移動。この席も端っこなのだが、形成の診察室の様子がよく見え、順番を待つ際は何かと都合がいい。よかったと思っていると、今度は三好先生が診察室に入っていく後ろ姿を見かけた。
髪を切ったようで、えりあしがスッキリしていた。かわいい。
それから、何故か去年後半と雰囲気違うような。去年後半は何かカッコ良さげな雰囲気だったけど。
お正月太りかな。
結城先生と三好先生の後ろ姿をたまたま続けざまに見て思ったこと…
結城先生、なんかぬぼ~ってしてきた。前は、もっとパリっと若々しい感じだったと思う。
話し方も、何か言いたのか言いたくないのか。いい先生というのは、よくわかってるんだけど、なんかわかんない。

結局、待ち時間十分くらい。春田先生に診察室に呼ばれる。
結城先生が診察ベッド横のパソコンのところにずっと座っていて、診察の間中ずっとそこから動かなかった。
何も言わないけど、聞いてないようで、絶対聞いてるんだろうけど。

結城先生は、なんだか不思議な人。
性格は…大体いつも冷静で、年の割に落ち着き過ぎ。賢くて余計な言動は、基本的にしない。
でも、よくよく話していて気づいたことは、どうもとてもシャイな人らしいということ。
十一月に入院した頃までは、土井先生の異動後一番長く私に接してくれている先生でもあり、
結城先生が一番親近感が持てるかなという気がしていた。三好先生とは、それまでたまに話すくらいだったし。
しかし、手術後の状況に困惑してきたあたりから、三好先生とのやりとりが蜜になり、その分、だんだんと結城先生から遠ざかっていた。退院が割と突然で土曜だったのもあり、退院の日は、結城先生を見かけなかった。土曜は当番制で、入れ替わりの勤務らしい。退院する際はまだ困惑してるような状況で、そんな中結城先生とまともにやりとりしないまま突然いなくなっていったような感じだった思う。
入院中に、三好先生に一度だけとてもきつくものを言ってしまった時があった。
その時も土曜日で、その時の当番は、三好先生の他は結城先生だけだった。
いつも穏やかだった私の気の強そうななんとも情緒が落ち着かないような珍しい様子を見てから、結城先生は私に対する見方が少し変わったのかもしれない。
退院後暫くしてからふと気がついたのだが、結城先生とは、この頃からまともなやりとりをしていないような気がする。
ただ、退院の日にたまたま居合わせなかった結城先生は、なんとなく私がどうなったのかを気にはしていたようで、退院後初の診察の際も今日と同じように診察ベッド横のパソコンのところにずっと座って三好先生と私のやりとりを聞いていた。この時だけならまだしも、今日も同じように傍で様子を見ているのがなんとも気になったのだが。

まぁこの日は三好先生と話したかったけのだけど。仕方ないなと春田先生と色々と話す。
状況が落ち着かずに困惑していたときは、新人の春田先生の様子に何とも言えずイライラしたりしていたのだが、落ち着いてみると人懐こくて話しやすい可愛らしい先生だと思うようになってきた。
本当に、気を使わずに話しができ、親しみの持てる先生でやりとりしやすかった。
三好先生は、隣で行っていた診察の合間に、二度診にきてくれた。
春田先生は怪我の部分を診てくれていたのだが、三好先生は皮膚をとった太ももが大丈夫かどうか聞いてくれ、こっちは問題ないですと一応ワイドパンツをめくってみせると、うん、大丈夫ですねと言って太ももを手で触って確認してくれた。
あとは、移植したとこ少し小さくなったみたいって話したことを、春田先生が三好先生に報告してた。
今日は、三好先生についてはこれだけ。

ま、でも、私にできることは、さりげなくよい印象を積み重ねていくことくらい。
それが、間接的にでも、三好先生に伝わるように。

春田先生とは、本当に話しやすいので、小さな声で穏やかにお喋り。
足が少し小さくなったこと、
一緒に傷口のテープ貼り替え、
手術から三ヶ月たったら、テープ貼らなくていいか、
靴が前より入るようになった、
足も前より曲がるようになってきた、
リハは自分でアキレス腱のばすようなことしてる、
痛みも前ほど感じないみたい、
手術は、脂肪吸引ってもっとサクッとできるかと思ったけど、
今度の手術が半年後ってことは、四回以上なら二年くらいやっぱかかるのかなとか、
保湿ローションのお薬を二本だしてほしいとか、
次の予約とか。

可もなく不可もなくな日。どちらかと言えば、よい方かもだけど。
今年の占いがすごくよくて期待してたのに。
これからどうなるんだろ。ハッピーバレンタインになるかなぁ。

今日は、久々登場の結城先生が意味深だった。
傍で聞いてるくせに無言だし。一度春田先生と話しながら、結城先生とも目が合い、二人に言うように話しかけた時は、表情で少し対応したような感じでハッキリと言葉がでなかったし。
入院時頃のやりとりから、余計なことは言わないってことにしたのかしら。
知れば知るほど、結城先生ってよくわからなくなってきた。
浅い付き合いの時の方が、笑顔が多くてよい印象だったように思えたり。

私は、入院中からの三好先生の行動に、驚いていた。三好先生の言動に、少しずつだが、確実に引き寄せられていた。
それまでは、好感を抱きつつも、特別な感情をもつことはなく、いつも冷静に三好先生のことを見ていたのだが。
それだけ、三好先生が私に笑顔を向け、密に対応をしてくれたのだと思う。

手術直前、遅くまでよくよく手術の内容を確認してくれたこと。
日曜日、ふいに一人でベッドまで足をみにきてくれたこと。
足をしっかりと両手で握って、私を安心させるようにきちんと話をしてくれたこと。
感情的になって怒ってものを言ってしまった時、ずっと笑顔で優しく私を見つめ、対応してくれたこと。
三好先生のお腹に足が触れてしまってドキっとしたことがあったが、三好先生は暫くずっとそのままで処置を続けていたこと。
大学病院の連絡の電話、二回とも長話だったり。
大学病院や医療関係の話を、嬉しそうに私に話してくれたり。
入院中の処置は、殆どと言っていいほど、全部してくれてたし、土曜や退院日もしっかり処置にあたってくれて、休みをとることはなかった。
すごく距離が近かったり、手が何回も触れたり。
足を丁寧に洗ってくれたり、リハビリの指導をしてくれたり。
視線を感じることが多く、診察終わりは、いつも声かけをしてくれていた。
大学病院への対応依頼は、とても早かった。電話で診察結果も確認してくれていた。
その後、お礼と今後の確認に行った時の先生の言動。

私は、三好先生の優しさをとても感じるようになっていた。なんとも思っていなかった人を、みるみる好きになっていった。
今後は、大学病院で手術をするようになるし、年が明けてから、私は三好先生との関係がどんどん親密になっていくような気がしていた。
一月の診察は、なんとも言い様がない中途半端な感じだったが、実は、翌日、携帯に病院から電話が入っていた。すぐに気づかず、後から着信に気づいたのだが。

しかし、その後、病院から電話がかかってくることはなく、なんだったのだろう、誰だったのだろうと、気になっていた。とても。
代表電話の番号で、ハッキリとどこからかかってきたのかが、よくわからなかったのだ。

今まで、病院から電話があったのは、退院直後、病棟からのお知らせがあった時。
それと、三好先生から大学病院の診察の件で連絡があった時。
ということは、たぶん、三好先生なんじゃないだろうかと思えるのだが。
結局、それから、何の連絡もなく、二月になり、期待していたバレンタインも三好先生に会えるはずもなく、二月の終わり、次の診察日を迎えた。

気温が低く、とても寒い日が続いていた。この日も、天気はよいのだが、空気がとても冷たく、外にいると体が冷えてしまって仕方なかった。
九時の予約時間に丁度よく、少し余裕をもって病院に到着。あんまり寒かったので、一階のコンビニで、コーヒーを飲んで温まる。
その後、程よい時間になり、予約の数分ほど前に形成外科へ向かった。
すると、形成の近くまで来た時、前方からやってきた事務の女の子に声をかけられた。
「あ、由木さん!」
挨拶をすると、その女の子は、元きた廊下を引き返すように私と一緒に歩きだした。
なんだかまるで、私を呼びにきて診察室に連れていくような。そして、そのまま診察室へ入っていった。
形成外科の待合でコートを脱ごうとイスに鞄を置こうとした時点で、診察室からすぐにでてきた女の子にどうぞと呼び入れられる。

こんなこと初めてというくらい、来た途端に診察室へ。確かに患者さん殆どいなかったけど。でも、二、三人ちらほらいたのにな。
「おはようございます。」
診察室に入ると三好先生がいたので、挨拶をする。おはようございますと返事がかえってくる。コートを脱いでカゴにいれ、診察ベッドへ。

もう、ベッドの上には診察用のシートが敷いてあり、診察準備ばっちりという感じ。三好先生が、早速診てくれる。
来たばかりで、足がとても冷たかったから、私の足を触る三好先生の手がとても温かかった。

足が大分小さくなってきて色も落ち着いてきたとか曲がるようになったとか、パソコンで前の画像を見せてくれて、比較して話してくれたり。
大学病院の勝木教授とやりとりして、今までの画像やデータを渡したと。
手術は四月十九日、来月は検査で大学病院にいくことを話す。
太ももも診てくれて、変わりないかきかれ、一度だけ痛かったことがあったと話す。
傷跡に貼るテープは、術後三ヶ月過ぎたら、もう貼らなくて大丈夫とか。足の写真をとったり。

今日の三好先生、ゆっくり落ちついて一人で診てくれたけど…。
今後の通院の話になり、大学病院で手術だけど、こっちにきてもいいし、一応術後は月一で診てはいるから、来月もこっちにきてもどっちでもよいと話をしてくれた。さりげなく、こちらの都合でいいよという風に丁寧に。

今日は、三好先生とのやりとりが、あまり蜜と思うほどもなく、なんだか、、という感じがした。
とりあえず、来月は大学病院に行くから、何かあればこちらにお電話して伺うようにしていいですか?と言うと、いいですよって。
あと、保湿用のローションの話とか、術後半年で様子が落ちつく話とか。
そして、次の予約はとらず、診察終了。

事務の女の子にこの前の電話のこと、ちらっと聞いたら、一応確認してくれた。
結局なんなのかわからなかった。

今日は、三好先生のことを、なんだかよく見てしまった。
手は、白くてきれい。
まつげ、長くてビッシリ。
やっぱり、目がかわいい。
髪は、最近サッパリ短くしてる。茶色。
今まであんまり三好先生のこと、よく見ることなかったのに、今日はよく見れた。
なんでだろ。いつもより、三好先生の私に対する視線が少なかったのかも。
あんまり、じっと見つめられて目をそらしてしまうことが、どちらかといえば、多かったから。

そして、今日も可もなく不可もなくという感じで終了。なんだか、どうなんだろって感じ。まだ、よくわかんないけど。

寒かったからなのかなんなのか、待ち時間もなくすぐに診察をしてもらったので、早い時間に病院をでることになった。いつも病院の後は、カフェで暫くコーヒーを飲み、お昼近くなってランチをしに、知人のレストランへ行ったり、街中で少し買い物等をして帰宅することが殆どだった。

しかし、この日は、なんだか元気がでなかった。
久しぶりに三好先生に会えたというのに。会える日をとても楽しみにしていたというのに。
親切に対応してもらったけれど、いつものような特別な優しさをあまり感じることができなかった。
一人でゆっくり対応してもらったし、患者が少なかったのもあり、事務の女の子に私が来てるか確認してくれたりして待ってくれてたのだろうとも思うのだけど。

そして、今後の治療は、こっちにきたい時はいつでも電話で予約をいれてもらえばいいからとも言ってもらった。
けれど、実質、術後もう数ヶ月が経ち、大学病院へいく三月四月くらいになれば、今の病院で診てもらう必要ははっきりいってないのだろうと思う。
今まで当たり前に定期的に通っていたけれど、もう三好先生のところへ行く必要はないと言ってもいいのだ。
大学病院では、数ヶ月おきに今後四回以上の手術を繰り返す。脂肪吸引の手術は大学病院でしかできないが、減量の手術は今の病院でもできるから、こっちでできることはこっちでいいですよと三好先生は以前話をしてくれた。
しかし、本当のところは、どうなるんだろうか。行ったり来たりでなく、大学病院での治療に切り替わるようになるのかもしれない。後遺障害の診察も最終的な話。

何が言いたいのかと言うと、三好先生に今度いつ会えるのかわからないということ。
そして、もしかしたら、今日が三好先生の最後の診察になったのかもしれないということもないことではない。
それなのに、あっさりと診察が終了してしまったことが、なんとも言えない気持ちだった。
この前のよくわからなかった電話が、三好先生からのものだったとすれば…。
三好先生の今までの言動を考えても、何か三好先生が動いてくれるような気がしていたのだが。
今日の三好先生を見る限り、先は全く読めなかった。
そして、私からはなんとも動ける状態になく、何もできなかった。

クリスマスの自分からのプレゼントのことなどもあったし、年が明けてからの三好先生の行動にとても期待をしていたのに、結局なんの進展もないまま、今この状態。
今日は、とても気落ちしてしまい、何もする気になれなかった。
せっかく街にでていて時間もゆっくりあるというのに、珍しく、まともに店をみてまわることもなく、ただコーヒーを飲んで三好先生のことを暫く考え、昼までには帰宅したのだった。

三好先生は、どういうつもりなんだろう。
この数ヶ月で、三好先生の愛情を感じる行動の数々にすっかり引き込まれてしまったのに、私は、また、何かを間違えてしまったのだろうか。

未来 Ⅲ 最高の治療は

未来 Ⅲ 最高の治療は

  • 小説
  • 中編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 移り変わり
  2. 月日は過ぎていく
  3. パティシエとケーキ二つ
  4. 思いもよらぬこと
  5. 赤いリボンのチョコレート