サヨナラ、私の初恋。
こんにちは、海月です。
皆さんは、先生に想いを寄せていたこと、ありますか?
…私はないですけどね(笑)
大好きだった先生はいます。
あれですよ。“先生として”です(笑)
「これが恋になったら大変だろ~な~…」と思い書き始めたのが、この作品です。
どこまでリアルに書けるかわかりませんが、是非ご覧ください。
途中で一気に更新遅くなる気がします…。笑
ご了承ください。
春、恋する季節
風が、私の頬をかすめる。
満開の桜が、青い空の下で綺麗に輝く。
そこで私は一人、涙を流していた。
心を寄せる、あの人のことを想って。
「…涼くん…」
その呟きは、風の音で消えてしまうほど小さくて。
遠くから私を見つめるあの人に、届くはずがなかった。
「…恋波」
その呟きも、私に届くはずがなかった。
春。
あなたに再び恋する予感。
「だから、ATPは…」
先生の低い声と、チョークの高い音が教室に響き渡る。
寝てる人、携帯をいじってる人、ノートの端に落書きをしてる人。
そんな人ばっかりで、先生達の間では“問題児クラス”と有名になっていた。
かく言う私もそんな問題児の一人で、いつもなら演劇部の台本を読んだりしているところだが…
この授業だけは、そんなことはしなかった。
毎週3回、生物基礎の授業。
「はい、じゃあこの問題解いて」
この声を聞き、黒板に向かう背中を眺めるために。
「先生、ここの問題なんですけど…」
真面目に勉強する人が少ない中で、ここぞとばかりに質問する。
「おいおい、ここはこの前も説明しただろ?」
「バカだからわかんないんですー」
「ったく、しょうがないな…」
文句を言いながらも、丁寧に説明してくれる。
…昔っから変わらない。
そして、授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
「じゃあ、今日の授業はここまで」
そう言って、早々に教室から去る先生。
私は、彼の背中を追いかけた。
「りょーうくんっ」
「江田、学校でその呼び方は禁止だろ」
「いーじゃん、幼なじみなんだからさ~。涼くんも“恋波”って呼んでよ」
「できません。ったく…」
ここは、生物の先生が集まる生物準備室。
集まるとは言っても、使っているのは涼くんだけだ。
「江田、授業わかりやすかったか?」
「うん、わかりやすいよ?」
「じゃあ何で寝る人が多いのかな…」
「うちのクラスそんなんばっかだし。気にすることないんじゃない?」
「いや、でも…」
うーん、と考え込んでしまう。
何かを考えてる時に額を触るクセ。
そのまんまだ。
「うちのクラス、実験とか大好きだよ」
「実験か~…年に3回の予定なんだけど…」
「じゃあ皆が涼くんの話をちゃんと聞くのは年に3回だね」
「うっ…」
凹んだ。
『可愛いなぁ…』
つい、そんなことを思ってしまう。
『可愛い、なんて言ったら怒るんだけどね』
11歳も離れている年下から可愛いなんて言われても、そりゃ嬉しくないだろう。
「結構工夫してるつもりなんだけどな~…」
「…だろうね」
涼くんが手を抜くわけがない。
どんな人にも平等に接する、優しくて真面目な人。
…そんな涼くんが、誰よりも好きだ。
「ほら、もうそろそろ最後の授業始まるぞ」
「はーい」
口を尖らせて、席を立つ。
そんな私を見て涼くんはクスッと笑い、
「恋波だったらまたいつでも来ていいから」
と、私の頭に手を置いて言う。
『…天然タラシ』
言葉1つ、仕草1つ、表情1つ1つに胸が高鳴る。
「…ありがとっ」
そう言い残して、真っ赤に染まった顔を見られないように部屋を出た。
「こんにちは~!」
「お、恋波早いじゃん」
「授業終わってマッハで来たんで☆」
「ほんと部活大好きだな」
「大好きですよ~!」
「でも、最近めっちゃ生物の話題出すよね」
「え」
「先生のこと追いかけてるし」
「学校で有名だよ?“生物マニア”って」
「え!?」
『生物マニアというより、涼くんマニアなんだけどな…』
何を思っている自分。
「違いますよ先輩~、恋波は新島先生マニアなんです~」
「さささ沙希!?ちょっ、何言って…!!」
「何って…恋波が新島先生のファンだって話」
「あ、あぁ…」
『びっくりした…』
「そうなの?恋波」
「まぁ…」
「新島先生格好良いですよね!」
「そうだね~」
「うちの学年でも人気だよ」
「二年生の間でもですか?生物の授業無いのに…」
「ライバルはいっぱいってことだね☆」
「ライバルって…」
「てか、まだ4人しか来てないんですか?」
「そうだね~。あとの5人は…何だっけ」
「アイツ…丹田は歴史研究の方ですね」
「葵ちゃんは?」
「葵は保健委員の集まりです」
「んで、美玖は図書委員で奈津は漫画研究で大樹は…早苗わかる?」
「わからん」
「え?早苗も知らないの?そっかぁ~…」
「ちょっと凪、何回も言ってるけど、いくら私が大樹の彼女だからって大樹の行動を全て把握してるわけじゃないからね!?」
「ごめんごめん」
「全く…」
『…いーなぁ』
早苗先輩の表情はスゴくいきいきしてて、羨ましい。
「んじゃ、4人だけど発声やっちゃおっか~」
「はーい!」
「んで?発声も終わったわけなんだけど…」
「来ませんね…5人」
「この4人でどこのシーンを練習しろって!?」
「見事に出るシーンばらばらですよね…」
「代役!?代役立てろってか!?代役だらけで意味ないだろーーー!!」
「早苗先輩落ち着いて下さい~!!」
「落ち着いてられるかっ!何で凪はそんな落ち着いてるわけ!?」
「え?いや、何しよーかなと…」
「凪~、部長権限であいつら引っ張り出して来てよ~」
「無理だよ!そこまで権限ないし!」
「でも、現実問題本当にどうしましょうね」
「何かやりませーん?劇全然出来てないわけじゃないし。シアターゲーム的なの!」
「沙希…それはいくらなんでも」
「そうだね…やるか」
「え」
「私シアターゲーム大好き~!!」
「私もです~!」
『…まぁいっか』
「すみません遅れました…」
「恋波!もっと背筋伸ばして!!」
「もっ…もう無理ですぅ…っ!!」
「ほら、体のラインがなってない!!お題は『美』でしょ!?」
「うぅっ…!」
「いい感じ!!いい感じだよ恋波!!」
「はぁっ!!」
「写真撮るね~!」
「…これは何事?」
「大樹遅い!!」
「ごめんって。先生に捕まってたんだよ~」
「誰先生ですか?」
「新島先生」
「えっ!!」
「…さっすが恋波、食い付きいいね~」
「あ」
「何?恋波は新島先生好きなのか?」
「違いますっ!」
『違くないけど…』
「ところで、…何してたの?」
「シアターゲーム」
「出されたお題を体で表現するやつです!!」
「恋波のお題は?」
「…『美』でした」
「全然わからなかったけど」
「だって難しいですもん!!」
「そりゃそーだな。シーンつくってれば良かったのに…」
「どっかの誰かさんが来ないからね~」
「俺だけじゃないだろ!?」
「まぁそうだけどね~」
「ごめんて~!」
「どした?大樹」
「あっ、奈津先輩!こんにちは~」
「奈津!いいところに~!!」
「あ、奈津~!これは大樹が悪いんだからね!」
「もうあんたら夫婦の喧嘩は見飽きたよ」
「夫婦じゃないっ!!」
「ハモったぁ~♪」
「あ、美玖先輩!こんにちは~!!」
「こんにちは~♪相変わらず仲良しだねぇ♪」
「別に仲良くないっ!」
「あはは、仲良し~♪んで…なんで恋波は死んでるの?」
「あれ!?ほんとだ恋波大丈夫!?」
「凪先輩、気付くの遅いです…」
「ごめん恋波~!テンション上がっちゃって…」
「は、ははは…。大丈夫ですよ…」
「本当に大丈夫か?江田」
『この声は…!!』
「涼くっ…新島…先生っ!?」
「よっ」
「どーしたのっ!?何でせんせーがここにいるのー!?」
「いや、江田さん?敬語は?」
「すごーい新島先生!恋波のテンション一気に上がった」
「え?」
「ちょ、沙希!」
「恋波、先生のファンで学校中で有名なんですよ~」
「さ、早苗先輩っ!!」
『そんなこと言ったら…!!』
「いーじゃん減るもんじゃないし~」
「そういう問題じゃないんですっ!!」
「…江田」
「うっ…」
『怒られる…?』
涼くんが教師になって、一回だけ私の家に来た。
その時に釘を刺されていたのだ。
“幼なじみの新島涼はもう存在しない”
“学校では必要以上に関わるな”
“面倒くさいことになるから”
って。
「ごめんなさい、新島先生…」
「…ったく」
『…嫌われた…?』
「他の先生は許してくれないからな?」
「…っ」
やっぱり、涼くんは涼くんのままだ。
素直に謝ると、苦笑いして許してくれる。
「はーい、雰囲気作らないでー?」
「ふぁっ…!凪先輩ごめんなさい!!」
「いーよー。んで、新島先生は何の用ですか?」
「ん?あー…いや、特に用事は無い。どんなことやってるのかな~って気になってて、見学に来たんだよ」
「あ、そーなんですか~?じゃあさ、このままシーン作りも見学しててもらおーよ♪」
『え』
「それいーじゃ~ん!!ね、凪!」
「ちょ、ちょっと待ってください先輩、それはっ…!!」
「恋波」
「…はい」
「部長命令。☆」
「…はい…」
『だって、私のシーンって…!!』
「お、続々来た」
「お疲れ様ッス~」
「丹田遅い」
「おっつかっれさっまで~す☆」
「奈津遅い」
「ごっ…ごめんなさいごめんなさい遅れました本当にごめんなさい生きていてごめんなさい~!!」
「うん葵、落ち着こうか」
「はーい、じゃあ早速シーン練習していくからね~」
「はい!」
『うー…で、でも、台本書いたのが私ってバレなければ…!』
「先生~、台本、江田さんが書いたんですよ~」
「ちょっと沙希!?」
「そうなのか。楽しみだな」
「りょっ…涼くん…!!何にも関係ないから…!!」
「は?何が?」
『言えるわけないっ!!』
「はーい恋波~?」
「はーい…」
「じゃあいきます、3、2、1、はい!」
夏、燃え盛る季節
「『どうして…?先生を想うことの何がいけないの?立場が違うだけで、何でこんなに色々と言われなければならないの!?人を好きになるのに、年齢も立場も関係無いでしょ!?どうして…っ?ただ…好きなだけなのに。ただ、愛してるだけなのに…っ!!』」
「恋波、何か堅いよ?気合い入れて!」
「ごめんなさい!」
『だって無理だよー!!どうして涼くんのことを想いながら書いた台本を、涼くんの前で演じなきゃいけないの!?』
チラッと涼くんを見る。
『ほらほらほらー!すっごい変な表情してるし!!』
「あっ、もう下校時間だ。じゃあ皆、舞台ばらして!撤収!!」
「はーい!」
「江田」
ちょっと、と涼くんに呼ばれる。
「…何…?」
「この台本、江田が書いたんだよな?」
「…うん」
「大会用台本なんだよな?」
「……うん」
「お前、主役なんだよな?」
「………うん…」
「…そっか」
涼くんはおもむろに立ち上がる。
『やっぱり、何か思われちゃったかなぁ…』
少し肩をすくめると、頭の上に涼くんの暖かい手の温もりを感じ、
「頑張れよ」
という言葉が聞こえた。
「──うん!」
『良かった…とりあえずはバレてないのかな?』
言うまでもなく、この作品は生徒と先生の禁断の愛を描いた物語だ。
勿論イメージは、私と涼くん。
“涼くんに見せるわけではないし、ネタ思いつかんし、劇の中ぐらい付き合ったっていいよね!”
という思いから誕生した。
『まさか、見せる日が来ようとは…っ!!』
そんなことがあるだろうか。いや、ない。
「恋波~、百面相面白いけど、時間だからホールから出て~」
「ごっ、ごめんなさい!」
サヨナラ、私の初恋。