時間がもどってゆく
時間は停止した
空いっぱいの黒い雲におおわれて
外の音を聴くことをせず
胸の鼓動だけが大きく波打つ
自分はなんだったのか
密林の霧の中にまよいこんで
方向がわからない
昼間なのはたしかだが
陽光は霧の細かい水滴で乱反射をくりかえし
回りいちめん同じ明るさで同じ灰色だ
これはもしかしたら
生まれてきたときのようなかんじなのか
おもいだせないけれど
今そのときの時間を逆行しているような気がする
周囲のものは高速で後ろに飛んでゆき
自分はそれを突っ切っている先頭にいる
時間はいつもより細分され
ゆっくり進んでいるときのようにあたりの微細なようすが手に取るように認識できる
過去のできごとが次々とうかんできて
新しい場面が順に古いものと置き換わってゆく
難しかった試験
好きだった人
学校のできごと
子供のころの自分
両親の笑顔
なぜこんなことをしているか
自分の意思でないなにかがそうさせている
理由わからないけれど
もう止められない
なんの活力もない
すべてがうつろだ
時間の流れに逆らって
無にもどろうとしている
時間が停止する真っ白なすべての始まりの世界へ
時間がもどってゆく