【ナルマヨ】あるはずもない未来
逆転裁判より、成歩堂くんと真宵ちゃんのお話。前に書いた話と多々類似してますが、どちらかというとこちらの方が私の希望です。
ラブラブな二人が本当に大好きです。だけど、叶わない想いを強く抱き続ける二人もまた、いいかなと思います
おはよう
「ねえ、ねえ、なるほどくん!!」
「ん?」
「またあたしに何かあったら、助けてよね!絶対だよ!!」
「もちろん。」
「10年後も、20年後も、成歩堂弁護士事務所の副所長だからね!あたし!!あ、陰の所長かな!!」
「はいはい。」
「約束…だよ?」
「うん。約束。」
―――――――わかっていたんだ。
―――――――ぼくたちが描いているものは、あるはずもない、未来。
―――――――だからこそ、今を大事にしたい。
「なるほどくん、朝だよ!今日は事務所開ける日でしょ!!ほら!!」
「わかってるよ、うるさいなあ…起きてるって…」
「目、開いてない!早く!コーヒー入れてあげたから!!」
ぼくたちにとっては、いつも通りの会話だった。
あれから…
真宵ちゃんのお母さんが亡くなってから、真宵ちゃんは、倉院の里にあまり帰らなくなった。
あれは、あの裁判が終わり、みんなとの食事会も終わり、二人で事務所に寄った時のことだ。
「やっと静かな場所にこれた。待ってて、今お茶でも入れるから。」
事務所のソファーに真宵ちゃんを座らせ、給湯室へ向かう。
「…なるほど、くん……」
向かおうとしたところで、呼び止められた。……泣いている?
「なるほどくん…あたし、」
泣いていた。真宵ちゃんは一点を見つめ、目からは大粒の涙。
「あたし、独りに、ひと、りに、なっちゃったよお…」
「おねえちゃんも、おかあさんも、死んじゃった……」
そうだ、ぼくは知っている。
真宵ちゃんは、明るくて、冗談が大好きで、よく泣いて、よく笑う。とっても強い子だということ。
そして、人に気を遣うのが意外とうまくて、大切な人のために、まぶしい笑顔を見せられる子。
「ほんとはね、独りになんて慣れてないよ。強くもないのに…」
気づくとぼくは、小さな背中を、そっと後ろから抱きしめていた。
“強い子”の“弱さ”を見てしまったからだろうか。
「真宵ちゃん、…うちに、来る?」
「え…?」
思わず、大胆なことを言ってしまったことに気づく。
「あ、いや、深い意味はなくて。たまには、そういうのもいいんじゃないかなって…」
顔が熱くなっている。ばれていないだろうか。言い訳も我ながら意味がわからない…
「…いい、の?」
予想外の返事だった。
「え、う、うん。おいで」
正直、真宵ちゃんは春美ちゃんと離れる時間が必要なのかもしれないと思ってそう言ったのだった。
誰かのために笑う前に、自分のために泣く時間が。
きっと、真宵ちゃんも心のどこかでそう思っていたのだろう。
一通り泣いて落ち着いた真宵ちゃんと、ぼくの家へ向かうことになった…
―――――――――――――――――――――――
暗闇
「なるほどくんのウチって、意外と片付いてるよねほんと。」
「あんまりいないからなあ。。。事務所の方が汚くなってく一方だし。」
「…そうだ、里に連絡しないと。」
真宵ちゃんは、電話をかけ始めた。そっか、と、泊まるんだもんな…
改めて事実のみを考えると、エライこと言ってしまったなと思う。
真宵ちゃんも真宵ちゃんだよな…いくらぼくでも男の家に泊まるなんて…
………深く考えるのはやめよう。
「…えっ、ち、ちがうよ!なるほどくんのウチになんて…う、うん、はみちゃん、みんなには黙っててね。」
会話がきこえてくる。春美ちゃんにつながったのか。そして、さっそくいろいろとばれたんだな。
「…ごゆっくりどうぞ、だって。はみちゃんたら…」
「(意味を知って言っているのかな…)」
そうだ。ふとんを用意しておかないと。確か、親が来たとき用のものが…
「なるほどくん!お風呂かりるね!」
真宵ちゃんはすでにぼくのウチになじんでいるようだ。変に気を遣われるより全然いいんだけど。
彼女の、いい意味で人に気を遣わせないところ、結構好きだな。
そういえば…ぼくの家に女の子が泊まるのって、初めてじゃないか?少し緊張してきた…
真宵ちゃんのお布団をしいておいて、とりあえず、着れそうな服を用意しておく。
そうしていると、真宵ちゃんが出てきて、ぼくもお風呂に入って、寝る時間になった。
「…なるほどくん。」
暗闇のなか、真宵ちゃんの声だけが聞こえる。
「…ん?」
「……ありがとう。」
「ん、うん…」
「あたし、はみちゃんにちゃんと笑えるか自信なかったから…なるほどくんがこう言ってくれてうれしかった。」
表情は見えないが、心の底から感謝を述べているのが声でわかった。
「……泣きたいときは、泣いておいた方がいいよ。そのほうが、みんなにも優しくなれるから。」
「せめて、ぼくの前だけでも、泣いておいたら。」
一所懸命に、平然と言ったけど、本当は、泣きそうなのはぼくの方かもしれなかった。
「あり、がと…っ」
暗闇でよかった。お互いの泣き顔が、見られずに済むから。
日常
そんなことがあって、真宵ちゃんはちょくちょくぼくの家に泊まりにくるようになったのだった。
もちろん、春美ちゃんが寂しがっていることも、家元という重要な立場なのに外泊を繰り返していると知られたら、大
事になることは重々承知していた。
それでも、真宵ちゃんにはいろいろなものから距離をとる時間が必要だったし、ぼくも、そばに彼女がいることで、い
ろいろと気がまぎれるんだ。
「なるほどくん!ほらほら、あたし、目玉焼きとパンくらいなら焼けるから!たべるたべる!」
意外といい奥さんになれそうだなあ、真宵ちゃんは…
もそもそと朝食をたべ、事務所へ向かう用意をする。真宵ちゃんも用意ができているようだった。
「じゃ、いこ!今日もどうせ依頼人なんて来ないけどね!」
「朝からいやなこと言うなよ…」
――――――――――――――――――――――――
「ほんとに来なかったじゃないか!!!!!」
「えー!あたしのせいにしないでよ!しょーがないね。今日はもうしめちゃお」
「…今日は、どうするの?」
「あ。えっと、そろそろ、帰らないと…かな。」
事務所をしめるとき、泊まるかをきくのがお決まりだった。
「…そっか。」
「また、今度来るね。」
「うん」
そう、真宵ちゃんと一日中一緒にいるようになって、逆にいないとき寂しく感じるようになっていた。
少しずつ、真宵ちゃんが「ただの助手」じゃなくなってゆくのがぼくでもわかる。
家に戻るとなんとなく、部屋が広く寒く感じた。
布団なども一応畳んではあるが、またどうせ来るのだからと言うことで出しっぱなしだ。
「今日の夕飯どうしようかなぁ」
倉院の里で
「まよいさまっ!!!!」
「はみちゃん!!ただいま!!!」
倉院の里の入り口で、はみちゃんが迎えてくれる。これも、いつものこと。
「まよいさま!今日はカレーなのだそうですよ!一緒に食べましょう!」
あたしに飛びついてきゃっきゃと笑うはみちゃんは、かわいい。
「おっ!いいね!あたし大盛りだからね!」
はみちゃん、本当はとっても寂しいみたいだ。修験者さんや親せきがたくさんいると言っても、
血のつながった人はあたしだけだから。
それは、もちろんあたしも一緒で、はみちゃんはとっても大切な存在だ。
はみちゃんがいるから、生きていこうと思えるし、強い存在でいられる。
「なるほどくんとは、仲良くやっていますか?」
「あはは、やってるよ~。」
相変わらずそういうことに敏感だなあ。
家に入ると、入り口に、あたしたちの面倒を見てくれている修験者様が立っていた。
「真宵様。お帰りなさいまし。少し、お話がございます。」
改まった表情で、緊張した雰囲気だった。真面目な話なのは間違いない。
なんだろう。嫌な予感がするよ…
「春美様は、あちらで夕食を先にお召しになっていて下さい。」
はみちゃんも人払いされた…こりゃ、大変そうだ。
「…え?えっと、もう一度…」
「ですから、お見合いです。真宵様ももういい大人の女性です。子どもも生めますし。」
お見合い。
「本来ならば、もっと早く結婚なさって欲しかったくらいなのです。
今は、綾里家にとっても、倉院流にとっても、最も大切な時期です。」
ああ、そうか。あたし、もう大人だもんね。
「そう、ですよね。あたし、お見合い…します。」
そうだ。あたしは、家元だもん。倉院流本家の血を受け継ぐ、唯一の女性。
わかってるよ。断ることも、自由な生き方を選ぶことも、
―――――人を、好きになることを許されないことも。
居間を出ると、はみちゃんが外で待っていた。
「まよいさま!」
「え?あ、は、はみちゃん。どうしたの?ごはんは?」
「はい!まよいさまと一緒にどうしても食べたくて!待っていました!」
「はみちゃん…」
ああ、こんなにあたしを慕ってくれている子のためにも、一人前の家元にならなくちゃ。
「よおし、今日は食べちゃうよ~!」
精一杯の笑顔をつくった。はみちゃんにだけは心配かけたくない。
気持ち
なんとなく気づき始めていた。
ぼくは、真宵ちゃんのこと…好きになっている。
「はあ…真宵ちゃん、次はいつ来るんだろ…」
ところが、真宵ちゃんは、一週間ほどやってこなかった。
空いてても2、3日だったのに。
どうかしたのだろうか、と思った矢先、事務所に来た。
「真宵ちゃん!どうしてたの?連絡もなかったから心配した」
真宵ちゃんの顔は、曇っていた。
「うん…ごめんね。」
その「ごめんね」は、別の事を謝っているような、遠くから聞こえてくる声だった。
「まあ、いいや。今日は泊まってくよね?」
「うん、泊まってく。」
…何かあったのかなあ。倉院の里で。
「何かあったの?」
「え!あ、う、ううん。ないよ」
ぼくの前で嘘は意味ないことわかってないのかな…勾玉使うまでもないけど。
「嘘ついててもわかるんだけど。」
ぼくが少し低い口調で言うと、真宵ちゃんはびくっとした。
「うん、その、今は言えない、や…まだ。でも、絶対言うから。」
真宵ちゃんがそういうなら、待つしかぼくにはできない。
「わかった…今日は何たべる?」
とにかく、真宵ちゃんと会えたことがうれしかった。
「うーん、やっぱみそラーメン!」
なんとなく、真宵ちゃんも元気になってくれたみたいだし。
「へへ、みそラーメン替え玉しちゃおっと!」
せめて、なるほどくんと一緒にいられる今だけ、笑顔でいよう。
あと少しだけだから、いい思い出になるように。
告白
…おかしい。
真宵ちゃん、やっぱり、どこか無理してる。一日一緒にいただけでわかるのだから、
ぼくが真宵ちゃんを気にかけすぎているか、あからさますぎるかのどっちかだ。どっちもかもしれないけれど。
夜、いつものように部屋のあかりが消えた。聴くなら今しかないかな。
「真宵ちゃん、起きてる?」
「…うん。起きてるよ。」
「なんか無理してない?今日の真宵ちゃん、無理に明るくしようとしてる気がして」
「ううん、してないよ?いつも通りのあたしでしょ?」
嘘がへたくそなくせに、一生懸命に隠そうとする。
「まだわからないの?」
無意識に出た言葉は、自分でも驚くほどの怒りに満ちた声だった。
「え…」
「ぼくは、真宵ちゃんのことをちゃんと知っていたいんだよ。」
沈黙。真宵ちゃんがなにを考えているのかはわからないが、言葉を続ける。
「ぼくがなにも知らなかったせいで、真宵ちゃんの大切な人がいなくなった。
知ることで防げてたかはわからないけど…でも、これ以上、大切な人の大切なものを、知らないうちになくしたくな
いんだ。」
「なるほどくん…」
「だから、お願い。話してくれないかな。」
真宵ちゃんは小さな溜息をついた。それは、辟易、というよりは覚悟、だった。
「あたし、ね…お見合いするの。」
「えっ?!」
突然すぎる告白に、驚きを隠せない。
「あたし、もう20歳だし…お母さんはもっと若い時にお姉ちゃん産んでて…あたしも、そろそろだって」
「……」
「なるほどくんのおかげで、綾里家の信頼も取り戻しつつあって、今、あたしが権力のある人と結婚すれば
今後に大きく響くって。」
「そんな!そんなの、政略結婚じゃないか!!真宵ちゃんの意志なんてない!!!」
暗闇の中で、叫ばずにはいられなかった。
「そうだね。」
「どうして!どうしてそんな淡々と言えるの?」
言っても仕方のない怒りと疑問をぶつけてしまう。
「…だって、どうしようもないから。あたしが嫌だって言って断っても、みんな救われない…。」
ぼくだって…そんなこと、わかってる。
小さな子供のように、自分の欲望だけを大きな声で叫んでいられればどれだけいいだろう。
だから、いつものように残り少ない時間を過ごそうとしていたのか。
「でも、よかったよ。」
「え…?」
「真宵ちゃんが、本当のことを今話してくれて。
二人でいられる時間を、もっと大事にできるから。」
それは、紛れもない本心だった。もし、もっと後になって話されていたら。
「ぼくは、何も知らないまま、一生後悔していただろうから。」
そして…この想いも伝えられなかった、だろうから…
伝えて
「真宵ちゃん、好きだよ。」
自然と言葉が出てきた。
「本当は、このままキミを連れてどこか遠くへ逃げたいんだけど。
ぼくは、真宵ちゃんが大切だから。真宵ちゃんが大切にしてるものを、一生懸命大切にする。」
想いを伝えてしまうことは残酷なことだったかもしれない。ずるいことだったかもしれない。
「…っ、なるほど、くん…」
真宵ちゃんの涙に濡れた声が聞こえてくる。
「あっ、あたし、も、あたしもっ…好きだよ…」
なんだ。想いを聴いた方がずっとずっと幸せじゃないか。
ぼくたちを包み込むものは、甘い空気でも、春のような温かい木漏れ日でもなく。
残酷で冷たい現実の空気と、それでも幸せな二人の室温だった。
二人で一緒になれる未来なんか無い。
それでも、ぼくたちには大切にしてきた過去がある。そして、今も。
「ほんとは、ずっと一緒にいたいよ…なるほどくんと一緒にいたい…」
声は涙でかすれ、ほとんど聞こえない。
その言葉に対する返事はせず、
「…こっち、来れば。」
ただ、そばにいてあげたかったし、いて欲しかった。
真宵ちゃんがためらうことなく、ぼくのベッドに入ってくる。
「…昔、おねえちゃんとこうやって添い寝してもらってた。」
声が、近い。それだけじゃなくて、体温も、息遣いも、すべてがそばにいることを証明していた。
「そっか。じゃあ、なでてもらったりしてたのかな。」
そっと真宵ちゃんの髪をなでる。真っ直ぐで滑らかな髪だ。
「へへ。お姉ちゃんの手より大きいや。」
このまま、時間が止まればいいのに。そんな、こっぱずかしくなる少女漫画のようなことを思う。
お互いの体温を感じ、なんとなくの照れくささを隠しながら眠りについた…
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ぼくは世界で一番、真宵ちゃんのことが大切なんだ。
光にかざせばキラキラと輝く宝石のような、近づけば楽しくなる、夢のような、そんな彼女が大切なんだ。
他の人がこんな話を聴いたら、男なら、彼女の手を握って遠くへでも逃げろって言うかな。
結婚式当日に花嫁を奪ってしまえ!なんて言われるかもしれない。
そんなの、真宵ちゃんが望まない。望まないことをするのは、大切とは違うと思うから。
真宵ちゃんの寝顔をそっと覗き込むと、また一眠りすることにした。
真宵ちゃんに起こしてもらいたかった、から。
―――――――――――――――――――――――終わり。
【ナルマヨ】あるはずもない未来
3の最終話はいつも号泣しながらやっていて、「真宵ちゃんの強さ」に心をゆさぶられます。
もっとなるほどくんは真宵ちゃんを大切にするべき!だと思いました。結婚してほしいという意味で大切にしていただきたい。
それが叶わないものだとしても、想いを伝えることで別の幸せってあると思います