テクノポリス

 細野が自動運転でトロトロ走っている車をニ三台追い抜いた途端、けたたましいサイレンの音が後方から鳴り響いた。ミラー越しにぐんぐん近づいて来る白バイが見える。一瞬、このまま逃げてしまおうかという考えが細野の頭をよぎったが、白バイに乗っている警官の姿を見て観念した。
 アメリカをマネて、最近日本でも導入されたロボット警官、通称テクノポリスだ。人間の運転では、とても逃げ切れるものではない。
 カーステレオから流れていたロックをかき消すような大音量で、無機質な声が響いてきた。
「ソコノたろーら、タダチニ停マリナサイ!」
 細野は路肩に寄せて停車した。
 すぐに白バイが横付けし、コンコンと窓をノックされる。
 細野は窓ガラスを下ろし、一応、反論してみた。
「ちゃんと制限速度は守ってるぞ。おれが何をしたと言うんだ」
 導入当初より多少デザインが改善されたといはいえ、昔の子供向け特撮番組に出てくるロボットのような顔をしたテクノポリスは、細野の質問を無視した。
「免許証ヲ提示シナサイ」
「わかったよ。ほら」
 テクノポリスはじっと免許証を見ているが、表情がないので何を考えているのかまったくわからない。
 細野は不安になってきた。
「おい、いい加減にしてくれよ。ここは追い越し禁止じゃないし、おれは酒なんか飲んでないぞ」
「ソウジャナイ。ココハ、手動運転禁止えりあダ」
「へえ、そうなのか。じゃあ、自動運転にするよ。点数を引くなら引いてくれ。こっちは急いでるんだ」
「ダメダ。コノえりあデハ、自動的ニ運転もーどガ切リ替ワルハズダ。違法改造ノ疑イガアル」
「そんなの初耳だ。もし、本当にそうなら、おれも中古屋にだまされたんだ」
 驚いたことに、細野はいきなり胸倉をつかまれた。
「おい、やめろ!いくら警官でも、ロボットが人間に暴力を振るうなんて、そんなこと、そんなこと」
 だが、テクノポリスは細野をそのまま窓から引きずり出し、片腕で抱えたまま、バイクを発進した。
「おいっ、無茶するな。ロボットは人間に危害を加えちゃいけないんだぞ。知らないのか。人権侵害もいいとこだ。訴えてやるっ!」
 細野が少々暴れても、ビクともしない。
 だが、百メートルも走らぬうちに、後ろからドーンという爆発音が聞こえた。
 驚いて振り返ると、細野の車は木っ端微塵になっていた。
「自爆装置ヲ発見シタノデ、緊急措置ヲトッタ。スマナイガ、コノママ署マデ連行スル」
「ほ、本当に知らなかったんだよ。悪いのは中古屋だ。おれじゃない」
「言イ分ガアルナラ、弁護士ヲ呼ンデヤロウ。人間ノ弁護士、ろぼっとノ弁護士、ドッチガイイ?」
(おわり)

テクノポリス

テクノポリス

細野が自動運転でトロトロ走っている車をニ三台追い抜いた途端、けたたましいサイレンの音が後方から鳴り響いた。ミラー越しにぐんぐん近づいて来る白バイが見える。一瞬、このまま逃げてしまおうかという考えが細野の頭をよぎったが…

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • サスペンス
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-29

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