ブラザーズ×××ワールド A12
戒人(かいと)―― 12
暗闇――
「おう、てめぇら、相変わらずシケたツラしてんなあ!」
無遠慮なトリス=トラムの声が、陰々たる空間に響き渡った。
「――――――」
闇の向こうから、非難の意思に満ちた無数の視線が返ってきた。
そこにこめられているのは非難だけではない。
怒り、憎しみ……殺意。
彼らにとって、トリスは自分たちとは相容れない〝異端〟だった。
彼らは、光を嫌う。表に出ることのない魔術によって生み出された彼らは、宿命として昼の光とは共存できない。
それが、トリスは違った。
〝金狼〟――その二つ名を持つ彼は、陽光の降り注ぐ昼の世界を平然と歩き回った。それが彼らの妬心を駆り立てないはずがなかった。
「異端が……」
憎しみに満ちた声が闇から響く。
「ああン?」
声の聞こえてきたほうをにらみ返すトリス。
「あんだァ? オレにケンカ売ってやがんのか? おうおう、いつでもまとめて相手してやんぜぇ! てめぇら、まとめてなぁ!」
ざわ――
闇に潜む殺意がさらにふくれあがる。
昼の光に耐える不快さをトリスの挑発が否応なく倍加させ、自制心など最初から持ち合わせていない彼らはトリスを目がけて――
――トン。
石の床を、杖が突く音。
その音は広い地下空洞に響き渡り、トリスに飛びかかろうとした獣人たちの動きを止めた。
闇の奥から六つの人影――
正確には、六体の獣人の影がトリスの前にゆっくりと歩み出た。
殺気だっていた獣人たちが、あたふたと道を空ける。静かな威厳に満ちた彼らを、しかしトリスは欠片もひるむことなくにらみつけた。
「んだぁ、てめえら勢ぞろいしてよぉ? 先にケンカ売ったのはそいつらだぜぇ」
トン。
六人の先頭に立つ老成した空気を漂わせる獣人が、トリスの言葉を制するように再び杖を鳴らした。
「ケッ」
気に入らないというように顔をそむけるトリス。
獣人の上に立つ存在――彼らのかもし出すそんな空気は、トリス、いや獣人すべてが反旗を翻した魔術師を思い起こさせるものでもあった。
「トリス=トラム」
杖を持った獣人の濁った目がトリスに向けられる。
「神饌のもとに行ったそうだな」
ニッ――
トリスの目尻と口の端が好戦的につり上がった。
「あれはオレのもんだぜ」
杖の獣人は何も答えなかった。
「てめえらも、よぉーく聞きなぁ!」
その反応に構わず、トリスは闇に潜んでいる周りの獣人たちに向かって威圧するように声をはりあげた。
「あの神饌ヤローはオレ様のもんだ! あいつに手ェ出したらブッ殺す! あいつを喰って不老不死になる前に、命がねえと覚悟しな!」
ざわ――
再び闇の奥で殺意がふくれあがる。
しかし、トリスは歯牙にもかけない。陰気くさいと毛嫌いしているこの場所にわざわざ来たのは、万が一にも神饌を横取りされないようにと念押しするためだった。
邪魔するつもりなら殺す。それくらいのことは普通に考えて。
しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
「神饌には、手を出さぬ」
「あン?」
杖の獣人を見るトリス。
彼はほんのわずかも表情を変えないまま、
「先ほど、他の者にも言い渡したところだ。神饌は我ら〝同盟〟の秩序を乱すもの。誰にも手は出させぬ……」
ギロリ。力に満ちた視線がトリスを貫く。
「〝金狼〟――貴様にもな」
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