雲をこねる詩人

雲をこねる詩人

 つまり僕は
 雲をこねて
 生計をたてたいと
 そう考えている。

 *

 ベーカリーサンカクでドーナツを注文。
 若奥さんがコーヒーをサービスしてくれる。
 若奥さんのいれるコーヒーは甘い花のにおいがする。

 それから
 コトン コトン
 りんご色の電車に乗って
 展覧会へゆく。

 *

 白猫氏と落ち合って
 月にいち度の展覧会。
 世界をとらえた偉大な詩人画家の作品展。

 *

 白猫氏は
 金色の魚の前で
 目をほそめる。
 
 きみには
 おいしそうに
 見えるのかい。
 僕が尋ねれば
 「誰にだって
 おいしそうに
 見えるのじゃ
 ないかね。
 きみ
 これは
 だれの胸にも眠る
 そういう魚だよ」

 *

【Der Goldfisch】

 そいつはぴかぴかに輝いて
 夜の海と空のあいだを泳いでる

 いろんな色の沈むめまぐるしい闇にさ

 いっとう目立つそいつは
 決してだれにも
 つかまらない

 ぴかぴか きらきら
 どこまでも
 いっぴきゆうらり
 泳いでくのさ



【Der Goldfisch #2】

 そいつはいつもはしずかに泳いでる
 隠れたり 眠ったり
 なんてこともあるかもしれない

 いろんな色のめぐる胸の奥の闇にさ

 見つけるのが
 むずかしいのさ
 
 だから
 そいつが跳ねる
 水の振動を
 感じたら
 つかまえに
 行ったほうがいい

 だれの胸にもいる
 金色の魚をさ


 *

 白猫氏と歩くと
 街がちょっと
 すてきに変わる。

 白猫氏は
 塀を伝うのは当然で
 居心地のいい日向があれば
 ねころがるし
 ちいさなめずらしいものを
 すばやく見つけて
 爪にひっかける。

 僕は
 白猫氏のすることを
 みんないっしょに
 してみる。

 それは
 僕の気づいていない
 世界だ。

 *

 白猫氏と歩いて
 僕は
 ちぎれた雲を
 ひろい喰いして
 帰る。

 *

 ベーカリーサンカクで
 買ったドーナツの
 残りをかじる
 僕のくちから
 ひろった雲が
 部屋の中へ浮かんでゆく。

 僕は
 夜をかけて
 それをこねて
 こねて
 こねて
 こねて こねて

 雲を
 ああ
 どこかへ。

 *

【雲をこねる詩人】

 しろい雲をこねて パンをつくろう
 はいいろの雲をこねて 恋をつくろう
 みかんいろの雲をこねて 夢をつくろう

 そして
 南風と北風を呼んで
 つむじ風を起こし
 十二色の雲を
 みんな
 月へ飛ばすのさ


 *

 そうなふうに
 つまり
 僕は
 雲を。

    
  

雲をこねる詩人

雲をこねる詩人

雲をこねる詩人のとある一日です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-02

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