身代わり
あなたでなくてもいいはずでした。
「一人が寂しいなら付き合ってくれないかな?」
彼氏に振られたばかりの彼女に僕は言いました。
理由は特になく、彼女は別れたばかりで一人の部屋が寂しいと言っているし、
彼女は僕の嫌いなタイプの女性ではなかったし。
彼女の気休めにはなるかと思って出た言葉でした。
彼女は少し考えた後、口を開いた。
「私を好きなの?」
「嫌いではないよ。」
「可哀そうだから?」
「別にそういう訳じゃないよ。」
「変な人だね。
でも、君が良いなら付き合ってもらってもいい?」
「うん。」
僕と彼女はそんな不思議な会話から付き合いだした。
それから約2年くらい彼女と付き合った。
最初はお互い他人行儀だったが、だんだん慣れてきて、
長い時間を一緒に過ごすようになった。
2年目のクリスマスを1週間前に控えたある日、
彼女は僕に突然別れを告げた。
理由は簡単。
彼女を2年前に振った男が復縁を希望してきたらしい。
元々、本気で彼女が愛していたのは元彼であり、
僕は寂しさを忘れさせるための存在だった。
彼女が元彼を選ぶのは必然だった。
彼女はかなり悩んだのであろう。
泣きはらした赤い目で僕に別れ話をし始めた。
僕はこうなることをなんとなくわかっていたので、
彼女を困らせないように笑顔を崩さずに別れを受け入れた。
「ごめんね…。こんなことになって…。」
「いいよ。なんとなくわかってたしさ。」
「ごめん…。」
「もういいよ。
それより、もう捨てられちゃだめだよ。
僕みたいな物好きそうそう居ないんだからさ。」
「気を付けます…。」
「うん。それでいい。」
「ありがとね…。こんな私を好きになってくれて。」
「こっちこそ。こんな変人を好きになってくれてありがと。」
男女の別れ話と思えない、訳のわからない別れ話を僕と彼女はした。
彼女を送ろうと思ったが、彼氏がわざわざ迎えに来たので僕は部屋のドアの前で見送ることになった。
僕はなぜか最後の意地悪をしようと思い、
彼女の腕を引っ張って、よろけた彼女を僕の胸に抱きしめた。
「…どうしたの?」
「…最後の悪戯?」
「なんで疑問形?」
彼女は吹きだしながら言った。
「なんでだろ。」
「…君を好きになっていたら良かった。」
「悪戯が過ぎたね…。」
僕は彼女を離した。
「もしまた捨てられたら僕の所に来てもいいよ。
愚痴位はまた聞くからさ。」
「まだ友達でいてもいいの?」
「君がいいなら。」
彼女は僕の言葉を聞くと、笑った。
その後、
「また、友達としてよろしく。」
とだけ言った。
僕はうなずいて、彼女の頭を撫でた。
彼女は部屋から出て行った。
僕だけが部屋に残された。
力が思いっきり抜けて、ソファにもたれかかった。
久しぶりの恋愛が終わったからなのだろうか、
本当に全身の力が抜けたのだ。
僕にとって、彼女と付き合ったのは本当に偶然で、
ただ、彼女が一人が寂しいと騒いでいたから付き合っていたはずだった。
僕は誰でもよかったのだと思う。
もちろん彼女もそうだろう。
でも、途中から僕は彼女に本気で恋をした。
彼女が嬉しいことは僕もうれしかったし、
彼女が悲しいときは僕も悲しかった。
この2年は彼女で埋め尽くされていた。
きっと僕はまた恋をする。
でも、彼女程愛する人は出来ないと思う。
その前に僕みたいな変人を愛してくれる女が居るかが問題なのだが、
これ以上はもう少し落ち着いてから考えよう。
今はただ眠りたかった。
僕は微睡に身を任せた。
身代わり
なんで私の書く男女は別れる運命を背負わされているのかと思いつつ書いていました。
ハッピーエンドが苦手なのだろうか。
なんとなく暗い話に惹かれるので、そのせいにしておきます…。
今度書くときは別れない話を書きたいな…。
読んでいただきありがとうございました。