ブラザーズ×××ワールド A11
戒人(かいと)―― 11
戒人の表情がゆらいだ。
「魔術師が……獣人を……」
視線を移す。
ミアは、まだ男の身体をゆすり続けていた。それに合わせ、彼女の頭から生える獣の耳もゆれている。
「………………」
紙のように白くなった男の顔を見つめる。
戒人は、あらためてアノアに、
「魔術師とは……何なんだ?」
「あんたも見ただろ? ああやって何もないとこから火の玉出したりするやつらさ」
「それだけか?」
アノアは肩をすくめる。
「こっちだって何でも知ってるってわけじゃないんだ。ただでさえ得体の知れないやつらなんだからさ」
「獣人は魔術師が奴隷として生み出した……そう言ってたな」
「ああ……」
ミアを気にするそぶりを見せるアノア。
そして、声をひそめ、
「魔術師がどうやって獣人を生み出したのかは知らない。そこらの動物を人間にしたのかもしれないし、何もないとこから作ったのかもしれないし……」
アノアの表情が曇る。
「普通の人間を……こんなふうにしちまったのかもしれない」
「――!」
普通の人間を?
まさかミアもそうやって……。戒人の内を戦慄が走る。
が、すぐ冷静になる。アノアが口にしたのは、あくまで可能性だ。事実かどうかはわからない。
そして、戒人は思い出す。以前読んだ海外の伝奇小説で、魔法使いが動物を使い魔という従者にしていたことを。
獣人も魔術師にとってそのような存在であったのだろう。
しかし、
(あいつは……)
中年男を殺した獣人――トリス=トラムのことを思い出す戒人。あの傲岸不遜な存在が誰かの召使いであるなどとても考えられない。
「なぜだ?」
戒人は問いかける。
「なぜ、魔術師は消えた? そして、獣人におびえるようなことになっている?」
「なぜって……」
アノアは皮肉そうに肩をすくめ、
「逆らったんだよ。獣人たちが一斉に魔術師にさ」
「逆らった?」
「あたしも人から聞いた話だけどね……」
アノアはそう前置きをし、
「獣人ってのは、魔術師たちに奴隷以下の扱いを受けてたらしい。人間以上に頑丈なやつらだから、人間以上のことをしても平気だってね」
「………………」
自然と戒人の目がミアに向けられる。しかし、いまは話を聞くほうが大事だと、アノアに視線を戻す。
「虐げられ続け辛酸をなめつくした獣人たちは……同盟を作った」
「同盟……?」
「自由魔獣同盟」
戒人の身体にかすかなふるえが走る。
獣人のイメージとそぐわないその理知的な組織名は、逆に得体の知れない深い闇を感じさせるものだった。
「魔獣……同盟……」
つぶやいた戒人に、あらたな戦慄が広がっていった。
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