別れ際にチョコ、 第1話

一久一茶です。今回は、『別れ際にチョコ、』の第1話を載せました。これから、何話まで続けるかはまだ未定ですが、この話が完結するまでは、連続小説という形でアップしていきます。よろしくです。

別れ際にチョコ、 第1話

とある有名人が今日大学の卒業式を迎えたらしく、テレビでは袴姿の有名人を写す映像が流れ、暗い話題ばかりのニュース番組の画面を少しばかり華やかに演出する。三月のこの時期は、別れの季節としてメディアには色んな別れの話題がのぼる。悲しい別れ、嬉しい別れ、心残りな別れ・・・私もこれまで生きてきて、色んな別れをしてきた。
『あなたの印象に残る別れはなんですか?』
そんな質問を街ゆく女性たちに聞くという番組があったけど、もし、私がその質問を投げかけられた時、どのように答えるだろう。
ひとつ、これだと思いつく別れが私にはある。
それは、再開を誓った別れ・・・



私は孤児院で育った。私の記憶がまだ曖昧なくらい小さかった頃、両親は交通事故に遭い、亡くなったそうだ。だから、両親との思い出はほとんど無い。
そんな私は高校時代にある人と知り合った。神川優也という人で、この人もまた、施設で育った、両親との思い出がほとんど無いという人だった。彼の両親との記憶は、父親の死に顔と、母親が首を吊った光景だけだと、彼はいつか私に話してくれたことがある。
私たちの境遇は、似ていた。一般の家庭に育った人が味わったことのないだろう経験を重ね、ふたりはそれぞれ生きていた。だからだろうか。私たちは自然と惹かれあい、恋に落ちた。お互いの辛い経験を理解し、励まし合える、そんな人がそばにいる。それだけで、私は幸せだったし、彼もきっとそうだと思っていた。
そんな日々が続き、ふたりは高校を卒業し、別々の進路を選んでもなお、ふたりの関係は途絶えなかった。
そんなある日だった。彼はあるトラブルに巻き込まれたのだ。私が詳しい内容を知ったのはずっと後になってからだけど、当時の私は、酷く悩む彼を必死に支えた。けれど、彼の悩み事は解決するどころか、どんどん悪化、彼はどんどん痩せていった。そして徐々に、私から距離をおくようになり、ついには、私の家に来なくなった。私は彼の家に何度か行った。が、引っ越したようで、数週間の間、彼に会えないでいた。

私は、大好きな彼に見放されたことに、嘆いた。彼をそうさせたのは、絶対あのトラブルが原因に違いない。あのトラブル、と言っても当時の私はその内容を全く知らなかった。自然と、私は彼の身に起こったトラブルについて調べ始めていた。


彼は調理師を目指していた。私も時たま、彼の料理を食べたことがある。彼は、調理師学校に通うかたわら、日本料理店で働いていた。そこで、彼の働いていた料理店に行き、私は板前に話を聞いた。するとその板前は
「ここ最近、よくストライプのきついスーツ着た男が優也さんを訪ねて来てましたよ」
と答えてくれた。彼は、そのスーツ姿の男が来るたびに店の外で話し込み、時には少し声を荒げて言いあうこともあったらしい。
「優也さん、文字通り優しい人だからね。初めて怒鳴ってる優也さんをみたよ」
私は、話の内容はどんな感じだったのか聞いてみた。だが、それ以上は板前も知らないらしい。なにせ、彼は同僚たちが『誰?なんの話?』と尋ねても『何にもないよ』と答えるだけで、それ以上は話さないらしいのだ。
と、そこで奥から、皿を洗っていた女の人が私に向かってこう言った。
「優也さん、最近バーに飲みに行くことが多くなってたみたいでね。もしかすると、そっちに聞いてみたほうがいいかもしれないよ」
確かに、彼はお酒を飲むと少しおおらかになるタイプで、お酒の勢いで何かバーの人にこぼしているかもしれない。
私は、そのバーの場所を教えてもらい、お礼を言って店を出た。すると、出たところに、男が立っていた。
ー その人は、ストライプがしっかり入ったスーツを着ていた ー
「おっと、ごめんよ」
思わず立ち止まった私はその人とぶつかりそうになった。私もぺこりと頭を下げ、その場を後にした。


バーについた私は、彼についてバーテンに聞くと、そのバーテンはなんと優也さんがスーツ姿の男と話しているのを見たという。
「なんか揉めてる感じ・・・いや、スーツ姿の男の方が優也さんを脅してる感じでした」
私はもっと詳しく聞いた。スーツ姿の男は、優也さんの両親のことについて、話していたらしい。
「断片的にしか聞いていないのであれですが、父親が人を殺した・・・みたいなことを話していました。もっとも、優也さんは父親のことを覚えてないですから、僕には関係ないって反論してましたけど」
彼の父親は、彼がまだ小さい頃に亡くなったと聞いている。
次に私は、彼の引っ越し先を知っているかと尋ねた。だが、流石にそこまでは聞いていないという。私はそこでバーを後にし、外へ出た。
「豆谷紗綾、さんだね」
そして、大通りに出ようとしたその時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。男の声だった。
声の方向に振り向いた私は、目を見開いたのだった。


「豆谷さんだね」
男ー ストライプのスーツを着た男は私に念を押すようにそう聞いてきた。誰ですかと尋ねると、男はクスっと笑った。
「誰、と言われてもね・・・俺はフリーのルポライターで、君の恋人の神川君の知り合いの久保田だ」
ルポライター、と名乗った久保田という男に、私は「優也さんを脅してたスーツ姿の男ってあなたですか? 」と尋ねた。
「脅してただなんて、人聞き悪いな。俺はただ、昔のお話をしていただけだよ」
昔の話、そう表現するならば、何も問題ないようにも聞こえるが、優也さんの生い立ちを考えると、私はついカッとなってしまった。
「まぁ、そんな怒ることはないだろ。俺はただ、ただ彼の両親について話してあげただけだよ」
ポケットから煙草を取り出し、咥えて火をつけると、久保田はこう切り出した。
「そういや君も、孤児院育ちだよね。確か、両親は交通事故でお亡くなりになったとか」
驚いた。この男、私のことについても調べ上げている。思わず久保田の顔を見ると、さっきまでのにやけ顔を引き締め、言った。
「その交通事故、ただの交通事故じゃないんだよね・・・神川君のことを調べるならまずそのことから調べるといいかも」
その言葉の真意を、私はすぐには理解できなかった。
交通事故で両親が死んだことは、孤児院の人から聞いていた。けど、私はその事故がどんな事故だっかのかを全く知らない。いや、今まではどんな交通事故だったかなど気にもならなかった。
呆然と久保田を見つめる私に「これ、ヒントだから。何か知りたければここに連絡してよ」と名刺を差し出し、夜の街へと去っていった。

第1話、完

別れ際にチョコ、 第1話

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別れ際にチョコ、 第1話

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更新日
登録日
2015-03-27

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