オルゴールと思い出と。
オルゴールと出会いと
「…なんだここ」
俺の名前は小松進。一応高校生である。
身長がコンプレックス(高身長)な俺だが、今何をしているかというと、
実家の物置を掃除する途中である。何故こんな事をしているかというと、母に掃除しないと一人暮らしを許してもらえないという、意味が分からない契約を申し込まれ渋々
掃除しているのだ。
あまりの埃の多さにマスクを二重にしようか考えるくらいで恐ろしいが、今なんといっても気になるのは掃除をしている最中に見つけた亡くなった祖父のものだった、埃が被ったタンスの中にある古びた茶色い木で出来た箱。
鍵が付いてて開かない。圧力が40の俺でも開かないとは、余程錆び付いているみたいだ。
「…くっそ開かない…。何が入ってんだよ」
15分位費やしたが結局開かず。
「後で母さんに聞いてみっか。」
諦めて俺は残りの物を片付ける作業にかかった。どれもこれも壊れかけている物ばっかりだ。捨てればいいのに、と考えながら腕捲りをしてから埃をふき取り、雑巾掛けに入った。
「明日また続きを続行するか。」
俺は半分以上を綺麗にし、自己満足していたところ…
「進ー!片付いたー?」
後ろから大きな声で聞こえるのは母さん。この仕事を押し付けた張本人だ。
「明日には終わる」
俺はため息混じりにそう言いながら捲っていた袖をおろした。
「ほー、とりあえずご飯できたから手洗って来なさい」
「分かってる、すぐ行くから。」
忙しい人だ…
俺は洗面台に行き手を洗ってからささっとタオルで手を吹きリビングに
向かった。
「あっそういえば忘れてた」
俺は茶色い箱の事を思い出しすぐに物置に戻りその茶色い箱を持っていった。
「母さんなら何か知ってそうだしな…」
まあ、あまり期待はしないけど。
リビングに行くともうご飯が並んでいた。
今日は魚メインらしい。お味噌汁と白飯をセットに2つ並んでいた。
「あっ進!早く食べましょ!お腹空いたのよー」
母さんは相変わらず忙しい人で、もう箸を持っていた。
俺が来てなかったらもう食べ始めてたろう…。
まあ俺はあえてそこを触れず椅子に座った。
「「いただきます」」
俺たちは普段通りに汁物からすするのが一般だ。理由は分からない。
まあ、そういう家庭なのだ。
「あっ、母さん。聞きたい事あるんだけどさ」
俺はすぐ本題に移した。
「何?一人暮らしのアドバイス?」
「違うから。この箱知ってる?」
俺は母さんのボケのような真面目な発言をさりげなくスルーして、茶色い箱を
机の上に置いた。
「あれ?これどこにあったんよ?懐かしいなあ。」
母さんが急に頰を緩めてそれを両手で持ち、見つめた。
「やっぱり知ってるん?」
「知ってるも何も、これはじいちゃんの宝物だったからねぇー」
「宝物?中に何が入ってるの?」
「入ってるも何もこれはオルゴールよ。ほら。」
母さんは箱の真下にネジがあるのを俺に見せてきた。
結構古びている。それほど祖父の大事なものだったんだろう。
「聴けないの?それ。」
俺はオルゴールがどんな音色か聴きたくて質問してみた。
「鍵がないわね。一緒に置いてなかった?」
「いや、なかったよ。鍵なんて。」
「そう…じゃあ聴けないわね。残念。」
母さんがオルゴールを机に戻し、ご飯を食べ始めた。
「どうにか聴けないの?」
俺はどうしても興味があってねだってみた。無理だと思うけど。
「んー。鍵がないと…あっあるわよ!聴く方法!」
「えっ」
俺はあるのかと、突っ込みそうになったが、驚きすぎて変な声が出た。
「この近くに小物を直すお店があるのよ。そこなら大丈夫じゃない?」
確かここの街には小さな小物直しの店があった。入った事はないけど。
「小物って、直せるのかよ」
「大丈夫よー!近所の鈴木さんなんて、腕時計直してもらったって!」
「…まあ明日行ってみる」
「じゃあ一人暮らしは少し延びたわね」
「ゔっ…」
母さんはこれが狙いかよ…。
オルゴールと店員と
次の日、なかなかの晴天の中、俺は古びたオルゴールを手に
昨日母さんに勧められた小物直し店に行く事にした。
頑固親父がいたらどうしよう、とかバカらしい事を考えていたら
噂の小物直し店に着いた。外見は森の中にある木の家って感じの。
とにかく、オシャレだった。きっと頑固親父はいないだろうとひと息ついた。
店の名前を探すとドアの所に《こころ亭》と手描きで書いてあった。
女性がオーナーなのか考えたが細かい事は気にせず俺はドアを開けた。
「…あの…」
俺は小さな声で店員を呼んだ。すると奥から足音が聞こえた。
「はーい!今お伺いしますねー!」
鈴のような声だがハキハキ聞こえた。良かった。頑固親父じゃない。
俺は近くの椅子に座り、静かに待っていた。周りを見ると女の子の部屋にいるような
そんな感じの小物がたくさん置いてあった。逆に居づらい。
そんな事を考えていると店員が俺の元にやってきた。
「お待たせしましたー!こころ亭へようこそ!私鈴野と申します!よろしくおねがいしまーすっ!」
とんでもない店員がきたぞ。
彼女、鈴野という女性は身長が低く、肩くらいまでの黒髪である。
とにかく犬って感じの方である。もしかしたら俺より歳下かもしれない。
とりあえず、用をさっさと済ませよう。
「あ、あの、オルゴールって直せますか?」
鈴野はきょとんとした顔でこっちを見た。やはり、オルゴールは直せないのだろうか。
「あっはい!直せますよ!一回そのオルゴールを見せて頂けますか?」
鈴野は笑顔で言っていた。どうやらオルゴールもぎりぎり小物対象になるらしい。
しかし鍵を開けるとなると、鍵屋に頼んだ方が早かったのではないかと今更思っている。だがここまで来てしまった以上引き返したら嫌な客になる。直してもらえるし、メリットもデメリットもあるまい。とりあえず俺はオルゴールを鈴野に渡した。
「あ、鍵タイプですかー!これならすぐに開けられます!それとも、凄く時間はかかりますが、新しい鍵を作りますか?」
鈴野はオルゴールを持ったまま俺に聞いてきた。
「え、鍵、作れるんですか?」
「もっちろんですよー!」
自信満々に手を胸に当てる鈴野。とりあえず、これからの為にも鍵を作ってもらおう。
「じゃ、じゃあ鍵を作ってください。」
「はい!かしこまりました!しばらくはこのオルゴールを預かってしまいますがよろしいですか?」
まあ、家にいちいち持って帰ったって、何も起きないし
「大丈夫です。今度はいつ来ればいいですか?」
「あーでは、住所を教えていただけますか?私が持って行きますよ!」
「えっ!?そこまでは申し訳ないですよ!」
相手は女性だ。オルゴールのためだけに家にわざわざ来てもらうのも申し訳ない。
「いえいえ!大丈夫です!私も運動になりますし、あっあと名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
作中
オルゴールと思い出と。