消えない想い

将来に悩む高校1年生の小岩井 友李。
ある日、気晴らしに公園の中にあるベンチに行くと一人の女の子がいた。
女の子にはある秘密があって、友李は次第にその秘密に気づいていく。
それと同時に友李は女の子に好感を抱いていくのだが・・・。

出会い

小岩井 友李は悩んでいた。進路のことである。
進路調査票を書かなければならないのだが、これといってやりたいものがない。
「1週間後が締切だぞ、各自それまでよく考えて書くように」
そういって先生は教室を出ていった。

放課後、友李は町の図書館にいた。
借りたい本があったのと、進路の悩みを相談するためである。
図書館には兄の友達である西條 ヒカルがいて、いつも友李の相談相手になってくれていた。

「よお友李、前に借りたやつはどうだった」
「面白かったですよ、今日はこれをお願いします」
「はいよ」
「それと西條さん、ちょっと相談に乗ってもらえませんか。進路のことなんですけど」
「うん?進路か。友李は得意なこととか好きなことはないのか」
「読書はけっこう好きですけど・・・、あとは料理が少し得意なぐらいで」
「ならそれ関連のことをやればいいんじゃないのか」
「好きなことを仕事にするって単純な考えはどうなんです」
「嫌いなことするよりかはましだと思うがな」
「はあ」
「友李、世の中好きなことやって失敗する奴もいれば嫌いなことやって成功する奴もいる。結局、基準なんてもんは逆になるものなのさ。
今は悩むんじゃなくて考えてみな」
「考える・・・ですか」
「ほら、今日の分」
「ありがとうございます」

そうして友李は図書館を後にする。

「はぁ、結局よくわからなかったな。考えろって言われてもそれができてれば苦労しないし、自分で考えろってことなのかな。
・・・あそこにでも行くか」

数分歩くと公園についた。公園の少し奥、屋根付きのベンチがある。嫌なことがあったり悩み事があると友李はよくここに来る。
そこで本でも読もうと思っていた友李だが、今日は先客がいた。
友李の通う学校とは違う制服を着た女の子である。
女の子も友李に気付き目が合う。

「あ、すいません。」
「あ、はい」

素っ気ないやり取りのあと、友李は来た道を戻っていった。
これが友李と女の子の出会いであった。

出会い再び

次の日の放課後。
友李は昨日と同じく公園に向かっていた。

友李「あの子いるのかな。またいたら声かけるべきなのかな・・・」

そんなことを考えながらベンチを目指す。
案の定、今日もまたその女の子はいた。

友李「うーん、こっちから声をかけるのは変だしなぁ・・・」

そう思いながら立ち尽くしていると女の子も友李に気付き、また目が合う。

友李「こ、こんにちは」
?「・・・どうも」
友李「あの、もしかして僕邪魔だった?」
?「いえ」
友李「・・・・・」
?「・・・・・」
友利(うぅ、話が続かない)
?「あの・・・もしかして昨日ここで会った方ですか?」
友李「うん、そうだけど」
?「そうですか、やっぱり会ってたんですね私たち」
友李(確かに僕は存在感がある方じゃないけど・・・)
?「ごめんなさい、気にしないでください。・・・あの、私帰りますね。なんだかここにいるとご迷惑なようですし。」
友李「いや、全然そんなことなくて。僕の方こそ邪魔になるんじゃないかと・・・」
?「いえっ、別にそんなことは」
友李「・・・くっ、あははは」
?「どうかしましたか」
友李「いやーお互い同じこと考えてたと分かるとおかしくて」
?「ふふ、そうですね」
友李「隣に座ってもいい?」
?「どうぞ」

友李は女の子の隣にゆっくりと腰を落ち着かせる。

?「・・・樹里です」
友李「えっ、あー君の名前か」
樹里「樹木の樹に里と書きます」
友李「僕は小岩井 友李。小岩井でも友李でもどっちで呼んでもらってもいいから」
樹里「じゃあ小岩井さんで」
友李「樹里はよくここに来るの?」
樹里「ええ、静かな場所は好きです」
友李「僕もこの場所は好きなんだ。本を読むのにうってつけでさ」
樹里「本がお好きなのですか」
友李「うん、最近読んでるのはファンタジー系かな」
樹里「そうですか」
友李「あ、いけない。僕今日留守番頼まれてたんだった。樹里、今日は楽しかったよ」
樹里「ふふ、私もです。・・・あの、私明日もここに来てもいいですか」
友李「別にそんなの構わないと思うけど」
樹里「ありがとうございます」

樹里は明るく笑いながら言った。
友李はそんな樹里を見てちょっと照れくさくなる。

友李「じゃあ、またね」
樹里「えっ」
友李「どうしたの」
樹里「・・・いえ、またね、です」

そういう樹里に手を振りながら友李は公園を後にした。

違和感

夜、友李はベッドで横になりながら樹里のことを考えていた。

(樹里か、可愛かったなぁ。僕の学校とは違う制服だったけど、どこの生徒なんだろう。
あの子に会えばなんだか自分が変わるような気がする。明日もあそこにいるんだろうか)


朝、朝食を食べていると母が尋ねる。

母「何かいいことあった?」
友李「え、なんで」
母「ふふん、なんとなく」
友李「なんとなくって・・・」
母「そうだ、今日私料理教室で遅くなりそうなの。友李には悪いんだけど・・・」
友李「わかった、早めに帰るよ」
母「ごめんね、夕飯先食べてて」

母が言ったいいことって何だったんだろう。
そんなことを考えながら登校した。


そして放課後、今日もそこに樹里はいた。
樹里はいつも何かをしているわけでもなく空を見ている。

友李「何を見てたの?」
樹里「・・・いえ、何も見てませんけど」

樹里は素っ気なく答える。
(あれ?樹里だよね・・・)
友李は何か違和感を感じた。

友李「大丈夫?」
樹里「何がですか」
友李「いや、昨日と様子が違うから」
樹里「昨日・・・」

はっとした表情になり樹里は立ち上がる。

樹里「ひょっとして小岩井 友李さんですか?」
友李「うん、そうだけど。・・・樹里?」

樹里は泣いていた。

樹里「・・・って」
友李「えっ、何?」
樹里「昨日、またね・・・って」

そう言いながら樹里は友李に抱き付いた。

友李「えっ、えっ樹里?!」
樹里「ごめん・・・なさい、ごめんな・・・さい、大丈夫・・・ですから、大丈夫ですから・・・」

そういう樹里を友李はよくわからず、ただ受け止めていた。

お願い

数分後、樹里は落ち着きを取り戻し僕らはベンチに座った。

樹里「グスッ、う~」
友李「落ち着いた?」
樹里「はい、すみません。何だか取り乱してしまって」
友李「いいよいいよ(ちょっと驚いたけど)。何か嫌なことでもあったの?」
樹里「いえ、別にそういうわけでは・・・クシュン」
友李「あ、ティッシュ貸そうか・・・って今日に限ってポケットに本しか入っていないか」
樹里「いいですよ。それにしても、ふふっ本当に本がお好きなのですね」
友李「うん、もうこれが無いと生きていけないぐらいだよ」
樹里「実は私も好きなんです、小説」
友李「へえ、どんな小説を読むの?」
樹里「私は女の子向けの本ばかり読みますから」
友李「あー僕はそっち系はよく分からないな」
樹里「小岩井さんはファンタジー系がお好きなのですよね」
友李「うーん、最近読んでるのがファンタジーってだけで、割と何でも読むよ。でも〇〇先生の作品はどれも好きだなぁ。あの世界観がたまらないんだよね。それから、・・・・・・・・・・・・」

友李はしばらく自分の好きな作家について饒舌に語る。
それを聞いていた樹里だったが、そんな友李をみて笑う。

樹里「ふふっ、小岩井さんは小説となると止まらないですね。小説が好きなんだって気持ちが溢れてます」
友李「えっ、あ、長いことごめんね」
樹里「いえいえ、私も友李さんのお話を聞けて楽しかったですから」
友李「そう、なら良かった」
樹里「あの・・・小岩井さん。ご迷惑でなければ、私とお友達になってくれませんか?」
友李「えっ」
樹里「・・・やっぱりダメでしょうか」
友李「いや、こんなこと言われたの初めてでちょっと驚いたというか。僕の家って引っ越し多くてさ、それで転校ばかりしてるから友達作るの苦手なんだ。そんな僕でもいいなら、友達になろう」
樹里「はいっ。小岩井さん、ありがとうございます」

こうして僕らは友達になった。
これが樹里の秘密を知っていくきっかけになるとも知らず。

名前

次の日の朝、朝食を食べる僕に向かって母さんが不機嫌そうに言う。

母「なんか最近冷たいなぁ~」
友李「うわっ、いきなりなんだよ?!」
母「だってぇ、友李帰ってきたらすぐに部屋に閉じこもっちゃうんだもん」
友李「それは昔からじゃん」
母「読書するなとは言わないけど、少しはお母さんとも愛の語らいをしてほしいなぁ~って」
友李「・・・」
母「ねえねえ、今日は学校休みだしデートしましょう?」
友李「・・・は?」
母「いいお天気だし遊園地にでも行こうか」

母は上機嫌で話す。
さっきから愛の語らいだとかデートだとか、母さんは基本良い母なんだけどこういう事を言うからちょっと残念。
僕はさらりに断る。

友李「ていうか、僕今日は用事あるから無理だよ」
母「・・・・・、え・・・え・・・・・ええええええええ~っ!」
友李「別にそこまで驚かなくても」
母「お母さんちょっとショック・・・、お友達?」
友李「近いかな」
母「あらあら、お赤飯炊かなきゃ」
友李「あの、そろそろテンション落としてくれない?」
母「あれ、本当に用事なの?」
友李「こんな事に嘘なんかつかないって」
母「うーん、そっか。それじゃあ仕方ないわね。じゃあいってらっしゃい。夕飯までには帰ってきてね」
友李「うん、ごちそうさま」

今日もあのベンチに向かう。

樹里がいた。今日は小説ではなく、何らやらメモ帳のようなものを持っていた。

友李「おはよう樹里」
樹里「あっ、・・・おはよう・・・ございます」

樹里はゆっくりと照れくさそうに言う。

友李「それ日記か何かなの?」
樹里「えっ、あ、これは、そのっ」
友李「あ、いえないことならいいよ」
樹里「いえ、違うんです。あの・・・」
友李「?」
樹里「物語を書きたくて・・・」
友李「物語?・・・あ、もしかして樹里、小説書いてるの?」

恥ずかしそうに顔を背ける樹里に対してあえて問いかける。

樹里「うぅ、いじわるです」
友李「すごいじゃないか。ねえ樹里、それ見せ」
樹里「嫌です!絶対にお断りします!!」
友李「クス(可愛いなぁ)」

樹里はメモ帳のようなものをギュッっと抱きしめて頑なに拒否する。

友李「わかったよ、もうこれ以上は言及しないから」
樹里「うぅ」
友李「実はね、僕も書いてみたいなとは思ってるんだ、小説」
樹里「え、そうなんですか」
友李「書いてみたいと思っただけだけどね」
樹里「素敵です、凄く!」

さっきの表情とは一変、嬉しそうに言う樹里。
友李はちょっと照れくさくなる。

友李「い、いや学校の進路調査で何か決めないといけなくてさ。小説家もいいかなって」
樹里「そうなんですか」
友李「それより僕は樹里の書いた小説が」
樹里「却下させていただきます」
友李「・・・はい」

樹里はぷいっとそっぽを向く。

樹里「進路・・・か」
友李「そういえば樹里って光陵高校の生徒なの?」
樹里「いいえ、私は訳あって学校には行ってないんです」
友李「あ、ごめん・・・(それでいつも僕より早くここに来れてたんだな)」
樹里「いえ、気にしないでください。むしろ学校の話を聞くのは好きなんです。双子の妹が光陵の生徒でよく話をしてくれるんですよ」
友李「へえ妹さんがいるんだ。何年生?」
樹里「るうって言うんですけど、今は2年生になってるはずです」
友李「ふーん(その名前どこかで聞いたような)。・・・ってうん?樹里、さっき双子の妹って言ったよね?」
樹里「はい」
友李「・・・あの、もしかして樹里、僕より年上だったりする?」
樹里「小岩井さんが1年生ならそうなると思いますが」
友李(僕より年上!まずい、完全に年下だと思ってた。完全にタメ口使っちゃってたよ!!)
樹里「小岩井さん?」
友李「あのぉ、良かったら苗字を教えて貰えると・・・」
樹里「あ、失礼しました。雅です。雅 樹里」
友李「・・・これからは雅さんと呼んでいいですか?」
樹里「普通に樹里でいいと思いますけど」
友李「・・・そうですか。じゃ、じゃあ樹里も僕のこと名前で呼んでくれないかな?」
樹里「え、なぜまた突然?」
友李「ほら、僕の方が年下な訳だし、友達だし、お互い名前で呼び合う方が気楽でしょ?」
樹里「えっと、じゃあ・・・。友李くん・・・でいいですか?」
友李「うん、ありがとう!」

夕方、公園出口。

樹里「では、私はこっちなので」
友李「あ、うん。樹里、良かったら明日も遊ぼうよ」
樹里「え、いいのでしょうか?」
友李「明日は日曜だしもっと早く来れると思うから」
樹里「あ・・・はい!」

そんなやり取りをして僕らは別れる。

消えない想い

消えない想い

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-25

Copyrighted
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  1. 出会い
  2. 出会い再び
  3. 違和感
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  5. 名前