大一番
とつぜん
あっ 来た!
みんながそうおもう瞬間
新しい時代が始まった予感と期待
和室にいてそのすぐとなりにある洋室にはいったときのように
雰囲気が急にまるっきり変わる
今までとちがう空間にでもはいったかのように
なにかでゴチャゴチャにからんで動けなくなっていたところからぬけでて
あらたな世界に立ち入る
息はかるい
空は高く抜けていて宇宙への境界がかいまみえる
手をのばせばすぐそこにとどきそう
いつもの部屋にいるのにまるでちがう
そこには新たな時間軸が設定され
今まで乗っていた古い時間軸からヒョイと新しいほうにとびのったかのようだ
まだみえるんだけれども古いほうの時間軸はあっというまに我々から遠ざかっていくのがわかる
たった一つのことがおこなわれて
それをみんなでみていた
ほんの数十秒のできごと
たくさんの人の目と耳と頭と体じゅうの血液がそれに結集する
その時その現場にいる人
その時日本でそして海外でテレビを見ている人
その時ラジオに耳を傾けている人
いったいどれだけの数の細胞がその場面に同期し振動したろう
その時空の振幅は一気に増幅し同一の方向へ進行するレーザービームのように輝く
なりやまぬ歓声と拍手はその振動の余韻を大気へ発散したもの
その特別な振動をもうちょっとしばらくかんじていたいから
鍛えあげられた肉体と精神力
二人の力士が周到に準備してきたこの一場面
その細胞の興奮は永遠の記憶としてみんなの体のなかに刻まれる
その喜びは光となり未来永劫この宇宙をぐるぐるまわりまたいつの日かわたしたちの心のなかにあらわれる
大一番