世界の声を聴きたくない

感情を失くしてしまった悲しき青年のお話。

今日、母が死んだ・・・
俺はまだ6歳の時だった
事故死だった。
俺はまだ幼かったため泣き叫んだ
今でも思い出せば切なくなる。
そんな俺には父がいた
その父は人間味がなく、表情がない
それが影響したのか俺には表情がなかった。
そんな父が俺に言い放った言葉は慰めの言葉でもなく、励ましの言葉でもない
「泣く暇があるなら人を殺す技の一つでも覚えろ。」
それだけだった。
俺の父は殺し屋だ・・・
他人が聞くと絶対恐れるだろう
でも、それが俺の日常だった。
毎日俺の父は人を殺して帰ってくる
そして毎日のように「お前もいずれかはこうなる、早くこっちの世界に来い。」
と言って1日の会話が終わる。
俺は人を殺すことはしたくない
人が特別好きと言う訳でもないが、
"父のようにはなりたくない・・・"
それだけは俺の心の中にあった。
だが俺は人を殺す能力が高かった・・・
その能力の基準となるものは、『体力』『瞬発力』『視力』『聴力』
この4つすべての力がSランクでなければ一人前の殺し屋とは言えない。
父が言うには、俺にはその力がすべてバランスよく備わっていると言うのだ。
それに付け加えると、俺は人間離れした殺力を持っている
スペシャルクラスに入るほどだと言われた。
そのため、父は俺をどうにかして裏の世界に入れたいと思っている。
何故そんな力が俺に備わっているかと言うと"訓練"だ。
人を殺す訓練をしているのだ
嫌でもしなければ俺は殺される
だから俺は毎日したくもない訓練をする
毎日訓練をするたび覚えてしまう技・・・
あぁ・・・憂鬱だ。
殺力があるなら殺される前に殺せばいいと思う奴もいるだろう
だが俺は人を殺せない・・・。
殺したくないのだ・・・。
そして俺は死にたくない
死が怖いんだ・・・
母が死んだ時から俺の世界は狭くなった。
俺は母が死んだとき、大量の涙と一緒に感情までもが流れ落ちたかのように
泣き終えた後は無だった・・・
何も考えたくない・・・
ただ一つ残っていた感情・・・それは、母が死んだ悲しみではなく
"俺は母さんのようにはなりたくない"それだけだった。
初め切なくなると言ったのは
『俺もいずれは死ぬんだな・・・』
と思たからだ。
もう一度言う
俺は死が怖い・・・。
「訓練は終わりだ、出てこい。」
俺は何も言わずに訓練ルームから出た
「利乃、こっちに来る気はないか。」
父のその言葉も聞きなれている
もう何千回聞いたことか・・・。
「ない。」
俺はそれだけを言って
自分の部屋に向かった
父はその言葉以外何も言わなかった。
俺の家はとても裕福だ
そのため家の中には多くの召使いがいる。
その人たちとすれ違う度に
何かしらの挨拶をしてくる。
この人たちは何のために何時間もそこに居るのか
何故いつも笑顔なのかも解らない。
改めて考えてみると不思議でならなかった。
俺はあまり人との関わりを持った事がないため
"これが人間"なのだと思っていた。

ある日のことだ――
俺が最新の設備の整えられた訓練ルームへ向かう途中の事だった。
俺の目の前に8歳位の男の子が現れた、男の子は泣いていた。
「お兄ちゃん・・・僕のお母さん知らない?」
いきなりの質問だった、そんな事言われても知るよしも無いため、
俺は正直に「知らない。」と答えた。
すると男の子はこう言ったのだ・・・。
「嘘つき。」
意味が解らなかった。
嘘つき?いつ俺が嘘をついたんだ?
ふと男の子の顔を見ると、男の子の涙はもう無く、ただ
殺気に満ち溢れた表情で俺を睨んでいた。
「・・・"人殺し"・・・。」
あぁ・・・繋がった
全ての筋が通った
何故俺は嘘つきと言われたのか
何故俺が人殺しと言われたのか・・・
時間は2週間前にさかのぼる――

世界の声を聴きたくない

続きはまた出します。
雑ですがここまで見ていただきありがとうございました。

世界の声を聴きたくない

母を6歳にして亡くした主人公粟崎 利乃【あわざき りの】は、母が亡くなったことをきっかけに全ての感情を失くしてしまった。 だが、利乃は中一の春に一つの感情を取り戻す― それは”友を思う優しさや喜び”だった… その感情を思い出させた人物、それは、幸本 由斗【こうもと ゆうと】 ごく普通のどこにでもいるような明るい青年だった。 由斗には多くの友人がいて、親友もいる。 利乃はいつか俺も由斗の親友になりたいとひそかに思うようになっていた。 そして、由斗は一つ誰にも明かしていない秘密があった… それは、幼いころのある小さな一つの事件にあってからの事だ ”不思議な能力”…と言ってもいいだろう 利乃はその不思議な能力に引き寄せられたのか、はたまた偶然か… ―これは、ある殺し屋の家族とある日突然不思議な能力を身に付けてしまった笑顔の絶えない明るい少年を描いた現実にありそうでない話―

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-03-21

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