サラリーマンザイ
「ついこの間まで、寒い寒いと思ってたのに、急に暑くなってきたな」
「そうですね。特に課長なんか、直火焼きですもんね」
「そうそう。直射日光が地肌に直接って、おいっ!」
「すいませーん」
「まったく、今時の若い者は目上の人間を敬う気持がない。わしらの若い頃はな」
「あ、そういうの、大丈夫です」
「おい、大丈夫って言葉の使い方が変だろ。ノーサンキューの意味で使うんじゃないよ。まったく、最近の」
「ホント、大丈夫ですから」
「何だ、少しは先輩の話を聞けよ。おまえだって、来月、人の親になるんだろ」
「エッヘッヘー」
「急にデレデレになったな。名前はもう考えたのか」
「それがまだなんですよー。カミさんが妙にこっちゃって、姓名判断がどうのとか言い出しまして」
「何なら、わしが」
「あ、大丈夫です」
「だから、その言い方は。まあ、いいか。今は字画と生年月日を入力すると、自動的に運勢を判断するサイトとかもあるしな」
「そうなんです。それから、干支も気にしてましたね。でも、考えてみると、干支って変ですよね」
「何がだ」
「ほら、ネ、リス、トラ、ウ、タツ、ミって、どうしてタツだけ架空の動物なんでしょう?」
「ぶるぶるっ、何だか悪寒が走ったぞ。今、何て言った」
「ですから、どうしてタツだけ架空の動物なんでしょう?」
「その前だ!」
「はあ、ネ、リス、トラ、ウ、タツ、ミ、ですか」
「ううっ、寒気がする。だいたい、リス年なんかあるかよ。ウシ年だろうがっ!」
「そうでしたっけ。まあ、姓名判断もなんですが、どうせなら、みんなが驚くような名前にしたいんですよね。例えば、ギネスに載るような長い名前とか。ほら、昔話にあったじゃないですか」
「昔話って?」
「ものすごく長い名前の子供の話ですよ。えーと、ジュテームジュテームだったかな」
「フランスかっ!そりゃ、じゅげむじゅげむ、とかいう話だ。落語の話さ」
「そうそう。落語でした。でも、あんまり長い名前は不便かなあ。それより、光ってる名前がいいかな」
「おいおい、光ってる名前って、『宇宙』と書いて『そら』と読ませたり、『火星』と書いて『じゅぴた』と読ませたりするようなことはやめとけよ。そもそも、火星ならマーズだろう」
「あ、でも、苗字にもそういう変わった読み方をするのがあるじゃないですか。小鳥が遊ぶって書いて『たかなし』さんとか、数字の一だけ書いて『にのまえ』さんとか」
「まったく、そういうムダな知識はあるんだな」
「だって、面白いでしょう、トンチみたいで。会社の役職だってそうしたらいいと思いますよ」
「役職をどうするんだ」
「『部長』と書いて『たぬきおやじ』と読ませるとか、『社長』って書いて」
「『わからずや』と読ませるとかって、おいっ!」
「あ、大丈夫です」
(おわり)
サラリーマンザイ