こんな異能力過ぎる学園生活をエンジョイしていいのだろうか

こんな異能力過ぎる学園生活をエンジョイしていいのだろうか

最近書き直しを始めました
混乱を招いていしまい申し訳ございません

他サイトの方にも同じ内容を転載していますので、どうぞそちらでも閲覧してくださると嬉しいです。
ちなみに「小説家になろう」です

『こんな物語を初めていいのだろうか』

『こんな物語を初めていいのだろうか』

ジリリリリリ!!
頭の中を揺らす様に、目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く。
ベッドのすぐ隣にある勉強机に手を伸ばす。
そして目覚まし時計を止めようとしたが
「あ…あれ?」
いつもの所に目覚まし時計が無い。
「ど、どこやった…け」
仕方なく目を開けて周りを見渡すと、少し離れたクローゼットの上に置いてあった。
徐々に頭が覚醒しだして思い出す。
二度寝しないよう、昨日の夜にいつもの場所よりも遠いところに目覚まし時計を置いたのだった。
これ以上手を伸ばすとベットから転げ落ちる気しかしないから仕方なくベットから立ちアラーム音を止める。
「ふわぁぁ………眠い……」
大きな欠伸をしながらカーテンを開ける。
朝の日差し、と言うべきなのかサンサンと眩しい陽の光が目を焼き付ける。
階段を降りた後、1階の洗面所で顔を洗いながら寝癖を治す。
思ったよりも髪がすごいことになっていた。
某少年向け雑誌の超サイヤ人と言えば分かるだろうか。そんな感じだ。
朝食のトーストを食べながら天気予報を見ると晴天らしい。
入学式に晴天とは、神様にも愛されてるもんだ。
「そうか……今日から高校生か……」
自分の口から実際に声に出してみると、意外と実感の湧くものだ。
今日から高校生、夢に待った高校生活と考えるとウキウキしてくる。
「入学式だし……テレビでやっていたけど、早めに行くと友達ができるんだっけか……」
昔テレビでやっていたことを思い出し、身支度を開始する。
昨日の内に大体準備しておいたお陰で特に何もすることは無さそうだが、
おっと、忘れ物だ。
中学校の生徒手帳だ。これを提示する事によって本校に合格したことを証明するようなもんだ。忘れてはいけない。
名前の部分には大きく
小鳥遊(たかなし) 零次(れいじ)
と書かれている。
自分でも小鳥遊という名字は珍しいと思う。少なくとも、付近の学校では俺の家族以外見当たらない。
「これで準備はいいな、よーし」
大きな声を出し、気合を入れて家を出る。
そこには、妹の(みなと)が庭を掃除していた。
「あ、お兄ちゃん。もう出るの?入学式だから8時からだよ」
「ああ、知ってる。早めに行っとこっかなって」
うちは仕事の関係で母と父が海外に出勤しているため、家事は妹がすべてやってくれる。
俺も家事の一つや二つ位できるのだが、湊曰く、私がやりたいからやってるだけ、だそうだ。
いい妹を持ったと感動する。
湊に手を振られながら家を出る。
学校は比較的近いので歩いていくことにしている。裏路地の近道もあって、急げば5分もあれば学校に着くくらい近い。
まぁ、だからこの高校を選んだわけなのだが
学校の校門に『入学式』と大きく書かれた看板を見て、緊張と同時に今日からこの高校に通うんだなと心の何処かでワクワクしてる自分がいる。
早速、校門を通ろうかと思ったら
「ん?なんだあれ」
ガヤガヤと校門を通り過ぎて直ぐら辺に人集りが集まっている。
後から背伸びして見てみると
「おい、新入生共この学校に入るなら金払え」
どこの昭和のヤンキーだよ、と言わんばかりの理不尽なことを発している人がいた。
いわゆう不良か、中学の時はあまりいなかったし、縁もなかったら少し感動しながらビビる。
カツアゲとかそんな面倒なことするならバイトしたほうがいいと思うんだけどな〜
てか先生方は何も注意しないのか、監視の目が行き届いてないのか
まぁ、変に思われないように安かったら払っといた方が身のためかもしれない。
どうせ後で先生方に知れ渡って帰ってくるだろうし
「一人五千円な〜」
そんな金入学式に持ち歩いてるわけないだろ!!
さあ、どうしようか。門を通りたい、だけど持ち合わせてないし、五千円なんてあっても払いたくない。
「あまり使いたくないんだけどなぁ…」
人集りから離れて、人影がない所へ移動する。
大きく息を吸い、息を止め歩き出す。
そして、堂々と人集りの間を抜けていく。
誰にも俺の存在は気づかれない
1人も俺のことを見ない。いや、
見れないの間違いだ。

なぜなら、今の俺は透明人間だから

何が原因でこうなったのか分からないが、俺は生まれつき息を止めている間は誰にも存在が気づかれないらしい。
いや、どちらかと言うと体が透明になっている、と言った方が正しいのか
物や人には普通に透明状態でもぶつかるし
ぶつかれば、何かがいるとバレる可能性はある。
だから余りこういう人気のある場所では使いたくなかったのだが、今回のような騒動が起きれば使わざるを負えないってわけだ。
周りに人がいないのを確認しながら、息を吸って吐く。
昔からこの能力は使うから、意外と肺活量には自信がある。まぁ、中学校の時は別に吹奏楽部にも特にこれといった部活には入ってなかったのだが
歩いている内に、今日から1年間お世話になる教室の前に出る。大きく息を吸って吐いて、緊張をほぐしながら扉を開ける。
扉を開けた途端、一人の女の子と目があった。巨乳だ。ボインちゃんだ。
変な目で見られないうちに目線をそらす。
「やあ、君もお金を払ったのかい?」
「え?」
他の男の子に急に話しかけられた。
ブレザーが良く似合う、爽やか系のイケメン君だ。
いかにもスポーツやってます、みたいなスマートな体型ながらも、ガッチリしている節々が見える。
「あ、うん」
質問に対して答える。
払ってないと言ったらどんな目にあうかあったもんじゃないから、適当に話しをつけておいた。
自分の生まれつきの能力の事もバラす予定はないし。
「災難だったよね、まさか入学式早々あんなのに絡まれるなんて」
イケメン君がはにかみながら喋る。
災難だった。僕もそう思う。誰でもそう思う。
「あ、急に話しかけてごめんね。僕の名前は『桜庭(さくらば)(しゅん)』」
「ああ……大丈夫、俺の名前は小鳥遊零次」
「零次君か!いい名前だね」
「そっちこそ舜なんて、いい名前じゃないか」
「なんの話をしてるの?」
お互いの名前を褒め合っていたら、その様子を見かねてさっき目が一瞬合った巨乳の子が話しかけてくる。
おっぱいに目が行き過ぎないように注意しながら話そうとしたら
舜が先に答えてしまった。
「自己紹介していたんだよ」
「ふーん、そうなんだ、舜」
「あの……二人はお知り合いで?」
とても初対面の呼び方だとは思えなくて、不意に聞いてみた。
「うん、同じ中学校でね」
「ま、そういうこと」
「ほら、自己紹介したら?」
イケメン君が巨乳の子に向かって自己紹介を促す。
巨乳の子は頷き、胸に手を置いて
「私の名前は『 目黒(めぐろ)(なぎさ)』よ」
と、自信に満ち溢れた目で自己紹介した。
ダメだ。巨乳に目がいって、話が入ってこない。

「ちょっと!話聞いてる?」

巨乳の子……渚が腰に手を当て、そのたわわに実った果実を押し出し上目遣いで少し怒り気味に聞いてくる。
まずい!このままではおっぱいに目がいってしまう!!
必死に目を逸らしながら、それっぽい返事を返しておく。

「ん?零次君 渚 時間だよ」

キーンコーンカーンコーン

大きなチャイム音の後に教室はより一層ざわめきを広め、急いで移動を始める生徒が見え始めた。

暑くて脱いでたブレザーの上を急いで着ながら、ふと思ったこと聞いてみる。
この学校は学ランじゃなくてブレザーだ。俺的には、ブレザーの方が好きだから良かったが。舜や渚は、どうなのだろうか

「舜君ってブレザーと学ランどっちが好き?」

「んーー僕は、ブレザーの方が好きかな……学ランはあまり好きじゃ無いんだ。堅苦しいっていうのかな?」
「後、僕のことは呼び捨てで良いよ」

舜はブレザーの方が好きらしい。
理由は俺と同じで、親近感が湧いてくる。

「渚……ちゃんは?」

「女子はあんまり変わんないから、別にどっちでもいいんだよ」

「そっか、あんまり変わらないもんな」

「私も呼び捨てでいいよ、高校になって『ちゃん』付けは、引かれるよ」

クスクスと笑う渚、笑うたび胸が震えている。ヤバイ。
そんな話をしていたら最後の方になってしまった。
急いで入学式の会場である体育館に行こうと、教室から出ようとしたら、渚に手を引っ張られよろめいた俺に耳打ちをしてきた。

「零次君っておっきい方が好きなんだね」

「え?」

「ふふ、じゃ行こっか」


……なぜバレた!?


目線や喋り方には物凄く気をつけたつもりだ。
『心』の中でしか思ってないはずなんだが……
あれか、昔から見られていたから少しの目線や態度でも気づくとかか。
いや、それでも初対面の男に対してそんな確証が持てると思うか?
スッキリしない気持ちで体育館に着き、学校の校歌と共に入場する。

椅子に座って後ろを見渡すと大勢の人が居た。
父親と母親らしき人が2人組で座っているところを見ると、息子または娘の晴れ舞台を両親が見に来てるところが多いらしい。
俺の親は海外で働いているから親はいないのだが

俺の目線に気づくとニッコリと笑って、手を軽く振ってくれた妹がいた。
普段こういう場には小学生は親同伴とかじゃないと入れないと思うのだが、家庭の事情を話せば案外どうにかなるものだな。

「ん、舜の親は来てるの?」

偶然にも出席番号がいい具合に重なり、隣の席になった舜に聞いてみると

「あぁ、壁際の1番前にいるカメラを持った母と父だね」

舜が指差した方向には、黒いスーツに赤いネクタイをした男性と同じような服を着た女性がいた。
遠く目で見てるからなのか、そこまで舜と顔は似ていない気がする。
悪い話、舜の顔は凄くイケメンなのに父親、母親の顔はそこまで綺麗とは言えない顔だからだ。
近くで見ると案外違うのかもしれないし、祖父母の遺伝かもしれない。
それに、本人に聞くのは失礼気周りないから流しておこうと思ったが

「まぁ、血は繋がってないんだけどね」

まさかの自分から言ってきたパティーンだ!!
なんだ、俺が思ってることも君は分かるのか
君もエスパーか、あの巨乳の子……名前なんだっけ
そうだ、渚と同じエスパーか!
ん?こっちをチラチラ見てた渚が凄くニヤつき始めた。
怖い、怖いよ。まさか今の俺の心もバレてるの?
まさかそんなわけ…

不意に妹の方を見ると、ずっとこっちを見て微笑んでいる。
なるほどな、俺が入学して早々友人と呼べる物を作ったのを見て、喜んでいるのか
オカンみたいな妹だなぁ、と再認識する。

「零次君って妹がいるんだね」

「あ、うん………って俺喋ったっけ?」

さっきまでずっとこっち見てニヤニヤしていた巨乳の渚が、近寄って話しかけてきた。
てか、俺は妹がいるなんてまだ誰にも話してない気がするのだが…。
俺と妹の共通点って髪の色くらいだと思うのだがなぁ。

「ほ、ほら!顔似てたから」

渚はそう言い、笑い出す。
ははは、こいつ目が笑ってねぇや
絶対に何かを隠しているなこれ

「そ、そうか……目いいんだな」

しかし、深追いすると危険な香りがしたから詮索はしない。
どうせ後で聞き出せばいいし
本当に顔が似てる、とか、たまたま言ったのかもしれないしな

「一年生準備してください」

引率をしていた先生がマイク越しに1年生全員に言う。
準備が出来たのであろう。立って話していた生徒も自分の席に戻り、背筋をピーンと伸ばした状態になる。
みんながみんなその状態になるから、女子は誰がおっぱいが大きいかが明らかになる。
やはり渚は1学年で見てもトップレベルの大きさらしい。
揉みたい
おっと本音が…



自分の中で巨乳について考えている内に入学式は終わった。
なんてこった、校長先生の話やPTAのお偉いさんの話をおっぱいの妄想で終わらしてしまったじゃないか。
まぁいいや、どうでもいいし

「おーい、舜〜」

「舜……ゴニョゴニョ」

「……そっか」

入学式も終わり、体育館から出たことでとりあえず話しかけようと思ったら、舜と渚がこっちを見てコソコソと話しているではないか。
なんだ、何を話してるんだ

ま、まさか!?俺の巨乳好きのことを!?

「零次君」

やめろ!すまん!渚すまん!
謝るから!謝るから許して!
エッチな目で見てごめんなさい!!

「零次君もこっち側の人間だったんだね。引かれ合うと聞いたけど本当に……ね」

「へ?」

予想外のことだったので間抜け声を出してしまった。
こっち側とはなんのことだろうか、まさか!?
舜も巨乳好きなのか!?
巨乳好き同士仲良くしようって訳か!同志よ!

「あー違う違う舜は特に何も性癖無いし、そこら辺のおっぱいで群がるゴミと違って私を性の対象としても見てないし」
「てか本当に性欲があるのかってくらい…」

ゴ、ゴミ!?
ゴミと思われてたのか俺!?

「ふふふ、違うよ、零次君はそう思ってないよ」

渚が爆笑しながらサラッと俺の心を読んでくる。
ねぇ、マジで怖いんだけど
会ってからずっと俺の心の中が筒抜けみたいになってるんだけど

「うん、筒抜けだよ」

案の定そうだった。
…って、え?

「ええええぇぇーーー!?!?」

「そ、そんなにびっくりするかなぁ、私達も零次君と同じ異能力者なんだけどなぁ」

「ん?私『達』ってことは……」

「うん、僕も異能力者だよ」

「まじかよぉぉぉ!!」

まさか俺みたいに生まれつき謎の能力を持っている人間が他にいるとは。
もう一人で(家族除く)この能力について、自分がおかしい人間ではないのか、と悩みを抱え込まなくていいなんて……。
他人にこの苦労をわかってくれる人がいるなんて、凄く、凄く凄く嬉しい。
自然に顔がニヤついてくる。

「えーーと、渚、今彼はどんなことを思ってるのかい?」

「うん、すごーく感動しているね」

「そっか、まぁ僕も最初に渚に会った時はそうなったよ」

そうか
彼らは中学校からの知り合いだから、少しは慣れているのか!
いいなぁーー!!
俺も中学の時からこの変な能力を持った人と会いたかったー!
中学のスクールライフもっとエンジョイしたかったー!!

「ふふ、零次君って考えてること面白いね」

「そ、そうかな」

「面白いよ!今まで見てきた人達の中で1番考えてることが面白い」

なんか褒められてるのか貶されてるのか分かんねぇなこれ。
でも、面白いと言ってくれてるから褒められてるんだろう!!
やったー!入学して早々女の子に好印象だー!
待てよ
これも見られてるんだよな?え、ちょ

「ブフォ!」

「うわ、大丈夫かい渚。はいハンカチ」

渚が吹き出した。
そ、そんなに俺の心の中は面白いのか…
舜がハンカチで渚の口を拭いている。
これ、傍から見たら完全にカップル…というよりは幼い妹を持った兄妹だな。

「そういや、まだお互いの能力を把握してないよね」

舜がハンカチを折りたたんでポケットに入れながら、話す。
そのハンカチでナニをする気なのか…
いや、変な考えはやめよう。渚に見られたら死ぬ

「ん?どうしたの?零次君」

渚が冷や汗かいている俺の顔を下からのぞき込んでくる。やめろ、上目遣いを使うな惚れてまうやろ

「なんでもないよ!因みに俺の能力は息を止めている間、身体と身体に触れている物を透明にできるんだ」
「一応、自分以外の生き物を透明に出来るっちゃ出来るけど、あまりに大人数になると段々透明度が下がってくるんだよね」

「透明化か〜便利だね」

「いや、これのせいで水中呼吸が最悪だよ」

俺の能力を律儀に説明したわけだが。
舜や渚の能力とはどういうものだろうか、渚は大体予想できるが

「見えるからわかるよ。零次君の予想通り、私の異能力は心を読む力だよ」

うん、予想通りだ。
てか逆にここまで人の心を見て、それ以外だったらの怖いわ。
舜はどういう異能力だろうか

「舜はどういう異能力なの?」

「僕は1日1時間だけ光の速さ、つまり光速移動ができるんだ。他にも色々と制限はあるけどね」

「一時間もか、凄いな」

「いや、零次君の方が凄いよ!透明人間なんて!僕の光速移動なんて急ブレーキできないし、全然アレだよ」

「俺のも結構役に立たないけどね」

1度だけ女子更衣室を覗こうとしたが、ずっっと息を止めてなければいけないのでやめた。
あ、渚がジト目でこっちを見てくる。
心の中読まれたな、ごめんなさい違うんです。

三人で雑談しているうちに下校時間になってしまった。
昔から思う。楽しい時間はすぐに経ち、楽しくない時間は長く感じる。
人間そういうものなのだろうか、舜は陸上部を見に行くと言って、渚は電車で帰ると言って急いで帰ってしまった。
1人でのほほーんとゆっくり歩いていると

校門付近に4.5人の人集りができている。いや、人集りという程でもないのか。
あれは…

「や、やめてください」

「お嬢ちゃん……金を払わなきゃ通してあげられないんだよねぇ」

朝にカツアゲまがいの事をしていた先輩とその仲間と思わしきグループが、一人の女の子を囲んで逃げられないようにしている。
なにこれ、入りだけではなく帰りまでお金払わなきゃいけないの?
と、それは置いといて、絡まれている女の子の服装を見る限りこの学校の生徒らしい。

「そ、そんなの……聞いていません!」

女の子が強引に逃げようとしたら、男の人に押さえつけられて転んでしまった。

「きゃっ!」

「お金がねぇなら身体で払ってもらうしかねぇなぁ!」

「朝にボインちゃん捕まえれなかったからムラムラしてんだよなぁ!」

「こいつまわすべ」

やべーよ!
絶対ボインちゃんって渚だろ!
いや、それどころじゃない、女の子が人気のないところに連れてかれそうになっている。
女の子の必死の抵抗も小柄の女の子一人に対して男数人係にならどうしようもできない。

うわぁ、あんまりああいうのには関わりたくないんだけれども男零次
困っている女の子を助けるのは当然男の役目である。

人気のないところに行くのを後からバレないようについていき、路地裏で止まる。
よし、やるか
大きく息を吸い、止める。体を透明にして先輩の近くに行きとある行為をした。

次の瞬間その先輩は背中から転んだ。そう、俺が何をしたかというと……それは!


ひ ざ カ ッ ク ン !!


昔からこういう時は透明になって膝カックンをしている。そしてこれがものすごい破壊力を持つ。

「だ、だれだ!?」

「ほい」

「うわっ!」

1人目に続いて2人目.3人目と続いて膝カックンをしていく。
立ち上がろうとしたら肩を抑え込む。こうしていれば相手は恐れをなして勝手に逃げていくのだ。

「ま、こんなもんか」

手をほろいながら場を離れようとする
あまり長居すると俺の息が持たないのと、この何が起こったか分からない女の子にバレてしまう可能性があるからだ。

「あ、あの……だれ…ですか?」

「えっ!?まさか……いや透明か」

女の子が見えてるような聞き方をするから驚いた。
自分が知らない間に呼吸をしてしまったのかと思った。

因みに息を止めながら声を出すのは正直辛いと思うが、俺はもうコンプリートしたからそうでもない。
それに声を出しても意外と気づかれないもんだ。
そこんところにも能力が行き届いてるのだろうか

ま、この子には悪いが無視して家に帰らせてもらうことにしよう。
透明化の能力はバレたくないし

スッ

「えっ?」

急に制服の袖を掴まれた。
え、は?
透明なのに、絶対に気づかれないはずなのに。
何故?
女の子の顔を急いでみると、オドオドした表情で居た。
まだ俺だとバレていない。
俺がここに居るとはバレていない。今ならただの勘違いで終わる。
俺は袖を掴んでいた女の子の腕を振りほどき、そのまま走って家に帰った。

ぜぇ…ぜぇ…

「どうしたのお兄ちゃん?」

乱暴に玄関の扉を閉めて息を荒らげていれば、流石に心配してくるか
湊にこれ以上心配させるわけにはいけないので、隠しておこう。

「いや、なんでもない」

俺の様子と言動を見て、妹は何かを悟ったのか分からないがそれ以上何も聞いてこなかった。
とても助かった。
俺自身、初めての出来事だから驚いてるから、湊にわかりやすく説明できる自信がないからだ。

「お兄ちゃん、ご飯できてるから一緒に食べよ」

妹は何も言わず、それだけ言って部屋に戻って行った。
走ったらお腹が減ったし、直ぐにいただくとしよう…。

『こんな俺が女の子を助けていいのだろうか』

朝になる。
小鳥のさえずりとともにうるさい目覚まし時計が鳴り、ベットから体を出す。
目脂を手でこすり落としながら、階段を降り妹が作ってくれておいた朝ごはんを食べる。

「目玉焼きとソーセージか……」

どこの食卓でも一度は食べたことがあると思う一般料理だ。
妹が作る料理はどれも美味で、妹をお嫁にもらう奴は運がいいと思う。
まあ、生半可な奴には渡さないがな
兄の俺を倒さねば妹は渡さんみたいなゲームみたいな展開だな。はは、笑える。

時間に余裕があったからゆっくり食べてたら
真っ赤なランドセルを背負って、鼻歌をしながら妹が自分の部屋から出てきた。

妹は小6だ。小6でここまで家事ができると思うと本当にすごいと思う。反面申し訳ないという気持ちもあったりもする。
湊を待たせるわけにいかないので、急いで制服に着替えて家を出る。
小学校まで妹を見送った後高校に行く、門には例の先輩方はいないようだ。

流石に昨日あんな不可解な事が起きたら同じことはしたくないだろうな
まぁ、数日経ったらまたカツアゲだの何なのやるんだろうが、少しでも懲らしめることができたなら良かった。
そう言えばあの子は無事に帰れただろうか。

「おはよう零次君」

「あ、おはよー」

下駄箱で靴を履き替えてると舜が後ろから挨拶をしてくれた。
俺は家が近いから結構ギリギリに学校に来るのだが、舜って真面目な雰囲気あるから早めに学校来てると思ったらそうではないのか

「舜は陸上部の朝練見に行ったんだよ、おはようレイジ」

「なるほどねー、ってなんでそんなに片言なの渚」

昨日は普通に零次君って呼んでくれてたのに、急にカタコトで呼び捨てだぜ?
別に呼び捨てでいいけどビビる。

「零次君!って、舜と言い方同じじゃわかりにくいでしょ?」

「ま、まぁ…そうだけど」

渚は誰に気を使っているのだろうか。
なんだ俺らは声で判別できるのだが
文で判断…?めんどくせぇからいいや

「ギリギリセーフ、だね」

HR5分前に教室に入る。
まじでギリギリだな、入学式抜いての初登校でこれとか笑えてくる

「一時限目は自己紹介だ」

HRが終わり、1時限が始まったがまさかの自己紹介
確かに大切だが、高校でも全く同じことをするとは思わなかった。
普通の授業でも、初日は教科書の目次などをザッと話すだけだと思うけど

次々と出席番号順に自己紹介が回っていく
なんかみんな一発芸みたいなのしてるなぁ…
ペン回しとか、芸人のギャグとか良くやるな
僕の一発芸は透明化です!……なーんて言えないし、適当に流しとくか

因みに俺の出席番号は8番だ、7番が舜でとてもいい席である。
うちの学校は少し違っていて、生年月日や五十音順じゃなくて、最初から適当に席が決まってるらしい。
これ絶対先生達分かりにくいでしょ、学校の方針がイマイチ分からん。

そう言えば俺の隣の席の女子がまた来ていないな。
自己紹介回ってきそうなのに、大トリを任されるが1番困るだろうなぁ。

「次の人、えーーっと『ことりあそび』?」

「あ、『たかなし』です」

「ああ、すまない。『小鳥遊(たかなし)』順番回ってきだぞ」

俺の順番が来た。
昔からたかなしと最初に呼ばれたことが無い
みんな最初は『ことりあそび』といってしまうらしい。
一発芸はハンドスプリングをしておいた。
どうだ!身体能力は意外といい方なんだ!

ぜぇ…ぜぇ…

めっちゃ息切れした…
男子勢の自己紹介が終わった後、女子勢の自己紹介が始まる。

うわぁ!渚の自己紹介でクラス大半の男子が、おっぱいに釘付けになってるー!!
……もちろん俺も
うわぁ!クラスの女の子も釘付けになってるー!!
釘付けの内容が恨みしか篭ってないけど

渚の自己紹介が終わった。
次の子は…俺の隣の席の子か、まだ来てないようだが飛ばされるのかな?

ガラガラ

「す、すみません…遅れました」

遅刻判定だが自己紹介にはギリギリ間に合ったようだ。
大トリを背負わなくて良かったな
ん、あれ?どっかで見たような気がするな…

「自己紹介、丁度お前の番だぞ」

「は、はい!」

先生の誘導で元気のいい返事をしたその子は俺の隣の席に来て手早く準備をし、
トテトテと急ぎ足で前に出て自己紹介を始めた。

空野(そらの)恵梨香(えりか)です」

なーんか、お嬢様を連想させる名前だった。
今時エリカという名前は珍しいな
小鳥遊という苗字も珍しいから人のこと言えないけど
ん!?渚の眉がピクっと動く!
今まで大勢の人の心を読んできた渚が驚くとはどんな事を思ってるんだ!?
まさか…あの子も異能力者!?

「あの子恋してるわね」

全然違かったー!
予想が大きく外れて机に頭を打ち付けた俺を横目で見ながら渚が必死に笑いをこらえている。
てめぇ絶対狙ったろ

自己紹介が終わるとその子は席に座った。
事情を聞いてなかったから仕方ないが、一発芸の時に顔を真っ赤にしてあたふたしてる様子は面白かった。
ポケット中にたまたま入ってたらしいあやとりで回避してた。
あやとりとかめっちゃ懐かしいな
俺も子供の頃父親に教えて貰ったなぁ

「よろしくね恵梨香さん…でいいのかな?」

「あっ……こちらこそ…その…よ、よろしくお願いします」

「あやとりできるなんて凄いね、俺も小さい頃よくやってたけど忘れちゃったよ」

渚には爆速で変態なことを気づかれたが、心読む、というイレギュラーな事がない限りこの子にもバレるわけないから爽やかな青少年を演じておこう。

「あ……あの、昨日は……ありがとうございました」

顔を下にしてモジモジしながらその子は話す。
頬っぺが真っ赤になりながら言うもんだから、大事なんだろうが俺は全く覚えてない。

「え?昨日?なんのこと」

「あれ…人違い?いや、でも……確かに……あ、すみません……」

「いや、大丈夫だよー」

昨日の事は忘れることにしているんだ(キリッ
人間先の事を考えてないと進めない!!
なーんてそんなことは冗談で昨日なにかなかったか思い出す。
いや、普通にあったわ絡まれた女の子を助けたことだ。
ん、まさかこの子か!?
てかこの子やっぱり俺のこと見えてたのか!?
操作しているんじゃないかと思う時もある。
モヤモヤしながら1時限目が終わる。

二時限目から四時限目まで教科書の目次を確かめるだけだったから、気持ちいい日光にあたりながら睡眠をとっていた。
舜がいい壁になって先生からは気づかれない。もちろん渚の巨乳も壁になっている。

「誰の乳が壁になってんじゃい」

教科書の角で渚に小突かれた。
確かに壁ではなく山だったな
大きな山が2つ、エベレスト山もびっくりだ

渚に睨まれた。
これ以上はやめとこう
昼の時間、みんなが売店やらコンビニやらで買ってきたパンなどを買って食べている中
俺は湊が作ってくれた弁当を食べる。
うわぁ…完全にキャラ弁だよこれ
高校生だからキャラ弁はマジ勘弁だよ、妹よ…
てか無駄にクオリティ高いなおい
ピカ○ューをオムライスで表現するとか天才かよ

「恵梨香さん、一時限目に言っていたお礼ってどういうこと?」

ワンチャン俺じゃない可能性もあるし、モヤモヤした感じで終わるのは気持ち悪いから聞き返すと

「あ、いえ……別に……大丈夫ですので」

「えーー気になるから言ってよーー」

「あ……はい、そこまで言うなら……」

この子押しに弱いな

「昨日、おかしな人達に絡まれていた時に誰かに助けてもらったんです」

ん?

「誰かに助けてもらったというか…なんて説明したらいいか分からないんですけど…」

「うん、それで?」

「助けてくれた人の袖を掴んだ時に、私の手についてた泥があなたの袖についてたから…」

急いで袖を見ると、泥が布に染み込んで見える。
まずい!!ばれる!ばれる!

「ま、まさーか俺がそんな……姿が見えないようなんて……」

「え…?姿が見えなかったなんて…なんでそんな詳しくわかるんですが…?私言ってないですけど……」

しくじった!!
舜!助けて!

舜の方を見て話を会わせろと言わんばかりの目で合図する。
舜は目を合わせ任せろ、と瞬きをする。

「そうだよ、零次君はあの日すぐ帰ったしね」

ナイスフォロー

「で、ですよね……えへへ」

危ない危ない、バレるとこだった。
やっぱりそうだ。この子、昨日俺が不良の先輩たちから下校中助けてあげた子だ。

「で、でも凄いよね。その、なんだろう透明?な人をよく触れたね」

「……生まれつきなんですけど……周囲の気圧の変化敏感なんです」

「す、凄いね!」

渚!俺の心を読んでるなら、アピールしてくれ!
まさかのらこの子は異能力なのか!?
そうなら右乳を揉ませてくれ!違うなら左乳を揉ませてくれ!

バシーーーン!

ビンタされた

「え?え?」

「何があった」

恵梨香と舜が混乱状態に陥っている。
無理もない、そりゃそうだ。俺と渚しかわからないのだから。

「あ、ごめんなさい。蚊が止まっていたから……」

「お前……容赦ないな」

「ウフフ…」

次はないぞみたいな顔でこちらを見てくる。
舜はなんとなく理解したようだ。恵梨香はあいからわず戸惑っている。
まぁそうだよな、舜が異常なだけだ。

ん!?お!渚が右乳を少し当ててきた。
なるほど、誘っているのか!

ゲシッ!

「ったぁ!」

「ふぇっ!?」

スネを蹴られた。
咄嗟に声が出た。それに恵梨香が反応する。
次はないよねってさっき言ったはずよという顔で見てくる。
ごめんと心の中で連呼すると、ため息をついて目を瞑る。どうやら許してくれたそうだ…

最後の授業が終わり、まだ部活に参加していない1学年は早く帰ることができる。

結局、恵梨香には何も言えないまま家の帰路に付いているのだが、なんか前に見たような光景が少し遠くに見える。

「この前は訳のわかんねぇが起こったが、今日こそは付き合ってもらうぞ嬢ちゃん」

「ま、またあなた達ですか…!」

恵梨香がまた絡まれてるぅー!!
やっぱり昨日の恵梨香だわこれ!
また助けなきゃ!いやでも、今度こそ助けたら恵梨香に確信を持たれちゃう…どうしよう

「まぁ、仕方ないか、助けるためだし」

息を大きく吸い、止める
体が透明になったことを確認し不良先輩の近くに行く
ずっと不安そうで、もう今にも泣き出しそうだった恵梨香の顔つきが変わる。
やっぱり俺の存在に気づいてるな
しかし、今は一刻を争う状態とりあえず膝カックンを食らわせる。

「またかぁ!」

「どこだ!どこにいやがる!」

「いたっ!」

あ、やべ。透明化解除しちゃった

相手が振り回した鉄パイプにぶつかった衝撃で息止めを解除してしまった。

「あ?」

「……」

恵梨香の手を掴んでダッシュして逃げる。
恵梨香は状況をイマイチ理解出来ていない様子で、頭に?マークを浮かべながら俺のされるがままに走り出す。
もちろん相手方の人達も追いかけてくる。

「やべぇ!とりあえず学校に!」

先生方やほかの先輩、とにかく人が多い学校に向かって走る。
恵梨香の足は遅く、追いつかれそうになりながらも強引に手を引っ張って学校まで逃げる。
しかし、人気は全然なく運悪く逃げた先は体育館裏だった。

「仕方ねぇ!」

俺はそう呟き、透明化を開始する。
俺の透明化は触っている物は全て透明化を共有できる為、恵梨香の口を塞ぎながら共有する。
走った後で息切れしているから、そう長くは続かないことは百も承知だが透明化して頃を見計らうしかない。

「どこに行きやがった…!?」

「足跡を見るにここら辺だと思うけどなぁ」

まずい、とても酸素を吸いたい。
早くどっかへ行け!お前ら!俺が死ぬ!!
その時

「なーにやってんのー?」

金髪のいかにもヤンキー風の人が追加で来る。
終わった、ここで新たな協力者とかもう俺の息は続かない。
と、思ってたら

「生徒会だ!逃げるぞ!」

と言い、先輩達が逃げ去る。
せ、生徒会……?この金髪が?
信じられないような目で金髪を見ていると目が合った。
嘘だろ!?オイ!?

「………気のせいか」

と言い金髪もどこがに行った。

「ぷはぁぁぁぁ!!」

マジで死ぬところだった。
酸素が頭に行き届いてなくて、終盤意識が朦朧としていた。
大きく深呼吸をして息を整えていると、やっと状況を把握した恵梨香がこっちを見てお礼を言う。

「あ、あの!助けて下さりありがとうございました」

「ん、大丈夫だよ、困ってたら助けるのは当たり前だしね」

「あ、あの…もしかして昨日助けてくれたのも」

ここで否定するのは簡単だ。
まぁ、恵梨香が信じるかどうかは置いといて俺が否認すれば昨日の件はどうにかなるだろう。
しかし、どうせなら今回の事で俺が特別な能力を持ってることはバレただろうし、もう洗いざらい全て話した方がいいのではないか、と思う。

「……あのさ、もしかして君も異能力者?」

一歩間違えたら厨二病の痛いやつに見られるかもしれない。
しかし、俺が透明かもしれなかったことにあまり驚かないところや、普通の人間なら大気中の気圧に敏感……といえども俺の形までハッキリわかるわけが無いのだ。
ここは賭けに出るべきだ。

「い、異能力者ってなんですか…?」

しくじったァ!!
いや、恵梨香は自分が異能力者って把握してないだけかもしれない。
とりあえずそれっぽい説明をすると

「あ!なるほど!!」

と、納得した様に手のひらに自分の拳を載せて ポンッと音を出す。
そして全てを悟ったかのように急に顔が暗くなる。

「ど、どうした?」

「いや…あの……自分の胸が小さい理由が分かった気がして……」

急にどうしたこの子
確かにな?言ってしまえば渚と恵梨香が隣に並ぶと山と壁だが、そんな気にする必要はないと思うんだがなぁ
てか異能力と胸が小さいってどんな関係があるんだ

「な、何があったのか分からないが胸の大きさは男の評価にはなんら関係ないと思うぞ!俺はそうだ、うん」

なんだこのフォロー
この子はたまたま渚の自己紹介の時にいなかったからこんなこと言えるが、もしもいたら言えなかった台詞だ。
その程度のフォローだ、もはやフォローにすらなってない可能性がある。

「そ、そうですか?えへへ……小鳥遊君にそう言われると嬉しいです…」

「お、おう、そうか」

めちゃくちゃフォローになっていた。
いや、元々フォローのつもりで言ったから良かったんだけどね!?
てかなんで俺に言われると嬉しいんだ?
俺の自己紹介の時にいなかったはずなのに、名前分かるし…
まぁ、分かるのは確認したからだとして、よく一発目から小鳥遊(たかなし)呼びができたなぁ
自己紹介の時にも言ったが、一発目はみんな ことりあそび と言うんだけどなー

「小鳥遊君って目黒さんの胸ばっかり見てるので、大きい方が好みかと思って…えへへ」

バレてたぁ!?
ちょっと待て!天然混じりのこの子が見て分かるって他の人が見たら一目瞭然じゃね!?
俺自身、視線には人一倍気をつけてるつもりなんだけど!

『こんな家に女の子を泊まらせていいのだろうか』

『こんな家に女の子を泊まらせていいのだろうか』

このまま体育館裏で男女二人が雑談していると、良からぬ何かに思われかけないので恵梨香に移動を促す。
恵梨香は俺の横顔を見ながらニコニコしながら横を歩く。
なんだこれ
本人は気づいてないと思ってるのか、不意に恵梨香の方を見ると舜の光速より早いんじゃないかってレベルで目を逸らす。

「恵梨香…さんの家ってどこら辺?一応ついてくいくよ」

今日会ったばっかり……正確に言えば透明化しながら昨日の内に会っているのだが、あったばっかりの女の子の家を聞き出すのは忍びないのだがさっきみたいにDQNに絡まれたら、折角助けた意味がないし女の子を1人で帰す訳にはいかないので付いていこうとすると

「あ……バスに乗り遅れた」

「次の時間は?」

「あの…私の家って特殊な所にあって、1つの時間のバスに乗り遅れるともう無理なんです」

なんてこったパンナコッタ
なんて展開だ。この子どうするつもりだ
てか、そんな遠くなら学校の宿泊施設を借りればいいのに
遠くから通っている生徒は数ヶ月に1度お金を払えば部屋を借りることが出来るのに

「うぅ…どうしましょう」

今にも泣きそう、てか泣いている恵梨香
こんな道のど真ん中で泣かれると俺が悪者みたいじゃないか
どうしよう、この状況どうしよう

「えーと……そ、そうだ、うちに泊まる?」

うわぁぁぁぁぁ!?
何を言ってるんだ俺は!?
入学して2日目で女の子を家に泊める!?
頭おかしいにも程があるだろ!バレたら停学だぞ!?
よし、やっぱり今のは取り消そう。うん。

「いいんですか…?」

えぇ……
まじかよ、確かに血迷って言ってしまったのは俺だがマジで泊まる気か
ホテルというか、お金は最低限しか持ってなさそうだし俺の家は学校から近いから登校の面でも大丈夫そうだがいいのかそれで

「他に行く宛がないので……お願いします」

ペコリ、と丁度90度の礼をされる。
1泊だけなら許容範囲か?と思いながら渋々オーケーすることにした。
まぁ、言い出しっぺは俺なわけなんだが頼る宛が無いとはいえ好きでもない男子の家に泊まるのは怖くないのか
てか好きでも無理だろ…
2日目だぞ、あってまだ24時間も経ってないぞ


「ただいまー」

「おじゃましまーす…」

「お兄ちゃん、今日は遅かっ……」

カラン、妹がエプロン姿で出てきた訳だが
手に持っていたオタマを落とす。オタマには白色のドロっとしたのがついてる。なるほど、今日はシチューかやったー大好きわーい
シチューが付いたオタマとか落としたらシミになっちゃうだろ?気をつけろよ湊……

「はい、湊さん。これには訳があります」

湊が何かを喋る前に湊の肩を掴み奥の部屋に行く。
恵梨香は頬をあげた状態でポカーンとしてる、そりゃ何が何だか分からんよな、うん。
湊には異能力のこと、そして今日何が起こったかを細かく教える。
うーん、と少し考えたあとため息をして承諾してくれた。

「ほっへもほいふぃでふ!」

恵梨香がシチューをほうばりながら喋る。
ちょっと何言ってるか分からないが、褒めてくれてるんだろう。
良かったな、湊

「ありがとうございます、恵梨香さん。お兄ちゃんは全然褒めてくれないので嬉しいです」

ニコッと恵梨香の方を見て微笑み、そして俺の方の方を見る。
ああ、目が笑ってない
最近褒めなかったことに対してキレてるのか
いやさ…だってさ…俺が褒めた料理、美味しい!って言った料理を1週間ずっと出してくるんだもん
どんだけ美味しくても飽きるよ…

「え…はかなひふん、いっえあへないんふぇすか?」

「とりあえず食べながら話すのやめようか」

恵梨香は恵梨香で何を言ってるかさっぱりわからん。
おい湊こっちをずっと見てニコニコするな怖いよ、目が笑ってないよ

「あぁ……今日のシチューは一段と美味しいなぁ」

「本当!?ありがとう!お兄ちゃん!!明日も明後日も作るね!」

ほら!そういうとこだよ!!
だから言いたくないんだよ!

「いいなぁ、小鳥遊君の家はこんなに美味しい料理が毎日出るんだもんね」

やっと食べ終わったか恵梨香

「あ、そういえば恵梨香の家に連絡入れなくていいの?」

「………あ」

恵梨香はみるみる顔が青くなっていき、携帯を取り出し家に連絡しだした。
恵梨香はずっと小声でごめんなさい…ごめんなさいと謝っている。
てかどうやって言い訳をしてるのだろうか、まさか男の子の家に泊まりますとか言ってないよな?

「た、小鳥遊君……ごめんね」

と、言って恵梨香は自分の携帯を俺に差し出した。
どうやら通話は繋いでいるままのようだ。
なるほど、俺に代われって恵梨香の家族が言ったのだろう、確かに湊が男の家に急に泊まることになったら俺だってそうする。
てことは恵梨香は馬鹿正直に全てを話したんだな、異能力のことは省いたといえ許してくれるのだろうか

「はい、もしもしお電話代わりました、恵梨香さんの同級生の小鳥遊零次といいます」

「もしもし、君かぁ恵梨香を助けてくれたのは」

意外と声が若い。
これは父親、というよりも恵梨香の兄だろうか
こういうものは親が連絡してくると思ったが違うのか

「はい、良くない輩に絡まれていたところを助けました」

「ありがとう、理由が理由だし話を聞いた限りだと君を信じていいのかもしれない。今日は恵梨香をよろしく頼む」
「だが、もしも恵梨香に手を出したら俺は絶対に許さないからね、そこの所は頼むよ」

明るい声から一変、急にドスの効いた声に変わり恵梨香に手を出したら殺す宣言を受けた。
元々出すつもりはないのだが、ビビってしまう。

「は、はい。ご心配はありません」

「そうか、じゃあ何度も言うけど頼むね」

そう言って恵梨香の兄らしき人は通話を切る。
通話を切った後の俺を見て恵梨香は信じられないような顔をする

「た、小鳥遊君……無事なの?」

「え?そりゃビビったけど良いお兄さんじゃないか」

「よくお兄ちゃんって気づいたね……。本当に何も言われなかった?」

「それっぽいことは言われたけどそんなキツくは言われなかったよ?」

恵梨香は色々考えたあと、少し嬉しそうな顔をした。
なんなんだこの子、理由を聞いていいのだろうか。
俺が迷っていると湊が聞いてくれた。

「ねぇねぇ恵梨香さん。お兄ちゃんの通話を聞く限りそんなに恵梨香さんのお兄さんはそんな厳しそうに見えなかったけど、どうしたの?」

「……小学校、中学校って、私に告白してくれた友達が居たけど、私そういうの分からなくてだから断わるにも断りきれなかったの…」
「それをお兄ちゃんに相談してから、私に近づく男の友達はみんなお兄ちゃんが追っ払う様になっちゃたの」

なーるほーどなー
過保護な兄ちゃん、か
確かに妹が可愛いのは分かるがそこまで束縛?しなくてもいいと思うのだがな
恵梨香のお兄さんにはお兄さんの考えがあるからなんとも言えないけど

「わー!どっかの誰かさんと似てますね!!」

湊が手をギュッと握り、俺の方を見ながら言う。
おい待て
俺そんなことした覚えないぞ!お前なんの事言ってるんだ!?

それから妹の悪ノリに耐えながら食事を終える。
意外と恵梨香が大食いだった。
バクバク湊が作ったシチューを食べて明日の分がすっからかんになってしまった。
しかし、湊はとても嬉しそうだった
自分が作ったものを美味しい、美味しいと言って沢山食べてくれれば嬉しいのだろう。
親が家にいない今、妹は家で話せる人が俺しかいない。
普通なら母親と女同士の話がしたいと思うし、こんな出来てる妹だがまだ小学生だ。
沢山話したいことを話せて満足だったと思う。

「こんなに仲良く話せたのって、お母さんや○○ちゃんくらい」

○○ちゃん?
聞いたことのない単語に疑問を抱く
毎日家に帰ると湊に学校で起こったことを教えられるし、湊の友達が家に遊びに来ることもあるから友達の名前も把握してるつもりだが
まぁ、俺が考えても仕方ない事だし今はいいか…

「湊、恵梨香と一緒にねてもらっていいか?」

「え?全然大丈夫だけど、私の部屋小さいから大丈夫かな…」

そうだった。
家の構築上、妹の部屋は小さいのだ。
元々俺の部屋が寝室で家族全員で寝てたんだが、親が海外に行き俺の部屋になったから、元々そういう意味で作られてない妹の部屋は小さい。

「…私、小鳥遊君の部屋で寝たいなぁ…」

「ん?どうした?恵梨香」

「え!?いや!!なんでもないよ!うん!」

恵梨香が顔真っ赤にして左右に振る。

「うーん、お兄ちゃんの部屋しかないね、お客様をソファーとかで寝かせるわけに行かないし」
「元々寝室だったから、ベッド大きいしいいと思うよ」

湊がニッコニコな笑顔で答える
おい?恵梨香のお兄さんとの通話を聞いてたか?
その事を話題に出すと

「手を出さなきゃいいんだよ?まさかお兄ちゃん手を出すつもりだったの…?」

「えっ小鳥遊君…そ、そういうのは早いよ…///」

おいゴラァ!この女二人マジでイライラするんだけど!?
気が狂うぞ!!

「わ、分かった…俺がソファーで寝ようそうしよう」

「お兄ちゃんさー、何でそんなに恵梨香さんと寝たくないの?」

その言い方をやめなさい
俺と恵梨香が寝るとかゲフンゲフンみたいな言い方じゃないか

「別に寝たくない…というか、なんというか」

「もういいからそれしか対処法ないんだから、お兄ちゃんの部屋でいいじゃない!はい!この話終わり!」

強引に閉じられた。
もうこの際どうでも良くなってきた。
うん、手を出さなきゃいいこと、そしてこの事は恵梨香のお兄さんには絶対知られてはいけないと思うの。



「ごめんなぁ、俺なんかの部屋で寝ることになって」

「そんなことないです!!逆に嬉しいです!」

「う、嬉しい?そ、そうか…」

「!! いや違うんです!違わないけど違うんです!」

ハッ!とした顔で恵梨香は否定し始めた
そこまで否定されるとちょっと悲しい。

「もう寝るか…」

風呂に入って、歯磨きもしたことだし
今日は色々起こりすぎて疲れた。もう寝たい
因みに恵梨香には俺の昔の服をパジャマ代わりに着てもらった。

ピリリリリリリリ!!
いつもの目覚ましとは違う音で起きる。
恵梨香に気を使って目覚ましよりも音量が低いスマホのアラーム機能を使ったんだった。
なんかいつもより早いなと思い、時間を確認するとアラームの設定を間違えたようで6時00分に起きてしまっている。

「えぇ…家近いからこんなに早く起きなくてもいいんだけど…」

二度寝するのにも微妙な時間だったので早くしたに降りて朝ごはんの準備をしようかと、体を起こそうとしたら何かに掴まれて動けなくなってた。

「ん?」

隣を見ると恵梨香が抱きついていた

「うぉあ!?」

あ、やべ大声出しちゃった。
恵梨香を起こしちゃうかもと思ったが

恵梨香は意外と簡単には起きないらしい。
違う、だからといっていやらしいことをする気なんてない。

「……ないんで…か…」

ん?寝言か?

「しないんですか…?」

これマジで寝言?
ワンチャン恵梨香起きてる説あるよね
ずっと恵梨香の顔を見てみたが、それから何もアクションを起こさず俺の体に抱きついていたが、離れて逆方向を向いてしまった。

「……1階に降りとくか」


恵梨香の様子を見ていたら6時30になってい。。
恵梨香を起こすのは7時頃ごろでいいだろう、8時までに学校に着けば遅刻ではないので。
一階に降りると妹の姿と朝ご飯がなかったので妹の部屋を覗くと、まだ寝ていたようだ。
確かに昨日は恵梨香と沢山話し込んでたもんなぁ
まだまだ小学生の湊にとっては疲れるだろう。

「しょうがない……いつもは妹にやらせてばっかだし、今日は自分で作るか」

欠伸をしながら冷蔵庫を開けると
この前目玉焼きに使った卵が結構残っていたので、オムライスを作ることにした。
卵を割ったら双子が出てきた。そのため一つだけ大きくなったので恵梨香のにしておく。
作り終わった時には7時10分だったので、恵梨香を起こしに行こうと階段を歩いている途中に妹と会った。

「あ、お兄ちゃん起きていたの?」

「うん」

「ごめんね、今から朝ご飯作るから……」

「いや、もう作ったからいいよ」

「え?本当?」

「嘘つく理由がないだろ」

そんなに俺が料理作る姿が想像できないか
中学校の頃の調理実習で色々なものを完璧に作ったので、料理マスターと呼ばれたことがあるってのに。

自分の部屋の扉を開ける。
そうすると、恵梨香はまだ寝ている途中だった。
「起きろ〜」
そう言って恵梨香の体を揺らす。
そうすると彼女は目を開けた途端びっくりして、俺と距離を取る。
そ、そんな露骨に嫌がらなくても…

「え、私……なんでここに……確かあれは夢じゃ……」

「あー、なるほどね、夢と勘違いしてたのね」

「本当に私……小鳥遊君家に泊まったんだ……えへへ」

「そ、そんなに嬉しいか」

そんなに俺の家は神々しかったりするのだろうか
恵梨香が頬を赤くして、にへらと笑う
彼女の顔を観察していると、こちらの視線に気づいたのだろうか
頬だけではなく顔全体を赤くして、手で顔を隠した。

「あの、時間が押しているから朝ご飯食べてちょうだい」

そう言うと彼女は、理性を取り戻した様子で
財布を取り出し、近くのコンビニに行く準備をしている。
おい、パジャマの状態でどこに行く気だ

「朝ごはんはもう作ってあるから食べて」

「え?いいんですか……」

「うん、もう作っちゃったし食べて食べて」

そう言って彼女の背中を押すようにして、階段を下りていく。
その時だった。

「きゃ!」

「危ない!」

彼女は悲鳴を言って足を滑らせ、階段から落ちそうになる。
それを器用に抱きかかえ、恵梨香をかばうようにして階段を転げ落ちる。

◇◆◇◆◇◆◇◆

何分経ったのだろうか。
ここは……俺のベットか、
意識を取り戻してきた。まだ少し頭が朦朧とするが、大丈夫だろう。
周りを見てみると制服姿でこっちを心配そうに除いている恵梨香の顔がある。湊はいないようだ。
恵梨香が先に学校に行かせたためだろうか、良い判断だ。俺の意識が戻ってきたのを恵梨香が気がついたようで、暗かった顔が急に明るくなって抱きついてくる。
貧乳には変わりないようだ。こういう時には渚に抱きつかれた方がお得かもしれない。
違う、違うんだ。貧乳が嫌いなわけではないんだ。

「今……何時」

「え?」

「何時かって聞いてるの……」

「あ、はい……今は……7時40分です」

ギリギリ遅刻ではないようで良かった。
彼女にオムライスは食べたかって、聞いてみると無事食べてくれたようだ。とういうことは彼女に怪我はないようだ。良かった良かった。
それにしても何故俺の口にケチャップが付いているのだろうか
俺は、もう食べたし。口についてあったやつは全部拭き取ったはずだが。

「なんで俺の口にケチャップが……」

「あっ!」

「なんかやった?」

「い、いえ別に……」

「正直に、大丈夫怒らないから」

恵梨香が戸惑っている様子を見ていると、大体予想がつく。
階段から転げ落ちてる際に唇を切ったのだろう。
近くに置いてあった水を飲みながら恵梨香の顔を見る。

「じ……人工呼吸を……」

ブゥゥゥゥゥゥ!

口に含んでいた水を豪快に吹き出す。

「い、いや!生きてるから!」

「ですよね……でも不安だったんです……」

「そ、そっか」

確かに大変なことだったし、どうにかしたい気持ちも分からなくもない。
だからって意識あるのは分かるだろ!
吹き出した水を拭きながら、残った水を飲み直すと

「あ、あとその水…私のです……」

ブゥゥゥゥゥゥ!

また吹き出してしまった。
恵梨香が顔を赤くして俯きながら言う。
俺の顔も自然と赤くなってしまう。
人工呼吸の後に間接キス、一気に物事が進みすぎだろ

「ご、ごめん!」

「いえ!逆に嬉しいです!え!?嬉しい!?私何言ってるの!?」

2人ともパニックになって、一旦静かになった後
お互いの顔を見合わせて笑う。
時計を見ると、もう8時を過ぎようとしてたから急いで2人で家を出て学校に向かう。

『こんな巨乳を揉んでいいのだろうか』

『こんな巨乳を揉んでいいのだろうか』


裏路地の近道を使わないと間に合わなさそうだったので裏路地の近道を使う。
途中虫が出てきて恵梨香が悲鳴を放っていたが、構ってると遅刻しそうなので気にせずに恵梨香を押して学校に行った。

「間に合った……」

「やあ、おはよう零次君」

「ああ、おはよう舜昨日は少し疲れたよ……」

「何かあったの?」

舜がしんみり聞いてくれる。本当にいい友だ、
渚はというと。
恵梨香と仲良くなっている。そしてこっちを見ている。
やめろ!やめるんだ!そんな目で俺を見るんじゃない!
どんな目かというと「やるじゃないレイジ」みたいな目だ。
あ、こっち来た。

「恵梨香〜ごめんね」

「え?何が……ですか」

渚が悪い顔をしている。
舜は大体予想できたようで、苦笑いをしている。
何が始まるというのだ。

ムニュ

次の瞬間左手にマシュマロみたいな感触が伝わってきた。
左手を見ると渚の大きな果実が俺の左手に、当たっているじゃないか。
舜の方を見ると「やれやれ」みたいな顔をしている。
恵梨香の方は、すごい戸惑っている。

「恵梨香、レイジはね巨乳好きなのよ〜」

「えっ」

「つまり恵梨香は……その……ね」

「そ……そうなの?小鳥遊君……やっぱりでかいの方がいいの……?」

「おい待てやゴラァ」

前も言ったが、巨乳が好きなだけであって貧乳は嫌いって意味じゃあない。
しかも、希少価値があって逆に好きだ。
渚の手を掴んで勢いよく扉を開けて廊下に出る。

「どういうことだよ!なにやってんだ!?」

「あら?触りたいとか思ってなかったの?」

「そういう問題じゃないだろ!」

「あのね、恵梨香の心を読んでいたらとあることがわかってね」

「とあることって?」

「秘密よ」

このアマァァァァァ!!
人工呼吸したなんて知れたら……あ、やべ
人の心読めるんだった。

「へ〜」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

もう渚の前では変なことは考えれない
無だ。そう何も考えるな
そうやって昔の人は仏教を、悟りを開いたはずだ。
もうこの際坊主にしてしまおうか、無我の境地に
いや、坊主はやめよう似合わなそうだ。
廊下で渚とイチャイチャしていると
「イチャイチャしてないから」
訂正.廊下で渚と話していると、遠くから担任が来ているのがわかった。
急いで教室に入って席に着く。
数十秒後担任の先生が教室の扉を開けて、教壇に立つ。
「HRを始める」
そう言い、今日の当番が号令を掛け点呼が始まる。
点呼の最中、恵梨香が自分の胸を揉み揉みしてた。
そんな気にしなくていいのに…
恵梨香は天然なのかなんなのか
人工呼吸も普通その日にあった人には余りしないだろうし、良い意味で馬鹿なのかもしれない。
「3時限目なんだっけか……」
昼休みが終わり3時限目の準備を始める。
「零次君、家庭科だよ」
「家庭科か……めんどくさいのが来たなぁ」
舜が教えてくれる。
家庭科は2年生から始まると思っていたが一年からやるのか
ハッキリ言ってめんどくさい、調理実習はとてもめんどくさい。
料理を作るのは好きだが作る料理を縛られるのは苦手だ。
「こんにちはみなさん」
扉が開き若い女の先生が来る
流れ的に家庭科の先生だろう。
「えーっと少し早いですか、言っておきます」
「何々?」
「今日は調理実習です」
何!?
自分はフラグ一級建築士かもしれない。
しかし、エプロンなど持ってきてないのだが大丈夫なのだろうが
「エプロン系は学校で負担できるので!」
恐ろしい学校だ。
こういうものは調理実習の前に自分らでエプロンを作り、そしてそのエプロンで料理を作ると思うのだが…
この先生というか学校方針、頭おかしいんじゃないか
「作るものは自由でいいです。まず、あなた達の得意料理の腕を見て、授業のレベルを決めますの」
いい先生だ!いい学校だ!!自由なものを作れるなんて最高!
しかし材料費などはどうなのだろうか?
適当な物と言っても材料やお金はどうなのか
「材料などは、家庭科室の冷蔵庫に沢山入っていますので使ってください」
「あなた達の先輩達が調理実習日にほとんど休んでしまい、余りまくってるのですよ」
なるほど、これはみんなのレベルは表向きで、余ったやつをやつを処分するのが本音か。
しかしそれはそれでお金の方が…
まぁ調理実習に参加しない先輩で不良の先輩を思い浮かんだが、ああいう先輩なら…いいか?
「それじゃ説明終わったので行きますか」
先生の言葉とともにみんなが席を立ち、ゾロゾロと教室を出て行く。
いざ家庭科室に着いて冷蔵庫の中身を見てみたが、卵と玉ねぎ、鶏肉があったので親子丼を作ろうと思う。
鍋一つで済むので手軽だ。
そういえば舜や渚、恵梨香は料理が得意なのだろうか
とりあえず舜の方を見てみた。

ジュワァァァァ

ワインを使っている。
ダメだ敵うわけがない、どこで一流料理店の料理法を学んだのだろうか。
てかなんで学校にワインあるの!?
調味料とかの話の前に置いていいのか!?
考えても仕方ないので渚の方を見てみた。
牛乳など使っているみたいだ、なんとなくだがクッキーを作るつもりなのだろうか。
昼飯前の調理実習では頭良いな
恵梨香の方を見てみた。
一人でポツーンとおどおどしている。
「恵梨香?」
「あの……材料がなくなってしまって……どうすればいいのか」
「だったら一緒に作る?」
「いいんですか……?」
そんな上目遣いで言うなってぇ……
断れないじゃないか、断る気なんて最初からないけどね。
それに元々昼飯前の癖に多く取ってしまったし、なのにお腹そこまで減ってないし助かる。
「うん、料理できる?」
「ハッキリ言って無理です……すみません」
「大丈夫だよ、そっちの方がやりがいあるし」
「小鳥遊君……優しいですね……そういう人大好きですっ」
「ばっ//」
「えへへ……//」
そういうやり取りをしていると、渚がこちらを恐ろしい目で見てくる。
おっ?近くに来た。
「レイジ〜私にも教えてちょうだい」
「あれ?クッキー作ってなかったっ 痛って!」
渚が笑いながら足を蹴ってくる。
余計なことを言うなって目だ。ひぇっ…
「まずは、玉ねぎを水で茹でる」
「はい」
「うん!」
「その後に味をつけて、鶏肉と一緒にして火を通した後に溶き卵を入れて、固まらせれば完成」
「意外と簡単なのね」
「これでいいの?」
渚のはうまくできている。やっぱり才能などがあるのだろうか、舜とは違う次元だが。
恵梨香のは形が崩れているが普通に食べれそうで良かった。
渚が勝ち誇った顔をしていて、恵梨香が悔しがっている。
俺?俺はもちろんうまくできたぜ。
先生が、近寄ってきて褒めてくれた。
「零次君のはいいですね〜美味しそうです。渚さんのは普通でしょうか。恵梨香さんのは、しょうがないですよ」
「はい……」
恵梨香が、少し暗いような顔している。
「少し食べていい?」
「え!?美味しくないから食べないで!」
「いやだね」
恵梨香の親子丼を少し食べる。
普通に美味しい、姿形が不恰好なだけであって味は大丈夫だ。
「うん、美味しいよ」
「本当……?」
「本当、本当」
「うん……本当に美味しいらしいわね」
渚が心を読んだようだ。
こういう時に役に立ついい異能力だということを改めて実感する。
てかおれの心読む前に自分で食えよ!!
恵梨香の異能力はまだよくわからないのだが。周りの空気に関するということはわかった。
「レイジ〜私のも食べて」
「お、おう」
「はいあ〜ん」
「ん……美味しい!」
「そっか!良かった〜」
渚のは、恵梨香とか一風変わった味でとても美味しい。
「むーーー」
隣から唸ったような声が聞こえる。
隣を見てみると恵梨香が不機嫌そうな顔をして
親子丼をスプーンに乗せて、あーんして来た。
「お!恵梨香もしてくれるのか。ありがとな」

パクッ!

「うん、あーんしてもらうと格別だな」
「えへへ」
「ちょっと、レイジ!さっきあーんしてあげたときは、そんなこと言わなかったじゃない!」
「いや、心読めるだろ……」
「そういうことじゃないのよ!乙女心がわかってないんだから!」
乙女心わけわかんねぇ!!
てかなんで渚こんなにデレてくるの!?
面倒くせぇ!!どっちかっていうと俺に厳しくなかった!?

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴る。
もうそんな時間か、調理実習だったため2時間使ったのだが、すぐに経ってしまった。
「みなさーんエプロン片付けてくださいね〜」
この先生はマイペースすぎる。
あまり好きな部類には入らないのだが、美人さんなのは認める。
エプロンと三角巾をさっさと片付けて、教室に戻り。昼飯の時間をする。
調理実習のせいでそこまでお腹は減ってないがな….。

舜と渚と俺と恵梨香で机を合わせる。
俺と恵梨香の弁当の中はほとんど同じだ。
なぜかというと、昨日は恵梨香が俺の家に泊まったため作ってあげたのだった。
「ねーレイジ」
「何?渚」
「私も今度泊めてちょうだい」

ブフゥゥゥゥゥ!!

口に含んでいたお茶を恵梨香の顔めがけて吹き出す。
「ごめん!今拭くから!」
「えへへ……小鳥遊君の唾液の入り混じったお茶……」
「お、おう」
恵梨香は意外とおかしいかもしれない。
何も聞いてない、はい。

「零次君の手作り〜♪」
恵梨香が鼻歌混じりに俺のが作った弁当を美味しそうに食べる。
一口ずつ大切そうに食べているのを渚が恨めしそうに横から睨む。
「べ、別に……レイジの手作りなんか……欲しく…ないし」
そう言いながら渚は調理実習で作ったクッキーをボリボリ、と机に粉を落としながらリスのように食べている。
粉を落とすなぁ!!汚いダルォ!?
俺が作った弁当を恵梨香が美味しそうに食べているのを見て、渚が歯切りをしている。
「渚、食べる?」
そう言って卵焼きを箸でついばみながら出すと、高速で食いつく。
間接キスをしているが、問題ないだろう。
それに、食いついたから渚の巨乳が机の上に綺麗に乗る。
それを見ていると、恵梨香がやろうとしているが出来ていない。
恵梨香を見て微笑んでいると、顔を真っ赤にしてお茶を飲み始めた。
「あはは、零次君はモテモテだね」
「だといんだけど……」
てか舜は知らないのか?
なんでこんなに渚俺にデレてるんだ?
俺何かしたか?何もアクション起こしてないしイベントも起きてないぞ?
「あは……レイジの卵焼き美味しいわぁ……」
渚が口をモニュモニュしながら、卵焼きを味わっている。
恵梨香はもう俺が作った弁当を食べ終わったらしい。
美味しかったようだ。
自分が作ったものを美味しく食べてくれるのはとても嬉しい。
「恵梨香」
「え?」
恵梨香の口の周りに米が付いていたので、それを取って口に運ぶ。
恵梨香はそれを見て顔を真っ赤にして沸騰し始めた。あ、これ間接キスか…
俺の顔も自然と赤くなる。
それを見た渚がわざと口に米をつける。
ため息まじりに渚のも取ってあげて、そしてデコピンで飛ばす。
「なんでアタシのだけ!?」
渚が絶句する。
そしたら舜が呆れ顔でこっちを見てきた。
もう渚の保護者だよな
「てか渚、昨日と対応違くね??」
ずっと思ってた事を聞いてみる。
「あー……えーと、うーんと」
なんだろう
何かを隠してるような感じた。ずっと目が泳いでる。
必死に考え抜いて出した答えを聞くと
「レイジ…はさ、覚えてないかもしれないけど」
と、両手の人差し指をツンツンしながら恥ずかしそうに言う。
「私が中学生の頃、電車に乗ってた時たまたまラッシュに会ってさ」
ラッシュとは通勤ラッシュのことだろうか
はて、俺自体電車に乗ることは少ないのだが通勤ラッシュの時…うーん
「その時、痴漢……にあって、怖くて声も出せなくて舜も近くにいないし、もう…どうしていいかわからない時に」
待て、俺は痴漢なんて止めた経験ないぞ
そんな場面に直面した覚えもない。
いつのことを言ってるんだ?
「急に後にレイジが現れて、痴漢の人がビビって逃げたんだけど……それで」
あ!!!思い出した!あの時か!
妹の学校の発表会がどっかのホールでやることになって、仕方なく電車に乗った時の話か。
その時に通勤ラッシュにあって近くにいたオッサンの臭いがキツくてたまたま息を止めてた時だな
いや、でも故意に渚の痴漢を止めようだなんて、てかそもそも気づかなかったし
「ずっと探してて…それでね!急に現れた時とか容姿とか見て……うん、レイジだな〜って」
なるほどなぁ
確かに痴漢の話とかはしたくないだろうし、嫌なことを言わせてしまったのかもしれない。
申し訳ないことをした。
それに、痴漢を助けたつもりは無いし、そんなデレる?というか気を使わかなくていいのにな
「いやいや!私が好きでやってる事だから!」
と、心で思ったことに渚が返事をする
頼むから心を読むのはやめてくれ
「舜は、好きな人とかいないのか?」
話の流れを変えるため舜に話を振る
「んーー僕には許婚がいるんだ」

ブフゥゥゥゥゥ!

今度は、舜に向かってお茶を吹き出してしまった。
「ごめん」
「いや、大丈夫だよ。僕の方こそごめんね」
「ねぇねぇ舜」
「なんだい渚」
「レイジのお茶がかかった顔舐めさせて」
「君は馬鹿なのかい?」
ついに舜の口から人を中傷する言葉が出てくる。
確かにそこまで行くと、誰も舜と同じ言動をすると思う。
誰だってそう思う。俺もそう思う
「レイジ、今日泊めてちょうだい」

ブフッ!

吹き出しそうになったが、手で押さえた。
突拍子に何を言い出すんだこの女は
「もーー……何で私の時だけそうなの?」
「何回もやってれば慣れるわ……」
「それでさ泊めてくれない?」
「ダメに決まってんだろ……」
「恵梨香の時は良かったのに……わたしの時はダメなんだ……そーなんだ……うぅ」
渚が嘘泣きかどうかはわからないが泣き始める。
これはどうにかしないといけないので、とりあえずOKすることにしよう
「う……わかったから泣くなって」
「本当!?」
渚の顔が一気に明るくなる。
「だけどなぁうちには妹がいるんだ、流石に2日連続で女連れてきたらちょっとな」
「そっかぁ……だったらうちくる?」
「どうしてそういうことになるんだ」
渚がうちに来てって誘ってくる。
この際、もう話に乗ってみるか
考えるの楽しい面倒くさくなってきた。うん
「いいのか?」
「小鳥遊君!?」
恵梨香がびっくりしたような顔で名前を呼んでくる。
そりゃそうだろうな
「だったら、私も行く!」
「ちょ!恵梨香は来なくていいのに!」
「小鳥遊君が行くなら行くもん!」
「………しょうがないわね」
よし、恵梨香がいるおかげでセーブが効くぞ!!
良くやった!
てか俺と恵梨香と渚か、俺以外女じゃねぇか!
舜の方を助けを求める目で見る。
そうすると、さすがに助けれないという目で返された。
人でなし!!
「じゃ、決まりね。今日早速来てもらうわ」
「まって、妹にどうやって言い訳を……」
「いいじゃない、男友達って言えば」
渚はこういう時に頭がフル回転するようにできているらしい。
早速妹に電話しておいた。
妹の小学校は今日早く下校するらしかったため今は家にいる。
結構残念そうな声が聞こえてきたが、今度一緒に買い物に行く約束をしたら声が明るくなったため大丈夫だろう。

『こんな修羅場をどうしろといいのだろうか』


放課後、自分の家に走って行きパジャマなどを取って学校に行き、渚について行って渚の家に着いた。
一人暮らしのアパートらしい、だから自分の家に上がらすのをためらわなかったのだろう。
てかだったら学校近くのアパート取れよ…
「お邪魔しま〜す」
「失礼します……」
「さあ、入って入って」
電車とだけあって家が遠かったので、時間がかかってしまった。
「レイジ、先風呂に入ってきていいよ。もう風呂沸かしているから、汗かいてるでしょ」
用意周到だなおい
今話題のネット回線を通じて通信でお湯を湧かせるのか、マジでハイテクなとこに住んでんな
「いいのか?俺が先に入ってきて」
「いいのいいの後で……レイジ汁堪能できるじゃない……」
「…………」
「いいから入って来なさい!」
渚に言われるまま風呂に入らせてもらう。
とてもちょうどいい温度であった。体がリフレッシュする。
いやぁ、女の子の香りが風呂場からする
ええ、とても良い匂いのシャンプーの臭いが
……ここで渚はいつも体を洗ってるのか
ダメだ、変なことは考えるな零次。仏になれ
いやぁ、渚が少なからず俺に好意?を抱いてるかもしれない。
恵梨香にも言えることだが助けてもらった、ただそれだけだから好意というのかはまだ分からないけどなぁ。


「れいじくんのこと、すきだよ」
「だから、わた……ぼくのことは忘れないでほしいな」



ズキッ
急に頭痛と共に何かが頭の中に浮かんできた。
公園…?昔住んでた家の時の記憶みたいだ。
顔が黒くもやがかかった女の子……なのか?
その子と遊ぶ情景が頭に浮かんできたのだ。
なんだこの記憶…だれだこの子は

「レイジー?大丈夫ー?」

ハッと我に返る。
あやうく寝ぼけて風呂で溺れかけたところだ。
そうだ、今は渚の家に泊まりに来て風呂を借りていたんだった。
「すまない、寝てたみたいだ。すぐあがるよ」
「そう?なら良かった」
髪を素早く洗い、体も洗おうと思ったがなんかやめといた。
ボディソープまで女物を借りたくないです。はい。
そういえば恵梨香はお兄さんに何て説明したのだろうか
2日連続お泊まりは普通の家でも心配すると思うし、それに加えてあの兄だからなぁ
「お先しました…っと」
風呂から上がると俺が持ってきたパジャマが綺麗に畳まれて置いてあった。
渚が準備してくれたのだろうか、助かる。
いやぁ、バッグの中にパジャマ忘れてどうしようかと思ってたところなんだ。


「恵梨香、連絡しなくて大丈夫なのか?」
夕飯の野菜炒めをおかずに熱々の白米を食べながら恵梨香に例のことについて聞く
渚が作ってくれた夕飯を食べる手を止め、恵梨香はグッと親指を立ててにっぱりと笑顔を作る。
詳しく聞くと、今日は兄は飲み会があるらしくそれで帰ってこないらしいから大丈夫らしい。
いや、親はどうした親は
その事について聞くと、みるみる顔が青くなっていく。
そして昨日と同じように家に電話をかけ、必死に説得し始めた。
結局バスは1つしかないし今何を言ってもどうしようもできないから、叱られるだけで泊まれることに無理はないと思うがな
「な、渚ちゃん…ごめんね」
と言い
恵梨香は渚にスマホを差し出す
どうやら通話は繋がっているようで、本当に女友達の家に泊まるのかどうかを確認するみたいだ。
よし、渚それっぽいこと言ってやれ
ん?おい?なんでスマホを俺に差し出す?
おいおい、お前当てだぞ!おいてめぇ!なんでおれに!
「もしもし、お電話変わりました。恵梨香さんの友人の小鳥遊零次です」
またこのパターンか!!
なんなんだよ!
渚の方を横目で睨むと、渚はニコニコしてる
おいてめぇ何笑ってんだ
「もしもし?あなたが恵梨香を助けてくれったご友人かしら?」
「はい、恵梨香さんを助けたのは僕です」
「その件はどうもありがとう、それでね?2日連続お泊まりというのはどうかなーと思うの」
「はい、仰る通りです」
その後説教なのか何かわからんが、俺のイメージが悪くなったのは確実だ。
しかし最後に恵梨香をよろしくね、と意味ありげに言ってきたんだけど…
「はい、恵梨香スマホ」
「え…小鳥遊君無事なの……?お兄ちゃん以上にお母さん厳しいのに」
「え?そりゃ多少は説教みたいなのはされたけど、他になにも」
前と同じように恵梨香は驚いたような顔をした。
そして二ヘラとにやけた顔をする。
お、おーい大丈夫かー?

「ご馳走様、やっぱり渚は料理上手いんだな」
「お粗末様でした。うふふ」
渚は手を口に当てて小さく笑う
食べ終わった食器を持ってシンクまで持っていく
3人分だから結構な量であり、手伝おうかと思ったが大丈夫らしい。
自信満々に言うものだから理由を聞こうと思ったが渚の方を見たらすぐわかった。
皿の上の部分をその大きな胸で抑えてるのだ。
落ちる心配ZERO、なるほどな
「……チッ…………そ、それでどこで睡眠をとればいいですか?」
恵梨香?今舌打ちした??
なあ、恵梨香?
恵梨香の方を見てると恵梨香は視線に気づいたようで必死に視線を逸らす。
おい…恵梨香…
「そういえばそうね、まぁついて来て」
皿洗いをパッパと終わらせた渚がタオルで手を拭きながら話す
どこに寝かせてくれるのだろうか、どこでもいい寝れるが
自慢ではないが中学の頃にテスト前徹夜したせいで、全校朝礼の時に立ちながら寝たことがある。
隣の友人に押されぶっ倒れたのはいい思い出だ。
「じゃじゃーんここがウチの部屋でーす」
なんと渚の部屋に付いてこられされた。
周りを見てみるとピンク1色だ。
カーペットもクッションも机は流石に木の色、茶色だが文房具もピンク色だ。
「渚ってピンク色好きなんだな…」
「よく気づいたね、だって可愛いじゃーん」
渚はそう言い、さっきも言った通りのピンク色のクッションを拾ってぎゅーっとする。
胸が!胸が!押しつぶされて横にはみ出てる!
あぁ、あのクッションになりたい
渚に心の中を見られたらいけない、と思いふと視線を逸らすと机の上に何か置いてある。手にとって見てみると……

絶対避妊・ゴムゴム・ドーム

「……………」
「小鳥遊君何を見てるの?」
恵梨香が俺から例のブツを取り
無言になり、うつ向いてそれをゆっくりポケットの中に入れて
ポケットのチャックを閉めた。
……閉めた!?
おい恵梨香!?
「しまった、うちに自分用のしか布団ないんだった……」
渚てめぇ!白白しいぞ!
貴様!どさくさに紛れて俺の純潔を奪うつもりだったな!?
「ま!みんな一緒のところに寝るからいっか♪」
「ん?」
うまく聞き取れなかったので、某号泣議員の様に聞き直す。
「え?だからみんな一緒のところに寝る……きゃっ!」
恵梨香が渚を俺から離した後、俺の手に抱きついてきた。
えーーっとこれはどういう状況なのだろうか、
「ちょっと!?」
「た…小鳥遊君はよこしません!」
「急にどうした!?恵梨香!?」
「あーーなるほど」
渚が恵梨香のことを見てニヤニヤした後、ゴホンと咳払いをして
「何言ってるの?レイジと釣り合うのはウチしかいないよ?」
と言う。
おい悪ノリすんなよ

よく昼ドラとかで見た風景だ。
俺はこういう場を何て言うか知っている。
答えは、

修羅場

この修羅場どうしようか
よし、止めてみようと思う。
「お、おい……喧嘩はやめようぜ……」
「うるさいわね!レイジは黙っていて!」
「渚!?」
おいお前悪ノリのはずだったよな!?
何をマジになってんだ!?
「小鳥遊君、ごめんね。これは私たちの戦いなの」
恵梨香が真剣な顔をして俺の腕から手を離す。
そうして俺の前に立つ。渚と向かい合うように
渚の大きな果実と恵梨香の貧相な実がぶつかり合う。
ははは、女子達の戦いならしょうがない。
男の俺が入っていいところじゃないと感じた否、速攻で部屋を出てトイレに篭った。
「どうすればいいんだよ……舜」
スマホの電源を入れて舜にメールをする。
1分も経たない内に返信が来た。
速い、舜はメールを打つ速度まで光速に出来るのだろうか……。
つくづく便利な能力だと思う。
さてと、内容を見てみるか

零次:助けて舜

渚と恵梨香が喧嘩してる
助けてください

返信
舜:僕に任せて

僕が今から渚の家に行くから
どうにか2人が怪我しないように頑張って止めてくれないかな?
前に光速に制限があるって言ったよね。
その制限が色々とあって全て使っちゃってね。今メールを打ってるのもあと少しで切れそうなんだ
急いで行くから持ちこたえていてね!
頑張って零次君!君ならできるよ!


「うぉぉぉぉぉぉぉいいいい!!」
舜が渚の家に来るまで持ち堪えろって……
少しだけだけど周りの空気を操る少女と
人の心を読める少女の戦いを止めろと……?
確かに俺も異能力者だがどこまで持ち堪えれるか。
「……やってみるか」
鍵を閉めていたトイレの扉を開けて渚の部屋に入る。

ガチャ

「大体貧乳のあなたが、レイジと釣り合う訳が……」
「うるさい!うるさい!うるさーーい!」
「そっちだって……そんなにでかくたって、言ってしまえばただの脂肪よ!」
「しぼ…女の子にとって脂肪呼び!!許さん!」

ガチャ

扉を閉めておいた。
どうしよう、止めれる気がしない
いや止めなくていいんだ、持ち堪えるだけだ
いやいや!変わんねぇよ!!どうやって持ち堪えるんだよ!
真っ先に思いつくのは伝家の宝刀 透明膝カックン
だがそれだと1度戦いから身を引けと言われて素直を引いた身、ここで膝カックンなんからしたら俺が止めたってバレる。あとが怖い
渚と恵梨香にバレないように、2人の喧嘩を持ちこたえる方法かぁ
「いい考えが出ない。とにかく透明になって入って様子見してみるか」

ガチャ

ブンッ!

「うぉ!?」
扉をバレないように軽く開けて顔を出した瞬間何かが飛んできたのだ。
何が飛んできたか確認すると例のクッションだ。
よく見ると兎の顔が書いてあるのか、偶然なんだろうが俺に対して助けを求めてるような顔をしている。いや今はそんなことどうでもいい!

「!?」

ブンッ!

ブンッ!

扉を閉めて、渚と恵梨香の方を確認すると両者獣のような目をしていた。
まるでお互いを親を殺した目の敵のように見る目で、だ。
因みにさっきから渚がそこら辺に置いてあるクッションやぬいぐるみを投げて、それを恵梨香が異能力だが何かで風?を操り反射して避けている。
すげぇな!その使い方!
さっきから関心してるが意外と俺の方にも反射したのが飛んでくる。
当たんないけどさ
小さい頃、透明化中に素振りをしていた近所の餓鬼の野球のバットに当たりそうになったり、公園でシャドーボクシングしている人に殴られそうになったりしたのをずっと避けていたから慣れている。
「はっ!ふっ!おっ!」
飛んでくる物を避けながら渚と恵梨香に近づいて行く。
そして声色を変え渚の後に立ち、幽霊の振りをして声出してみる。
うん効果なし、てかこれ気づいてない
恵梨香にしてみた。
めっっちゃビビって風を操る手を止める。
そんな時、渚の投げたぬいぐるみが顔に直撃する。
「あうっ!」
そんな声と共に背中から倒れる。
渚がやべって顔をして倒れかけの恵梨香をキャッチしようとするが間に合わない。
仕方ない、と思い俺がキャッチする。
そしてそのままゆっくり、床の上で散乱してるクッションの上に横たわらせる。
渚が不思議そうな顔をしていると

ピンポーン

インターホンの音が鳴り響く。
「舜んんんん!!」
音が鳴った瞬間、思いっきりダッシュして玄関の扉を開ける。
そこには汗をかいた舜がいた。
「渚達は!?」
「恵梨香が…!」
「! あとは任せて!」
舜がそう言って俺の肩に手をやり、渚の部屋の方を見る。
そこには扉から顔半分だけ出して客人を確認している渚の顔が。
そして舜の顔を見た瞬間、あ という顔をして扉を閉める。そして鍵をかけた。
しかし舜は慣れた手つきで扉の鍵穴にポケットから出した針金2つを使って鍵を開ける。
なんでそんなもん持ち歩いてんだ、というのは置いといて舜が扉を開けると部屋の隅で体育座りをしている渚の姿か
恵梨香は目がぐるぐる巻きになってまだクッションの上で伸びているようだ。
「……舜」
「渚、忘れたのか?」
部屋の隅で体育座りしている渚の体がカタカタと震え出す。
そして今気づいた。いつも爽やかな笑顔を絶やさない舜の顔が家に着いてからずっと真顔なのだ。
中学の頃に渚が舜に怒られたのだろうか
と、とにかく!舜が来たお陰で喧嘩が収まる。
流石舜だ、一家に一台
「ごめんね、零次君。渚が世話をかけてしまって」
「いや………やっぱりなんでもない、ありがとう舜」
喧嘩の発端が俺を取り合ってたなんて言ったら、舜が何をしでかすか分からない。

知らぬが仏

このことわざを考えた人の気持ちが良く分かった。
「零次君、次なんかあった時はまた言ってね。また来るから」
そう言って舜は渚の方を見る。
渚がヒッ!と声を出して顔を逸らす。やっぱり昔に何かあったのだろう。
俺は関係ない、俺は関係ない。自分に言い聞かせる。
「と、とにかく…早く寝ようぜ。色々と疲れたわ」
「そ、そうね。押入れから布団を取るから待ってて」

渚が布団の準備をしてくれた後に風呂に入ってくる旨を伝えてくる。
渚がわざとなのか分からんが下着を若干見える位に見せてくる。
舜に電話しようとしたら走って風呂場に逃げた。
これから渚が悪ふざけしてきたら舜を使って脅すのが良さそうだ。マジで渚キラーだな。
「……ふわぁっ!?な、渚ちゃん!まだ終わってな……あれ?」
恵梨香が勢いよく起きる
クッションの上で倒れてたのを完全に忘れていた。
恵梨香はキョロキョロと周りを見渡して、俺が驚いたような顔をしているのを見て何があったか聞いてくる。

先程まで起きていたことを伝えると、恵梨香は1番に謝ってきた。
頭に血が上っていたとはいえ、俺に対して迷惑な行為をしたかららしい。
確かに迷惑って言ってしまえばそうだが、少なからず好意的なものを感じて貰ってると思うと嬉しいし、謝るほどでもないんだけどな
「お先しましたぁ!入ってどうぞぉ!」
早い、もう渚が風呂上がった。
いやマジで早い、10分も経ってない。
ちゃんと体や髪洗ったのかと思ったが、近くを通った時にしっかり女の子のいい匂い、シャンプーの匂いがしたから大丈夫そうだ。
恵梨香が起きてる事に気づいた渚が恵梨香に先程までのことについて謝る。
恵梨香も渚に誤っているし、ハッピーエンドだ。うんハッピーハッピー
「じゃあ、風呂入ってくるね」
恵梨香がそう言って風呂場に行く。
そう言えば恵梨香は下着を持っていってないが大丈夫なのか
……あれ?そう言えば昨日、朝早く起きた時に物干し竿に妹の湊っぽくない下着がかかってあったがあれは恵梨香のか?
学校に行く際にチラッと見たら無くなってたし
ん?てことは、昨日恵梨香はパンツを履かないで俺と一緒に寝て……た…?
ものすごいことに気づいてしまった。
恵梨香、お前はそれでいいのか、確かに泊まりの準備してないから仕方ないがやってること痴女だぞ!痴女!!
「……今夜はウチのを代わりに着させるわ」
俺がずっと難しい顔をしながら考え事をしているせいか、渚がさっきから顔を覗いてくると思ったが心を見ていたらしい。
いつもニコニコしている渚だが、真剣な顔して自分のを代わりに着させる発言したのには安心した。
洗っているとはいえ三日連続同じのを着させるのは衛生面も怖いし、まず寝る時は履かないってことになるからな、うん。色々な意味で怖い

『こんなピンチをどうやって切り抜けろというのだろうか』

チャンチャンチャチャチャン
俺のスマホのアラームじゃない音が聞こえて、目がさめる。
周りを見回すと、渚のスマホからだ。
「あ…あれ?いつの間にか寝てたのか」
上から綺麗に被せられてる布団を半分どかしながら上半身を起こす。
とりあえずさっきからずっと鳴ってる渚のアラームを止める。
当の本人の渚は幸せそうな寝顔でぐっすり状態だ。
何かを食べてる夢を見てるのか、もう食べれない とよくある寝言を喋る。
恵梨香はと思って横に目を移すがいない。
あれ?と思い周りを見渡してみると先程から下半身に感じる違和感の正体が何かなのかを理解する。
布団をガバッとかかっていた分全てをどかすと、腰に手を回してホールドして寝ている恵梨香を見つける。
「……」
これ、どうすればいいんだろう
同じ状況で10分くらいフリーズしてたら恵梨香が目を覚ます。
寝ぼけた状態で、
「んん……へへへ、小鳥遊くーん」
と言ってぎゅーっとしてきたが、俺が起きていることに気づいた瞬間笑顔から真顔になり、腰に回していた手を解き本来の場所に戻る。
そして、布団をかけ寝始める。
いや無理があるだろ
「小鳥遊君!おはよう!!」
少し経ったら、恵梨香がいかにも今起きたような感じで挨拶をしてくるが流石になぁ
まぁ、今起きたことにしとかないと多分今日一日話聞いてくれなさそうだしおはよう、と返しておく。
何も見なかったことにしておこうと思う。
その後2人で談笑していると渚が起きる。
髪がボサボサになって、虚ろになった目で俺らの方を見て一言
「なんで家にレイジと恵梨香が…」
お前も昨日の恵梨香みたいに記憶喪失起こしてんのかい。
数秒経つと思い出したのか、何事もなかったのようにキッチンへ向かった。
恵梨香と2人で布団を片付けていると、渚が朝ご飯できたよと呼びに来た。
キッチンに行くと、トーストが皿の上に置いてあった。
トーストを食べた後に制服を着て学校に向かう。

電車に乗っていると不運に通勤ラッシュにぶつかってしまう。
渚が嫌そうな顔をしながら偶然空いた椅子に速攻座る。
隣が空いているが、俺はもちろん恵梨香に座らせてあげたら恵梨香は遠慮しながらも、ありがとうと言い座る。
これこそ男の役目だ。

「んでさーぎゃはは!」
「それマジでウケるわー!」

急に大きな声が聞こえる。
声が聞こえる方を見るとウチの学校とは違う制服を着た男の2人組がいた。
人目を幅からず何をやってるんだか…
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
渚と恵梨香にそう言い通勤ラッシュの人混みをかき分け、列車便所まで行く。



小鳥遊君がトイレに向かう。
私、恵梨香は隣で携帯を弄っている渚ちゃんに話しかける。
渚ちゃんは私が話しかけると、携帯を弄ってる手をパッと止めて、電源を消してこっちの目を見て話を聞いてくれる。
そんな携帯の電源を落として、目を見て聞いてくれる位に真剣な話でもない他愛ない話なのにちゃんと聞いてくれるところがクラスで渚ちゃんが人気な理由なんだろう。
おっぱいが大きくて可愛いだけだと他の女子に嫌われると思うけど、そんなこともなくクラスの女子とも仲良いのはやっぱり内面がしっかりしてるだからだろうな〜と再確認する。

私もお母さんやお兄ちゃんに可愛いとか褒めてくれるけど家族間での気遣いだと思うし、クラスでの友達も少ないし、入学式の時に先輩に絡まれたのだって小鳥遊君が助けてくれなかったら私が今どうなっていたのかも分からない。
そう考えると、今こうやって渚ちゃんと話せるのも、学校で桜庭君とも話せるのも全て小鳥遊君のおかげだ。小鳥遊君には感謝してもしきれない。
「ただいまー」
と言って小鳥遊君が戻ってくる。
濡れた手をティッシュで拭き、吊革を掴む。
あぁ〜……本当にカッコイイなぁ小鳥遊君
スマホをポケット中から出さずに、電車の窓の外の景色を見ている小鳥遊君がカッコイイ
電車中で座ってるならまだしも、吊革だもんね。しかも通勤ラッシュの時にスマホばっか見てると危ないもんね
こっちの視線に気づいたように私のことを見てくれる小鳥遊君カッコイイ
一瞬目が合って、どうした?と気を利かせてくれる小鳥遊君カッコイ……て!わ、私小鳥遊君のことを見てたことバレちゃった!
「あ…わ、私トイレ行ってくるね!」
逃げるようにトイレに行くことを伝える。
恥ずかしくて咄嗟にトイレに行くって言っちゃっけどそんなに尿意ないんだけどな…
と思いながら、変に思われるのも嫌だから通勤ラッシュの人混みの中を、生まれつき私が持っている不思議な力、風の力でかき分けてトイレにつく。
かき分けている時に思い出したけど、さっきまで電車中で騒いでた人達がいなくなってる。
まだ駅についてないし、トイレに屯ってたら嫌だな〜と思いつつ扉を開けると
「……!?きゃぁぁぁぁああ!!」


「おはよう、零次君」
昨日わざわざ渚の家までに来て、喧嘩を止めてくれた舜が挨拶をしてくれた。
「おはよう」
笑顔で挨拶を返す。
それから渚、恵梨香に対して舜が挨拶をしていくが
「零次君、恵梨香ちゃんどうしたの?」
顔を真っ青にして俺の腕から全く離れない恵梨香を見ながら、舜が聞く。
恵梨香が電車のトイレに行ったら、電車中で騒いでいた男組がボコボコの状態で倒れていたのだ。
「それは…災難だったね」
理由を聞いた舜が苦笑いする。
衝撃的な場を見てショックを受け、元気がない恵梨香の背中を擦りながら席につく。

しかし、電車のトイレでか…
俺がトイレ行った時は何も無かったんだけどな
騒いでた男組もトイレに行ってる様子というかそういうのは全然なかったし
まぁ、みんなの迷惑になる奴らがそんな風になっても因果応報というか、仕方ないな。



「た、小鳥遊君、購買行こ…?」
「オラァ!起きなさいよ!!」
「いったぁぁぁぁ!!!!」
四時限目を睡眠の時間として有効活用していて、そのまま昼休みの間も寝過ごしそうになりかけていた俺を恵梨香が起こしてくれた。
いや、実際のことを言うと恵梨香じゃないけどな
つんつん、と恵梨香が俺の腕を遠慮がちに優しく起こそうとした。
それに対して焦れったいと思ったのか、渚が思いっきりバーーン!と俺の背中を叩いたのだ、いやそれはおかしいって。
「ほら、購買行くよ?パン売れきれちゃうから」
渚がそう言って俺と恵梨香を先導する。
舜は家から持ってきたであろう弁当を机の上にセットしながら、待ってるよと言ってくれた。
先に食べてくれてていいのに、わざわざ待ってくれるなんてなんて優しいんだろうか

昨日は渚の家に泊まったので、弁当じゃなくて学校の購買で買うことにしたのだ。
3人で何のパンにするか悩んでると
「よぉ、久しぶりだなぁ」
聞きなれた声が聞こえる。
声がする方向に目を向けると、恵梨香が2回も絡まれた例の不良の先輩だった。
いや、先輩達だった。
ざっと4.5人はいる、逃げようと思ったが退路を絶たれてパンを夢中で選んでいた渚は特に捕まらなかったが、恵梨香と俺が捕まってしまう。
渚が捕まらなかったのは不幸中の幸いだが、俺と恵梨香が購買の場所から引っ張られ溜まり場らしい所へ連れていかれる。
廊下で歩いている途中、運悪く先生達にも合わなく助けてもらうことは不可能だった。



「さぁーて、この前の仕返ししてもらうかな」
5人の男の先輩に囲まれながら逃げれなくなってしまった。
小鳥遊君が私を後に庇いながら先輩達と睨み合う。
先輩達は不敵な笑みで今にも殴りかかりそうな感じだ。
怖い…怖いよ…
小鳥遊君がいると言っても、5人相手に、しかも人気が少ないこと場所で自分はどうすればいいか分からずにオドオドする。
「た、小鳥遊君…」
ポキポキと先輩達が指で音を鳴らしながら距離を詰めてくる。
小鳥遊君に頼ることしかできない。
でも、小鳥遊君に怪我はして欲しくないし、この人数差だと逃げるのも精一杯だし、このままだと小鳥遊君がリンチにあっちゃう。
もう…どうすればいいの…
「…………」
「……えっ」
スッ と小鳥遊君が私を守るように寄せていた手を下げる。
後からは小鳥遊君の顔がよく見えないのだが、さっきから小鳥遊君と睨み合っている先輩達の表情を見ると少しおかしい。
ビビっている、と言うとおかしいけど若干気圧されている感じがする。
少し体を前に出し小鳥遊君の顔を見ると
不自然なくらいに真顔なのだ
いや…これは小鳥遊君じゃない。
そう 感じでしまうくらい雰囲気が違うのだ。

「な、なんだよお前…お前よぉ!」
「っ!きゃぁぁ!!」
そう言いながら先輩の一人が小鳥遊君に殴り掛かる。
しかし小鳥遊君は微動だにせずそのまま拳を顔面に食らう。
「は…?モロに入ってんだぞ…?」
先輩が驚いたような顔をする。
小鳥遊君は全然ダメージが入ってないように見える。
「そこで何をしている!!」
急に声が聞こえたと思ったら、竹刀を持ち長身の自分達と同じ学年のネクタイを付けた人がこっちに走ってきていた。
「っ!やべ!」
先輩達はそう言い逃げようとするが、逃げるよりも先に竹刀を持った人が追いつき、竹刀で先輩の一人をぶっ飛ばす。
ヤケを起こした先輩達が殴り掛かるが、全てを避け竹刀でお腹を思いっきり叩き、あっという間に全員がダウンする。
「すまない、助けるのが遅れてしまった。大丈夫だったか?」
竹刀を持った人が話しかけてくる。
小鳥遊君を見ると、小鳥遊君はハッとしたような顔をして、
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました」
と言う。
「そうか…某の名前は金田一(きんだいち)武蔵(むさし)という。よろしく頼む」
右手を差し出して彼、金田一君は名前を教えてくれた。
小鳥遊君も右手を出し、握手しながら名前を言う。
2人は意気投合したように色々話あった後に私のことも紹介してくれた。
「あ、もうこんな時間か…早く教室に戻って昼飯食べないと…武蔵、助けてくれてありがとうな」
「た、小鳥遊君っ!?」
小鳥遊君が私の手を繋いで金田一君に改めてお礼を言って教室に戻る。
わ、私、小鳥遊君と手を繋いじゃってる…!!



「おかえり、零次君」
昼休みになってもう30分も経ちあと10分しかないというのに、舜が俺らが戻ってくるまで弁当に食べすに待ってくれていた。
「すまん色々あって遅れた」
「渚から話聞いて助けに行こうと思ったところだったけど無事そうで良かった」
「ごめんね…レイジ、怖くて他人のフリするしかなかったの」
渚が申し訳なさそうに言う反面舜は笑顔でそう答えてくれた。
なんだよ!!良い奴すぎるだろ!!!
まぁ渚は仕方ないよな、それにあの場面はそうしてくれて逆に助かった。
渚まで目をつけられたらそれこそ、だ。
「うん、それでね零次君、このこと突っ込もうか迷ったんだけど、いつまで手を繋いでるのかい?」
舜が弁当を開けて若干急ぎ目に食べながら、訳の分からないことを指摘してくる。
ん?と思い自分の手を見ると、恵梨香の手を握っていた。
「あ…あぅ…た、小鳥遊君……手……」
バッ、と後ろを向くと
頭を俯かせても分かるくらいに顔を真っ赤にして今にも煙を出しそう、いやもう出している恵梨香がいた。
「っ!すまん!恵梨香!」
勢いよく手を離したせいで恵梨香がバランスを崩して俺の体に寄りかかってしまう。
その状況を見てクラスメイトが ひゅ〜〜と声を出す。
やかましい!黙ってろてめぇら!!
「ぶはっはっはっはっは!!」
渚が恵梨香の事を指さして大笑いする。
恵梨香の心を読んだのかわからんがお前も黙っとけ!
てか渚が大笑いするって今何を思ってるんだ!?恵梨香!?
「大丈夫か?」
恵梨香をゆっくりと俺の体から引き剥がし心配すると
「ひゃぁぁぁ〜……」
と言いそうな顔をしながら恵梨香が気絶していた。
そ、そんなに俺の体に密着したのが嫌なのか…?

キーンコーンカーンコーン

ここでチャイムか鳴る
買っておいたパンを大急ぎで口の中に放り投げながら、恵梨香を起こす。
両手で肩を揺らすと、恵梨香は直ぐに目を覚ますが俺の顔がどアップだったのに驚いたのかまた気絶する。
お前おかしいだろ!どんだけ気絶すりゃ気が済むんだよ!!

「しかし、レイジどんな人に助けて貰ったの?」
恵梨香のことはもう諦め恵梨香から手を離したら、渚が下から覗き込むように話しかけてくる。
渚の後から それ僕も聞きたいみたいな顔で舜がひょっこりと顔を出す。
それでさっき起こった一部始終を2人に話す。

そういや、今時、体育の先生でも持っていない竹刀を武蔵は持っていたけど大丈夫なのか
それこそ先生に指導されないのだろうか?
「あ、その事については特別なんだよね〜」
「特別?」
「うちの学校、この街のシンボルみたいなものでしょ?」
「まあ、言ってしまえばそうだな」
「それもあるし、後ああいう先輩達を指導するために、特別に転校…というか派遣された世界風紀保護委員会の使徒だよ」
なんだそれ、聞いたことも見たこともない。
世界風紀保護委員会ってなんだよTVでも見たことないぞ。
てか世界規模か、すげぇな
「あまり情報とか出さない所だからね、ウチもこの学校にいるとは思わなかったからびっくりしたわ」
「へぇ〜!ということは、彼は正義の味方ってことだよねっ!」
「そういうことになるわね」
いつの間にか起きていた恵梨香の問いに渚が答える。
恵梨香のことを見ると、偶然にも目が合って凄い勢いで顔を逸らされた。
普通に悲しいぞ!!

『こんなヤンキーを成敗していいのだろうか』

うちの学校は体育祭が開催するのがほかの学校より早いらしく、しかも普通の高校ならスポーツ大会なはずなのに小、中学校みたいな運動会みたいな感じだ。
なので応援練習というクソ面倒なのが放課後にある。
今日、俺らが応援練習する場所である第二体育館に向かってる間に恵梨香が話しかけてきた。
「小鳥遊君って中学校の頃何の部活してたの?」
部活のことについて聞いてきた。
今は体育祭ムードに包まれているが、そういや明日が部活動見学の最終日だった。
元々、入学してから自由に部活動見学して良かったのだが俺は恵梨香や渚の件があって直帰してたので、明日の部活動見学の時間に入部する部活を決めなきゃ行けない。
「んー、そんな運動は得意じゃないんだけど陸上部に入ってたね」
「へぇーー!陸上部なんだ!競技は?」
「走幅跳だけ異常にできてたから、それをやってたよ。恵梨香は?」
「私は運動とか全然ダメだから、文化部の美術部に入ってたよ、1度だけだけどコンクールに入賞したことあるんだ!」
恵梨香が自慢げに言ってくる。
コンクール入賞はすごいな、と思う。
正直言うと俺は絵心がないから、美術の時間に描いた絵も入賞どころか先生に諦められた…というかなんとも言えない顔を何度もされたからなぁ

応援練習が始まり、俺が大嫌いなジャンプしながら応援するとかいうのをやる。
わざわざジャンプしながら応援しなくていいだろ
いざ本番だと応援で疲れて他の競技どころじゃなくなるだろ…
応援練習が終わったことろにはみんな汗だくになっていたが、恵梨香のことを見ると全然汗をかいていなかった。
「あ、小鳥遊君なんで今私が汗かいてないか気になったでしょ!」
「ああ、気になったが心の中を読むのはやめてくれ」
ただでさえ渚で心の中を読まれるから気を使いながら話しているのに、恵梨香さえそうなったら何も考えられなくなる。
「風を生み出して体を適度に冷やして汗を出さないようにしてるんだ!」
「いい能力だなオイ!?俺のとは大違いじゃねぇか!」
全く、舜の光速移動や渚の読心術、そして目の前にいる恵梨香の能力に比べると俺の能力ってなんやねん?って思うわ
透明になるだけって…しかも息止めてる間だし、他の3人に比べると弱すぎる。
見えないだけで物理攻撃は当たるしよ
不貞腐れながら恵梨香の話を聞いてると

「いや〜応援疲れたわね」
渚が簡易的なストレッチをしながら話しかけてくる。
「ああ、ここまで激しいとは思ってなかった」
「ねぇ、レイジ、応援の疲れをカラオケで一気にふっ飛ばさない?」
「余計疲れると思うんだが」
「いいじゃん行こ行こ、何も私とレイジだけとは言ってないわ」
ホッ 安心した。
渚と二人きりになると、何をされるかわからない。
「なによそれ……」
「そ、そんなことより!行くなら早くみんな誘って行こうぜ!」
「ま…いいけど、舜と恵梨香行く?」
渚が舜と恵梨香をカラオケに誘う。
てか、元々この2人に断られたらどうするつもりんだ。
てか恵梨香、早く帰らないとバスの時間に間に合わないんじゃないか?
「レイジ、舜と恵梨香行くって」
「小鳥遊君の歌声聴きたいですっ!」
「まて、俺は歌うまくないぞ」
小さい頃から目立たないように生きてきたんだ。
確かに、自分の部屋で熱唱してたこともあったが、あまりうまくないと思う。うん
てか、それよりも恵梨香
家に帰らなくて大丈夫なのか?
「今度からバスじゃなくてお兄ちゃんが車で迎えに来てくれることになったの、やっと初心者マーク外せるとか言ってて」
なるほど
確かに泊まりとか急に言われたら家族としてはアレやし
多少遠くても、娘には友達と遊ばせて帰りは迎えに行った方がいいんだろうな

舜が歩いてきた。
「まあ、せっかく誘われたし、用事も別にないから。僕も行くよ」
舜は歌、上手いのか……?
「上手いわよ、嫉妬するくらい」
渚が俺の目を見てニカッと笑いながら言う。
なんでもない時に人の心を読むのはマジでやめてくれ
疲れるんだ!!

「あっクレープ屋……」
カラオケの場所へとそこまで遠くないから徒歩で移動中、路上のカフェでクレープが売っていた。
詳しく店の名前を見てみると、この前SNSで人気になっていたクレープ屋だ。
直ぐに売れきれになっちゃうらしく、本店だと朝から並んで買う人もいるらしい。
俺はそこまでして食べたいとは思わないが、まだ売れきれてないみたいだし丁度いいし食べてみたい気もする。
「なんだ、恵梨香食べたいのか?」
「あっ別にいいよ!あとできて食べればいいだけだから」
あくまでも恵梨香が食べたいから仕方なく俺も、という雰囲気を作っておく。
男がクレープ食べたいから〜的なことを言うとなんかちょっとな、ははは
「じゃあ、僕がみんなの分買ってきてあげるよ」
恵梨香と俺のやりとりを見ていた舜が言う。
渚は速攻で、マジで!?よろしく!!と言ってお金を渡す。
こいつ、俺と舜の心の中読んで出方を伺っていたな
「いいのか?舜」
「いいよいいよ。実は僕も食べたいと思っていたしね」
「じゃあこれ、俺と恵梨香の分のお金だから、よろしくな」
舜に恵梨香と自分の分のお金を渡して、買ってきてもらうように頼んだ。
恵梨香が自分の財布から出そうとしたが、俺が食べたいのに勝手に利用させてしまったみたいだし奢らせてあげよう。
渚はなんで私は!?とか言ってたけど気にしない。
適当に席に座っていたら
「おい、嬢ちゃんいい乳してるねぇ」
「そっちのお嬢ちゃんも可愛らしいじゃないの」
はい、案の定めんどくさいやつらに絡まれた。
なんで恵梨香と一緒にいるとDQNに絡まれるのかなぁ。
トラブルメーカーなのか?
「ちょっと!なによあんた達!」
「やめてくださいっ!」
チャラけた奴らが渚と恵梨香の手を掴む
冷静に物事を考えている場合じゃなかった
恵梨香の手を掴んでいるチャラ男の肩に手を置いて注意を促す。
「ちょっと俺の連れにやめてくれます?」
少しドスを効かせた声で話しかける…が
「ああ?なんだてめぇ」
「邪魔だな。死ね」

ブンッ

「!?」
チャラけた奴らの一人が急に殴りかかってきやがった。
た咄嗟のことだったか避けれて良かった。
異能力を使って透明になればすぐに倒せるのだが、こんな人気があるところで使いたくもない。
てか、街ゆく人々みんな怖がって助けてくれたり、警察を呼んでくれたりしない。
ましてや、またか…みたいな顔で呆れながらも見物している人たちもいる。
こそう考えるコイツらは常習犯か、
どうにかしてお灸をすいてやりたいが、こりゃどうすりゃいいのだか
このまま避けてばっかりではいつか当たるし、あんまり喧嘩は得意じゃないけど仕掛けるしかないのか
「チッ」
舌打ちしながら店から少しずつ離れていく。
できるだけ他のお客さんに迷惑はかけたくない。
「きゃっ!」
「おい!」

バキッ

「いっつ……」
渚と恵梨香がもう一人に連れて行かれそうになり、悲鳴をあげた方に気を取られて顔にパンチがクリーンヒットした。
「いってぇな………お前、調子乗んなよ……」
「あ?うっせぇなもう一発だ!」


フッ と自分の中で何かが消えた気がした。



「は?」
ウチらに絡んできたヤンキーの一人がレイジに殴り掛かるが、レイジにその拳を受け止められる。
レイジは無表情のままその拳に力を入れる様な素振りを見せた。
拳を握られたヤンキーは苦痛の表情を見せながら、悲鳴をあげる。
「がぁぁぁっ!!てめぇ…どこにそんな力……」
握力に耐えられなくなったのか、膝を地面に下ろす。
レイジはそれを見かねてもっともっと力を入れる。
それを見かねたウチらを捕まえていたヤンキーが、加勢しにレイジの方へ行く。
「っ!危ない!!」
咄嗟のことで声が出る。
しかし、それは杞憂に終わった。
2人目のヤンキーがレイジに殴り掛かるが、その拳は受け止められた。
レイジではなく、そうクレープを大事そうに片手で4つ持ちながら舜が。
「……邪魔だ」
ゾワッ といつものにこやかな笑顔を比べる舜からは想像できないような声と、その怒りに満ち溢れた顔でヤンキーの腹に思いっきり蹴りを入れる。
ヤンキーはモロに食らったようで二三歩後ずさりしたあとにその場で嘔吐する。

「……は!舜!助けに来てくれたのか!」
さっきまでずっと無表情だったレイジが夢から覚めたように舜に気づく。
その表示に握力で握り潰そうとしていた手を離してしまい、元々レイジに絡んでいたヤンキーが自由になる。
それをいいことに舜に殴り掛かるが
「鈍い」
その一言が聞こえた時にはヤンキーは道路に伏せて倒れていた。
舜が高速で鳩尾に拳を叩き込んだのだ。
吐くことも許されず、その場で絶句し倒れたヤンキーを見て、さっきまで吐いていたヤンキーは逃げ出す。
仲間を置いて、だ。
しかしそれを許さず様に舜が光速移動を使い追いつく。
いつの間にか増えていた周りの人だかりとヤンキーは何が起こったか分からないような感じで、そんな混乱にしているヤンキーに対して舜が後ろ回し蹴りを食らわす。
モロに顔面に食らったヤンキーが軽く吹っ飛び泡を出して倒れた。

それを見ていた人達……ギャラリーは拍手をして舜を褒めたたえた。
ウチが舜をビビっていた理由はこれなのだ。
中学の時も似たようなことがあったのだけど、その時はこんなのよりももっと恐ろしかった。

気づくと舜の顔はいつもの通りの笑顔に戻り、いつ渡した?と言わんばかりにレイジに渡していたクレープを受け取り、私と恵梨香に寄越してくれた。
いやぁ…こんなことがあった後に食えって言われても、多少無理があるけど食べる。

うん、めっっっっっちゃ美味しい。


「いやぁ!?めっちゃ美味しいんだけど!」
クレープを頬張りながら渚が叫ぶ。
実は、俺、小鳥遊零次さっきまでの記憶が一切ないんだ。
ヤンキーの1人にキレた後に、気づいたらそいつの手を掴んでこれ本当に俺の力か?って位の力で掴んでいたし
その後に舜がぶっ倒してくれたから良かったけど、危なかった。
てかマジでこのクレープ美味いな。

いやぁ、でも今回の件で舜が少し怖くなってしまった。
よくテレビやゲームで敵にしたくない仲間ってのが1人や2人いるけど、俺にとっては舜だ。
まぁ、こんなに優しい舜が俺らの敵?というかなんというかそんな感じになる時は俺らがマジでやばいことをやらかした時に限るだろし、まずそんなことはないだろうから安心だな。

………フラグじゃないぞ!?

「さってと!じゃあカラオケ行きますかっ!」
渚が元気な声を出して先頭に立つ
さっき絡まれて少しくらいは弱気になると思ったけど、大違いだった残念。
てか、マジでさっきまであんなことあったのによくカラオケ行く気になるな
別に行ってもいいけど、早く家に帰りたいとか思わないのか?
ため息をつきながら渚のあとを着いていくと
「小鳥遊君……怖かったです」
ヤンキーに絡まれてた時からずっと震えていた恵梨香が手に抱きついてくる。
小、中学の時に好きでもない同級生に言い寄られていたらしいし、今回のように変なヤツらに絡まれることなんて1度や2度じゃない。
本当に恵梨香は可愛そうだと思う、不運すぎる。
男性恐怖症になっても仕方ないんじゃないか
多少の気休めになればいいなと思い、恵梨香の手を握ってあげる。
恵梨香は少し驚いたように俺の顔を見上げるが、微笑んでいた俺の顔を見て安心したのか、少し気恥しそうに握り返してくれた。
傍目から見たら完全にカップルだが悪い気はしない。

カラオケに着くと慣れた対応で渚が店員さんに3時間ミニフリーを頼み、会員証を提示したおかげかVIPっぽいルームに案内してもらう。
「さってと何を歌おっかな!」
渚がマイクを手に取り、パッドをタッチして選曲する。
数秒した後に、探していた曲を見つけたのか少し力強くタッチして立ち上がる。
因みに選んだ歌は最近有名なアイドルグループの歌だ。
あまりアイドルとかは詳しくないのだが、妹が家でテレビを見る時にそのアイドルの番組を見たり、事ある事にその曲調の鼻歌を歌っているから少しは知っている。

渚が歌い終わると俺にマイクを渡してきた。
カラオケに行ったことは数えるくらいしかないし、自分の歌が上手いのかどうか分からんが歌ってみるか。
ちょっと前に話題になった映画の主題歌を歌う。
歌っている間、恵梨香がずっと笑顔でタンバリンをシャンシャンさせてくる。
恥ずかしいからやめろぉ!
「へいへいへーい!」

ブフォ!

リズムに合わせたように渚と舜もふざけて踊り出すので笑う。
歌うどころじゃねぇよ!!
俺が歌い終わると恵梨香がマイクを取る。
舜はいいのか?と思ったが別に最後でいいらしい。
ここでも人格でるな、なんて優しいんだろうか。
そして恵梨香が選んだ曲とは……と、その前にトイレに行きたくなったので部屋を出る。
恵梨香が歌いだす前に戻っておかないといけないので、早めに終わらすため小走りでトイレに向かう。
「ん?」
トイレから帰る前にうちの学校の制服を着た生徒を見かける。
若干短く、そして橙色の髪の毛の女の子だ。
リボンの色を見る限り俺らと同じ1学年みたいだ。
いや、そりゃうちの学校はクラスが多いし1人や2人同じカラオケ店に来ることは分かる。
だが、俺が引っかかったのは胸らへんに生徒会のバッジを付けていることだった。
しかもそのバッジは金色に光っており、生徒会長の印でもある。
1学年が生徒会長、その時点でかなり不思議なのだが、あまりジロジロ見てるのがバレたら気持ち悪がられるだろうし、恵梨香の歌も始まっちゃうので戻る。
因みにその生徒は店員に会釈すると、特にルームに入る様子も無くずっとそこに佇んでいただけだった。


「ただいま、恵梨香何選んだ?」
ハンカチで洗った手を拭きながら話しかける
「もってけセーラー服!」
お前…貧乳だからって……
俺の評価なんてどうでもいいだろうが、巨乳か貧乳かなんて別にどうでもいいんだよなぁ
どれだけ大きくたって垂れていたら嫌だし、かと言って貧乳で膨らみ0だったら流石にそれは…っていう感じだからなぁ。
恵梨香のなにが分かるんだって話だけど、別に恵梨香程度なら全然いいと思うんだがなぁ。
まぁいかんせん、隣に座っている爆乳ポニテ野郎のせいで貧乳に見えるってのは仕方ないな。
「もっていーけ最後で笑うのは私のはーず!」
恵梨香が渚のことをチラ見にしながら歌っている、しかもサビ部分
最後に勝つのは私だと言っているのだろうか?
「胸がないくせに何言ってるのかしら」
「はぁぁぁ!?」
恵梨香がマイクを渚にぶん投げてブチ切れた
入学初日のあの大人しさはどこに行ったのだろうか(涙)
俺が恵梨香を見てほろりとしている間に舜が2人を止める。
まあまあ、とこの前に渚の家に来てくれた時に比べるとかなり優しい止め方だ。
まぁ、カラオケ店だしな壁の向こうには普通に他のお客さんがいるもんな。
「物壊しちゃったら困るのは全員だからさ」
舜が苦笑いで2人を制す。
渚はハッとしたように、ごめんなさいと誤り
恵梨香も俺の方をチラチラ見ながら謝る。
なんで俺を見る、おいおい
その後にみんなで問題がなく、どんどん時間が流れていく。
因みに舜はとっても歌が上手かった。
俺97点なんて点数始めて見たぞ、よくテレビでやってるカラオケバトル的なレベルだった。
最後には99点出てたし良い意味で頭おかしい。
外に出るともうすっかり空は暗くなっていた。
恵梨香がお兄さんと待ち合わせあしているところに走っていき、渚も駅まで行くってことで、みんなカラオケ店前で分かれる。
俺と家の方向が同じ舜と歩きながら話していると、部活の話になった。
「零次君はどんな部活に入るつもりなんだい?」
「うーん、激しい運動部とかにはあまり入りたくないし、かと言って文化部で運動しすぎないのは太るしなぁ」
激しい部活はできるだけしたくない
理由はめんどくさいからだ、長距離と幅跳びは得意だが運動全般があまり好きじゃない
「走幅跳びが得意なら陸上部とか入らない?」
「でも、凡人より少しできるくらいだし、やっぱり激しいと思うし遠慮しとくよ」
そっか、と舜が言い、家の方向が違う分岐点につき手を振って分かれる。

「ぐえっ!!」
家に着くと妹がエプロン姿でキッチンから走ってきて、俺の体に飛びついてきた。
どうしたのか聞くと、さっきまでインターホンがなってインターホンのカメラで誰か確認したら、黒い帽子とマスクで顔を隠してて誰か分からず、怖くて出なかったらしい。
the不審者の服装みたいで、居留守を使ってるとドアノブガチャガチャされたり、何度もインターホンのボタンを押されたりで怖かったらしい。
半泣きで抱きついてくる妹の頭を撫でながら明日からは早く帰ってくることを伝える。
そう考えると、激しい激しくない関わらず運動部に入れないなぁと思う。
まぁ、妹の安全のためならそんなことはどうでもいいことだ。
余程に怖かったのか、風呂に入る時や寝る時も一緒がいいらしく、久しぶりに一緒に寝た。
しかし不審者か…
妹の学校にも伝えておくか

『こんな部活を新設していいのだろうか』

「行ってきまーす」
誰に言うわけもなく妹と共に家を出る。
昨日の不審者のこともあるし、妹を無事小学校まで見送った後に自分の学校まで向かう
今日はどの部活に入るのか部活動見学する最終日だ。
「おはよ」
「やあ、おはよう」
舜が挨拶を返してくれた。
渚と恵梨香はまだ来ていないようだ、舜にどの部活入るの?と聞いてみたら
「僕はやっぱり陸上部かな?そうじゃないとこの光速移動が生かせないからね」
光速移動だと早すぎて瞬間移動と間違われるんじゃないだろうか
超能力者扱いとかされそうだけど、舜の事だしちゃんと制限をつけて走るのだろう。
「席につけー」
先生が来た、まだ渚と恵梨香が来ないってことは二人とも欠席ってことなのだろうか
皆勤賞が勿体無いと思うのは俺だけだろうか
「えぇと、空野と目黒は風邪で欠席……かなり声がガラガラらしいぞ」
カラオケだろ絶対
舜と目があったこともあり、舜と考えていることは同じみたいだ
今日は時間割を見たとおり、先生の話を聞いたとおり一時間目は部活見学みたいだ
舜は陸上部の方に行ったが、実際俺はどの部活に入ればいいのだろうか
もしもいい文化系の部活がなかったら帰宅部になるのだろうか、帰宅部は嫌だなぁ
「文化はっと……書道部、茶道部、パソコン部………結構あるな」
以外と多かったため、一時間だけで回るのはかなり大変そうだが実際午後にもあるので、
一つずつシラミ潰しに行こうかと思った。
「最初は……ぶんがくぶ?で読み方あってるのかな」
文学部だがなんだか知らない部活に行くことにした、なんとなくだが縛りもなさそうな部だろうな〜と思ったからだ。
暇つぶし程度な部活にはなるだろうし、早く帰りたい時も帰れそうな感じがする。

コンコン

文学部と書かれた紙の下にある扉を軽くノックする。
中から小さな声で「どうぞ」と聞こえた。
「すいません、見学に来ました……」
先輩がいると思って少し弱気で入ってみたが、そこにいたのは自分と色のリボンをした女子だった。
ということは1年生ということだ。
2.3年生の先輩達はどこに行ったのだろうか
というよりも、この子1人しか見当たらない
「1人……なんですか?」
先輩達が遅れているのだろうか、推測は沢山出たが聞いてみると
「…………新しい部活」
本を読みながら小さな声で返事をしてきた
女の子と話すことは家族以外には恵梨香、渚が大体で、他のクラスメイトとは話すっちゃあ話すが渚と恵梨香が何故か牽制してくるのであまり話せない。だからこのように、口数が少ない女の子となるとかなり話し辛い
というか、文系の部活なら他にも山ほどあったのに文学部をわざわざ作る意味がわからないが、人それぞれの考えというものがあるので、特に追求しようとは考えなかった。
確かに激しい運動は嫌だと言ったが、ここまで暇そうな部活も嫌だったので違う部活の見学に行こうとしたら

クイッ

袖を掴まれたようだ
振り向いてみるとその子が俺の袖を掴んでいるようだった
さっきまで椅子に座って本を読んでいたはずなのに、一気に間合いを詰めてきた。
これは…手馴れてるな?なんちゃって
「……待って……これ」
女の子がポケットから出したのは入部届だった、部活名のところには文学部と書かれている
確かに部員1人だと活動出来なかったりするのだろうか、部員集めも大変なのだろう
折角なので貰っておいたが、入る気はあんまり起きないのでどうしようとか結構迷ってる。

文学部の部室から出て、他の部活動を見学に行こうと廊下を歩いていると一人の男の子とすれ違った。
学校の廊下だし自分以外の生徒とすれ違うのは当たり前なのだが、何か異様な気がした。
ふと後ろを向くと男の子もこちらを振り向いたようで、目があった。
「………………」
男の子は無言で直ぐに前を向き歩き出した。
あの男の子も俺と同じすれ違った時に異様な気を感じたのだろうか
でも、あの異様な気はなんだったのだろうか
渚がいれば直ぐに分かるのだが……まぁいいか、ただの偶然かもしれないしな
「しかし……文芸部の見学でこんなに時間使っちまったか」
スマホを起動させて時間を見ると残り10分くらいしか残ってなかった。
そもそもHRで時間が潰れかける1時限目に部活動見学をすること自体が間違ってると思うんだが
「5分前には戻っておけって先生言っていたしな……帰るか」
先生に言われていたことを思い出し、5分くらいで見学できる部活なんてないだろうから、さっさと教室に戻る。
教室に戻ると舜がいた。
「やあ、どうだった?」
「文学部しかいってねぇよ……しかも、どうするか迷ってるし」
「そっか、大変だね」
舜が微笑みながら答えてくる
「舜はどうだった?」
「僕は別に良かったよ、陸上部なんてどこも同じだしね」
ハハハ と声を出しながら笑う舜
チャイム音の余韻のザーというノイズ音が聞こえ始める時には、みんなもう席に着いていた。
一応と思って、クラス内を見渡して見るがその中には文芸部の女子とすれ違った男子はいなかった。
やはり見覚えがないと思ったら別のクラスの子だったらしい。
そういえば舜は何か知っているのではないかと思い、廊下ですれ違った時に感じた異様な気がする子の事を聞いてみたら
「さあ?ちょっと分からないかな、ごめんね」
舜が申し訳なさそうに話す。
まぁ、そんな自分が体験したことないことを聞かれても知らなくて当たり前だと思う。
「渚なら何か知っているかもね、彼女は異能力の事をたくさん調べているから、今日は欠席だから明日聞けばいいと思うよ」
「ん、そっかありがとう」

午後の授業

午後の授業って午後の紅茶みたいだよね、どうでもいいな
というか午後の〜〜ってくれば何でもそう思えるか。
午後の授業のこの時間で見学を終わらせなくてはならない。
見学していなくて適当に入った部活が、全然自分と思ってたのが違く、入っているのが苦痛に感じるということも大いにありえるからちゃんと見て回らないといけない。
「茶道部、行ってみよっかな」

結果的に言うと全部ダメだった。茶道部も吹奏楽部、パソコン部も他の文化部も自分とは全く合わない部活だった。
残り時間は15分程、今からまだ行っていない部活……主に運動部を見学に行っても途中で終わりそうなので、教室に戻ろうと思いいつもと逆のポケットにスマホを入れようとしたら

ガサ

「ん?」
ポケットの中に何か紙が入っている、手にとって見てみると。
文学部の入部届の紙だった。
「……もう一回文学部行ってみようかな」
一度行った部活だし、他にも見学者がいるかどうかくらい見に行こうかなと思って文学部の部室に足を運ぶ。

コンコン

どうぞ、という声が聞こえて中に入る。
そこにはあの女の子と、午前の授業ですれ違った男の子がいた。
「………君は」
男の子が口を開く。
すれ違った時の事を覚えているのだろうか、まぁ今日のことだし覚えていても当たり前だろう。
「……君も文学部に入部しようか迷っているの?」
男の子が女の子に聞こえないくらいの声の大きさで話しかけてきた。
特に他に入りたい部活もないし、もういっそのことこの部活でいいかなと思いっていた俺は首を縦に振った。
「……そうか、良かった」
何が良かったのだろうか?
疑問に思っている俺を見て学生手帳を見せてきた。
「……この部分分かる?」
男の子が指をさしながら学生手帳の部活動のところを見せてくる。
そこの部分には 1クラブ活動最低3人 と書かれていた。
なるほど、この男の子も文学部に入ろうと思っていたのだが女の子と自分だけでは文学部を始めれないと思い、俺が来たところで聞いてきたのか

ピピピピピピピピピ

ポケットからスマホのタイマー音がなる。
もうすぐ教室に戻らないといけない時間になったので、男の子と女の子にそのことを伝えて三人一緒に部室を出た。
廊下を歩いている途中男の子が話しかけてきた
「……言い忘れたけど僕の名前は 古記録(こきろく) 純平(じゅんぺい)よろしく」
「あっ、俺の名前は 小鳥遊 零次よろしく」
「……君の名前も教えてくれる?」
純平が女の子に話しかける
女の子は足を止めて小さな声で呟いた
「…………水無月(みなづき) 築紫(つくし)
水無月は顔を俯けたまま、また呟き続ける
「…………ありがとう」
「えっ?」
「……………あなた達のおかげで……文学部……やれそう」
「そっか……まぁ、こちらこそ文学部作ってくれてありがとね……えっと水無月さん」
「……………水無月でいい」
水無月が顔を下に向けながら話す
しかし口は少しにやけている様子だった、やはり嬉しいのだろう。
「なぁ、思うんだけど文学部っていい辛くないか?文芸部って言った方が幅広いって感じするし、『芸』について…的なことで明確に周りに伝えやすいから、文芸部って名前にしない?」
長ったらしく2人に言ってみる。
実際、そんなに部見学に来た人が少ないのはそういう理由じゃないのだろうか
文学って何をするんだ?勉強?と思われるだろうし、だったら文芸部と言って何かしらの芸を学びます。
とか、そういう感じで進めた方がいいんじゃないか
「うん……そっちの方が…いい」
水無月がコクコクと頷きながら了承してくれた。
純平は特に何も言う様子もなく、水無月の様子を見ていいと思うよ、とだけ答える。
やっぱり部長の判断に任せる、ということなのだろう。
その部長の水無月がいいと言ったのだから、今から文学部は文芸部だ。
あんまり変わってないような気もするけど気にすんな!!
「……時間」
純平が腕時計を指差しながら催促してきた。
そうだった。こんなことをしている場合ではない、早く教室に戻らなければ
廊下を走ってしまっているがこの際仕方ない、5分前までには教室に戻らないと怒られる。
先生からの評価を大切にしたい俺からしたら死活問題だ。
「……遅れても大丈夫、僕がどうにか出来るから」
純平が小さな声で呟く
どうにか出来る?意味が分からないが、純平の手に頼らなくても時間的には大丈夫そうだ
「……じゃあ僕は4組だから」
「また……放課後…」
水無月は少し顔がニヤついたまま本を抱え込んで教室に駆け込んで行った。
純平は手を上げて教室に入っていった。
「さてと、先生が来る前に俺も席に着かないとっと」
結構冷静を装っていた俺だが、高校生になってトントン拍子に友達が増えたことで内心めっちゃテンションが上がっていた。
そういえば放課後の部活は体育祭の練習で潰れるんじゃないかと思っていたが
戻ってきた先生の話を聞く限り、今日は職員会議がどうのこうので応援練習は潰れるらしい。やったぜ

そして放課後、文化部の部室棟の最上階、3階の一番奥の部屋に直行する。
そこが我が文芸部の部室なのだ。
地味に遠いが、そんな距離でもないので我慢する。
それより、今日は欠席している恵梨香と渚も、俺が文芸部入ってるって言ったら入ってきそうな感じがするので、何かと心配だ。
部員が増えるのは全然いいと思うが、2人とも喧嘩しそうで……まぁ、いつもは仲良いんだが何かとあるとすぐ仲が悪くなるからなぁ。
舜の目の届かないとこにいるとなると寒気がする。
コンコン とノックして扉を開ける、そこにはもう水無月と純平が本を読んで待っていた。
水無月は難しそうな本を読んでいるが、純平は表紙にかわいい女の子の絵が載っている、いわゆるライトノベルってやつを読んでるみたいだった。
カバーをつけろカバーを、恥ずかしくないのか
「……またあったね、って当たり前か」
純平が口をニヤつかせながら話す。
周りの空気を読んでバッグから本を取り出そうと思ったが、純平がオセロを出して やろうと誘ってきた。
どこから出したそのオセロケース
「部長、オセロとかダメなんじゃ?」
「別に……大丈夫。私は本を読むだけだから…あと名前で大丈夫……」
「……じゃ、やるか」
純平がパチパチとオセロを中心の四つに並べる。
途中角を一つ取られたが、もう3つの角全部とって勝てたので良かった。
そのあと2回くらい戦ったが俺の全勝だった、そしたら純平がポケットからトランプを出してきた。
「……ババ抜きしない?」
「二人でか」
「……部長、ババ抜きやろう」
さっき本を読んでればいいとか言っていた水無月はやらないだろう流石に
純平、お前はちゃんと人の話聞いているのか
「少しだけなら……あと名前で…」
「いいの!?」
ガタッと音を立て大げさに反応してしまった。
因みに水無月の名前で呼んでいいよって言ったのに対して純平は気づいてないようで、その後も部長呼びをして水無月は諦めた様子だ。
3人でババ抜きしてみたが水無月のポーカーフェイスにはかなり驚いた。
何を引いても無表情、何を掴んでも無表情、何を引かせても無表情
対して純平は、ジョーカーを引いた時や掴んだときは顔の半分がものすごい形相をしていたから、かなり分かりやすかった。
文芸部に入っても 暇なだけだろうなと思っていたが案外これも面白い。
「……ごめん、今日は用事があってもう帰るね」
鞄の中に本やトランプ、オセロボードをしまいながら話す。
どんな事情なのかはわからないが、純平は急いで帰る様子だった。
「本読むかぁ」
純平もいなくなったことだし、とりあえず本でも読んでおこうかと思う。
時々本が面白くて クスッと笑ってしまうことがあったが、水無月は気にしてなかったようなので安心した。
ずっと本を読んでいたが外の明かりがオレンジ色に染まってきたので、そろそろ帰ろうと思って帰る準備をし始めたら、水無月も立って準備を始めた。
「待ってくれてたの?」
「……………うん」
マジカヨ、だったらもっと早く帰るべきだった。
言われてみればそうだった、水無月がここの部室の鍵を持っているのだから帰りたくても最後にしかなれないのだ。
「ごめんな」
もし、早く帰りたくても俺のせいで帰れなかった時のことを考えて謝っておく。
「大丈夫……それに……入ってくれてありがとう」
改めて水無月が礼をしてくる。
そんなに気にしなくていいのに、それに遅くまで残らしてしまったのもあるし、昨日の不審者のこともあるから水無月の家の近くまで送ってあげる話になった。
だが水無月と一緒に二人きりで歩いているとこんな結論にたどり着く

会話が発生しない&会話が続かねぇ!

「……………ここでいい………ありがとう」
そう言いながら水無月がマンションのエレベーターに乗って行った。

その後、湊が待っている児童センターに向かう。
児童センターに着くと、いたずらした様子の小学低学年くらいの子を追いかけてる教員の方にあう。
「あら、零次くんじゃない、久しぶりね」
その方は俺が小学生の時にここでお世話になった人、谷口(たにぐち)千代(ちよ)先生だ。
俺がいた時からいる先生だから結構前からいて、社会人の息子と中学生の娘を持つ2児の母のとは思えない老いを感じさせない程に美人な先生だ。
湊から聞いたのか、先生は不審者の事を知っていた様子だ。
待っててね、と言った後1分もしないうちに湊が出てきた。
湊はトテトテと走りながら俺の横に来る。
俺の顔を見ると二カッと笑い、俺の手を取る。
遅れてやってきた千代先生は、相変わらず仲良いわねと言いながら癖である独特な腕を組み方をする。
「うちの2人もこんな風に仲良いならいいのにね〜」
「ははは…」
「○○ちゃんもいたっていうのに、零次くんったら本当にたらしね」
千代先生がからかってくる。
○○ちゃん…?昔、この児童センターで仲良かった子の名前だろうが
必死に頭の中で探してみたが、何一つ情報は出てこなかった。
俺が混乱している様子を見ると千代先生は少し困った様子をしていた。
困らせてはいけないと思いなんとなく話を繋ぐ。
「それじゃあ、また明日ね」
と言いながら千代先生が手を振る。
湊と一緒に手を振りながら家に帰る。
帰っている途中、湊が学校であったことや児童センターでの話をしてくる。
家に着いてからも、たくさんの話を聞かされて俺も楽しい気分になった。

『こんな記憶を覚えてくれてないのだろうか』

『こんな記憶を覚えてくれてないのだろうか』


そして翌日
家を出て学校に着いたのはいいのだが、昨日欠席した恵梨香と渚が今日は来るのだ。
「これはまーた面倒くさそうなことになるな……」
そう言いながらもあの二人に会えるのは結構ワクワクしていた俺だが、まさかあんなことになるなんて予想だにもしていなかった。
「おはよ」
「えっ……あ、おはよう」
ん?舜が何か戸惑っている。
挨拶くらい普通じゃないのか?
「おっはよー!舜!」
急いだ様子で教室に入ってきた渚が渚が舜だけに対して挨拶をする。
新手のいじめかと思い、こちらから挨拶をする。
「おはよう渚」
「おっ!おはよう!………で、誰だっけ?」
は?
渚が俺に対して今 誰だっけ? と聞いてきた。
おかしいな、1日会わないだけでこんなに忘れられるものなのか
とりあえず、こいつのからかいだが何だかしらねぇが乗ってやろうと思った。
「俺だってば零次零次」
「零次?………ごめんね、自己紹介の時寝ちゃってたかも」
おかしい、からかっているにしたら周りでこっちをジロジロ見てくるクラスメイトの目がこんなに不思議な目をしているわけが無い。
からかい、ではなくマジの感じだ。
「ダメだよ、渚、自己紹介の時に寝てしまうなんて」
「いいじゃない、どうせ舜以外そんな絡まないんだから」
「はぁ……君って子は」
何が起きているんだ、二人共ふざけているようには見えない。
本気で俺のことを忘れてしまっているのか?
それから何度も話しかけて見たが、本当に俺のことを覚えてない様子だった。
これ以上絡むとウザがられそうだったから、少し距離を置く。
距離を置くと言っても、2人は俺の前の席だから話は自然と聞こえてくる。
いつもなら俺はあそこにいるはずなのに、悔しいというよりも不安な気持ちが先走る。
「…………そうだ、恵梨香……恵梨香なら」
恵梨香なら俺のことを覚えてくれているだろうと思った。だが駄目だった。
そんな淡い希望も打ち砕かれた。
恵梨香が教室に入ってきたと思ったら、俺のことを見向きみをさずに近くの女子グループと話をする。
恵梨香に話しかけようと思ったが、やめといた。
俺のことなんか気にもしていない。本当に空気として見てない感じだ。
やめといた方がいい、直感がそう伝えて俺は恵梨香にも近づかないようにする。
「………どういうことだよ……クソッ!」
何処に怒りをぶつければいいのか、ストレスの矛先を誰に向ければいいのかさえ分からない。
時間はあっという間に放課後になった。
授業の内容は全然頭に入ってこなかった、入るわけがない。
舜と渚や恵梨香だけじゃない、他のクラスメイトも俺のことを覚えてないみたいだった。
俺は、このクラスで、独りぼっちになっていた。
そうだ、純平と水無月はどうなんだ?
この純平と水無月が俺のことを忘れないまま、学校にいてくれる事を信じて俺は部室に走った。
しかし、文芸部の部室の前、いや、部室だったところの前に立ち呆然とする。
文芸部自体が無かったのだ、文芸部と書かれた紙が貼っていないのだ。
ということはここはただの空き部屋
俺は早々にこの部室……いや空き部屋の前から立ち去ろうとした、その時だった。
「………………!」
「……水無……月…か?」
本を抱えてこの空き部屋に入ろうとする水無月にバッタリ会ったのだ。
なんで私の名前を知っているの? という顔で俺の顔を見ている。
でも、そんな顔をするということはやっぱり俺の事を覚えていないのだろう、そう思って直ぐに水無月の顔から目をそらして階段を下りようとした時だった。

クイッ

袖を掴まれた。
後ろを向くと水無月がこちらを見て、袖を掴んでいたようだ。
おどろいた、俺のことを覚えているのかと一瞬思ったがそうではなく
水無月も驚いた様子だった。
何故か突拍子にやってしまったようだ。
昨日の入部届を渡された時と似たような感じをしたが、特に意味もないのだろう。
「…………ごめん」
そう言って水無月は空き部屋に入る。
この空き部屋に自分も入るか入らないか迷ったが、初対面の相手、しかも男子が勝手に入ってきたら怖いだろうし何より気味が悪い。
だから入らず、家に帰ることにした。
下校中、いつもなら渚や恵梨香、そして舜と話しながら帰るのだがそれがない。
たったそれだけの事、なのに歩いて5分という少しの距離のはずなのにとても長く感じた。
明日になったらどうすればいいのだろうか、これからこのままなのだろうか、一生みんなの記憶が戻らずに俺は独りぼっちになるのだろうか
実は、本当は……今までのが夢で元々俺が独りぼっちではないのかとさえ思えてくる。
どうすればいいんだ、誰か助けてくれ、違うんだ。夢なはずがないんだ。
まだ会って1ヶ月も経ってない、だけど今までの出来事は絶対に夢じゃない、現実(リアル)だ。
証拠はない、確証もない、だが俺にはわかる。
……だけど、どうすればいいのかわからない
夢じゃなかったらなんなんだって話だ、今からまた渚と舜に話しかけにいくか?
2人は今頃クラスで他の女子や男子とだべっているだろう。
ここで…ここで俺が気味が悪がられたら終わりだ。
賭けにでるか、でまいが迷っていると

「零次殿ではないか」

低い声、1日しか呼ばれなかっただけなのにかなり久しぶりに感じる自分の名前。
本当に自分が呼ばれたのか?同じ名前の人がたまたま近くにいただけじゃないのか?とさえ疑問が湧いたが直ぐにそれは消え去った。
声の主の正体は、この前購買の時に不良の先輩に絡まれた時に助けてくれて、仲良くなった生徒会の 武蔵 だ。
武蔵は学校付近を見回っていたところ、俺を見つけ状態が普通じゃないと思い、声をかけてくれたようだ。
「武蔵……俺のことが分かるのか?覚えているのか?」
「何を言っているんだ、覚えてるに決まっているだろう?購買の時にビビりながらも勇敢に彼女を救ったじゃないか」
恵梨香は彼女じゃないが今はそんなことはいい
よかった、武蔵が、誰でもいい、自分のことを覚えてくれていた人が高校にいた。
一瞬の安堵感、それだけなのに体の力が抜ける。
そして自然に目から雫が零れ落ちる。
涙が、ポタポタと止まらない。
「ど、どうしたんだ?零次殿?」
武蔵が心配そうに詰め寄ってくる。
理由を言いたい、だけとわ言ったらそれこそ気味悪がられるんじゃないか?
普通に考えたらみんなの記憶から俺がいなくなりました。なんて言ったらただの痛い奴だ。
それかおちょくってると思われて、相手にされなくなるか
だけど俺は武蔵に伝えることにした。
ここで伝えなかったら、それこそ前に進めない。
俺のことを唯一覚えてくれた武蔵に全てをぶちまけた。
「ふむ……記憶からいなくなった…か、少し考える時間をくれ」
武蔵はそういい、腕を組み色々と考え始めた。
やはり急にこんなことを言われたら、考え込むのは当たり前だ。
自分も他人に言われたら考え込む。
今、自分が体験しているから他人が言ってきても信じるだろうが、体験してない昨日までの自分だったらまず信じないだろう。
少ししか関わってない人間なら確実にだ。
しかし、この男、武蔵は違った。
俺の話を親身に聞いてくれた挙句、今「信じよう」と言ってくれたのだ。
「確かに信じられない自体だが、君の彼女……ではなかったな、あの子も零次殿のことを覚えてないのだろう?なら某にも納得がいく」
集団催眠術、かもしれない。と武蔵が口にする。
ありえる、いや、そう思わないとやっていけない。
とりあえず何でもいい、理由をつけてそのせいにしたい。自分がみんなの記憶から忘れられている意味を、理由を、訳を。
「ん?」
武蔵が不意に見た方向にはカツアゲにあっている我が校の生徒がいた。
武蔵はその自体を確認した瞬間、全速力でその場に飛んでいきカツアゲをしている生徒を締め始めた。
武蔵が戻ってくるのを待っていると、後ろのろじうから今にも消え去りそうな小さな声が聞こえる。
「…や……めて……」
武蔵はまだ遠くでカツアゲを止めさせている状態だ。
何が路地裏で起こっているかわからないが、バレないようにチラ見してみると
「キャハハ!その長い髪の毛切ってやるよ!」
「アンタは坊主の方がお似合いよ!!」
「ほら、じっとしてろ、殴られたくないだろ?」
「や…やめて!誰か助けんグゥ!」
ギャルっぽい女2人、そしていかにもって感じの男2人に見覚えのある生徒がいじめられている。
いや、これはいじめの限度を超えてる。
やられている生徒をよく見ると、紫色の髪の毛、ツインテール、そしてメガネをかけていた。
水無月だ。
先程まで部室……じゃなかった、空き部屋にいたはずなのに、いやそんなことはどうでもいい。
早く助けないと、だけどどうすればいい。
俺の力じゃどうしようもない、透明化すればいいかもしれないがこんな横幅が狭い場所でしても意味が無い。
直ぐに気づかれて俺もボコされて終わりだ。
かと言ってこの場を見過ごすのは絶対に嫌だ。
でも…どうすれば水無月を、目の前の女の子を助けれるんだ。
その瞬間
俺の意識が消えた。



いつもそうだ。
私だけ損をする。
私、水無月筑紫は走馬灯の様に昔のことを思い出す。
運動が苦手だから頑張って頭を良くした。
頭を良くするために、休み時間はずっと勉強していた。
テストの点数が良かったり、内申点が良いと先生や親に褒められて嬉しかった。それも勉強を頑張る理由の一つにもなった。
だけどそれを見て、面白くない子達がいた。
言わゆうスクールカーストの一軍と呼ばれる子達は私を徹底的にいじめ抜いた。
小学生、中学生と、私を褒めてくれていた先生達もいじめられている現場を何度も目撃したのにも関わらず無視した。
私が何度も助け求めても見向きをしなかったのだ。
問題になるのが怖いから、それだけの理由でだ。
私の親も私がいじめのせいで学力が下がったり、カンニングの濡れ衣を着せられた時も私だけを責めた。
テストの結果が学年1位から2位に下がった瞬間に、ずっと遊んでた玩具に飽きたように私をポイッとその言葉の通り私を捨てた。
私の5つ下の弟に乗り換えたのだ。
1度だけでも完璧から堕ちた人間には興味が無いと言わんばかりに、その日から私に対しての対応が変わった。
毎日冷たいご飯、おかずなんてものはなかった。
栄養失調で学校で倒れても、母や父は迎えに来なかった。
そういう時に迎えに来てくれたのは祖母だった。
祖母だけは私の味方だった。
親が一切教えてくれなかった髪の纏め方も祖母が教えてくれた。
こんな綺麗な髪、鮮やかな紫色、綺麗だ綺麗だと言っていつも褒めてくれていた。
私が何度も何度も教科書を盗まれたり、眼鏡を取られても祖母は何度も何度も買い直してくれたり、近所や親戚の使わなくなったという教科書を貰ってきたりしてくれた。
今住んでいるマンションだって祖母が契約してくれた。
なのに、中学時代の人達が一人もいない遠くの高校に来たつもりだったのに、私はまたいじめられ始めた。
きっかけは本当に些細なこと、私の弁当箱が古臭いって理由だった。
無視すれば今よりは良かったかもしれない。
だけど、祖母がくれた大事な弁当箱を貶されて私は反抗してしまった。
その次の日からこの仕打ちだ。
中学時代と同じ、いやもっと酷いことをされる。
今、この状態でさえ私は髪の毛を切られようとしている。
祖母に褒めてもらった、私の唯一の誇れるこの髪を。
もう、これが終わったら、家に帰ったら自殺しようかな、もうどうでもいい。
祖母には悪いけど自分はもう疲れた。そう思っていた時だった

「あぁ!?なんだてめぇ!」

見張りをしていた男の人が叫ぶ。
その人が壁になって見にくいが、その人は……彼は、さっき私がいつも居る空き部屋の前でうろちょろしていた子だった。

「ここは通行止めだ。今なら許してやる、だからどっか行け」
私を掴んでいる坊主の男がシッシッと彼を払おうとする。
私をいじめている主犯格の女二人がニヤニヤしている。
その様子を見ると、この人らはかなり喧嘩が強いのだろうか、体格もいいしさっきから大声を出し、彼に帰るように促す。
しかし、彼は気にも止めない様子でこっちに歩いてこようとする。
一瞬、対応が遅れたがそれを確認した最初に声を荒らげた方の男が彼の後から殴り掛かる

彼はまるで頭の後ろに目があるかのように、それをスルりと避け男の腕を掴んだ。
筋肉質の男に比べると一変、弱そうな細い体をしている容姿からは想像がつかない力で男を投げ飛ばす。

男は一瞬何が起こったかわからない様子で驚くが、すぐに立ち上がり彼に再度殴り掛かる……が
彼は全てのパンチを避け、腰を捻り勢いを入れて男の鳩尾に思いっきりパンチを入れる。
男はあまりの痛さに、千鳥足で二三歩歩いた後に口から先程まで食べたのであろう吐瀉物を出す。
しかし彼はその様子を見て、休む暇を与えずに追い打ちをかける。
思いっきり足を上げ、踵落としを決める。
男は思いっきり頭を地面に打ち付け、白目を向いて気絶する。
ずっとニタニタしていたら主犯格の女二人はやっと顔から笑が消えた。
そして先程まで私を掴んで逃げられないようにしていた坊主の男が彼に掴みかかる。
彼は素早く掴んできた手を掴み返し、思いっきり捻る。
男は腕が曲がってはいけない方向に曲がり続け、坊主の男が叫び声をあげると、うるさい と言わんばかりに手を乱暴に離し、ホッとした状態の坊主の男に回し蹴りを食らわした。
蹴りは顔面にクリーンヒットし、坊主の男は空中で回転したあと、近くのダンボールの山に突っ込む。
そのまま動かなくなった。
主犯格の女二人はヒィィ!と悲鳴をあげ私を突き飛ばし、別な道を走って路地裏から逃げ出す。
私は突き飛ばされたまま、力が抜けその場にへたり込む。
彼はそんな私を見て、手を指し伸ばしてきた。
いつの間にか彼の目はさっきまでの金色の目ではなく、濃い青色の目に変わっていた。
そしてこう言う
「立てるか?」
彼の言葉は祖母とは違う優しさに帯びていた。



気がついたら怯えた目でこちらを見ている水無月がいた。
周りを見渡すと、誰がやったのか分からないが、さっきまで水無月をいじめていた男2人組が倒れている。
髪が生えている方は泡を吹いて地面に倒れていて、坊主の方はダンボールに突っ込んでいた。
視界を戻し、力が抜けたのかへたり込んでいる水無月に対してどういう対応を取ればいいかわからず、とりあえず「立てるか?」と聞いてみた。
俺が差し出した手を水無月は掴み、立つ。
目立った外傷は無いようだ、良かった。
しかし、怯えた様子の水無月を見るとあまり好印象じゃ無さそうだ。
武蔵の方の用事も終わって、もしかしたら俺のことを待ってるかもしれないからこの場を離れようとしたら
「…あ……あっ………の……あの…」
「………ん?」
背を向けて去ろうとしている俺に水無月が小さな声で話しかけてきた。
「た……助けてくれ……て、あ…ありがと…う」
震えた声で礼をしてくる。
なんか記憶が曖昧になっているから、俺がなにをしたかは分からないが、どういたしまして と返しておく。
そのあと、俺はその場を離れ武蔵と合流した。
俺の家に着くまでの間に武蔵となんでみんなの記憶から俺が消えたのかを話し合う。
途中から武蔵は何かを察したのか分からないが、俺に何かを隠すような話し方をしていたのが気になったが、今日、学校の人とは話さなかったから武蔵と話せてとても嬉しかった。
家に帰り、ただいまと言うが返事がない
あれ、湊は?と思ってたら思い出した
児童センターに置いてたんだった…

「もー!お兄ちゃん酷いー!!」
「す、すまん…つい」
「つい!?ついってどういうことよ!!妹のことをそんな適当な感じで忘れちゃうの!?」
「零次君はそんな簡単に湊ちゃんのことを忘れちゃうのね、おばさん悲しいわ」
め、めんどくせぇーー!!
今日は渚と恵梨香と関わらなかったから忘れていたが、女って面倒くさい。
いやさ、悪いのは俺だけどさぁ
ほらほら、館長先生とか他の児童がこっち見てるって!やめろって!人目が!人目がぁぁ!!
「悪かった…明日からは早めに来るよ」
「約束だよ!!あと今日の夕飯はお兄ちゃん作ってね!」
「えぇ……別にいいけど、なんで?」
「さっきまでのこと忘れたの!?」
あ、はい…
帰り道、湊にグチグチ言われながらも俺は誰かと話すことが嬉しかった。
学校で話せなかった分、いつもより多く湊と話した。
湊は、今日のお兄ちゃんいつもより優しいね、と言ってくれたが
「まぁ…機嫌取りは大切だもんね」
と言い、冷ややかな目で見られたのにはなんかもう申し訳ない気持ちになった。

『こんな状況を慣れてしまっていいのだろうか』

「気をつけてなー」
湊に手を振りながら小学校の前で分かれる。
湊は昇降口に入るまでにずっと俺に手を振って、こっちを見てニコニコしていた。
やはり昨日、たくさん話を聞いてやったのが上手く出ているみたいだ。
今日の夜もたくさん話を聞いてやるか、と思いながら我が高校に向かう。
高校の校門を通りかかる時に、後からトントンと肩を叩かれた。
まさか…渚や恵梨香か!?と思い後ろを向くと
「………あ……おは…よう」
そこにはぎこちなさそうな表情の水無月がいた。
「お、おう…おはよう」
昨日の件のことか?と思い、水無月が話しかけるのを見ていると
「あの……こ…これ、昨日の…おかえし」
そう言って水無月は学校指定の手提げカバンから簪を取り出した。
これって…女に対して渡すものじゃないのか?
俺が神妙深そうな顔をしていると
「ご…ごめんなさい……こ、これしかなくて……いらないなら…捨てていいから」
水無月はそう言って駆け足で昇降口に向かってしまった。
手に残った簪を見てみると赤色の下地の上に桜?かな、そんな感じの花のデザインが描いてあった。
水無月に返すべきなのか、それとも湊に渡そうか迷っていると
「おお、零次殿ではないか、おはよう」
「あ、武蔵おはよー見回りご苦労さん」
武蔵は生徒会兼世界風紀なんとか委員だから朝早くから学校近くの見回りをしているらしい。
学生なのに大変だなぁ、と思っていると
「最近、不審者の情報が出回っている。零次殿も気をつけなされ」
武蔵はそのまま見回りを再開した。
不審者か…俺の家に来たアイツと同一人物なのかもしれないなあ
だとしたら本当に怖い、湊がもし危険にさらされたら命懸けで守るが、果たして守りきれるかどうか
まぁ、守ってみせる!って考えるのが1番だけどね

教室のドアを開けても渚や舜、恵梨香は挨拶をしてくれない。
まぁ、記憶ないんだもんな仕方ないなと、1日しか経ってないのに慣れてきている自分が恐ろしい。
武蔵や水無月と会話したからかもしれない、水無月は不本意だが武蔵には本当に感謝をしている。
昨日は全く授業の内容が頭に入ってこなかったが、意外と今日はすんなりと入ってきた。
昼休みに1人で教室で食べるのもアレだなーと思い、文芸部……ではなく、空き家のところに向かう。
中に物がないからか、鍵は空いてるみたいだった。
不良の先輩とかがたまり場にしてそうだったが、そんなことは無かった。
確かに部室棟の奥の奥だから入って出るのが面倒くさいのだろう。

ガチャ

「……あっ」
急に扉が空いたな、と思ったらそこに居たのは水無月だった。
水無月は片手に弁当を包んだと思わしき袋を持っていた。
「あ……あの…」
「あ、ごめん、すぐ出るね」
水無月の様子を見る限り、いつもここで食べていのだろう。
人が入らない割にはホコリが目立たないと思ったらそういうことか
食べている途中だった弁当箱に蓋をして、急いで部屋を出ようとすると
「ま…まって……!い…いても……大丈夫です」
水無月が扉の前に立ちふさがって声を出す。
そこまで言うのなら是非ご相席させてもらおうと、先程までいた席に戻る。
この空き部屋は、折りたたみ式の長い机に背もたれがついている、会議室とかによく置いてある椅子が3、4個あるのだが水無月は俺の向かい側に座る。
別に水無月が来ても、特に気にすることもなくバクバク弁当を食べていたが、チラチラと水無月が見てくる。
こっちが気づいてないと思っているのか、水無月の方を見返すと水無月は目をそらす。
俺のおかずを食べたいのか…?と思い、聞いてみると
「え……あっ……あ…はい」
急に話しかけて、バレていたことに気づき戸惑った様子だったが、最後に肯定な意見を出したのだからそうなのだろう。うんうん、最初からそう言ってくれればだしたのに
「はい、好きなの取っていいよ。あ、食べ掛けは取らないでね」
水無月にそう言って弁当を突き出す。
水無月は迷った様子で、橋をうろちょろさせて最後には卵焼きを取った。
「美味しい?」
「…ん……とても…美味しいです」
「それは良かった」
いやぁ、やっぱり人に自分の作った料理を食べてもらって、お世辞でも美味しいって言ってもらうと嬉しいもんだな、と再確認する。
1人でニコニコしていると今度は水無月が自分の弁当を俺に突き出してきた。
「お……おかえしに……好きなの……どうぞ」
なるほど、小学生の頃によくやったお弁当の具材交換か、懐かしいなーと余韻に浸っていながら水無月の弁当の中身を確認すると
お肉や魚は少なく野菜が多めな、言い方は悪いが質素なイメージだった。
その中で異彩を放っていた、なんかよくわからん野菜……これは山菜か、それの揚げ物を貰う。
弁当に揚げ物となると、昨日の夕飯の残りかな?と思う。
いざ食べてみると、サクサクっていうころも特有の食感に口の中にジュワーと広がる味の濃さがあった。
「あ、これ(わらび)か」
「!!……よく……わかり…ましたね」
水無月は自分が作ったであろう料理を当てられて、嬉しかったようだ。
まだ水無月と会ってそんな経ってないが、こんな表情の水無月を見るのは初めてだ。
心の底から喜んでいる、いつも鉄仮面の水無月からな予想できないような笑顔をしている。

ドンドン!!

「ん?」
急に扉を叩く音がした。
水無月の方を見ると、少し震えている様子だった。
なるほど、昨日の路地裏の件か?と思いながら扉を開けようとしたら、勝手に開いた。
「よう!女ァ!!昨日ぶりだなぁ!……って、アンタは!?!?」
昨日、知らぬ間に倒れていた坊主の奴だった。
水無月に対して用があるようだが、俺の顔を見てびびった様子を浮かべる。
そして
「兄貴!」
と呼ばれた。
一瞬、意味がわからずに水無月と顔を合わせて ? と頭の上に浮かべると
「ちっちぇ頃から負け無しだった俺を、簡単にズタボロにした兄貴じゃないスカ!マジ尊敬してます!」
と、聞いてもない情報をベラベラと話し出した。
つまり昨日、俺の記憶はないんだが、俺に倒されたらしくそれで尊敬しているらしい。
「は…はぁ…それで、お前は水無月に何の用なんだ?」
坊主の男に聞くと
「お前じゃないっス!名前は 『中山(なかやま)(つよし)』って言います!好きなように呼んでください!兄貴!」
「お、おう、それで中山、水無月にどんな用なんだ?もしもまた変な事するっていうなら容赦しないけど」
「まさか!実を言うと、俺ともう1人の男はあのギャル野郎共の彼氏がこの学校の不良の先輩で…イヤイヤ従わされたんスよ、その事について謝ろうと思って」
「んだとさ、水無月」
ずっと不安そうな顔をしていた水無月を見ると、少しホットしたような安堵の表情を浮かべていた。
水無月は「やれていたら許せなかったけど、結果は何も被害なかったからいいよ」とそんな感じのことを言った。
いつも通り、たどたどしく言っていたからめっちゃ要約しているけど、そんな感じだ。うん。
「んでも、中山、お前喧嘩強いなら不良の先輩に対して強く出れるんじゃねぇの?」
「いや〜大人数で来られるとさすがに辛いっス、入学して早々そんな大きな事もしたくないですし」
と、中山が答える。
まぁ、たしかにそうだな〜と納得しながら中山にもう1人の男のことについて聞くと
「実際、俺と同じ被害者ってだけでそんな接点ないですし、この子に謝る気ないなら一緒にいたくないっス」
なんだこいつ、根はめっちゃ良い奴じゃねぇか
そのあと、中山はお詫びということで俺と水無月にコーラを渡してきた。
多分学校の自動販売機で売られているやつだろうか、「これしか用意できなくてすみません」と言っていたが、その心が大事なのでそんなに咎めなかった。
「んじゃあ、自分は2人の仲を邪魔する訳にはいけませんので、クラスに戻るッス!」
と言って部屋を出た。
変な事最後に言いやがったな〜と思って、申し訳なさそうに水無月を見ると、水無月は満更でもない様子で顔を赤くしていた。
この数日間で一気に表情が豊かになったなーと思う、俺が知らないだけで元々表情が豊かなのかもしれないが


弁当も食べ終わり、昼休みも終わり教室に戻って午後の授業を受けていると、急に全校放送がかかった。
この声は生徒指導の先生の声だが、誰か何かやらかしたのだろうかと思ったら
『高校の近隣で不審者の情報が出ました。下校の際は十分に気をつけて、部活を早く切り上げて暗くならないうちに帰るように。女子生徒は特に気をつけてください』
だそうだ。
不審者情報のアナウンスを聞いて、隣の席の恵梨香やほかの女子はぶりっ子みてーな声を出して怖わいと言っていた。
対して、渚は静かだなーと思って、舜がいるからか、それとも寝てんのか?と思って見てみると想像の範囲外だった。
体をガクブルと、その名の通り震えていたのだ。
その様子を舜が大丈夫?と言いながら背中をさすっていたが、一向にその様子は収まることがなくそのまま保健室に舜が連れていった。
他のクラスメイトは心配そうに見ていたが、何があったのだろうか。

そしてそのまま放課後になり、児童センターに向かっていると、周りをキョロキョロ、ビビりながら歩いている渚がいた。
少しでも不審な動きをする人や物があったら、ずっとそれを凝視しているみたいだった。
心を読んでいるのか?てか懐かしいな、この能力。
2日関わり持ってないだけでここまで懐かしく感じるものなのか
傍から見ると完全にストーカーだが、渚のあとを追いながら児童センターに向かっていると

妹が、湊が
黒いフードを被った男と手を繋いで歩いてるではないか

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
人が周りに沢山いる状態で声を荒らげてしまった。
その声にビビった渚がこっちを見ているが、そんなのは気にしない。
思いっきりダッシュして、湊の元に駆け寄る。
湊は俺の顔を見ると、心底驚いた表情で、手を繋いでいた人の手を振りほどき「あなた誰!?」と叫ぶ。
黒いフードを深くかぶった男は、そのまま走ってどこかに逃げようとすると
しかし、しっかり者の湊が騙されるとは、いやそんなことはどうでも良い。とにかくアイツを追いかけないと、と思い湊を近くにいた状況がよく分かってない渚に渡す。
「預かって!!すまん!」
「ちょ!ちょっと!?」
「お兄ちゃん!?」
と言って、俺は黒フードの男を追いかける。
黒フードの男は、かなり遠くに行ってしまっているのに、徐々に距離を詰めている。
何故かいつもより自分の足が速い気がした。
俺のはしっているすがたをみてき、後ろから渚の「ウソ!?」という大きな声が聞こえたが、そんなものは気にせずただただ、黒フードの男を追いかけた。

『こんな不審者を追いかけていいのだろうか』

黒フードの男は俺がどんどんスピードを上げているのに気づくと、相手も本気で走り出した。
その速度は信じられないくらい速く、せっかく詰めた距離が簡単に引き離されていく。
せっかくあと少しで捕まえられるところなのに…!
黒フードの男の進行方向を見ると、そこには友人らしき人らと談笑しながら歩いている中山がいた。
ナイスタイミーングゥ!!
心の中でガッツポーズしながら叫ぶ。
「中山ァ!そこの黒フード捕まえろぉ!」
中山は、俺の声が聞こえたあと走ってくるこっちの様子を確認し、黒フードの男に対してタックルをかます。
黒フードの男は、驚いた様子で中山のタックルをモロに受けた
……はずだった
黒フードの男はタックルを受けた瞬間に、体を捻り衝撃を逃がし、中山の体を掴んでぶん投げる。
中山はせめて、と言わんばかりに黒フードの男のフードを掴んで顔を確認した。
その時、は中山は驚きの顔をしていたと思う。
そのままぶん投げられた中山は近くにあった山積みになった段ボールに突っ込む。
前にも似たような後継を見たような気がするが、俺は急いで黒フードの男を追いかけようとしたが、既に黒フードの男は見えなくなっていた。
「チィッ!………中山、大丈夫か」
「いてて……大丈夫ッス、てか兄貴って兄弟いるんスか…?」
「兄弟……?妹ならいるけど…って!湊ォ!忘れてたァ!」
俺は直ぐにその場を離れて渚に預けた湊の元へ迎えにいく。
中山はアニキィ!?まだ話がぁ!と言っていたが、明日話そうと思って、今はとりあえず湊の元へ向かうのが最優先だ。


まだ待ってくれてるかな?と思って、渚の元へ着くとまだ待っていてくれていた。
咄嗟だったとはいえ、電車の時間があるのにも関わらず渚に湊を渡してしまったのは申し訳ないと思う。
その事について謝ろうと思ったら
「お兄ちゃん、目が……」
え?
湊が俺の目について指摘してくる。
スマホを起動して、カメラを開き自分の顔を確認してみると右目が金色になっていた。
「な、なんだこれ…」
「……うそ…でしょ?……その目って…まさかあんた……」
俺が自分の目についてビビっていると、もっとビビっている渚が震えた声で話しかけてくる。
厨二病とか言うなよ!?やめろよ!?
「いや……あなたは、ジャック?」
「ジャ……ジャック?」
なんだその外国人ポイ名前は!?
俺は小鳥遊零次だぞ!?
ノアなんて名前なんて呼ばれたこともないし、接点もないだろ!!
「いや…人違い……でも、時期的にもノアが言ってた時期……ああもう!!」
「お、お兄ちゃん、どうするの?」
渚が1人で頭を抱えて悩む。
湊はそれを怯えた目で見て、俺にどうするか聞いてくる。
俺の答えは、このまま気づかれる前に家に帰ることだ。
こっそり帰ろうとしていたら
「ちょっと待ちなさい!そこのカフェで話しましょう」
「え、えーー…俺、夕飯の準備あるんだけど」
「じゃあそこのカフェで夕飯済ましなさい!それでいいでしょ!」
「え、えーー…俺、帰りたい」
「ジャック!……じゃなくて、アンタ………そう、零次!私、あんたの妹預かってやってたわよね?」
律儀にも渚は俺の名前を覚えてくれていたようだ。
たしかに湊を預かってもらっていたお礼もるし、仕方ないな
渋々承諾して、近くのカフェに入る。
店員さんに湊の分のパスタを頼んで、俺と渚はコーヒーを頼んで話の本題に入ろうとする。


「とりあえずジャックって誰だ」
「……いいわ、教えてあげる」
逆にここで教えてくれなかったら、何のために俺らをカフェの中に呼んだって話だよな。
「お兄ちゃん、あーん」
「あーーん、ありがと、美味しいね」
湊からのあーんを受けながら、渚の話を聞く
いやぁ、ここのパスタ美味しいな
俺はたらこパスタ以外のパスタは食べない主義だったんだが、ここのパスタなら他の味も食べてみてもいいかもしれない。
ああ、お腹減ってきた。
「聞いてんの?」
「あ」
「………簡単にまとめると」
ため息をしている渚のまとめを聞くと
中学生の頃に電車内で痴漢にあってる際に、助けてもらい、その助けてくれた男性が俺そっくりらしい。
最初は目の色が違うから、別人だと思ったが今回の騒動で確信したらしい。
「で、ジャックってのはその人の名前?」
「そうよ、だからあなたのことをジャックって呼んじゃったの、ねえ?私のこと覚えてない?」
残念ながら覚えてない……
いや、渚のことは知っているし、その痴漢されたことも知っているし、俺が助けたっていう話も記憶が失う前の渚から聞いた。
だけどジャックって話は初めて聞いたな
「……ねえ、ジャック、私、あなたと色々冒険したのずっと忘れてないの」
「私のことを変えてくれたのはジャック、あなたなの、また会えると思ってた」
「でもあなたは、覚えてくれてないのね。まぁ、前に言ってたもんね、大丈夫約束は絶対に誰にも言わないし守るから」
渚が淡々と俺に話しかける。
いや、俺にそっくりのそのジャックって人に対して…か?
「お兄ちゃん、デザート食べたい」
「あ、パフェ2つお願いします」
「ウチの分もお願い」
「3つお願いします」
小腹がすいたので俺も食べようとしたら、渚も便乗してきた。
もちろん自分で払うんだろうなぁ、渚は
「え?奢ってくれるんじゃないの?」
なんか俺が払うことになってるらしい。
俺の財布がすっからかんになってしまう。
ここの店、料理は美味しいけど高い。
学生が来るカフェじゃなかった、失態。
てかナチュラルに心読まれたし、なんてこった。
てか、この渚は人の心を読めるのかどうか
さっきのはたまたまかもしれないしなぁ、仮に今も見てるとしたらクラスで全然かかわらない俺が知ってたらビビるだろうな。
あ、でも、そのジャックとやらに間違わられているなら大丈夫なのかもしれない。
そんな俺を置いといて、渚は届いたパフェをバクバクと食べていた。
「お兄ちゃん、食べないの?」
湊が頬にクリームをつけた状態で聞いてくる。
気づいたら俺の分も来ていた。
湊の頬のクリームをティッシュで取ってやったあと、自分のパフェに手をつける。
味を単調に言うと、すっっっっげぇ美味しい。
そう言えば、最近あんまり甘いもの食べていなかった。そのせいもあってかものすごく美味しく感じる。
「……んでさ、ジャック」
「ジャック……はい、もうジャックでいいや」
「なんてアンタ…記憶失ってんの?」
記憶失ってるのはお前の方だァァァァァァ!!!
ってもう口から出そうになるくらいに突っ込みたい。
てかマジでジャックって知らないし、幼少期の記憶が曖昧な時はあるけど渚の話の内容的に中学生の頃の話だもんなぁ。
てかさ、記憶失う前の渚の話の内容と少し違うんだよな
前の渚はこんなに話してこなかったぞ、軽く話してきただけだったし、どっちかっていうと前の方が俺に気を許していただろうし
最近、記憶について色々と問題が起こりすぎて混乱してきた。
誰か記憶についての異能力を持ってる人が入ればなぁ

……ん?
記憶についての異能力?
あれ?もしかして、昨日から起きている、みんなが俺のことを忘れる現象って異能力による干渉っていう確率はあるんじゃないか?
異能力同士は惹かれ合うって前に渚か舜が言っていた気がするし
「お兄ちゃん?外暗くなってきたよ?」
「え、マジか」
「あと、あの女の人帰っちゃったよ」
「は?」
「ほら、1000円置いて帰ってる。あ、あとメールアドレスが書いてあるね」
何かのレシートの裏に渚のメールアドレスが書かれていた。
なるほど、これで連絡しろというこのなんだろう
てかよく考えたら、渚や恵梨香、舜とLINE交換していなかったな
もししていたらもっといい状況下になっていたのかもしれない。
渚も帰ったことだし、レジに向かい、言葉では奢ってもらう気満々だったはずの渚の、律儀に置いていった1000円は使わずに、財布に閉まっている自分のお金で精算する。

「そういやさ、湊。お前なんであの不審者について行ったんだ?お前ほどしっかりしていれば、あんないかにも不審者ですって服装のやつにはついて行かないんじゃないか?」
「うーん、ちょっとね」
「ちょっとね!?オイ!俺の心配は、疑問は湊にとってはちょっとで終わるのか!?昨日、湊が俺の対応について怒ったのと同じだぞ!」
「わ、分かったよ……あのね、私も最初は児童センターに私を迎えに来たって言ってる人が来たった聞いて、お兄ちゃんだと思ったらさ……」
「うんうん、続き続き」
「いつもの制服じゃなくて、私が洗った覚えのない服を着ていて、でもね、でもね、」


「顔が、お兄ちゃんと全く同じだったの」


え?
どういうことだ?
最近の不審者は変装までするのか?
いや、しないはずだ。
小学生と言えども、俺よりもしっかりしてると言ってもいい、妹が、湊が騙されるはずがないと思うんだ。
異能力者……?
いや、そんなことを考え出したらキリがない。
ならば、渚の言っていた例のジャックって奴か?
なんなんだ一体
「もー、だから言いたくなかったの、お兄ちゃん、様子変だから何かあって疲れてるんだろうなーと思ってたけど、こんなこと言ったらまた疲れ溜まっちゃうじゃん」
なるほど、やっぱりうちの湊はしっかり出来ていたようだ。
「あ、そうだ、湊これあげる」
バックから、朝に水無月から貰った赤色の簪を渡す。
湊は簪を手にすると、小さい子供が親から玩具を買ってもらったような、光り輝く目をして喜ぶ。
「すごい綺麗!お兄ちゃん、こんな高そうなのどこで買ったの?」
「んーー、女友達?から貰った」
「えぇ!?それって……私が貰ってもいいのかな…?」
「大丈夫だと思うぞ、お礼で貰っただけだから」
「へぇーお兄ちゃん、また人助けしたんだ」
湊がニヤニヤしながら俺の顔を覗いてくる。
なんなんだ、そんなに簪貰ったのが嬉しかったのか
なんなら水無月に今度どこで買ったのか教えてもらおうかな、湊の誕生日プレゼントに考えてみてもいいかもしれない。
「じゃあ、お兄ちゃん家に帰ろっか」
湊が手を繋いできて、簪でご機嫌なようで手をブンブン振りながら歩く。
そんなに喜んでいる様子を見ていると俺も嬉しくなってくる。
渚や恵梨香、舜の記憶が消えても武蔵は覚えてくれていた。
しかし、それよりも俺の心の支えになってくれていたのは湊なのかもしれない。
だから、今回みたいに湊が危ない事にならないようにしっかりと俺が守らなければいけない。
そう再確認した日だった。

「……おかしい、なんで文芸部が存在してないんだ?」
「……僕が休んでいた2日間の間に何か問題が起こったのか?いや、それなら先生から何かしらの連絡が来るはず」
空がオレンジ色に染まり、外で部活している運動部も終わりの準備体操の声が聞こえる中、1人の男子生徒が文芸部の部室の前に立っている。
いや、正しくは文芸部の部室だった場所
そこには文芸部の張り紙も無くなっており、鍵は開いていたが中には机と椅子しかなくなっていた。
本棚に突っ込まれていた本は消えていた。
部長が前もって言っていた部活動の予定表を見ても、今日は普通に部活があったはずなのにだ。
軽く1時間、部室の前で待ってみたが誰も来る気配はなかった。
「……なんなんだ一体、とりあえずあの二人に何が起こったか聞かないと…」
白色の髪色をした男子生徒は、今日は諦めた様子で床に置いていた青色のバックを背中に背負い部室棟を後にした。



「湊、やけにご機嫌だな…」
「んー?まぁねー!!」
昨日の簪のことがよっぽど嬉しかったのか、湊は珍しく鼻歌をしながら弁当の卵焼きを作っている。
今日の弁当番は俺なのだが、朝早く起きると先に湊が起きていて弁当を作ってくれていたのだ。
元々俺が当番の日だから手伝おうと思ったが、湊は「大丈夫大丈夫」と言い、朝ごはんの魚の赤尾と白米と味噌汁を出された。
こんなに手の込んだ朝ごはんを出されたのも久しぶりだ。
いつもは楽に済ませるために食パンとかで終わらすのだが…
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「明日、土曜日で休みだよね」
「おう、そうだな部活もオフだし」
まぁ、本当は部活なんて入ってないんだけどね
みんなの記憶が戻ったら、文芸部として再開出来るかもしれないが、どっちにしろ土日の部活は基本フリーとなっている。
確かに学校側から出された月の土日の活動として提出する為に、一応学校に行くことはあるが、本当にあるかないかくらいだ。
「えへへ〜明日、遊園地…連れていてってちょうだい?」
急だな、我が妹よ
だからか、だから今日はこんなに朝からお利口さんなのか
いや別にいいけどさ、海外で働いている父と母からは月に結構な量のお金が振り込まれてくるから、遊園地の一回や二回は普通に行けるが、本当に急だな。
「別にいいけど、急にどうしてだ?」
「お兄ちゃんと一緒に最近出かけてなかったし、それに学校で友達のみんなが親と遊園地行ってたりして……」
そうか、そうだよな
うちの親は海外で働いているせいで、湊からすれば俺が親みたいなもんだからな
こんなにしっかりしていても小学生だ。
もっと甘えたい部分もあるだろう。
仕方ない、ここは兄としての役割を果たすべきだな。
「ん、分かった。じゃあ明日行こっか」
俺の言葉を聞いた湊はにんまりと笑い、卵焼きを焦がした。
俺との話に集中しすぎたな…

湊と分かれ、高校につき校門を通り過ぎた時に、前方に水無月が見えた。
昨日の簪のことについて礼を言おうとして、後から話しかける
「おはよ、水無月」
水無月はビクッと肩を震わせ、俺の顔を見る。
しかし、すぐに怯えた様子は消え、安心したような顔で俺の顔を見てくれる。
「あ……おは…よう」
水無月はたどだとしくだが、しっかりと挨拶を返してくれた。
「昨日の簪ありがとな、妹に渡したら凄い喜んでくれたよ」
「あ……そ、そんな……でも…よかった…」
水無月は照れたのか、顔を俯かせて俺に見えないようにする。
しかし、顔が赤く染まっているのは丸わかりだ。
「なぁ、水無月、あの簪はどこで買ったんだ?高いやつだろ?」
ネットで調べても似たようなのは沢山出てきたが、水無月がくれた柄のやつは出てこなかった。
だとすると、ネットに出ない程の職人が作ったものに違いないのでは…?
「あの……あれ…私が作ったの…」
「はぁ!?水無月が作ったのか!?」
急に大声を出したせいで周りから注目を浴びる。
しかしみんな昇降口にさっさと入ろうと直ぐに目線をそらす
水無月の方を見ると
「そ…そんなに……驚く?」
「いや…驚くわ、よく学生が作れるな。俺、簪について全然知らないけど」
「お……お婆ちゃんに……教えて貰ってた」
なるほど、お婆ちゃんに教えて貰ってたのか
てことは、お婆ちゃんは職人さんとかなのだろうか?
水無月の家系は凄いことが分かった。
「いやぁ、今度水無月の家族に会ってみたいな。俺も簪について教えてもらいたい」
「……!!ダメ!」
水無月が怒鳴る。
そ、そんなに怒らなくても…
そんなに家族にあったらダメなのか?
……あぁ、確かに変な意味に聞こえていたかもしれない。
御結婚的な、ね
でも簪の作り方は教えて貰ってもいいんじゃないか……
そんな生半可に作れるもんじゃないと思うけど、湊の為にも知りたい。
「………ごめんなさい…簪の作り方なら……私が教える…だから家族には会わないで」
「わ、分かった。ありがとな」
2人で談笑していると後から声がかかった。
一瞬、武蔵かと思ったが(実際、今の俺に話しかけてくるの水無月か武蔵しかいなさそうだし)
振り向いたところにいたのは渚のだった。
あれ?記憶戻った?
「ジャック、さっさと教室に行くわよ。ごめんなさいね、ジャックが邪魔して…」
ジャック呼ばわり…まだ記憶は戻ってないみたいだった。
渚は水無月に会釈したあと、俺を引っ張って教室まで連れていく。
引っ張られている最中、水無月が何かを言いたげな様子をしていたが間に合わなかった。すまんな、水無月また今度

「ジャック、あなたが私の前に現れたってことは何か困ってることがあるんでしょ?」
現れるも何も、そもそも同じクラスなんだから毎日会うのは当たり前だろ。
てか、そのジャックってやつは渚の前に現れるたびに困っていたってことか?どんな厄介者だよ
しかし、これは好都合だ。
記憶を失っていて、能力について理解があるのか分からないが、人の心を読める渚が協力してくれるとなると、みんなの記憶を戻すのがかなり楽になる。
「……ねぇ、ジャック、さっきから凄い難しいこと考えてない?」
「え、なんで?」
「私の異能力について知ってるよね?あなたの心が見えないのよ、無理矢理見ようとしてもドス黒いもやもやが邪魔して見れない」
なるほど、つまり訳分からないご都合主義によって、渚は俺の心が読めないらしい。
メリットでもデメリットでもあるな。
まぁ、渚の前でも気兼ねなく色々なことを考えれると思うといいもんだな。
本物のジャックじゃないってバレないし
てかマジでジャックって誰だよ
そんなに俺にそっくりなのか
「昨日は見れたんだけどなぁ……まぁ、ジャックの心は見れる時がそんなに無かったし、仕方ないか」
てかさっきからクラスメイトが俺と渚をジロジロ見てくるんだけど、なんだこれ
そんなにぼっちの俺が、クラスのアイドル的存在の渚と話してるのが珍しいか!?あぁ!?
記憶失う前ならもっと仲良かったんだぞ!!
「おや、渚、君が真剣そうに人と話すなんて珍しいね」
陸上部の朝練が終わったのか、少し汗をかいた様子の舜がにこやかな笑顔で渚に話しかける。
しかし渚はそれをどうでも良さそうな感じで受け流した。
「ねぇ、ジャック」
「渚、そのジャックって呼び方やめてくれ。周りの目が…」
「あなたが言ったのに……まぁいいわ、小鳥遊君、私は何をすればいいの?」
この際に記憶とかの話をしてもいいのだろうか?
しかしそうすると、俺が例のジャックて人じゃないことがバレてしまう
そうすると渚は俺に興味を失って、力を貸してくれなくなるかもしれない。
それはどうしても避けなきゃいけない…
もどかしいがここは俺も一芝居打って渚に騙されて貰うことにしよう。
「……渚、この学校に異能力者が誰々いるか分かるか?」
「えっ?私と舜とジャックだけじゃないの?ジャックのは異能力って呼んでいいのか分からないけど…」
なるほど、恵梨香についての記憶は無し、と。
渚の心を読む能力もその人が今思ってることしか見れないってことだな。
恵梨香が、「実は私は異能力者で風を操れるんだ」と、傍から見たら厨二病満載の事を思って、それを渚がたまたま覗かなきゃいけないってわけだ。
そりゃ分からんわ
しかし、現状で渚が知らないとなると見つけるのにはかなり時間がかかりそうだ。
実際、今起きている記憶についての事件が異能力者の仕業なのかどうかさえ分からないが、多少は情報収集にはなるだろう
「渚、昼休みや放課後、時間があるなら校舎内の人の心を読みまくってくれ」
「え…?別にいいけど、そんなに人の心見たくないのよね、疲れるし、知りたくない事も知っちゃうし」
「頼む、渚」
「んふ……ジャックの為なら仕方ないわね」
なんだ今のんふ、って、んふってなんだ。
渚が照れながら俺の頼みを承諾してくれた。

「んじゃ、見てくるね」
昼休みのチャイムと共に渚が席を後ろに回し、俺に話しかけてきた。
早速、心を読んで情報収集してくれるらしい。
俺の隣の席の恵梨香は何が何だか分からない様子だが、興味は無さそうだ。
いつもならこの恵梨香と一緒に飯を食べるのだが、記憶を失っている恵梨香は俺に見向きもせず、他の女友達の方へ弁当を持って行った。
俺の前の席の舜は、クラスの女子に言い寄られていた。
くそ、イケメンめ。
俺は元々ふたつ作ってきた弁当のひとつを手紙を添えて置き、俺の分の弁当を持って文芸部だった部屋に向かう。

「……あっ…」
空き部屋の前では、周りをオドオドした様子で見渡す水無月の姿がいた。
水無月は俺を見ると、頬を赤らめ、自分でそれに気づき顔をブンブン振る。
何やってんだ水無月…
遠くから呆然と眺めている俺を見て、水無月は近づいたきた。
「あ……一緒に…弁当……」
文芸部だった部屋を指さして水無月が弁当を一緒に食べようって誘ってくる。
そもそもその気で来たし、断る理由もない。
いいよ、と言うと水無月は嬉しそうにモジモジし始めた。
一緒に部室に入り、弁当を食べていると水無月が話しかけてきた。
「あ……朝の…人って……知り合い?か、彼女…とか?ジャック…って誰?」
「彼女ではない。ただのクラスメイト、あとジャックってのは気にすんな」
「わ……分かった……よかった、彼女じゃないんだ」
「なんか言ったか?」
「い…言ってない…」
後半何を言ってたのか聞こえなかったが、本人が何も言ってないって言ってるから何も聞かないようにしよう。

ガチャ
「君らは空き部屋で何をやっているのかい?」
急に扉が開いたと思ったら、そこに立っていたのは生徒会でトップの存在である生徒会長のバッジを付けた人がいた。
その右手にはリングに繋がれた大量の鍵が付いていた。
その中にはこの部屋の鍵も含まれているのだろう。
「あ……あ…」
水無月が上手い言い訳を思い浮かべれないのか、何かを言おうとして止まっている。
代わりに俺が言ってあげることにした。
「クラスでぼっちになりました。食べるところがないので、この部屋を使ってました。駄目なら出ます」
同情を誘う作戦で行こう。
これでダメだったら諦める。だっていい考え思いつかなかったんだもん
てか、堂々とぼっちになりましたって言うのはなんか……心が痛いな
俺の言い分を理解した様子の生徒会長は、数秒考え込んだあとこれからこの部屋を自由に使っていいって言ってくれた。
そしてそのままこの部屋の鍵を貸してくれた。
めっちゃ良い奴やん。この人
「……ボクがこんなことを…」
生徒会長はボソッと何かを呟いたあと、何を言わずに部屋を出ていった。
残った俺と水無月は顔を見合わせて、微笑んだ。
「あ……りがと…」
水無月はまだこの部屋を使えることが嬉しいようだ。
ニコニコっとしながら俺の顔を見てわらう。
俺もそれを見て微笑んでしまった。
水無月と出会ってまだ少ししか経っていないが、水無月は俺にさまざまな感情を見せてくれている。
水無月は自分が笑顔になっていることに気づくと、顔を隠した。
「なんで隠すんだ?笑顔、いいと思うぞ」
ありのままのことを伝えると
「そ…そんなことない……恥ずかしい」
水無月は顔を隠したまま話す。
笑顔が恥ずかしいだって!?あんなに可愛い顔してるのに!?
口に出そうになったが、こんなこと言ったらキモいと思われそうだから喋らないことにした。
「水無月、弁当」
俺がそういうと、我に返った水無月は弁当を食べ始める。
時々、弁当を食べながら顔をにやけさせるが気にしないことにした。
指摘するとまたさっきみたいなことになりそうだ。


水無月と一緒に空の弁当箱を持ち、教室に戻ろうと廊下を歩いていると女子トイレから出てくる渚が遠目に見えた。
あ、今目が合った
俺と水無月が一緒に歩いているのを確認すると、渚は猛ダッシュで近づいてきた。
怖かったので逃げようとしたらその前に捕まってしまった。意外と足速いな、渚。
「ジャック〜〜??私が一生懸命、あなたに頼まれたことをしている中、他の女子と弁当を食べてきたのね〜ふーーん」
怖い、渚が怖い。
てかなんで弁当を一緒に食べたことがバレてるんだ?
今、俺の心の中は読めないはず……あっ
弁当箱を持っているからかー!!
しかも、朝に水無月と話しているのを渚は知っている。
クソ!しくじった!!
「い、いやさ、渚?俺が作った弁当美味しかったろ??な?」
「!?」
渚が来てから終始鉄仮面だった水無月か俺の顔を物凄い勢いで振り向く。
いやぁ、そんな表情もできるようになったんだな、水無月。
俺は嬉しいよ、1日の間に笑顔とそんな怖い表情を見せてくれるなんて
「そ…それとこれとは話しが別よ!美味しかったけど!ありがとう!!でも話が違う!」
くそ、流されなかったか
でもこの話からして、しっかり弁当は食べてくれたようだ。
湊には内緒にしてたが、前日の夜にもう弁当は作って置いてたんだ。俺の分だけだけど。
その分の処理に迷って渚にあげたんだけど、良かった良かった。
「てかジャックって呼ぶなつったろ」
「あ、忘れてたてへぺろ」
渚がコツン、と右手をグーにして軽く自分の頭を叩く。あざといぞ!渚!
「あ……あの…私、先に戻るね…」
「ごめんな、水無月」
「うん……大丈夫だよ…」
「また明日も一緒にお昼食べような」
「……!!!わかった!」
水無月が初めて元気な声を出す。
いや、元気な声なら今日の朝出されたら、拒絶の声だったけどはは
「ぶーーーーー」
隣りから何か声が聞こえた
そっちを見ると渚が頬を膨らませてこっちを睨んでいた。怖いよ
「なにさ」
「人が折角お願いを聞いて…お昼休みを潰したというのに…はぁ」
「ごめんね、ジュースも奢るから」
「…………許す」
渚は許してくれたようだ。
思ったよりチョロい

流れでそのまま校舎内の自動販売機のところまで行く、ついでに俺も飲み物を買う。
渚は甘ったるいカフェオレを頼み、俺は午後の授業寝ないためにコーヒーを買った。
生温い温度のカフェオレを渡そうと、渚の方に軽く投げたが急に手を引きカフェオレが落ちる
「おい、渚?」
渚の方に視線を写すと
「う……うぅ…」
手で頭を抑えながら唸っている。
「どうした?大丈夫か?」
落ちたカフェオレをほっとき、渚に近づき心配の声をかける。
渚は変わらずに唸り続ける。
渚が動けそうにないので、保健室の先生を連れてこようと渚を端に座らせて走り出した。


「きゃっ!」
廊下の角で男子生徒とぶつかり声が出てしまう。
その生徒は「ごめん!」と言い、急いで私の後ろに走っていってしまった。
転んだりとか怪我はなかったから良かったけど、廊下は走らないで欲しいなぁと思った。
それにしても今の隣の席の人かな?
確か、小鳥遊君だっけかな…?
あんなに急いでどうしたんだろう…。

まぁ、いいや
と小鳥遊君から目線を写し前を向くと
そこには金髪の人が立っていた。
「ひっ!あ…すみません…何か用ですか?」
金髪なだけで威圧感あるのにこちらを睨んでいるから後ずさりしてしまう。
そして、金髪の人が手をかざすと急に頭が痛くなり始めた。
それもかなりの痛み
私は何が起こったかよく分からず、頭を必死に抑える。

「……小鳥遊!」
バタン という音と共に扉を思いっきり開けて、俺の名前を呼んだのは純平だった。
俺の名前を呼んでいるということは、純平は俺のことを知っているのか?
でも何故純平だけ?特に純平と接点はないはずだが
「俺のことを覚えているのか?純平」
「……良かった……無事だったか」
純平が ホッとした顔でため息を吐く。
急に扉が開いてビクッってなった水無月を見て、少しキュンとしたことは内緒だ。
「…………え……だ…れ?」
水無月が純平のことを見て戸惑っている。
本のしおりを落としていたので、拾ってあげたらちょっと顔を赤らめた。
なんなんだいったい
「……イチャイチャしている場合ではない、小鳥遊も気づいているだろう、この状態」
「ああ、だがなんで純平は俺のことを覚えているんだ?」
「……今から順序良く話していく、混乱するなよ」
壁にかかっているパイプ椅子を水無月が俺らの分を用意してくれたので、それに座って話を聞く。
水無月はちょっとオロオロしていたが直ぐに本を読み始めた。
「……まず、この騒動は僕らの知らない異能力者の仕業だ」
「えっ!?待って!なんで純平、異能力のこと知ってんの!」
「……教えてなかったっけ、僕も異能力者なんだ、君とすれ違った時に異様な気を感じたからね、君から少し記憶を分けてもらったよ」
ああ、あのすれ違った時か、
しかし記憶を分けてもらったってどういうことだ。
「……ここまで言えばなんとなく予想できると思うけど、僕の異能力は記憶操作だ」
「記憶…操作?」
「……そう、僕は記憶を操作する人に右手を向けて、左手の人差し指で自分の頭を『トントン』と音を立てれば相手の記憶を自分の記憶に持って来させたり出来るんだ」
「だったら、純平の能力を使ってみんなの記憶を戻してくれよ!」
そうなんだ、純平の異能力が記憶操作ならば出来るはずだ。
それに他の異能力者の仕業ってなんだ、なんのためにそんなことをするんだ。
俺が何をしたっていうんだよ
「……落ち着いて、僕は君の友達の君についての記憶を操作できない……いや、戻せないというべきかな」
「どうしてだよ!」
「……僕はその記憶を持っていないからだよ、僕の異能力とソックリなのか分からないけど、そいつが君の友達の記憶を奪っているならそいつから取り返さないといけない」
「……そしてみんなに戻させないといけない、人の記憶の又貸しなどは出来なくなっているし」
そんな……
だったらこの状況をどうすればいいんだよ
呆然と今にも失神しそうな俺を見て、水無月は心配そうな目で見ていた。
それに気にかかることがある、なんで俺が異能力を発動できないかだ。
純平はそのことを今から話すつもりらしい
「……そいつは君と君たちの友達から異能力や君についての記憶を奪ったんだ」
「……異能力について奪ったなら、異能力があって君と繋がりを持った人たちがこの学校にいないのも辻褄が合うよね?」
「……そして君が異能力を発動できないのは、体では覚えていても脳がその判断を出来ないんだ」
じゃあなんでそいつは俺から異能力自体の記憶を取らなかったんだろうか
渚や舜みたいにそうやったほうが手っ取り早いのではないだろか
純平にそのことを聞くと
「……多分そいつは記憶操作の異能力を完全に理解していない……多分君の異能力発動の記憶を奪うしかできなかったんだろうね」
「……そうじゃないと頭がパンクしてしまうから、そいつは部長を含め一気に君の友達5人記憶を奪ったんだ、記憶の容量ギレが起きても当たり前だ」
「……記憶はその人との時間、思い、絆があればあるほど容量が重くなる」
「……人一人が頭の中に何人もの記憶を所持出来るわけがないんだ、異能力のおかげで補正はかかっているけどもそれが限界なんだよ」

「そうなのか……でも、なんで俺がぼっちになるように?」
「……それは分からない、だけどそいつの見当はついている」
「マジで?」
あまりにも早すぎる
どうやってそんなに早くこの事件の犯人の目星がついているのだろうか
何はともあれ、みんなが俺のことを忘れている世界からおさらばしたかった。
「……生徒会の一人」
「生徒会!?」
いかにも事件を制圧しますよ的な人達が、何故事件を起こしたのだろうか
それに生徒会が異能力のことを知っているか?異能力者が生徒会にいるのか?
少し混乱してきた。
「なんで純平は生徒会の一人が犯人だってわかるの?」
「……生徒会執行部の下っ端たちの記憶をずっと漁っていた、そしたら情報を持っているやつがいた」
「……生徒会は異能力を持ってこの学校を鎮圧するつもりなんだ、だから異能力を持っているやつらのことをあらかじめマークしていた」
「……そしてそいつらから異能力の記憶を消して、自分達だけが異能力を持っていることにしようと思ったんだと思う」
純平が真剣な顔をしながら話す。
なるほど、としか言葉が出ない程にわかりやすい説明
そして水無月はなんのことか分からなそうでチンプンカンプンの様子だった。
「……説得、というか分からないけど生徒会に言いに行こうか」
「……あなた達の勝手な判断で困っている者がいるってね」
「ああ!」
「…………どこ……いくの?」
水無月が少し震えた声で聞いてくる。
大丈夫、全て思い出したら戻ってくるよ と言い残して空き部屋である文芸部を抜ける。
廊下を歩いているときに純平の顔が強張っていた。
確かに生徒会と関与するのは初めてだが、純平は緊張しているのだろうか
「ん?なんだお前達!」
生徒会室の前に立っている、いかにも強そうな人が扉の前に立ちふさがっている。
この人をどうにかしないと前に進めないようだ。
どうやって前に行こうかと考えているときに純平が異能力を使った。

トントン

「……通させてもらうよ」
「はい」
記憶操作で俺たちをどこかの偉い人に見せさせたのであろうか
最強じゃないか記憶操作
「あら?気付くのが以外と早かったみたいだね」
生徒会長と思われる人物が回転椅子を回して、紅茶を飲みながらこちらを見る、
不敵な笑みを浮かべながら。
「……記憶を戻してくれないかい?」
純平が生徒会長と思われる人に向かって言う。
そういえばなんで純平は俺のためにここまでしてくれるのだろうか、何か純平に対してやったっけかな
そんなどーでもいいことを考えていると、生徒会らしき人が口を開いた。
「それは難しいね、だってそんなことしちゃったらめんどくさいことになっちゃうじゃない」
こいつ、なんかムカつくな
余裕のある表情で紅茶を飲みながら話す姿が勘にさわる。
「それに、記憶のことについてはボクは一切部下に命令なんかしていないよ、部下が勝手に行動したまでさ」
一人称がボクの女ボクっ娘会長がそう言う。
「じゃあその部下に言ってくれ、さもないとどうなるかわかってるよな」
脅し言葉なんて生まれて初めて使ったが、ドスを効かせた声で言ったので多少はビビるだろう。
てか、ビビってもらわないと困る。
「そんなことしたら君達の立場が危うくなるよ?いいのかな」
クススと手を口に当てて笑う会長
だが、純平はこう言った。
「……僕の能力を使えば、先生方の記憶なんて改善できますよ、オリジナルをなめないでください」
「……そしてそこにいるのはわかっているよ、出てこいよこの仕業の犯人」
純平が俺の後ろの扉の方を指差して話す。
俺は咄嗟に後ろを向いたが誰もいない、いや正しくは見えなかったのかもしれない
急に人が現れたのだ。
「は?え……え!?」
最初から気づいていた様子の純平と会長は全然驚いていないが
急に人が現れて普通滅茶苦茶驚くだろうが、まさに透明人間……ん?何か今引っかかったような
「……小鳥遊も薄々感じてるかもしれないけども、今僕達の前にいる突如現れたこの男こそ事件の犯人だ」
「こいつが…?」
「チィッス」
生徒会の一人とは思えないほどに金髪でラフな格好をしている。
チィッスしか聞いていないが言動もチャラい、本当にこいつが生徒会の一員なのか
疑問に思いながらも臨時体制に移る。
「イヤだなぁ、お宅らと戦うつもりはないっすよ?面倒くさいの嫌いなんで」
「……戦うつもりがないなら、早くみんなを戻せ!」
純平が声を荒げる。
会長は優雅に紅茶を飲みながらこちらを見物している。
この緊迫した状況でよく紅茶が飲めるなと思う。
そして金髪の男は苦笑いしながらこう言った。
「う〜ん、まぁ今回のことは俺の独自でやったんスけど、やっぱりこうなっちまったか……会長サーセン」
「いいじゃないか、これで彼らの絆もしれた事だし、取り敢えず戻してあげたらいいんじゃないかい?」
なんだ、ことがうまく進みすぎている。
大概こういう時には何かが起きるはず、俺は臨時体制のままでいた。
「やっぱり精神面じゃなくて、武力で異能力者を黙らせたほうがいいのかな〜?」
まず、なんでこいつらはそんなに異能力者を黙らせようとしているんだ。
俺らは問題を起こしていないし、今後起こすつもりもないのに
信用できないのか?
「……ま、取り敢えず君の仲間達の記憶は戻しておくよ…………攻撃に耐えれたらね」

シュン

という音と共に目の前が真っ暗になった。
何が起きた、純平の声が聞こえる。
しかし、すぐに声は聞こえなくなった。

次に俺が目を覚ましたのは保健室だった。
そこには渚、舜、恵梨香、武蔵、純平、水無月が立っていた。
俺が目を覚ましたのを渚が気づくとみんなに知らせた後、思いっきりベットにダイブしてきた。
「巨乳で息ができない、苦しい……」
必死に声を出しながら言うと渚は抱きつくのをやめた。
話によると廊下で倒れていた俺を、純平がおぶって保健室に連れてきたらしい
純平は生徒会の事をみんなに秘密にするらしい、純平がそうするのなら俺もそうしておく。
時計を見るともう遅くなっており、ここまで心配して俺のことをみんな待ってくれたのはいいのだが、外はもう真っ暗だ。
今知ったが、純平の家がお金持ちらしく俺ら全員を乗せてってくれるらしい最高。
「……小鳥遊、あの後君はもう一人の生徒会の一人に吹っ飛ばされたんだ、しかもそいつはものすごいスピードで君の前に現れた」
「……やはり生徒会には異能力者達がいるんだ、僕はどうにか逃げきれたけど、君はかなりの重症だったんだよ」
今回の件もあり、なんでこんなに純平は俺に力を貸してくれるのだろうか
気になっていたので聞いてみると
「……なんだろうね、君を助けなければっていう思いが急に湧いてきたんだ」
そう言って笑っている純平はかなり頼もしいが、ホモなのではないかと思う俺だった。
てか、あの金髪ちゃんとみんなのこと戻したんだな

家に帰ると予想通り妹が心配していたようで、ジャンプして抱きついてきた。
腰に激痛がきたが妹がずっと心配していたことを思えば、全然痛くはない。
そしておれは自分の部屋に入り、一年の名簿を見た。
「………やっぱりな、あの生徒会の奴ら全員一年生だ」
入学式の時に見た記憶があるし、一年生の名札をつけていたのでおかしいと思ったのだ。
しかし、一年生がそう簡単に生徒会に入れるだろうか
普通の生徒会役員なら見込みはあるが、生徒会長とかはおかしいと思う。
そしてあの金髪のことだ、あいつは記憶改善っぽい能力を使うはずなのに、何故透明能力も使えた。
幻を見せるとかなら納得はいくが、そんなんだったら俺と純平も幻を受けていたはず。
「記憶改善……純平、透明人間……俺」
そうか、そうだったのか
なんとなくだが予想はついた。
あの金髪の能力は『コピー』だ、だから純平の記憶改善、そして俺の透明人間を使えたのだ。
だから俺を吹っ飛ばされたのも舜の光速移動、そして恵梨香の風を使って吹っ飛ばしたのであろう。
だが、そうすると純平の話と合わなくなる、そして俺の吹っ飛ばされ方はその場に倒れこんだ感じだったのだ。
色々とあった日だったのに、ここまで頭を使うとさすがに辛くなってきたので、チャッチャッと風呂に入って歯磨きして寝ることにした。
次の日普通に学校に行くとみんな俺のことを覚えているようで安心した。
ただ、おかしいところは何時の間にか体育祭が明後日になっていたけとだった。
「は!?なんで明後日になってるの!おかしいだろ!」
これも生徒会の仕業なのだろう、うん、全部あいつらのせい
そうじゃないとおかしいもん。
あと、知らないうちに渚と恵梨香が違う部活に入っていた、生徒会は異能力者が一つに集まることを嫌がっているのだろう。
そう考えれば多分記憶操作で部活に入らせたのであろう、最強記憶操作。
なんやかんやで給食の時間になった。
「最近時が過ぎるのが早い気がするんだけど」
「奇遇だね、僕もだよこのままじゃ直ぐにおじいさんになってしまうね」
舜が自分で作ったのだろうか綺麗な卵焼きを口に運びながら笑う。
俺も弁当を食べようと弁当箱を開ける時に、扉の方で純平が手招きしているのを見つけた。
「あぁん!?あの男同じ部活だからってレイジを呼ぶなんてムカつくわね……」
「なんか酷い」
渚が純平の方を睨みながらそう言う、それに対して恵梨香がツッコミを入れる。
なんだかんだ言って仲がいい凹凸コンビだった、ちなみに凹凸は胸のことだ。
まぁ、そんなことは気にせず純平の近くに行くと
「……申し訳ないけど、部長が部室に居るんだけど一緒に弁当を食べてくれないかな?」
「なんで?」
「……彼女、少し虐められているみたいなんだよね……だからいつも部室で弁当を食べているんだけど、一人じゃ可哀想だからさ」
「お前が行けばいいだろ、さっきから後ろで誰かに睨まれている気がするんだよ、早く戻らないと怖いことになるからさ」
「……僕が記憶操作どうにかしておくよ、彼女の異能力で僕が異能力者ってわかってもその記憶消しておくから」
なんでこいつは渚が異能力者って知ってんだ。
あ、そっかあの騒動の時に生徒会の下っ端の記憶を覗き込んだんだっけかな。
とりあえず、恵梨香と渚が俺が部室で弁当を食べると聞いたときの顔が凄かった。
絶句……それ以外の言葉が見つからない顔だった。
ちなみに恵梨香と渚を出来るだけ水無月とは合わせないようにしている、これ以上面倒くさいことはごめんだ。
コンコンとノックすると中から どうぞと聞こえたのでドアを開ける。
中には少し戸惑った様子の水無月がいた。
「部室で弁当食べていいか?」
「………………うん」
水無月が少し嬉しそうに答える。
良かった、これで断られたら純平をぶん殴っているところだった。
純平は水無月に感謝しなければな
だが、あまり会話が続かないというのは辛いものである。
「み、水無月……弁当の御菜交換しないか?」
そして小学生じみたこという俺、てか実際これしか会話が続かなそうだったのだ。
いつまでたっても純平が来ないし、やっぱり後で殴ろう。
そしたら水無月がこう言った
「………………いいよ…先に私のから取って」
話に乗ってくれた、水無月の御菜をみると ウインナー 炒め物 肉じゃが があったので、肉じゃがのジャガイモをひとつもらった。
そしたらこちらのフライドポテトっぽいポテトを、ひとつもらっていった。
ちなみに肉じゃがの味は美味しかったが、普通だった、うんマジで普通
俺のフライドポテトっぽいポテトを食べたら、何かものすごい美味しいものを食べたような顔で少し笑ってた。
「もう一個食べるか?」
あまりにも美味しかったような顔をしていたので、聞いてみたら
「……………いいの?」
「おう」
やっぱり美味しかったらしい、自分が作ったものを美味しそうに食べてもらうのはかなり嬉しい。
そして、弁当を水無月の方に寄せてフライドポテトっぽいポテトをあげる。
フライドポテトっぽいポテトを食べ終わったら水無月がこう言った。
「………………少し目をつむってて」
何が起こるかは知らないがとりあえず目を瞑っておいた。
いつまで目を瞑っていればいいのか分からないので、少し時間が経ったので薄目を開けてみると。

目の前に水無月がいた。
しかもドアップで、そして次の瞬間

チュッ

俺の唇に水無月の唇が当たった。
「……ごめん、容量ギレで君の女友達から追いかけられていて、さっき逃げ切れたんだけど………うぇっ!?」
まずい!俺も理由が知らんが、水無月に口と口でのキスをされた現場を純平に見られた!
「……お邪魔でしたね」
純平がドアを閉め始める
この後乖離とかないといけないと思って、声を荒げる
「ちょ、ちょっと待って!」
ん?少しおかしい
今声を出したのは水無月か?確かに自分が声を出した気がしたのだが
「純平ぇぇぇぇぇぇ!」
やっぱりおかしい、まさか……
俺は隣を見た、そこには俺の姿があった。
「はぁっ!?」
なんだろう、声を出しているのは自分のはずなのに自分の声ではない
そして目の前には自分が冷静な顔で座っている。
「…………落ち着いて……これは私の異能力……」
「はぁっ!?」
まさか水無月も異能力者だったのだ、てかそんなことよりも今の自分の容姿が気になる。
窓を見ると、少し反射していて自分の容姿が水無月になっていることが分かった。
「……………ごめんなさい……」
そう言って水無月は俺の体のチカラで、水無月の体(俺)を掴んでまた口と口でのキスをした。
その瞬間

ドーーン

「ここか!文芸部の部室は!レイジ!ど………こ……」
「はぁはぁ……渚さん……ちょっと……速い………どうしたんですか……?」
「あ」
「……あ」
俺の体(水無月)と水無月の体(俺)が口と口でのキスをしている現場を見られたのだ。
しかも水無月(俺の体)が俺(水無月の体)の体を掴んでキスをしているから、完全に俺が強要している現場になっている。
だが、今キスしたことで異能力が解除されたらしく、俺は自分の体に戻れた。
しかし、扉の方を見たら放心状態の渚と何があったか分からなくて混乱している恵梨香がいた。
「な、渚……俺の心を読め」
「え……?あ……うん」
渚が目を瞑って2.3秒経ってから目を思いっきり開く。
そして俺の顔を見た後、水無月を見てこう言った。
「アンタ、その積極性嫌いじゃないわ、アンタもアタシのライバルになるのね」
渚が認めた……だと?
水無月はかなりオロオロしている、そして恵梨香が水無月以上にオロオロしている。
そしていつの間にかきていた純平が一番オロオロしていた。
なにこの状況!!

そして放課後
「渚、世界風紀委員会から派遣された生徒って、この学校に何人くらいる?」
「え?……ごめん、ちょっと分からないわ」
渚でもわからないとなると誰も知らなそうだな。
でも、何故俺が急に世界風紀委員会の事を渚に聞いたかというと
生徒会の事についてだ
一年のはずの生徒会長が、何故生徒会長になれたかというと二つ理由が思いついた。
一つは異能力を使った。
あの金髪がコピー能力で純平の記憶操作能力を使えば、生徒会長になるのは容易だろう。
だけど、俺はもう一つの線が濃厚だと考えている。
そう、あいつらは世界風紀委員会の奴らなんじゃないかと、だとしたら武蔵はあちら側についているのではないか。
そのことを心配して、わざと武蔵に聞かないで渚に聞いたのだが、分からなかったら仕方ない。
「なんだか分からないけど、武蔵の心の中読もっか?」
「そうしてもらいたいが……」
渚に任せれば簡単なのはわかっている、だけど武蔵があちら側だった場合、奴らが何かをしていないという訳はないのだ。
高確率で武蔵に何かを施しているはず、そう考えると簡単に渚に心を読ませるわけにはいかない。
だが一か八か賭けて見る価値はあった。
そうと決まれば武蔵の心を渚に読ませた、そしたら
「あれ?武蔵の心が読めない……最近疲れているのかな」
思った通り、いやどっちかっていうともっと恐ろしいことを考えていたのでまだ良かったが。
武蔵が どうした?って顔で見てくるので なんでもないとは答えたが、若干怪しまれてはいる。
そして大体予想はできた。
「あの会長……異能力無効化出来るな」
いや、詳しく言えば無効化出来る何かを持っていたり、知っていたりするのだろう。
そのあと俺は部室に行き、純平に頼んだ。
何を頼んだかというと、俺が自分のことで知らない記憶が無いかを調べてもらうためだった。
「……別にいいけど、僕も人の記憶を読むのは結構疲れるんだよね、時間かかるよ」
「いいんだ、俺はやらなければいけないことがあるんだ」
「……やらなきゃいけないこと?」
生徒会の一件があってから最近うっすらと小さい頃の記憶が蘇ってきている。
だけど、あと一歩のところで思い出せない。
だから純平に記憶を見てもらうのだ。
「……じゃあ行くよ………はぁっ!」
急に純平が大声を出して水無月が ビクッとなった。
可愛い可愛い、だが今はそんなところではない。

スゥッ

『零次!もっと早く早く!』
『ま、待てって……』
これは……俺の小さい頃の記憶か
小さい男の子と遊んでいるのか?公園でブランコや滑り台で遊んでいる。
暗くなってきて、迎えの車が来て二人共別々に帰っていった。
その平凡的な平和な暮らしが、何回も何回も繰り返されていっている。
しかし、事態は急変した。
小さい頃の俺と遊んでいる男の子が親の都合で引っ越すらしい。
しかも、その子は親の前ではスカートなどを履いている……?
何故だ、誰なんだこの子は……分からない。
「はっ!」
「……気づいた?」
「…………ああ、あの子が誰なのかも大体見当はついたぜ、ありがとな」
「水無月、今からここに俺の友達を呼んでもいいか?」
水無月が俺の方を見て、コクッと頭を縦に振る。
呼ぶ人物は、武蔵以外のいつもつるんでいる仲間だ。
そしてみんなにこの前の事件の事情を洗いざらい話した。
話し終わった後、俺はみんなに協力を求めた。
「みんな、俺に力を貸してくれるか?明日、生徒会に用があるんだ」
俺の事情を知ってくれたのか、みんな快く許諾してくれる。
この恩はいつか晴らさないといけないな。

生徒会室に向かって大人数で某RPGのようにはいかず、バラバラにだけど団結しながら向かう。
歩いている途中、先生に どうした?と聞かれたがどうにかあしらっておいた。
こんなこと知られたら後々面倒くさいことになる。
そして、気づけば生徒会室の前、俺はみんなの方を見てみんなが頷いたのを確認し扉を開けた。
その瞬間投げ飛ばされそうになった。
舜が咄嗟の判断で光速移動し、俺を守ってくれたのだ。
「…………お前、強いな」
黒いソフトモヒカンの眼鏡をかけた男が舜に向かって言う。
舜は上着を脱ぎ、俺らに方に投げた。
「零次君、ここに会長達はいないようだよ、どうやら僕達のことを感づいたらしいね」
舜が臨時体勢のまま黒いソフトモヒカン眼鏡との距離を取る。
「早くこの生徒会室から出るんだ、そして会長を見つけてね、僕がこいつを引き止める!」
そう言って舜は黒いソフトモヒカン眼鏡に突っ込んでいった。
今気づけば黒いソフトモヒカン眼鏡の腕には副会長のマークが付けられている。
そして副会長は、柔道超強い舜の光速攻撃に対応している。
あの動きを見る限り、副会長は合気道を使っている、そして副会長の異能力は『瞬間移動』のようだ。
「零次!行こう!」
渚の声に我を戻し、生徒会を後にした。
生徒会室から出るときに舜がこちらを見て、微笑んでいる気がした。
舜ならどうにかなるだろう、いつも助けてくれている舜なら……。
廊下を走りながら、渚と純平が異能力を使って情報を仕入れて会長の居場所を特定したらしい。
体育館にいるらしく、体育館に行ったらそこには金髪の男がいた。
こいつは『コピー』の異能力を持っている、そして腕には『書記』のマークがついている。
「さってと〜ここで君らには倒されてもらうよ〜」
そう言って金髪書記はこちらに走りながら透明になった。
しかし、その瞬間金髪書記は吹っ飛ばされた。
「小鳥遊君!ここは私達に任せて行ってください!」
「……そこの非常階段を降りれば最短で南校舎まで行ける、南校舎の旧生徒会室に多分会長はいる」
金髪書記が立ち上がってこちらに手を向けて、風を送ってきた。
しかし、それを予測していたように恵梨香が相手の風と自分の風を相殺させて、相手の足元で爆発を起こした。
「レイジ、ここはアタシと恵梨香とこいつで引き止めるから先に行って」
純平が こいつ呼ばわりされて少し傷つきながらも、相手の記憶に障害を与えている。
俺は渚達に ありがとうと伝えて非常階段を降りた。
旧生徒会室に向かって廊下を走って行くときに、水無月に袖を引っ張られた。
そして俺の目の前には議長のマークをつけた武蔵の姿が。
「…………出来ればやりたくない、大人しく捕まってくれるか?」
「……………うん」
そう言って俺は後ろに手を回して武蔵の近くに行った。
いや、正しく言うと俺の体はだな。
武蔵に気づかれないように、水無月の体の俺は走りながら旧生徒会室に着く。
そこには生徒会長のマークをつけて、こちらに背中を見せながら仁王立ちしている会長がいた。
「おや、来たのは君だけか……水無月君……いや零次君か」
「………気づいたか」
「ボクの異能力を使ったら、君たちがここに来る未来は見えたからね、でもお仲間は削らせてもらったよ」
そうなのだ、あそこまで大人数で行ったのに今は俺だけ、しかも水無月の体だがら弱々しい。
そして今の話でなんてなくだがわかった、会長の異能力は『未来透視』。
未来を予測できる能力だ、性能的にはどことなく渚と似ているが、使い方は全く違うのだろう。
「………もう、こんなこと止めにしないか?」
「……?何を言ってるんだい?零次君、僕は世界風紀委員会のエリートとしてこの学校の異能力者を鎮圧しなければいけないのだよ」
「そして、この学校の鎮圧を終わったら、転校して新しい学校の更生を始めるんだ……それがボクの仕事」
「何がボクの仕事だ!お前はそんな理由でまた俺の前からいなくなるのか!」
旧生徒会室にうるさく響く声。
会長の顔が少し動揺する、そして一気に畳み掛ける。
「お前がいなくなって俺は絶望したんだ、お前が俺の唯一の友達だったからだ」
「君とボクは高校でしかあっていない!何を言ってるんだ!」
「何を言ってるのはお前の方だ!楓!」
「………なぜだ、なんで君がボクの名前を知っているんだ!生徒会役員にも教えていない、家族だけしか知らない名前を!」
「思い出せ!世界なんちゃら委員だが知らねぇが、そいつらのせいで記憶が消されたなら思い出させてやる!」
空気を思いっきり吸う。
そして思いっきり声を出しながら叫ぶ、会長の楓の心に響くように
「俺の名前は 小鳥遊零次!妹が一人いて小さい頃親の前では女の格好をする、変な奴だが一緒にいて楽しい奴と一緒にいた!」
「それがお前だ!楓!思い出せぇぇぇ!」
思いっきり大声を出す。
今までにこんな大きな声を出したことは一度もない。
楓の顔を見ると、楓の目から涙が出ていた。

「………ありがとう、零次」
そう言って楓は抱きついてきた。
だが、忘れてはいけない。今の俺の体は水無月の体だ。
この女と女が今は使われていない旧生徒会室で抱き合っているとこなんて見られたら、ただ事じゃない。
でも、楓のことだ。世界なんちゃら委員のエリートらしいし、会長だしどうにかなるんだろう。
「…………零次君」
水無月がちょうどいいところに来てくれた。
楓には少し待ってもらい、水無月とキスして自分の体に戻る。
水無月が喉のところを少し抑えていたので、大声を出してしまったことを思い出し誤った。
「楓、副会長と書記にもうやめさせることできないか?」
「うん、できるよ待っててね……あ、水無月君が来ているっていうことは武蔵はもうやめたんだね」
「…………最初から彼は……私を捕まえるつもりはなかった……私達が体を交換しているのも気づいていた……でもわざと気がつかなかったフリをしていた」
「マジカヨ」
武蔵もたまにはかっこいい事しやがるぜ。
「あれ?あの2人との連絡が取れない……?」
楓がスマホを何回もタップしている、かなり焦っている様子だ。
俺も舜と恵梨香や渚、純平に連絡したらみんな出てくれた。
だけど、みんな途中で副会長と書記が消えたらしい。
そういえば、武蔵も見当たらない。水無月に聞いても 知らないと言われた。
とりあえず待っていたら舜達が来た。

「零次君、終わったんだね」
「ああ、だけど妙なんだ……副会長、書記、武蔵がいない」
電話でも聞いたがもう一回舜達に聞いてみたが、急にいなくなったらしい。
副会長は瞬間移動で、書記は透明化して、武蔵はさらっといなくなった。
とりあえず、旧生徒会室に大人数でたむろっていたなんて知られたら、ただ事じゃないので出る。
「みんな忘れてるかもしれないけど、明日体育祭だよ」
舜が空気を一気に壊す言葉を言った。
「てことは……純平達は俺らの敵?ちゃんと練習してた?」
「……ダルいから応援練習記憶改善して出てなかった」
「………………いじめられる」
ダメですわ、この2人
純平達とは同じチームが良かったのだが、仕方がない。
部室に戻ってバックを取りに行こうと思ったら
「零次、ボクの会長の力で古記録君と水無月君……そしてボクを赤組に連れてっていいかな?」
「できんの!?」
「一応会長だし」
「会長そんなことやっていいのかよ……」
深くため息をついた俺だが、実際嬉しかった。
このことはいつか恩返しをしなければな。
そして、俺はみんなと別れて自分の家に行き、明日の準備を整え寝た。

翌日……

「ふわぁぁぁ」
欠伸をしながら朝食を食べ、バッグを持って家を出る。
妹がなんかの代休で小学校休みらしいので、体育祭と見るために付いてくる。
そういえば妹は楓との認識があったっけかな。
ちなみに会長のフルネームは 舞園 楓(まいぞの かえで)だ。
ちなみに楓が学校で名前を伏せている理由は、いろいろと理由があるらしい。
実際教えてもらえなかった。
「ほら、お前は友達のところに行ってろ」
妹の友達が見えたので、そっちに行くように聞かせる。
俺の方は色々と準備をしなければいけないので、俺の家の事情はみんな知ってると思うので、妹の友達の親御さんに世話してもらうことにしよう。
まぁ、俺の妹のことだ、特に心配はいらないと思うがな。
「零次」
俺の名前を呼ぶ声がした。
後ろを振り向くと少し元気がなさそうな楓が立っていた。
「どうした?」
「その……会長を外された」
「え?なんで?」
「お父様が……ボクを『もうお前はうちの子じゃない、感情に左右されるなど 世界風紀委員会のエリートではない、去れ』って言われて……」
なんだその父親
てか、父親ってあの人か、なんとなくだが覚えている
結構優しそうな人だったが、そんな理不尽なことを言う人だったとは幻滅
「会長の権限も取られて……だけど、古記録君たちはもう赤組に移動はしておいた、ボクは強制的に赤組に弾かれたけどね」
「それで、楓、泊まるところはあるのか?」
父親に去れって言われたのなら、今日泊まる場所が無いのでは?と思い聞く。
そうすると楓は頭を縦に振った。
「やっぱりな……まぁ、いいや、俺の家ならいつまでも貸してやるぜ」
「えっ?それってどういう意味で言ってるの?」
「ん?普通に泊まる場所がないなら、俺の家を貸してあげるって言ってるだけだけど」
俺には楓の言っている意味がわからなかった
俺、何か変なこと言っ………言ったわ。
そうだよ、今の楓は正真正銘の女子高校生、小さい頃みたいな感じではいけないのだ。
「楓……ごめん、変なこと言って」
「いや、いいんだよ!ボクが変なこと思わせちゃって!」
俺と楓二人でアセアセしたあと、相手に背中を向けるようにして顔を赤くした。
そうしていたら、純平が体育祭の道具を置き終わったのか廊下で会った。
「……小鳥遊、巨乳の子に風の子、そして部長に会長か……ハーレムいいね」
純平がわざとらしく深いため息をしながら話しかけてきた。
これは嫌味なのだろう、てか絶対そうだわ。
楓が腕時計を見て、肩を叩いてきた。
「零次、時間みたいだ」
「じゃあ俺教室に戻るから」
「うん、久しぶりに長く話せてよかったよ、やっぱりボクは君のことが好きみたいだ」
ニッコリ と効果音が出そうなくらいの笑顔で楓が言ってきた。
今言った好きはloveなのかlikeなのか……個人的には後者のほうがいい。
理由?ここまでハーレム状態だと流石に疲れてきた。
何故俺なのか、なんで俺がここまで女子に気を使わなければならんのか、わからん。

そして時は進み体育祭が開始された。
「舜、最初の競技は?」
「100mのレースみたいだ、僕の次に零次君で次に純平君みたいだね」
そういえば武蔵が見当たらない。
あいつ、俺らと同じ組だし同じチームのはずなんだけどなぁ
それに世界風紀委員が休んでいいのかって話だよな。
「……頑張れ」
「頑張ってくるよ」
舜が純平に背中を押され、トラックに付く。
その瞬間女子がキャーキャー騒ぎ出した。
まぁ、舜は普通に爽やかイケメンだから、普通の女子から人気があるのは当たり前か。
そして文武両道それでいて料理とかもできる、完璧超人だもんな。
バン と始まりの合図と共に舜がスタートダッシュの時に光速能力を使い、スピードを少しも落とさずにゴールした。
てか、さっきから観客の女子がうるさい。
「全く、この歓声じゃあ次の合図が聞こえないよね」
「だよな………うぇっ!?」
びっくりして大きな声を出してしまった。
何故なら、楓がブルマを履いていたからだ。
「あれ?この学校ってブルマ採用してたっけ……」
「忘れたのかい?しっかりしてほしいよ零次」
「てか、楓の出番まだだろ?何しに来た」
俺が呆れ顔で問いかけると、楓は笑顔でこう答えた。
「何って……近くで応援しに来たんだよ?」
「いいのか?」
「ダメに決まっているじゃないか、ちゃんと戻るよ、ただ零次と会話したかっただけさ」
会話なら校舎の中でもしたはずだが、まぁいい。
楓がこちらを見て笑顔で、手を振りながら応援席に戻って行った時にかなり キュン 時たのは内緒だ。
結構前まで なんだコイツムカつく とか言ってた俺が言える立場ではないがな。
「……もう付きまっちまえよ」
「待て、まず俺は楓を出来るだけ性の対象としては見ないようにしている、そして彼女なんて作ったら渚と恵梨香がおっかない」
「……ヤンデレって怖いね」
「ヤンデレって程じゃないけどな」
純平と話しているうちに俺の出番が来た。
俺がトラックに入って、クラウチングスタートの構えに入った時に、舜のような歓声はなかったが3.4人程の声が聞こえた。
ん?4人……渚、恵梨香、楓………まさか水無月か?
あいつ声出さなさそうってかあんまり出さないのに、聞き間違いかな。
とか思っていたけどうちの妹がいること忘れていた。
バン と音と共に一気に走り出す。
実際足の速さは中の上か、上の下くらいと自負している。
いや、この場合は自信過剰?ええい、面倒くさい。
とりあえず今は走ることに集中しなければ。
「とりゃぁ!一位!」
他の選手と2mくらい差をつけて一位になれた。
あとは応援席に戻りながら、純平の走りを見ていると純平も一位になったようだ。
相手の組の足の遅い奴らを俺らと合わせたのか?どっちにしろ一位取れたから良かった良かった。
次に渚が走って二位、恵梨香が走って三位、水無月が走って三位、楓が走って一位。
今のところ他のみんなも頑張ってくれて、今の点数は我ら赤組がぶっちぎりのトップである。
綱引きでは舜の光速綱引きが炸裂した。
当たり前だが目に終えない、だから舜の異能力はバレることはないのだが、午後の部もあるのにそんなにハッスルしていいのだろうか。
玉入れは透明能力を使って、玉を見えなくして相手を油断させていたが、あんまり意味がなかった。
そして次が二人三脚障害物競走だ。
「一緒に走る人はクジ引きだってさ」
本部の人から説明を受けたのでみんなに話す。
「男女一組ねぇ……これはレイジ狙いね」
渚の声に女子勢の目の輝きが変わる。
獲物を狙う目だ、怖い、怖いよ、助けて舜。
かなり懐かしいフレームだ、まぁそんなことは置いておいてだ。
クジ引きの結果
俺と楓、舜と渚、純平と水無月となった。
恵梨香は怪我などの時の補欠となった。
異能力で楓を怪我させてきそうで怖いが、恵梨香はそんなことしないと分かっているので心配はしない。
「じゃあ頑張ろうか、零次」
「そうだな楓」
渚がこちらを睨んでくるが、舜が宥めてくれるおかげで落ち着いているようだ。
水無月は少しガッカリしただけなので、純平は 「……いつも以上に気を使わなそうで大丈夫」と言っていた。

順番的もクジ引きで決めたが モブ→舜&渚→純平&水無月→俺&楓(アンカー)となってしった。
アンカーとか責任重大なのを任されて不安で心がいっぱいだ。
緊張してたらトイレに行きたくなったので、二人三脚の紐を解いてトイレに行こうと思ったが……。
滅茶苦茶紐がきつく締まっていて、今この状況では解けそうにない。
「楓、すまん、ちょっとお願いがある」
「? なんだい零次」
紐が解けないから、ほんとんどの人が使わない外の男子トイレの中について来てくれないかと言ったら。
「れ、零次……それは流石に、いやでも零次が漏らしたらそれはそれで困るしな…」
楓が顎に手をやって考える。
そんなことしていると漏れるってば、焦る様子を見せたらついて来てくれた。
「じゃ、じゃあボクは目を瞑ってあっちを向いているから早くしてね」
そう言って楓は俺のイチモツの反対方向を見て、目を瞑っている。
緊張してかいつもより大きな音で ジョロジョロと音がなってしまい、俺と楓どちらも恥ずかしい思いをすることになってしまった。
楓と一緒にトイレを出たところを舜に見られ、苦笑いされたのはかなり痛い。
そうしているうちに舜と渚が滅茶苦茶差をつけて走ってきた後、純平と水無月で結構差が縮まってしまった。
俺と楓がトラックに入ると、恵梨香が俺の背中を触って
「風の力を入れたから頑張って」
そう言った。
やっぱり自分だけ何もしないのは嫌なのだろう。
楓の背中に手を当ててガッチリ密着する。
「れ、零次、ちょっと近すぎないかい?」
「そうか?二人三脚ってこんな感じだろ」
「い、いや……一応男と女だからさ……」
「別に俺は楓なら密着しててもいいけどな」
楓が頬を赤らめて俺の反対側を向く。
普通に友達としてのことを言っただけなのだが……まぁいいや
「楓、純平達が来たぞ」
「うん、頑張って足の歩調を合わせよう、零次」
純平と水無月からタスキをもらい肩にかけて、楓と足を合わせて一歩、二歩前に進む。
途中楓が転けそうになって、体を抑えた時に何か柔らかいものが当たったが何も知らない、うん知らない。
そして二人三脚で一斉ジャンプしてあんパンを取ったりと、結構辛いこともあったが面白い障害物ばっかりだった。
一着のままゴールしたのはいいが、楓がさっきから俺に顔を合わせてくれないのは何故だろうかwhy.why.why
ちなみに何故楓が転びそうになっても俺が転びそうにならなかったってのは、恵梨香のお陰だと思っている。
風の力ってスゲェ!
「もう昼の時間か……妹呼んできてみんなで食おうぜ」
昼御飯の時に開放する体育館の方に親指を向けて、みんなを誘ったが
「…………体育館は人が沢山いるから……部室で食べよう」
水無月が提案したのにみんなが賛成したので、俺も部室に行くことにした。
なんか女子達が余計に弁当を持ってきてる気がするのだが
「…………どうぞ」
水無月が文芸部の鍵を開けてみんなを入れる。
案の定女子達が余計に持っていた弁当は俺の分だった。
「ふぅん、だったらここで決めようじゃない」
「誰が……小鳥遊君の胃袋をつかめるか……ですね?」
「ボクは料理もできるんだよ?零次」
「………私も作ってきた……」
「お兄ちゃん!私のも食べてね!」
女子達が俺の方を見て弁当を出してくる。
ハッキリ言って全部食えそうにない、てか食えるわけがないだろ。
渚の弁当は愛妻弁当的な何か、恵梨香はちょっと不恰好だが美味しそうなの
楓は家を出されたはずなのに高級幕内弁当を、水無月は和風弁当
妹はいつも見ている普通の弁当だ。
舜が微笑みながらこちらを見ている。
なるほど、全部食べろって暗示か……
純平はメロンパンとかを食べてる、金持ちの家に生まれたはずの純平がだ。
「……コックさんのよりメロンパンが好きだ」
こいつ!俺の心の中が読めるのか!
やめろ!渚みたいなことをするなぁ!
「……記憶呼んだだけだよ」

「じゃあまずは渚から……」
そう言って渚の弁当の唐揚げを取って食べる。
ジューシーな歯ごたえと唐揚げらしい食感が口に広がり、とても美味しかった。
「全部は食べれそうにないから、おかず食べるだけな」
渚が「夜のおかずにもしていいよ」とか言っていたが気にしない。
恵梨香の卵焼きを食べたら、口の中がゴリッていったが美味しかったから可。
何様だって言われるかもしれないけど知らん、それが俺だ。
「ほら、零次、伊勢海老……あーん」
「伊勢海老をあーんするなんて何処の貴族だよ」
楓が口に手を当てて笑う。
ちなみにあーんじゃなくて自分で取って食べた。
やっぱり伊勢海老だけはあってかなり美味かった。
「…………どうぞ」
水無月がそう言って弁当をこちらに渡してくる。
たくわん……漬物が中にあったのでそれを取って食べる。
かなりかなり美味しかった、伊勢海老と互角くらい。
そして妹っていうか本命の俺の弁当を食べながら、みんなの余計に作ってきたおかずを貰っていく。
俺の食べっぷりを見てみんな満足らしくて良かった。
そうこうしている内にもう少しで午後の部始まる、というアナウンスがなり外に走って出る。
純平が途中メロンパンを落として絶叫してたのは笑えた。
だけど落ちたメロンパンを食べ始めたのはかなりビックリした。
だけど本当は落ちたやつじゃなかったらしい、心配させやがって……土の上に落としたメロンパンはさすがに食べたくない。

食べ過ぎたせいかとても腹が苦しい。
この状態で走るなんてふざけてるだろ、と思いつつも800m競争をやってるのだが。
なんで全然体育系じゃない俺が800m競争をやっているかというと
「レイジー!頑張ってー!」
「頑張って!小鳥遊君!」
「零次!君ならできると信じているよ!」
「…………1位……」
ああいうことだ
急遽800m競争に出れなくなった人が出て、代わりに誰がやるということになったのだ。
そしたら、女の子にイイトコ見せて来いと団長に言われ今を走っている。
気が利くのか利かないのか……。
「ゼェ………ゼェ……練習も特にしてないのに800mはキツイ……」
息止めながらの有酸素運動は結構できるのに体力は以外とない。
これも異能力補正というやつだろうか
男子の部が終わって、赤組の陣でぶっ倒れていると首筋に何か冷たいものが当たった。
「う……ん?」
「…………水……飲んで」
水無月だった。
水無月が俺のためを思って、わざわざ自分の自腹で冷たい水を買ってきてくれたのだ。
いやー感謝感謝、後でお金を払っておかなくては
「サンキュー………あぁ生き返る」
ゴクゴク と音を鳴らしながら水を飲む。
水を飲んでいるときに横目で水無月を見たら、水無月は水を飲んでいる俺を見て微笑んでいるようだった。
確かに普段虐められているという水無月にとっては、こういう経験は嬉しいのかもしれない。
さてと、水無月をいじめている奴らを今度「舜」に倒してもらわないとな。
ん?俺が倒さないのかって?
いやいや、だって俺平和主義者だし
「なんだい零次、このくらいでへばってしまうのかい?小さい頃の君はもっと勇ましかったけどねぇ」
楓がもう800m走り終わったのか、息切れはしているが俺に比べれば無に等しいくらいに楽勝ムードなのか、俺の前で仁王立ちしている。
水無月が 次は自分の番ということを俺に伝えてトラックに走っていった。
楓は水無月がいた俺の隣に座り、俺の方を見てニコニコしてる。
俺の顔に何か付いているのだろうか
「零次……ありがとう、昔から君には頭が上がらないな」
そう言って楓が距離を縮めてきた。
待て、俺、楓に何かしたか?
なんか変なムードに入ってるぞ!
脇が汗で濡れている楓を見て ドキッとしてしまった。
自分では気づいてなかったが、もしや俺は脇フェチなのか……?
そんなことをしていると、最後の種目になる。
「最後の種目………異能力……祭…?」
渚が目次を読んで固まった
渚を声を聞いたみんなが固まった、いや舜と楓は固まらなかった。
「何ですか…?それ……」
恵梨香がそう言って、保護者の目次を見ているが保護者のには書いていないらしい。
俺らが驚いていると、他のみんなは得点発表を聞いて泣いたりしていた。
そのまま体育祭が終わり、俺らだけが残された。
「ビックリした?だよねーアハハハ」
急に後ろから声がしたので、振り返ると金髪の書記がいた
楓の顔が急に強張り、恵梨香はいつでも攻撃されてもいいように風を作り出している。
「異能力祭ってなんなのよ、あんたなら分かるんでしょ?」
「異能力祭というのはね、体育祭の最後に行われる。異能力の強さをランク分けする祭だよ」
渚の問いに書記が笑いながら答える。
「君らに誰も気がつかなかったのは、君らだけこの空間から切り離されたからだよ」
書記が笑うのをやめて少し低い声で話す。
空間から切り離された……ということは、まだ新しい異能力者がいたという事だ。
いや、俺の予想が正しければその異能力者は武蔵
「ビンゴ!君頭いいね〜」
書記が渚の能力をコピーして、俺の心を読んできた。
こいつ渚と同じことしやがって、ムカつくな
「さてと、俺の相手……頼むぜ」
「みんな!離れて!」
金髪の書記の言葉に恵梨香が察し、みんなを風で飛ばした
金髪の書記が恵梨香の能力をコピーして風を操り、恵梨香に向かって風を飛ばす
恵梨香はそれを受け流し後ろの朝礼台にぶつける、風にぶつかった朝礼台が吹っ飛んだ
アカン、あれ人が当たったらやばい奴や
「恵梨香!」
恵梨香の名前を呼び、走って駆けつける。
金髪の書記の風の使い方が上手くなっているのか、恵梨香が苦戦している。
その時、目の前に副会長が現れた。
「小鳥遊君!」
舜の声が聞こえたと思ったら、目の前に舜が来ており、副会長の腕を掴んでいた。
副会長はニヤリと笑い、舜に技をかける。
それを舜は見切り避ける、その繰り返しが始まった。
ここにいては邪魔だと思い離れる。
周りを見ると 恵梨香vs金髪の書記 舜vs副会長となっている。
そして、渚、水無月、純平が倒れている。
「っ!」
咄嗟の判断で横に避けたが、脇腹に何かが掠った。
脇腹を触ると服が破けており、鋭利なもので切られたことがわかる。
「零次!走って!」
どこからともなく楓の声が聞こえる、楓の言う通りにして走り出す。
そうすると、さっきまで自分がいた場所から激しい音が聞こえる。
何が起こっているのかが分からないまま、自分の判断で透明になった方がいいと思い、透明になる。
「うぐっ!」
急に体に電撃が走り、膝から倒れこむ
目がぼやけて見え、俺の前には誰かが立っている
その誰かが、俺の頭を鷲掴みにする
頭に激痛が走り、今にでも気絶しそうな腕力
「う……ぐぁぁっ!」
謎の電撃のおかげで体に力が入らず、頭が悲鳴をあげている
その時だった、その誰かの手は 何かの棒 によってはたきおとされた
その瞬間俺の体は崩れ落ち、誰かに抱きかかえられる
「零次!しっかりしろ!」
俺のことを抱きかかえてくれる人からの声だ
この声は……楓か
「……おい、裏切ったな……?」
「最初から貴殿らの作戦には乗る気などさらさらない」
かすれた口調の男の声と、男らしい声が聞こえる
後者の声は聞き覚えがあった
そう、武蔵の声だった。
「貴様……やはり、エリート組といえども、父上との血が繋がってないのは信じるべきではなかったな……」
「世界制圧のためとはいえ、何も罪がないものを傷つけることは許されん」
「父上は間違っていない……」
武蔵と誰かが話している内に、まぶたが重くなってくる
そして、こんな譲許なのに俺は眠ってしまった

「……きて、起きてレイジ」
誰かの声によって起こされる
「………なぎ……さ?」
「終わったよ」
渚がそう言い、俺の方を見て微笑む
やけに渚の顔が近い気がする、ん、まてよ
この状態……渚に膝枕されている!?
「小鳥遊君……って、ひゃぁぁ!」
恵梨香が保健室の扉を開けて、こちらを見て悲鳴をあげる
「な、渚ちゃん!」
「何?恵梨香」
「な、何ってなんてこと小鳥遊君にしてるんですかっ!?」
「膝枕だけど」
恵梨香が顔を真っ赤にして渚に叱る
そんなに俺が渚に膝枕してもらうねが悪いのだろうか
でも、俺不可抗力だし…
「た、小鳥遊君も!なんでずっとそのままなんですかっ!?」
「ごめんごめん……いっつ!」
ズキって頭の中に痛みが響く
まだ痛みが抜いていなようだ、そういえばあの後どうなったのだ
渚からは終わったとしか伝えられてない、
しかも渚は倒れていたはずだ、なのに今は俺に膝枕できるほどにまで回復している。
金髪の秘書と戦っていた恵梨香も、目立った外傷はなく、まるであのことがなかったようになっている。
「ほらー!恵梨香!レイジが頭上げて痛がってるでしょ!?」
「ぐ……だったら!小鳥遊君!」
「ん?」
「わ…私の膝にきてください……!」
さいきんね せっきょくだよね えりかさん
五七五決まりました〜!
なぜ恵梨香の膝枕を受けなきゃいけないのはわからないが、お言葉に甘えるとしよう
恵梨香の方に頭を動かしたら、渚がいかにも 嘘泣き だけど泣いている
おいおい…いくら俺でも嘘泣きだってわかるぞ……でも、泣かないでくれよ…
「さ、さあ!小鳥遊君!」
恵梨香が顔を真っ赤にしながら俺を膝に乗せる
なんだろう、渚のはムチムチで気持ちよかったが、恵梨香のは恵梨香ので気持ち良さがある

ガラガラ

「……小鳥遊、起きたなら状況を説明し………」
まずい、純平に見られた
「……ごめん」
「まってぇ!俺が気絶してからどうなったのか誰か教えてぇ!」
「あれ、やっぱりレイジ覚えてない?」
渚が嘘泣きをやめて、ケロッとした顔で聞いてくる
「おぼえてないから聞いてるんだよ!」
「あのね、小鳥遊君、あの時小鳥遊君は幻にあってたんだ」
「幻……?」
「うん、精神でもない記憶でもない規模が違う、違う空間の世界」
じゃあさっきまで起こっていた異能力祭というのは幻だったということになるのか
幻なんて異能力者は知らないし、空間で武蔵がやったとしても、金髪の書記が幻の中で言ってたことが本当かどうかもわからない。
それに、武蔵は最終的には助けてくれたはず、なんだか納得がいかない
途中で裏切ったとしても、俺の被害で考えればもっと良い方法があったはずだ。
それに、なぜ俺だけが被害にあったのだろうか
「金田一君が、小鳥遊君が急に倒れた時に近くに来て、小鳥遊君の周りの空間を割いてくれたの」
「それで、私と桜庭君と会長がギリギリ入れて、小鳥遊君を少しだけ守ることができた」
なるほど、渚達は空間移動してなかったから倒れてる扱いだったのか、それで武蔵は自分も空間移動して俺を助けてくれた
ということは、元々武蔵は、今回の作戦には加担していなかったか、知らなかったと言える
最後のかすれ声の男との会話を考えれば尚更だ。
「他のみんなは?」
「体育祭が終わること自体が幻だったの、だから、まだ体育祭は終わってないよ」
渚が ニコッ と蔓延の笑みでこちらを見る。
ドキッ としてしまい、顔が真っ赤になる。
照れ隠しのために顔を逆にしたが、そちらには恵梨香のお腹の方を見てしまいさらに興奮してしまう。
あ、ヤバイ、勃ってる。
「あら〜?レイジ、なんか興奮してない?」
渚がニヤニヤしながら声をかけてくる、
クソ!読心術はこりごりだ!
「た、小鳥遊君……?興奮してるんですか…?」
「し、してないさ!ははははは!」
こんな状態を恵梨香にさえ知られたら、俺は一生変態扱いされるだろう
恵梨香にだけは知られたくない……

ガラガラ

「零次君、起きたみたいだ………」
「あ」
「零次君、学校で膝枕はちょっとね……」
舜が苦笑いしながら、椅子に座る。
純平みたいに走って逃げたりするわけではないのだ、流石舜、中学校で渚と一緒にいただけはある。
そこに痺れる憧れるだぜ
「舜、今どこまで進んでる?」
「今は棒倒しだね、僕はああいうの好きじゃないから辞退したのさ」
「実際、舜なら無双しそうだけどな……」
「力の加減が難しいんだ」
舜が笑いながら答える。
力の加減とは……今までの舜は、本気を出してないってことか
恐ろしや。
「零次君は……幻とはいえ攻撃は受けたからね、まだ頭が治ってないか」
「ごめん」
「いやいや、僕がもっと早く気付いていれば対処法を練られたんだけどね、まさか渚の力でも介入できないとは思ってなかったからさ」
舜がここまで言うということは、渚の力はまだまだ応用性があるのだろう。
でも、その渚の力でも入れないとなると、かなり強い異能力なのだろう。
その中に介入できる武蔵もかなり強い……、こう思うと、自分の能力が役立たずと思えてくる。
俺も透明膝カックンでは、これからはやっていけないし、格闘術を舜から教えてもらうのもいいかもしれない。
「あ、そういえば、零次君」
「ん?何?」
「妹さんがかなり心配してたよ、早く治してあげなよ」
「そうか……ありがとな」
案の定、妹はかなり心配しているようだ。
最近、全然一緒に遊んでやってないし、心配かけてばっかりで本当申し訳ないと思う。
今度何処かに遊びに行かせてやろうかな。
「じゃあ僕はこれで、渚と恵梨香さんも自分が出る競技が始まったら来るんだよ」
「はーい!」
「うん」
舜の言葉に、渚と恵梨香が元気よく答える。
舜たちが無事だとわかると眠くなってきた、恵梨香と渚に寝るということを伝えて
恵梨香の膝枕から普通の枕に移行する。
寝ようとした瞬間

ガラガラ

「零次!起きたんだって!?」
楓ぇぇぇ……
今寝ようとしてたのに…
「良かった……ボクとしたことが未来予知能力で知ったのに関わらず、手遅れだったから…」
「大丈夫だ、頭は結構痛いが楓が夢の中で抱えてくれたおかげで、目立った怪我はないし。あと寝かせてくれ」
「そうか、本当ごめん」
楓が顔を下げる。
おいおい、親しき中にも礼儀ありっていうが、そこまで本気で謝らなくていいのに
楓が謝ってるのを見て、渚が俺の方を見てニヤニヤしている。
何を考えているんだこのアマは
「レイジってモテモテね〜、私もこのままじゃ辛いかも……」
「でも、私にはこの 胸 があるからいいわね、レイジも虜になっちゃってしね」
「ん?」
「え?」
おいぃぃぃぃ!変なことを言うなぁ!
楓と恵梨香が自分の胸を揉む。
恵梨香の顔が般若の顔になり、楓はまぁまぁ胸があるが少し残念な顔をしている。
恵梨香の周りから風が吹き荒れる。
待て!俺が吹っ飛ぶ!

ガラガラ

「………こ、ことり君……」
「あ、たかなしだ」
「………ごめんね…小鳥遊君……」
水無月が扉を開けて俺の名字を間違える。
実際、初見の人は間違えるから気にしないが
それよりも問題なのが、この状態に女の子が一人増えることと
小鳥遊君だと恵梨香と呼び名が被ることだ、もう俺の別の読み方はないのだろうか
「………こと………小鳥遊君大丈夫?」
「いいよもう、ことり君で」
この際、悪口じゃなければ、俺のことと認識できるならどうでもいい。
「…………あの……これ」
水無月が、あの、あれだ、名前を言うと著作権的にまずいから言えないが
ウ○ダー……言ってしまったぁ!
まぁ、そういうことを尊像してくれると助かる。
それを渡してくれる。
「ありがとな」
水無月から手渡しでウ○ダーを貰うと、水無月が少しおどけた顔になった
理由は分からない、が、渚がずっとニヤニヤしてた。
「え……あ……じゃあ……私はこれで……うん、じゃあね」
水無月が手であたふたしながら、俺に対して言う。
扉開けるときに、楓も一緒に保健室から出た。
「恵梨香、レイジをよろしくね、トイレ行ってくるから」
渚が珍しく恵梨香に俺を渡す。
自分で、俺を渡すとか言うと自分が物みたいで嫌だな
「うん、分かった」
恵梨香が ニコッ と笑って承る
さっきまで般若の顔だったとは思えないほどにだ

ガラガラ

「じゃあね〜」
渚がこっちを見て手を振りながら行く
渚がいなくなった瞬間、恵梨香がこっちを見る。
待ってくれ、今俺眠いのに何する気だ。
「小鳥遊君……」
恵梨香が俺の名前を呼びながら近づいて来る。
お、おい何する気だ?
「あの……ごめんね…守れなくて」
想像してたのとはだいぶ離れた答えだった、そんな恵梨香に対して俺は
「大丈夫だよ、結果的には助けてくれたし、恵梨香が居なかったら俺もっと酷いことになってさしさ」
恵梨香の方を微笑みながら言う。
恵梨香は キョトン と一瞬した後、思いっきり ニッコリ する。
「小鳥遊君……失礼するね」
そう言って恵梨香がベットの中に入ってくる。
なんでっ!?変なスイッチ入ってるよね!?
初めての頃は俺の顔見たら真っ赤になる感じだったよね!?
「手……繋いでもいいかな……?小鳥遊君を近くに感じたいの……」
恵梨香が上目遣いで聞いてくる。
そんな顔されたら断れないじゃないか、俺は恵梨香の手を掴む。
恵梨香は勢い奥掴まれたので ふぇっ! って驚いた声を出して顔が赤くなる。
俺が承諾すると思ってなかったようだ
「た…小鳥遊君……」
恵梨香がさっきまでの積極的な姿勢とは一転し、弱気な声で名前を呼ぶ。
恵梨香の顔を見ながら、恵梨香の頭を撫でる。
恵梨香は恥ずかしそうに顔をうつ伏せて隠す、肩を掴んで無理やり顔を向かせる。
「小鳥遊君……」
「恵梨香…」
「たっだいまー!」
渚が帰ってきた
恵梨香が風の力を使ってアクロバティックな動きをして、ベットの隣に立つ。
渚は何があったのかわからずに首をかしげる、心を見られたら終わりなのだが。
何も考えない、そう、無心。
ワタシナニガアッタカワカラナイ
「レイジ…?」
渚が心配そうな顔で見てくる、だが気にしない
「ごめん、俺寝るわ」
そう言って俺は今度こそ就寝に着く。
渚が心配そうな顔をしながら、近くの椅子に座る。
なんか自分が病人になった気分だ、こんな美少女二人に見届けながら寝れるのは最高だなと思う。
あ、きた、寝るときにある現象っぽいのだ、おやすみ

「ねぇ、なんで部室でポテチ食べてるの?いいの?」
部室を開けたら真っ先に目に飛び込んできた、
ポテチをボリボリ食いながら漫画本を見ている純平に言う。
純平は、チラッと水無月の方を見た後ウインクしてきた。
やめろ、男のウインクなんて見たくない。
「大丈夫……先生、全然来ないから………」
眼鏡をクイッと上げて水無月が言ってくる。
純平がドヤ顔しながら親指を立ててくる、最高にウザい。
「……コンソメ味だけど、食べる?」
「うん、食べる」
ウザいと思っていながら、俺も親指を立てて言う。
純平が読んでいる漫画は何かと聞いてみると、
「……ワンパ…」
「やっぱりいいや!それ以上言わなくていいよ!」
「……そうか」
著作権とかで言われるわけないだろうが、言われたらたまったもんじゃない。
水無月がポテチをパリパリ食べているが、口が油で濡れている。
エロい、かーなーりエロい。
「何……?」
水無月が首を傾げながら聞いてくる。
なんでもないよ、と言いながら俺は水無月の唇に見とれている。
柔らかそう、触りたい。
あの、プリッとした唇に健康なピンク色……至高ですね。

ドンドン!

「……はい」
ノックの音が異様に激しい扉を純平が開ける。
なんだ、渚か?
「……誰もいない」
何?おばけ?怖い、怖いよ。
パサッ 本を落とした音がしたから、水無月の方を見ると、水無月の顔色が悪くなっている。
幽霊とかおばけとか苦手なのかな?と、思ったがそうではなさそうだ。
「ごめん……私のせいかも……」
水無月が挙動不審になりながら言う。
どうした、と言おうとしたら先に話し出した。
「あの……私、いじめにあってるって言ったよね……」
「それで……もしかして、あの子達かも…」
水無月がそう言って窓の方を見る。
そうしたら、校庭にはいかにもキャハハッとか言いそうな古典的ないじめっ子みたいなのがいた。
許せん、俺を虜にする魅惑の唇を持った水無月を困らすなんて
純平の方を見ると、純平は不敵な笑みを浮かべていた。
だめだこいつ、復讐に心奪われてる。
「……部長をいじめる…か」
「純平、お前今何考えてんだ」
「……生まれた時からの記憶を」
「てめぇ!めっちゃおっそろしいこと考えてんな!」
水無月が俺たちを見てオロオロしている。
純平は冗談だよ、と言いながらヘラヘラしている、怖いわ…。

さて、前にも言ったが、水無月のいじめられてるこの現状をどうにかしようというわけだが
「だから僕達が呼ばれたんだね…」
舜が頬を掻きながら、苦笑いして言う。
「ボクはもう生徒会長降ろされたから何もできないよ?」
楓が横に振りながら俺と水無月の方を見て話す。
ちなみに渚と恵梨香はとんでも無いことをしそうだから呼んではいない。
武蔵は最近忙しそうだから、そちらを優先してもらって、こちらには来ていない。
「……問題が起きない範囲内で、部長のいじめを無くす方法がないか話し合いたい」
いつも欠伸ばかりしている純平が真面目モードに入っている。
お前いっつも水無月の事になるとそうだよな、と言わんばかりの目で純平を見る。
純平はこちらの視線に気づくと鼻で笑ってきた。何がしたいんだコイツは
「問題が起きない範囲内か……楓さんは生徒会長をやっていた意見として、どこまでなら大丈夫そうかな?」
「う〜ん、そういうところは代々副会長に任せてたからなぁ……でも、武力で解決するのはいけないと思うな、憎しみからは憎しみしか生まれないからね」
誰かが負の連鎖を断ち切らないといけないってことか、かっこいいこと言うな、と感心してると
「とりあえず、水無月さん…でいいのかな、水無月さんはどうしたいの?」
舜が本日のメインの水無月に問いかける。
水無月はたどたどしくもこう呟いた。
「できるだけ……傷つけないであげて…」
優しい。今まで自分をいじめてきた相手に対して優しすぎるよ水無月。
温かい目で水無月を見つめていると、楓からキックをもらった。なんで!?
「まあ、俺の透明能力と舜の光速移動でどうにかなるよね」
「ボクの未来予知を使って彼女らが、いつ溜まり場に集まるかを予測して、そこで懲らしめるって考えだね」
そういえば楓だけ、ちゃんとした異能力を使うところを目の前で見たことがない。
是非とも、一度見てみたいものですね。
渚みたいに目に力を入れるだけのか、はたまた恵梨香みたいに使いすぎるとデメリットとかあるのだろうか
異能力といえば、水無月と俺とで体を交換したとして、俺の異能力はどうなるのだろうか
いつか調べてみたいが、体を交換するのにキスをしなければいけないのが大変なところだな…。
「彼女達……以外と、敏感だから……いつもと違うのあったらすぐバレちゃうよ…?」
水無月が貴重な情報をくれた。
うん、水無月と俺が体を交換して、相手の気を緩くするしかないみたいだな。
でも、敏感だからそういうところもすぐ気づくのかな
「……とりあえず、今日はもう遅いから明日また…」
みんなが考えを話し合っているところで、純平が今日は終わりにしようと言った。

「完全に忘れてた、楓が家に泊まってるんだったな」
「忘れちゃ困るよ、零次」
楓が不機嫌そうな顔で言ってくる、まさか古き友とこんな形で会えると思ってなかったのだから仕方がない。
「おかえりー!お兄ちゃーん!」
「ゴブァッ!」
妹が思いっきりお腹にダイブしながら抱き付いてきたせいで、口から何か出た。
妹はニコニコしながら
「あっ!楓ちゃん!おかえり!」
と言う。
楓は、ニッコリ笑って、ただいまと言った。
さて、今夜から妹だけではなく、楓も食事を作る手伝いをするようだ。
側から見たら、俺と楓が夫婦で妹が子供に見えるが、そのような妄想はするんじゃないぞ。
流石に調理場に三人もいらないから、妹にはお皿とかの準備を頼んだ。
「楓、水無月の事なんだけど、どうする」
「う〜ん…彼女の異能力ってなんだっけか?」
痛いところをついてくるなこの幼馴染は!
「俺忘れちったな」
「ああ、体交換か、彼女の体と交換した零次とあの場で話し合ったんだもんね」
覚えて嫌がったちくしょう。
これ、楓絶対、水無月の体を交換する異能力の発動条件も知ってるだろ。
「とりあえず彼女と一緒に話合わなきゃどうしようもできないよ」
「ごもっともな意見、どうもありがとう」
てか、楓はどこに寝るんだ?
妹の部屋でいいんだよな、恵梨香みたいに俺の部屋の俺のベットとかないよね?
うわ、聞きにくい、下心とか言われそうで凄く話し出しにくい内容。
「そういえば、楓ちゃんはどこで寝るのー?」
よくぞ聞いた我が妹よ
そのまま、自分の部屋で寝るように誘導しろ
「ボクは居候の身だから、零次達の好きにしていいよ」
楓が夕食を運びながら喋る。
エプロン姿似合いますね、前髪の髪留めも凄くマッチングしてます。
好きにしていいなら、妹の部屋で、と言おうとしたら
「じゃあ、お兄ちゃんの部屋でいいんじゃない?」
おいゴラてめぇ何言ってんだ
「お兄ちゃんの部屋、大きいし」
「そうだね、そうしとくよ」
おい、楓、お前はそれでいいのか
俺の部屋でいいのか、来るなよ、自○行為とか一切俺できないじゃないか
てかなんで妹も俺の部屋に……ハッ!
妹も自○行為を見られたくないからかぁ……!!
「寝袋は持ってきたから、布団の準備はしなくても大丈夫だよ」
違うんだ、楓
準備が良いところは凄くこちら側として嬉しい
だけど俺が悩んでいるのはそこではないんだ。
てか、女の子を寝袋に寝かせるわけにはいかないだろ…。
「こういうことがまたあると思って布団を買っておきました!!」
と、俺は叫ぶ。
ん、楓が少し考え込むような顔をした後こう言った
「……また?ってどういうこと」
あばふっ!!
自分から地雷を踏んでしまったと後悔する。
これじゃあ、前に恵梨香を家に泊めてしまったことを自分から暴露したようなものじゃないか
どうにか誤魔化そうとするが
「い、いや、楓、言葉の綾ってやつだよ」
「あれ?お兄ちゃん、前に恵梨香さん泊めなかったっけ?」
きさまあああああ!!
野獣の眼光で妹を睨みつけると、妹は今気づいたようで、ハッとしていた。
「あ、ああ、記憶違いだったみたいだよ…!」
「いや、もう分かってるから」
妹のフォローも虚しく、楓にバレてしまった。
「で、恵梨香さんとはどういう風に寝たの?」
「なんだその性行為をしたみたいな言い方!」
「そ、そういうことを言ってるんじゃないよ、布団かベットかって聞いてるんだ」
楓が恥じらいながら言ってくる。
流れ的に、そういう内容と勘違いしてしまったではないか
話の流れも何もないけどな。
「ああ……ベッドと布団で寝たよ」
「零次、嘘はいけないよ」
「ええ!?お兄ちゃん同じベットで恵梨香さんと寝たの!?羨ましい!妬ましい!」
妹ぉ!便乗するなぁ!
てか、なんで楓は嘘だって気づいた!?俺あからさまに顔に書いてた!?
なんなんだよちくしょーー!!
「零次、恵梨香さんもベットだったら、ボクも一緒にベットだね」
楓がニコニコした顔で言ってくる。凶器だ。
ここまで強い笑顔を見たことない、舜の笑顔とはまた違った笑顔だ……
「もうどうにでもなれ…」
「お兄ちゃん!いつ私と一緒に寝てくれるの!?ねえ!いつ!?」
「お前とは一緒に寝んわ!」

「おはよう、じゃあ水無月のいじめに対する対策を考えようか」
昨日はベットの中で楓が壁際の方にいる俺にグイグイ体を押してきたりと、
色々と大変だったせいで、全然眠れていない。
そのせいか、体がダルい。
「……部長が今までやられたことをやり返す」
「純平、キリがなくなる」
しかし、ツッコミをする体力は残っているようだ。
「水無月さんの意見ではできるだけ痛めつけないように、と、勘が鋭いから気をつけてだったね」
「勘が鋭いなら、俺の透明化が使えなさそうだな……」
俺の十八番の透明化が使えなさそうらしいから俺の活躍は期待できそうにないなと思っていると
水無月が袖を引っ張ってきて、耳元で囁いてきた。
「私の異能力で………あなたと体を…交換……すれば……彼女たちも気づかない…」
なるほど、そうすれば水無月を怪我させることなく、いじめっ子達を指定の場所に連れて行けるのか。
いい案だな、と思ったが、交換するにはキスしなければいけないのだ。
いや、水無月の可愛らしい唇とキスするのはもう至福のひと時みたいな感じなのだが、いかんせん周りの目がな
「水無月、それは最終手段だ、とりあえずそれは保留にして違う案を考えてみようぜ」
うむ、我ながらいい事を言った。
水無月が残念そうな顔をして、そう、と呟いた。
何故、悲しそうな顔をする。俺が悪いみたいじゃないか…
「僕の光速移動で彼女達をとっ捕まえるはどうだい?」
「死ぬ可能性がある、却下、それと異能力が知られる」
楓が鋭いツッコミを入れる。
舜が、また考え込む。中々いい案は出ないらしい。
「……異能力のとこだけ記憶……は、仕返しの意味がなくなっちゃうか」
純平の異能力を使うのもいいのだが、純平が言った通り、意味がなくなってしまう可能性がある。
つまり、やり損だ。困ったものだな…
やっぱり水無月と体を交換して、ターゲットの場所に誘い込み
後は閉じ込めるなり、ドリアンサイダーとシューレストレミングスをミックスした水鉄砲を食らわせるなりだな。
下手したらいじめが悪化するかもしれない、楓の異能力を使ってうまく誘導すればいいだけだが。
「俺が水無月と体を交換するよ、そうやってターゲットを指定の場所に誘い込むから、後はいじめられてる現場を先生に見せたりすればいい」
「……部長はどう?」
「…………賛成」
純平の問いかけに水無月はokなようで、俺の方を見て頷いてきた。
楓が水無月の顔を見て、いい案だと言い。
舜が任せるよ、と言ってきた。いいスマイルだ舜。昨日の楓とは大違いだ。

「レイジー!肝試し行こー!」
最近出番がなかった渚が後ろから抱きつきながら言う。
大きな乳が背中に当たってる!俺の息子が反応するからやめて!
てかここ、教室だから!周りの目がすごい痛いから!男子が殺意のある目つきでこっちを見てくるから!
ん?水無月のいじめの仕返しのシーンがないだと?
おいおい、そういうつまらないシーンは飛ばすよ。
大丈夫、水無月のいじめはきっちり無くなった、それどころか水無月がクラスの人達と仲良くなってきたよ。
「あー!渚ちゃん!小鳥遊君から離れてくださ……い!」
恵梨香が俺から渚を離そうとするが、渚が俺のことをがっちりホールドしてるせいで話すどころか、恵梨香の手が挟まって恵梨香も抱きついてるような感じになってしまった。
おい、これ以上、他の男子からの目線を鋭くさせないでくれ
「零次君……って、またか…」
舜が呆れ顔で俺に言ってくる。
なぜ俺に言う!?渚と恵梨香に言ってくれ!俺は無実だ!
「それで、渚、肝試しって?」
舜の協力で、渚と恵梨香を俺の体から引き剥がした後、渚に問いかける。
渚は、鼻でフフンと言いながら
「私と零次と舜と恵梨香、武蔵……他の人もいれて、まぁ、いつメンで行こうって話よ!」
「どこに?」
「ネットで心霊スポットを調べたの!」
そういうところは容易出頭だなぁ
てか、俺、心霊系苦手なんだけど…。
それはそうと、いつメンか……。文芸部のみんなと、楓も呼ぼうか。妹はどうしよう。
今考えると、俺めっちゃ友達いるやん!中学の時とは大違いだな、とつくづく思う。
「で、いつ行くの?」
「明後日!」
「早いなおい!」
幾ら何でも早すぎるだろ
てか、心霊スポットを調べたって言ってるけど、詳しくはどこに行くのかな
それに肝試しだけに行くのはちょっと厳しい。
俺はそんなに物好きではない、できれば土曜日の朝からみんなで遊んだりしたい。
と、俺が思っているのを渚が読み。
「もちろん、肝試しだけには行かないよ?夏だし、朝から海行ったりしてみんなで遊ぶよー!」
うわー!すんごい休日をエンジョイしてるー!
俺は文芸部で、部長が水無月だから特に部活も何も自由なのだが
舜は陸上部なのだ、休みの日なのだろうか…?
「あ、僕は休みの日だよ、僕の休みの日に渚が合わしてくれてね」
逆にその大事な休みの日を俺らのために使っていいのだろうか
舜ならもっと充実した休日が送れると思うのだが。
まあ、折角、舜が良いと言っているんだ。お言葉に甘えて一緒に行こうじゃないか。
そういや、恵梨香と渚は何処かの部活に入っているのだろうか
彼女らなら文芸部に突っ込んできそうなきがするのだが
「んー?私達は帰宅部だよ」
「私は文芸部に入ろうと思ったのですが、流石に、小鳥遊くん目当て……じゃなくて、そ、その迷惑だと思うから」
そうらしい。
ちなみに渚は塾があるから…らしい。
塾に行ってたなんて初耳なのだが、てか、渚は異能力使えばカンニングなんて余裕だろうし。
まあ、そういうのに使いたくないポリシーでもあるのだろうか
「とりあえず、文芸部のみんなや楓に伝えておくね」
俺がそう言った瞬間にチャイムが鳴った。
待って、俺、昼飯食べてない。

「水無月〜純平〜そして何故かここにいる楓〜」
「おや、言ってなかったかい?ボクは文芸部に入ったのだが…生徒会をやめさせられたからね」
楓が読んでいた本から目を離し俺に向かって言う。
聞いていない、全く聞いていない。
「……それで、どうした?」
純平が話を本題に戻す。
そうだ、危なく忘れるところだった。
「明後日の土曜日にみんなで海に行かないかって話」
その話を聞いた瞬間、純平の顔がギョッとした。
どうした、って聞こうとしたら楓が先に聞いた。
「どうしたんだい?純平君」
「……いや、僕の親戚のおじさんが、明後日、遊びにおいでって言ってきてさ」
「あーじゃあ、無理ってことか?」
話の流れに沿って純平に問いかける。
おっ、ずっと机に伏せて寝ていた水無月が起きたぞ。
てか、水無月、部活の時間に寝るな。
「……逆、その人の家が海の近くなんだ。だから、みんなでその人の家に行こうって話だよ」
「へーー」
なんだ、そういうことか……ってええええ!?
あまりにも都合が良すぎてびっくりしてしまった。
俺がびっくりしている姿を見て、楓は気にしないでコーヒーを飲んでいる。
どこから持ってきたのそのティーカップに入ったコーヒー。
水無月は……うん、また寝てる。
寝るってことは、それほど疲れたのだろう。良かったな、いじめがなくなって友達がたくさんできて。
「じゃあ、その事をこっちのみんなに伝えておくよ」
「……うん、そうしてもらうと助かる」
「じゃあボクは武蔵君に伝えておくね」
ああ、そうだ。
武蔵は学校の風紀を良くする為に昼休みは学校中を歩き回っているせいで、伝えそびれたのだ。
生徒会の時に通話手段を交換したであろう楓が伝えてくれるなら安心だ。
っと、水無月は寝ているのだが話は聞いていたのだろうか
「……部長には後で伝えておくよ」
純平が小さくため息して言う。
ははは、みんな忙しいなあ。

当日……

「うーーん!まさか純平君の親戚の人が海の近くに家を持ってるなんてね!」
渚が体を伸ばしながら純平に礼を言う。
しかし、こういう遠くに行く時に乗るバスは別物だな、と思う。
見慣れない景色を見ながら色々と思いふけっていると
「レイジ!体伸ばしたらつった!つった!助けて!!」
何やってんだ
俺が渚の手を治そうとしたら、舜が光速で治してくれたらしい。感謝感謝。
渚は、あんたじゃなくてレイジに意味があるの!と叫んでいたか、俺は何も聞いていない。
うん、俺は何も聞いていない。
「小鳥遊君!見て!海が見えるよ!」
恵梨香が俺の手を引っ張って窓の方に向かせる。
本当だ、海だ……。
実際に言うと、俺、海も山もそこまで好きじゃないんだ。
何故かって?そりゃ海は何がいるかわからないし、山は虫がいるし……。
だが、折角みんなときたんだから思いっきり楽しもうと思う。
ああ、言ってなかったがバスの席順は
俺と恵梨香が隣で、道を挟んで渚と舜
俺の後ろに純平と水無月、旬 舜の後ろに楓と武蔵という感じだ。
キッチリ8人。
「お兄ちゃん!私のこと忘れないで!」
妹が前のバスの席の上に顔を乗せ、頬をパンパンに膨らませて言ってくる。
すまない、完全に忘れていた。最近忘れることが多いな…。
妹の頬をツンツンと付きながら謝ったら簡単に許してくれた。甘いな。
恵梨香が羨ましそうな顔で見てくるが気にしない。
「……そろそろ」
純平がそう言って、みんなが降りる準備をする。
なんか合宿みたいだな…って、そうだったな、純平の親戚のおじさんの家に泊まるんだった。
だから家に一人、妹に任せるわけにはいかないから連れてきたんだった。

「海だね」
「……海だね」
「海だな」
舜と純平と武蔵が冷静に無味のことを言ってくる。うん、分かってるから三人同じような顔で言わないでくれ。
てか、武蔵の腹筋バキバキなんですけど、怖い。
うわ、舜も綺麗に整った腹筋をお持ちでした、この野郎。
純平は少しだけついている感じ、俺と同じくらいだ。
「レイジーー!!」
そう言って渚が抱きついてくる。
「おっぱいがぁぁっ!」
俺はそう言ってバランスを崩し砂浜に倒れこむ。
それでも渚は決して力を緩めず、そのビキニによって露わになった巨乳を俺の背中に押し付けてくる。
「ハハハ」
おい舜!笑ってないで渚を離してくれ!
渚に対抗できるのお前くらいしかいないんだよ!
なんやかんやあって渚は俺から離れてくれた。
いやあ、渚の体つきはすごかった。本当にナイスバディだった。うん。
赤色と黄色のうまくマッチングした縞模様のビキニが巨乳のセクシーさを上手く引き立てていた。
「な、渚ちゃん、着替えるの早すぎ…」
恵梨香がトテトテ走ってこっちに来る。
うむ、緑のビキニか、こりゃたまらん。
俺の目線に気づいた恵梨香は、顔をボンっと赤く染めて顔を逸らした。
貧乳なのに、いや、その言い方は失礼だな。
すごく、渚とは違った魅力が出ている。ああ、天使だ。天使がここにいるって感じだ。
「零次、どうだい?」
楓が俺の肩をトントンしながら聞いてくる。
ああ、フリル付きのビキニか、フリル付きは楓に合わないと思っていたが、すみません。かなり合います。
渚と恵梨香にない魅力を楓は持っている、そう感じた。
「………この日の為に……買った」
水無月と妹が遅れてやってきた。
水無月はビキニではなく、スク水に色がついた市販のを着ている。
水無月が珍しく、顔を赤らめてこっちを上目遣いでチラチラ見ている、可愛んじゃ〜。
妹はスク水。うん、想像してた通り。
「お兄ちゃん!スク水にはスク水の良さがあるんだよ!」
そのくらいお兄ちゃんでも分かるわ!
「さて、みんな揃ったことだし、海で遊ぶか!」
俺の掛け声と共にみんなが海に向かって走っていった。
あ、恵梨香が転んだ。
「………………ひっぐ」
「恵梨香ああああ!!泣くなあああ!!」
砂浜をヘッドスラィディングしながら恵梨香に近づく。
恵梨香は俺のそれを見て、泣くのをやめて笑い出した。うん、笑顔がやっぱり似合う。
ん?舜がビーチボールを持ちながら何もない方を見て棒立ちしている。
何かを感じ取ったのだろうか、しかし、舜は直ぐに海に向かってビーチボールを思いっきり投げた。
それを武蔵がレシーブしみんなでビーチボールで遊びだした。
さて、俺も混ざろうか
「恵梨香、行こうぜ」
「うんっ!!ありがとう、小鳥遊君!」

「運動の後の食事はやっぱりおいしいなぁぁぁ!!」
そう、叫びながら食事をとる。
純平の親戚の家だけあって、料理が豪華だ。
これはもう、箸が進む進む。
「……小鳥遊、もう少し静かに食べろって」
「すまんすまん、美味すぎて」
純平から注意を受ける、仕方ない、美味しすぎるのだから
「でも、本当に美味しいですねっ!」
恵梨香が向日葵のような笑顔を向けてくる。
明るい明るい!明るい笑顔すぎる!!
あっ、恵梨香の頬に米粒が付いている。
取ろうとした瞬間

ガッ!!

視界が真っ暗になった。
どうせ渚なんだろ……
「ひ、ひぃぃぃぃ!なんで急に真っ暗になったんですかぁぁ!?」
恵梨香の悲鳴が聞こえる。
俺だけではなかったようだ、ということは…
「停電か」
武蔵は恵梨香とは違い、冷静に状況を判断する。
「純平、ブレーカーの場所わかる?」
「……知ってるけギャアアア!!ゴキブリィィィィ!!」
「え!?ゴキブリ!?嫌ァァァ!」
ゴキブリに対する純平と渚の声が悲鳴になって聞こえる。
冷静を装ってるが、実際俺もゴキブリ大ッ嫌いだ。怖い、超怖い。
「む!?何者!?」
バシーンと音とともにゴキブリ特有のキィキィという鳴き声が消えた。
この暗闇の中、よく武蔵ゴキブリを殺せたな…。
「ん…あったあった」
楓の声が聞こえたと思ったら、急に楓の周りが明るくなった。
なるほど、携帯の明かりか、すっかり忘れていた。
自分の携帯を取り出そうとしたら
「なるほどね〜携帯使うとは頭いいわね」
何故か渚が使っていた、おい、なんで俺の携帯を持ってる。
こっちを見てウインクした、理由になってないぞ!
あと、恵梨香が気絶してる!?そんなに暗闇とゴキブリ苦手なの!?
「……なんで停電したのかな」
純平曰く、そんな雷が落ちても非常用の電気が直ぐにつくらしいが、そんな様子はなかった。
ブレーカーが落ちるくらいの電量も使ってないと思うのだが…。

ガタン

おっ、電気がついた。
誰かがブレーカーを上げてくれたようだ。
「やっと見つけたよ、ブレーカー」
シュン!と音ともに目の前に舜が現れる。
舜だけにシュンってか。
「レイジ……そりゃないわ」
渚が珍しくドン引きしている。そんな目で見るなこの野郎。
ん?水無月は電気が消えたのを全然気にしないでご飯を食べていたようだ。
よくあの暗闇で食べれるな、ゴキブリ居たのも前言怖がってなさそうだったし。
何故だろう、聞いてみた
「…………暗闇には慣れてるから……」
理由を聞くんじゃなかった
なんか深い理由があるのだろう。色々と察した。
あれ?妹がいない……。
ちょっと待て!なんで妹がいない!?どこに行った!?
「だりゃぁぁ!」
急に舜の声が聞こえる。
舜の方を見ると、何もないところにかかと落としを決めていた。
急にどうしたんだ…と思ったが、かかと落としをした理由はすぐに分かった。
「いってえええ!!」
金髪の書記が出てきたのだ。
なんでいんの!?てか、お前か!妹を連れさったの!
「なんでバレたの!?お前やっべえな!」
直ぐに舜の能力をコピーして光速で動き間合いを取る。
てか、さっき間俺の能力をコピーしてたのか、隠密行動には長けてるな俺の能力。
ん、待てよ、俺の能力を使って舜にばれたっとことは、俺も舜にバレるの!?
「バレタにしては、この人数差……マジパネェ」
「いいから、お前妹返しやがれ!」
「は?妹?何言ってんだお前」
金髪の書記が俺の言葉をぶった切る。
「え?お前ら生徒会じゃねぇの?」
「今回は俺が独断行動でお前らが何してるか見に来ただけなんだけど」
嘘をついてるかどうか、渚の方を見て確認したが渚は首を横に振った。
こいつじゃない、てかこいつは独断行動で来たって言ってるし他の奴らは来てない…どういうことだ。
他の生徒会役員が来てるとしたら、こいつが知っているはずだし。
「てかあんたいい加減名前を名乗りなさいよ」
渚が半ギレで金髪の書記に突っかかる。
そういや生徒会の奴らの名前把握してなかったな、楓は知ってたのかな。
楓は欠伸をしてた、のんきに欠伸を、だ。
「いうか馬鹿野郎、と思ったが名乗ってやんよ、俺の名前は『白銀 空亮(しろがね くうすけ)』だ。
白銀空亮……知らん名前だ、当たり前だがな。
「で、俺はお前らにばれちゃったし、てか帰りたいんだけど」
白銀が細めでこっちを見てくる。
「空亮君、多分てか絶対舜君が逃がしてくれないと思うよ、この際だし、君達の目指してることを知りたいしね」
楓がにっこり笑いながら白銀に話しかける。狂気の笑顔。
「あ〜じゃあさ、こういうことどう?」
白銀が人差し指を立てて、何かを提案する。
この人数差でなんでこいつはこんなに余裕なのだ。
てか、早く妹が何処かに行ったかしりたいんだけど。
普通にトイレとかならいいのだが。
「俺のコピーした能力のストックにこういうのあるんだよね、『サーチ能力』」
まさか…
「ん、考えてると思うけど、このサーチ能力でお前の妹見つけてやるから、俺のこと構わないで帰してくれ」

「じゃあサーチするから話しかけなんなよ、集中するから」
白銀はそう言い、目を瞑って座禅を組んだ。
よく座禅なんて組めるな、俺の体はそこまで柔らかくないから組もうとすると変な音が出そうになる。
「……すごいわ、全く理解できない」
渚が白銀の頭の中を覗いているのだろうか
渚でも理解できないとは……元々サーチ能力持っていた人はかなりのハイスペックに違いないであろう。
「んん……お前の妹、ずっと移動してるな……方向は……お墓?」
こで舜が ハッとした顔をした。
「まさか海で感じたあれは君じゃなくて……幽霊…なのか」
「パネェじゃん」
「パネェよ!ヤベェよ!妹、幽霊にあの世に連れて行かれちゃうよ!!」
舜が驚く姿なんて滅多に見られないが、そんなことより早く妹を救出しなければ
白銀はため息まじりに 手伝ってやるよと言ってきた。
こいつ案外いい奴なのかもしれない。
いや!それよりも妹を!
「白銀!どっちに妹がいるんだ!」
「右だ、そう、そこの獣道をずっと行けば広場に出るはず……くっ、サーチが切れてきた…」
白銀はそう言って、苦悩の表情を浮かべる。
サーチ能力にも、舜の能力みたいに制限があるらしい。
獣道なだけあって、転びそうな場所はところどころあったが、途中で起きた恵梨香が風の守りをつけてくれたおかげで転ぶことはなかった。
「広場に出たが……何もない?」
「うっ…サーチが……完全に切れた」
広場らしき場所に出たが何も見当たらない。
白銀がわざとみんなをここに連れてきたというわけでもなさそうだ。渚が保証する。
それにしても、サーチ能力が切れて何を頼ればいいかわからない。
クソ…妹、何処に行ったんだ。



時は少し巻き戻る。
お兄ちゃんの隣で、純平さんのおじさんの豪華な料理を食べていたら急に部屋の明かりが消えた。
恵梨香さんや純平さんの叫び声が聞こえるけど、何に対して驚いているのかまでは分からない。
家で停電になることとか普段ないけど、暗闇に対してはそこまで怖いという感情は持っていない。
早く電気つかないかな〜と思っていたら
「え?」
誰かに腕を掴まれた。
お兄ちゃんかと一瞬思ったけど、直ぐに違うと分かった。
お兄ちゃんはこんな掴み方しない、こんなに 冷たい手はしてない
「っ!離しむぐぅ!」
手を振り回しながら、叫ぼうと思ったが口を封じられる。
そのまま私は気を失った。


「ん……?」
目を覚ますと神木っていうのかな、大きな木の下にいた。
雑草がお尻に当たってムズムズするから、立って周りを見渡して見たけど全然知らない場所にいた。
月のおかげで一応、場所を確認できたのは不幸中の幸いだけど、自分が今どこにいるかわからなかったら意味がない。
近くを探索してみようかと思って、少し歩いてみると
御神木から少し離れたところに、黒いコートを着た女の人が立っていた。
真夏なのに、なんであんなに長いコートを着ているのかなと思って、恐る恐る近づいてみると
「誰?」
急にこっちを見ながら呟いた。
あ、やばいバレタ。
この人がもしも悪い人だったら……と考えるとかなりまずいので、走って逃げる。
しかし、小学生の足の速さでは勝てる訳なく、難なく後ろを走ってきた女の人に捕まってしまった。
「なんであなた…トキと同じ時間上にいるの?」
「えっ?」
捕まるな否や女の人はそう言って私を離しながらそう呟く。
私は意味が分からなく、聞き返してしまう、と。
「あ、いや……なんでもないよ」
うやむやにされた。
「………なんで小学生がこんな山奥にいるの?」
そこツッコンじゃ駄目ですって、誰かに連れてこられたなていったら変なの子アピールですよ。
てかこの際、変な子でいいから、お兄ちゃんの元へ戻してください…。
「なんか人に言えない理由がありそうだね、まぁいいよ」
そう言ってその人は、私の後ろへと目線を移す。
「ほら、君のお友達が来たようだよ」
と言って、私に後ろを見させると
その人は私の首に手刀を振り落とした。

「結局、エンジョイできなかったな」
「……うん」
俺の言葉に純平が相槌を打ってくる
あの後……昨日の夜、妹が大木に倒れているのを見つけれたのは良かったのだが
何故あんなところにいたのかは妹も覚えていなかったのだ。
兄として、妹が無事だったのはなりよりも嬉しいのだが…
「……あの後、危険だからって何もしないまま帰ったもんね」
そうなのだ、あの後、妹がまた危険な目にあったら困るし
なりより、これ以上変なことあったら俺ら帰れないんじゃないかってことで帰ったのだ。
「……それで、やることないから部室集合ってね」
「案の定、舜は陸上の練習行ってるな」
文芸部の窓から見える校庭で舜がトラックを走ってる姿が見える。
炎天下の中良くやるな、と呆れながら思う。
「……君の恋人達は?」
誰が恋人だこの野郎
あの二人の前で絶対言うなよ、俺が認めたみたいになって面倒くさくなる。
「……それにしても暑いね」
「ああ、暑い、もう8月か…」
そう、夏休みが近く、ウキウキすると同時に暑くて色々とやる気をなくす8月だ。
俺が机の上にあったうちわをパタパタと仰いでいると、扉がゆっくりと開かれた。
「やあ、二人とも、暑さでへばっているようだね」
扉を開け、手にコンビニ袋を持っているのは楓だ。
そのコンビニ袋の中に見えるのは………ガリ○リ君っ!
「はい、お疲れ様二人とも」
「……お疲れ様と言われることしてないけどね、話していただけだし」
そう言いながらも純平と俺は楓からアイスを受け取る。
こんな暑い日には、やっぱり氷菓アイスの定番ガリ○リ君に限るな〜としみじみ思う。
一気に食べると、カキ氷と同じく頭がキーンとなるのでゆっくりと食べる。
「そういや、恵梨香さんと渚さんは来れないみたいだよ」
「え?なんで?」
「メール行ってないのかい?渚さんは暑くて部屋から出れなくて、恵梨香さんは夏風邪だって」
夏風邪って熱中症だったらやばくないのかおい
てか、恵梨香の親って大丈夫なのか?仕事帰りが遅いとか言っていたが……。
「お兄さんがつきっきりで看病してくれてるんだってさ、だから心配は遠慮なようだよ」
「そうか…ならよかったって……うわ、メールヤベェ」
「ああ…今気づいたのか」
さっき楓に言われたので携帯を確認したら、渚から10件、恵梨香から3件来ていた。
恵梨香はまだわかる範囲内だが、渚だとヤンデレ覚醒ちょっと前くらいじゃないか、怖い。
メールの内容見てみると……渚が、暑いけど出たくない、でも俺と会いたい、だから来てという内容を延々と繰り返していた。
やっぱりヤンデレ覚醒ちょっと前じゃないか、おい最後には写メ付き(渚のシャッツ一枚ボイン画像)来たぞ。
これは行くっきゃない。
「元会長の前で不純異性交遊をしに行くのをみすみす逃すとも?」
駄目でした、横目で携帯見られてました。ヒェッ。
てか、元会長、さっきアイス学校に持ってきてしたよね!ねぇ!
恵梨香からは、夏風邪で行けないっていうメールと。
お兄さんがいるから、絶対に来ないでってメールと、恵梨香のちっぱい画像が送られてきた。
なんなんだこの二人は、俺のメール欄をエロ画像で埋める気か。
「………………ふむ」
なんか横で楓が考え込んでるんですけど、怖いんですけど。
まさか楓までおっぱい画像送ってこないよな、なあ?
純平、俺関係ないみたいな顔で無視するな、助けろ。
「……………遅れた」
その時、飛びからから扇風機を抱えた水無月が来た。
扇風機を見た瞬間、純平がガタッと立ち上がった。
分かり易すぎるだろこいつ。
「水無月、どこからそれ持ってきた?てか、言ってくれれば俺らが取りに行ったのに」
「…………職員室から借りてきた……熱中症が流行ってるから気をつけなさいだって」
「てか、よく俺ら今まで扇風機なくて平気だったな」
「……お前の恋人のちっちゃい方が風を送ってくれてたからだろ」
だから恋人って言うなって!ほら!楓がこっちを睨んでいるだろ!
俺はアイスの棒で純平のおでこに向かってフルスイングした後、恵梨香のかぜおこしの便利さに納得した。
「……………あ''あ''あ''あ''あ''」
「!?」
「……!?」
「おい…純平聞いたか?」
「……ああ、はっきりと聞こえた」
水無月が、扇風機に向かってあああと声を出したではないか!
そういうことを一切しなさそうな水無月がだ!
これは珍しい!珍しいぞ!かのクールビューティこと、水無月がこんなおちゃめなことをするなんて!
「…………ふふっ」
「おやおや」
水無月が何を思い出したのか分からないが、急に微笑んだのに対して楓がにっこりする。
そう、にっこりした、それだけなのだ。なのに何故か悪寒がする。
この気持ちはなんだろう、今すぐこの部室から出たい。てか家に帰りたい。
「……お腹減った」
純平はそう言って、自分のバッグからポテチを取り出した。
堂々とお菓子を取り出しているんじゃない、パーティ開けしたぞ、俺らにもくれる気だ。
なんでボランティア精神、でも先生に見つかった時同罪になるからなんとも言えなくなる。
「…………あの…ことり…くん?」
「ん?どうした水無月」
「…………妹さんの名前……って何?」
オォ……久しぶりに聞かれた。
多分みんな空気を読んで聞かなかったのであろう。うむ。
てかね、俺も元々言うつもりだったけど、タイミング逃しちゃってさ
妹も妹でなんか満足してたし、周りは聞かないではで今の状態に落ち着いちゃったんだよね。
「えっとね、『小鳥遊 湊』(たかなし みなと)だよ」
「…………湊……ちゃん、湊ちゃん」
水無月が妹の名前を繰り返し読んでいると
「久しぶりに聞いた気がするね」
「そういや楓は知ってたもんな、まぁ記憶消されていたけど」
「その話はよしてくれ、ボクは生まれ変わったんだ、うん」
記憶の話をしていたら純平がビクってなった。
ハハハ、お前のことじゃないから安心しろ。
「……部長、暇だからみんなで出掛けないか」
さっき水無月が扇風機持ってきてくれたばっかりなのに出かけるのか…。
でも、ここにいても何もすることないしな、話題も直ぐに終わるし。
こう考えると、渚と恵梨香の漫才コンビがあった方がやっぱりいいのかもな。
「…………ことりくん、どうする?」
おい、何故俺に聞く。
部長だから、純平が水無月に聞いたと思うのだが……まぁいいか。
「ここにいても特に何もすることないし、出かけよう」
「…………うん」
「じゃあポテチ食い終わらないとね」
楓がそういうと、純平がポテチを食うスピードが上がった。
おっ、楓の唇がポテチの油でプルンッて光ってる。これはいいな。
楓が俺の目線に気づいたぞ、頭の上にクエスチョンマークを浮かべてる。
「零次、ボクの顔に何かついてるかい?」
「いやなにも」
「ふむ、じゃあなん………はっ!」
楓が何かに気づいたぞ。
これはあれだ、俺が楓の顔に見とれると勘違いしている顔だ。
まぁ、あながち間違ってはいないがな。
「……よし行こう」
純平がポテチの袋を結んだ後、ゴミ箱に捨てないでバッグの中に戻した。
流石にゴミ箱だと先生が見回りに来た時にバレる可能性があるからな、いい判断だ。
「そういや、純平って食ってばっかりだけど太らないのか?」
俺の言葉に何故か楓と水無月の方がギクッとなってる。
「……その分、家で運動しているから大丈夫」
「そうか、てか、別にだからと言ってどうということでもないんだけどな」
俺の言葉に女二人がホッと胸を下す。
しかし、直ぐに自分のウエストを気にし始めた。
別にそこまで太っているっていうか、普通に痩せている方だと思うし
この前、海に行った時は程よい肉のつき方で俺的に好みだったから痩せられても困るんだよな。
あくまで俺個人の好み、だけどな。

「ショッピングモールって本当に広いよな」
「……ゲーセン行こうぜ!ゲーセン!」
「制服で行っていいの…?」
てか楓はゲーセンに行くことは止めないんだな。
仮にも生徒会長だっただろう、制服で行くことについては言っているけど。
おおう、なんだかんだ言ってゲーセンについちゃったぜ。
「……………」
水無月が目を輝かせながら、UFOキャッチャーの中のなんだかよくわからん人形を見てる。
ハハッ、取ってやろうかな。
と、俺が腕まくりをしたところで
「……僕に任せてくれ」
純平が動いたーっ!!
おおっと!財布から500円玉を取り出した!
500円で3回のUFOキャッチャーの機類だから結構高い!が、純平はそんなことを気にせず入れた!
流石!大富豪の子供!流石お坊ちゃま!500円なんて端た金だという理論だー!
「……くっ!」
あー…猫?みたいなぬいぐるみなんだが、一応耳に引っかかっているけど落ちてるな。
ギリギリのところで取れないみたいだ、頑張れ純平。負けるな純平。
え?他人事だって?知らないね、そんなの
「零次!零次!ボクにもあれ取ってくれないかい!?」
糞がああああ!!
他人事じゃなくなってしまった!俺も楓の為に取らなきゃいけなくなったよ!畜生!
なんだかんだ言いながら(言ってない)俺は財布から500円を取り出した。
そして俺は純平の隣の、同じものが取れる機械の前に立ってお金を入れた。
そしてキャッチャーを動かす、そして人形のタグを掴んで……あ
「二個……取れちゃったな、ハハハ」
「……………」
「……………!!」
「流石だよ!零次!流石ボクのフィアンセだ!」
「お前変なこと言うな!」
純平からの負の感情、水無月からの希望の眼差し、楓からの愛情
もう自分の手には負えない、そう思った時だった。

「ハハハハハハ!!」
「馬鹿じゃねぇの!お前!」
ゲーセンの雑音をかき消すように、 笑い声が聞こえた。
よくいる、DQNだ。自分達が迷惑になってることを理解できていない奴らだ。
「全く…周りの事を考えてない…注意してくる」
楓が元世界風紀委員会の情熱を持って話しかけようとしたその瞬間
俺はDQNの顔を見て、思い出した。
あのDQN、俺を中学校で何かと文句を言って来た奴らだ、と。
「楓、ちょっと待って」
俺は楓を引き止め、ゲーセンの音にかき消されそうな声で楓に呟く。
楓は不思議そうな顔でこちらを見る。
無論、純平も水無月もだ。
「ほ、ほら俺ら制服で来てるし、あまり物事を起こしたくないじゃん?だから、今回は無視しないか?」
元世界風紀委員会の楓を止めることができない、と自分でも思う苦し紛れの言い訳をする。
楓は俺の目をジッと見て、何かを悟り、
「零次、君がボクと再会するまでの間何があったかボクには分からない」
「……」
「だが、何かを克服しないと前に進めないよ、強くならないとね」
楓はそう言って、俺の手を掴みゲーセンから勢いよく出る。
純平と水無月も遅れないように急いで来た。
DQN達はこちらに気づかなかったみたいだ…良かった。

「……ごめん、今日は用事があるからもう帰らないと」
「………私も……用事がある……だから」
純平と水無月が用事がある事を俺らに伝える。
「うん、分かった、じゃあここで解散しようか」
楓が仕切って、解散することにした。
純平が水無月を車に乗せて、俺らに手を振っている。
俺と楓は家が近いから、と言って遠慮させてもらった。

その日、俺は自分のベットの中で考えた。
確かに、ゲーセンで楓の言った通りだと。
俺はまだ強くない、全然弱い。
俺の意能力が透明化なのも争いを避けて、逃げる……そんな能力なのも相待って、俺は自分に自信を感じなくなって来ていた。
舜は光速移動を使いこなして、護身術で敵を制したりしている。
恵梨香に至っては異能力をフル活動して風を操っている。

俺はなんなんだろうか
透明化という逃げるためだけの能力で
海に出かけた時も、白銀の能力がなかったら妹を見つけることもできなかった。

自分がどうすれば強くなれるのか、いつまで弱くいるのか、よく分からなくなってくる。

俺にも、強い能力があればな……努力せずに異能力に頼ったら駄目だと、心では分かりながらも考えてしまう。

異能力について、詳しく知っている人物が居れば、俺も強い存在になれるのかもしれない。
透明化、この能力をどうにか活かせないだろうか。

◇◆◇◆◇◆

「………今日は早く起きてしまったな」

昨日、自分の強さについて悩んでいる時に、気づかないうちに寝てしまっていたようだ。

「もう、学校行くか」

いつもなら二度寝してしまうとこだが、今日は何故だか早く学校に行きたくなった。
こんな時間に行っても、居る生徒は限られているだろうに。
妹の朝食にラップと置き手紙を書いて、俺は学校へ向かった。

「ん、あれは?」

学校の校門を過ぎたあたりで、ふと、緑一色に染まった桜並木を見ると、何回も絡まれた先輩達に男子生徒がカツアゲされている。

「こーゆー時にしか、役に立たないんだよなぁ」

俺はそう呟き、息を止め、透明化して近づく。
先輩達の後ろまで来て、いざ膝カックンしようとしたら。

「おい」

誰かの声が聞こえた。
まさか、自分に言っているのかと、すぐに後ろを向く。
居たのは意外な人物だった。

「お前ら何やってんの?後輩相手にカツアゲとか、くそしょーもない事すんなよ」

髪の色を金色に染め、ブレザーの下のワイシャツをだらしなく出し、ネクタイを雑に結んでいる。
一目見たらただの不良にしか見えない、世界風紀委員の白銀だった。
白銀を見る途端に先輩達は、ヤバイ、そういう顔をした。

「最近、カツアゲしてる所見ないのに、被害件数が下がらねぇと思ったら、お前らわざわざ早く学校に来てやるとか」

「早起きしてわざわざ見回りしなきゃいけねぇ、俺の身になってみろや!」

白銀はそう叫び、先輩達が身構える前に、近付き、先輩の1人の顔面を床に叩きにつける。

「ウオオアアアアア!」

他の先輩が、白銀に殴りつけるが、白銀は簡単に避けカウンターで鳩尾に拳を入れる。
余程に強い力なのか先輩は軽く飛び、泡を吹いて倒れた。
それからの白銀は凄かった、先輩達を圧倒し、男子生徒を見事救って見せた。

男子生徒は礼を言って、後者へ走っていった。

「………ったく、どーしてこんなのが多いのかな」

「なぁ、そう思わねぇか透明化君」

!? バレてたのか!?
俺は、身構えながら、能力を解除する。

「あー、そう身構えなくていい、今は何もやんねぇよ、気が回んねぇ」

「この学校、マジでこーゆーの多いよな……まぁ、俺も父さんに拾……もら……こうなってたのかも…しれないがな」

白銀が俯きながら、何かを呟く。
半分、何を言っているか聞き取れない。

「…?今なんて言った?」

「いや、気にすんな、お前には関係ないことだ」

関係ないことなら、俺の前で話すな。
そう言いたいが、実際そういう訳にも行かないので黙っておく。

「お前、もっと学校来るはずだけど、何でこんなに早いの?お前もカツアゲ目的?」

「なわけないだろ」

白銀が半笑いで聞いてくる。
俺も半笑いで返すが、多分自分の目は笑ってないであろう。

「……なぁ、お前ってコピーの異能力だけど、初めて見る能力とか、どうしてそんなにうまく使えるの?」

「んーー、そりゃ下見はするよ?ある程度の知識は持ってきゃいかねぇからなぁ」

白銀が顎に手を当て、考える素振りを見せる。
どんな答えが来るのか、自分を強くする為に役に立つ事が聞けるのかワクワクしていると

「でも、やっぱりは……勘…かな?」

期待した自分が馬鹿だった。
どっちにしろ、白銀目線、俺は敵、コツがあっても教えるわけがないのだ。

「まー、自分の異能力を信じるしかねぇな、俺もコピー能力を信じている訳だし、実際使ってるのは他人のだけどな」

「信じる……」

「お前の能力は透明化だもんな、それ以上でもそれ以外でもない、まぁー精精頑張んな」

そう言って、白銀は消えた。
瞬間移動か、光速移動か、どっちにしろワープ系のであろう。

「…以上でもなく以下でもなく……か」

遠くに渚が見えたので、渚に手を振って行こうかと思ったが。
折角だし透明化して驚かすか。

悪戯でしか使えなさそうな能力だと、再認識してしまった。

「暑い」
渚が授業中にも関わらず、俺の方を向き愚痴をこぼしてきた。
「いや、知らんし…」
「やっぱり8月は暑いわ〜……最近は地球温暖化が進んでるっていうし」
授業中に言うことか?それ?
ほら、先生がこっち睨んでる。俺悪くないのに俺ばっか睨んでくるよ。
教科書パラパラ捲ってるよ、絶対問題出してくる奴だ。もうやだ。
「はい、零次、教科書〇Pの問4を解きなさい」
ほら、ほら、ほら
「えーっと……」
渚に何度も話しかけられていたせいで、授業内容なんて頭の中に入ってくるはずもなく、必死に計算するのがとても辛い。
どうしよう、周りのクラスメイトがクスクス笑っている。クソ恥ずかしい

そうだ!隣の席の恵梨香に助けを求めよう!
あの恵梨香の事だ。授業はきちんと受けているはず
と、隣を見てみると

「……すぅ…すぅ…」

寝てるー!!!
おいこら先公!渚や恵梨香を当てないで俺を当てるのは絶対悪意あるだろ!

詰んだ、と思っていたら舜が指で数字を教えてくれた。
うん、なんて読み取るかわからない。
何その、第二関節だけ折り曲げるの、分数?少数?もっとわかりやすく頼むよ!!

おいコラ!渚!お前のせいでこうなってるんだから答え教えろや!先生の心を読み取れば楽勝だろ!

「すぅ……すぅ…」

お前も寝てるんかい!!
てか、本当に先生こっち注意した方早いだろ!
私語&睡眠とか俺よりもこっちでしょ!?ねぇ!?

もうどうしようねぇな…先生に謝るしか…、そう思い、泣きそうな顔で窓を見たら

「………………ん」

何故か、水無月が答えが書いてあるノートを持って、窓のベランダに隠れて座っている。
そこで何してんの!?と叫びそうになるが、必死に口を抑えて、後で何故そこにいたのな聞くとして、
今は教えてもらった答えを言うのが先だ。

「…1/2xです」

「お、おう……やれば出来るじゃないか」

かなりの間を置いて言ったので先生も呆れたを通り越して驚いていた。
何なのだろうか、後、渚、後で殺す。

「結果的に助かったけど、なんで水無月はベランダにいたんだ?」

授業が終わり、水無月のクラス前の廊下で話しかける。
他のクラスも従業中だろうに、何故ベランダにいたのだろうか、真面目に授業を受けているであろう水無月からは想像がつかない。
助かったから感謝はしているが…

「………3組は…美術で学校内の好きなところの絵を描く課題で……うん」

なるほど、理解した。
でも、何故わざわざうちのクラスのベランダなのか、てか他のクラスの授業の邪魔になるとかどうとかで、注意受けないのか?

「………それは…その……えっと……小鳥くんの絵が……う…うぅぅ//」

水無月が顔を真っ赤にしながら話す。半分何言ってるか聞き取れない。LINE通話する時に、マイクの部分を手で抑えてる時くらい聞き取りにくい。

「まぁ、とりあえず助かったよありがとう」

「はぅぅぅ………」

なんか水無月が悶絶してる。
具合が悪いのだろうか、保健室に行くかどうか聞いたら大丈夫らしい。
いや、俺的には全然大丈夫に見えないのだが…

「………じゃ…じゃあね…ことりくん…」

「お、おう」

後少しで次の授業の開始時刻になるので水無月と別れる。
水無月のクラスとうちのクラスは微妙に離れていて、結構ダルい。そう考えるとよくベランダを伝ってこっちのクラスに来たなぁ、と感心する。
そして授業が始まる前に自分の机に戻ると、恵梨香が話しかけてきた。

「小鳥遊君、小鳥遊君」

「どうした?恵梨香」

「さっきはごめんね、寝てて気づかなかった」

「いや、恵梨香には何の非も一切ないから気にすんな」
その通り、渚には非があるが、恵梨香には非はない。
そう、渚には非があるのだ。
なぁ、渚
「……………」
渚がずっと黙っている
どう、仕返ししてやろうかな、と悩んでいた所、何も無いところから擽ってやるのがいいと考えた。
よっしゃ、透明化するか

そう、透明化した瞬間だった

急に音が無くなった。周りの音が
近くの席で談笑してるクラスメイトや、スマホのゲーム音や隣のクラスから聞こえる音が、消えた。
いや、音が消えただけじゃない。
みんなの動きがピタッと止まっている。
まさに、そう、時間が止まったように

「え…?」

俺だけは何故か動けるようだ。
これは、みんなが俺に対するドッキリか……?
いや、隣のクラスまで全員が協力する訳ない。
だとしたら答えはひとつ、他の異能力者による干渉。

「本当、この能力って便利よね」

その声と共に何も無かったはずのベランダから身を乗り出して教室に入ってきたのは、いかにもゴスロリって感じの……メイド服を着たツインテールの女の子だった。
年齢的には俺らと同年代…少し幼げな顔だが、背は低くない。

「あれ?一人少ないわね……確か小鳥遊だったっけか、まぁいいわ」

何をするつもりなんだこの女は、
というか、透明化のおかげで俺の姿は見えないみたいだ。
あ、恵梨香のお菓子のクッキー取って食べた。

「モグモグ……それで……ふーん、この子達が要注意人物か、そんな脅威というふうには見えないけどねぇ」
「もしもの時はトキの能力を使えばいいだけだからね♥」

トキ…?こいつ自分の名前を一人称で呼んでるのか
それより、俺らのことを要注意人物ということは…もしかして世界風紀委員なのか…?

「そろそろ時を動かそうかしら、他のクラスも見てきたけど、少しくらいしか能力者いないみたいだし」
「それに…トキが生徒会長として君臨した後に考えても遅くなさそうだしね!」

生徒会長…?
………なるほどな、楓が世界風紀委員から外されて会長からも外され、そのでこの高校の生徒会長の座は空いたというわけだ。
その空欄の席に、世界風紀委員が新しい刺客…トキを送り込み、生徒会長にする気なのか、いや、もう生徒会長枠として確定であろう。
世界風紀委員の力は強大らしいしな…。

「んじゃ、また明日ね。みんな」

そう言ってベランダから飛び降り、綺麗に着地した後、指パッチンをしたらみんなが動き出した。

「え……あれ!?クッキーが一個減ってる……」

恵梨香が驚愕してる。そりゃそうだろう、俺以外のみんなは時が止まっていたことに気づいてなかったのだから。
しかし、なぜ俺は時が止まったのに干渉されなかったのだろうか、
まさか……透明化していれば、効かないのか?

「そうか…零次は将来そうなりたいんだね」

記憶の片隅にある言葉

「うん!大人になったら警察官になりたい!」

古ぼけた、和を基調している家の縁側で、
仲良く話す親子
季節は夏のようで、団扇を仰ぎながら男は言う

「でも、警察官になるには勉強しなきゃいけないよ?」

「えーー!じゃあやめる!」

「はは、心変わりが早いなぁ、零次は」

「でもね!僕は将来、誰かを助ける仕事がしたい!お父さんみたいな!」

子供がおもむろに立ち上がり、目を言葉通りキラキラ輝かせながら意気込む。
男は……父は、俯き、仰いでいた団扇の手を止め、穏やかな声で話す。

「……そうか、頑張るんだよ、零次」

ジリリリリリリリリ!!!!

「はっ!」

目覚まし時計の音で目覚める。
夢か……と、思いながら、俺は目覚まし時計を手にして止める。
隣で目覚まし時計の音なんてまるで聞こえてないように、幸せそうな顔で寝ている楓を起こさない様、最低限の動きでベッドから出る。

学校に行く前に、誰かからメールが来てないか携帯を見ると、

「あぁ……そういや今日祝日か…」

うちの学校の創立記念として、今日は休日なのだ。
あまり、そういうのが特にない学校だったのだが、今年から急遽あることになったらしい。
一学期の考査が二週間後にあることを考えると、全力で遊べるのは今日が最後と思うと、どこがで出かけたい気分に駆られた。

こんな異能力過ぎる学園生活をエンジョイしていいのだろうか

こんな異能力過ぎる学園生活をエンジョイしていいのだろうか

普通の人とは違う『異能力』を持って生まれた 小鳥遊 零次 自分体を透明化させ、周りに気付かれず 小、中と、人とはあまり関わりを持たないで過ごしてきた。 高校でもそうして、過ごそうと思ったが……

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-18

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著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 『こんな物語を初めていいのだろうか』
  2. 『こんな俺が女の子を助けていいのだろうか』
  3. 『こんな家に女の子を泊まらせていいのだろうか』
  4. 『こんな巨乳を揉んでいいのだろうか』
  5. 『こんな修羅場をどうしろといいのだろうか』
  6. 『こんなピンチをどうやって切り抜けろというのだろうか』
  7. 『こんなヤンキーを成敗していいのだろうか』
  8. 『こんな部活を新設していいのだろうか』
  9. 『こんな記憶を覚えてくれてないのだろうか』
  10. 『こんな状況を慣れてしまっていいのだろうか』
  11. 『こんな不審者を追いかけていいのだろうか』
  12. 12
  13. 13
  14. 14
  15. 15
  16. 16
  17. 17
  18. 18
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  29. 29
  30. 30
  31. 31
  32. 32
  33. 33
  34. 34
  35. 35
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