宗教上の理由 第四話

儀間ユミヒロ

まえがきに変えた登場人物紹介

田中真奈美…両親の都合で親戚筋であるところの、とある山里の神社に預けられる。しかしそこにはカルチャーショックが満載で…。
嬬恋真耶…本作のヒロイン(?)である美少女(?)。真奈美が預けられた天狼神社の巫女というか神様のお遣い=神使。フランス人の血が入っているがそれ以外にも重大な秘密を身体に持っていて…。
嬬恋花耶…真耶の妹。小三。どんな子なのかは本文でどうぞ。
嬬恋希和子…真耶と花耶のおばにあたるが、それにしては若いので皆「希和子さん」と呼ぶ。女性でありながら宮司として天狼神社を守る。

 とりあえずただ居候しているのもなんなので、あたしも神社の仕事を手伝うことにした。というかそれが当たり前なんだよね、お世話になってるんだから。でもあたしから言い出すまで待っていてくれたのだとしたら、希和子さん良い人だな。先にああしろこうしろ言われると反発するあたしの性格分かってるみたい。というか、大抵の子供はそうだから子供の扱い方に慣れてるってことかな。まあそうだよね、真耶と花耶ちゃんの保護者だもんね。

 というわけで、その真耶と花耶ちゃんについて、朝のお勤めのやり方を習っているところ。
この神社では毎朝、境内と本殿の掃除をするのが子供たちの役目。あたしはよく漫画とかで見る神社の光景を思い起こしていた。巫女さんの衣裳に身を包んで、境内は竹ぼうきで掃いて、神殿の板の間は馬みたいな格好で雑巾がけ何往復も、みたいな。それなりに広さのある神社だし、毎日二人で毎日それやってたとしたら大変だったんだな、と思ってた。
 ところが、境内は枯葉のシーズン以外はあんまり掃除しないんだとか。ゴミ捨てる人もいないし、地面はできるだけ自然のままのほうがいいんだよ、と。
「おっきな神社と違って人手も無いし、省略できるところはしていかないとね。神様もそれくらいでは怒らないよ」
なんて言われれば納得。
 神殿もモップですいすい。しまいには花耶ちゃんがお掃除ロボット持ってきて、ほらあの丸い、センサーで床を動きまわってゴミとか吸い取ってくれるやつ。
「この子置いといて昼に回収すれば大丈夫だよ、今日もよろしくね」
だって。いいなあこの「結果キレイになってればOK」的な合理主義。
 三人でやればあっという間に終わるね、と言いかけた所で真耶から提案。どのみち今までも二人で人は足りてたのだから、ローテーションで毎日一人が休むようにしない? って。そうすれば三日に一度は少し遅くまで寝てられるよ、って。ありがたくその提案に乗ることにした。さては、あたしが朝に弱いこと見抜いてたんだな。
 ちなみに服装は汚れてもいいような格好ってことで、ジャージの上にウィンドブレーカー。今日は教えるためにひと通りやるから着替えたけど、いつもはふだん着のままエプロンするくらいでやっちゃうんだとか。
「巫女さんの衣裳は着ないの? やっぱそれも省略?」
って聞いたら、
「いや、暖かくなったら着ることもあるよ?」
だって可愛いじゃない? と。そういう女の子っぽさの追求に関わるところは手を抜かないのね。

 今日は日曜日。昨日は午前中部活があったので、今日がこっちの学校に通い始めてから初めての休日。
 のんびりしたかったけど、やらなきゃいけないことがある。ママのお見舞い。別に恋しいとかじゃないし、ママも毎日メールをよこして、日に日に良くなっているとのことなので心配も無用なんだけどね。一応顔は出しておかないと。それに一言文句も言ってやらなきゃ。
 真耶のこと。もともとこの神社にあたしを預けるとき、同い年の女の子がいるって言うから楽しみにしてたのに。そこにいたのは「女みたいな男」。もしかしてママもこのこと知らないんじゃないかと思いきやメールが来て、あたしの男嫌いがこれで治ればいいね、だって。つまり、
「女の子がいるよってウソついてあたしを神社に居候させて、実は男である真耶と生活させることであたしの男嫌いを直そう作戦」
を決行していた、っていうこと。許せない。絶対文句言ってやる。ママが嫌いとかじゃないけど、それはそれ。
 本当は希和子さんも真耶と花耶ちゃん連れて顔を出したいと言ってたんだけど、別の用があるということなのであたし一人で行く。一人での長時間移動は東京からここに来たことでもう慣れた。そしてみんながどこに行くのかは花耶ちゃんが説明してくれた。
 「今日はね、花耶、練習試合なの。お姉ちゃんと希和子さんが観に来てくれるの」
朝食を食べる花耶ちゃんの脇には空手着。しかも黒帯。よくわかんないけど、強いんだよね?
「あと合気道もやってるよ。スキーとスケートの教室はそろそろ終わりだから、春からは武道に集中するの」
って、冬の間はスポーツを四つ掛け持ちしてたってこと?
「冬は空手と合気道はお休みさせてもらってたよ? 花耶は毎日スポーツしてても大丈夫だと思うんだけど、希和子さんが子供のときはスポーツだけじゃなくていろんなことにチャレンジしたほうがいいのよ、って」
という花耶ちゃんに、真耶が言葉を継いだ。
「毎日やってると身体壊れちゃうかもだから、週三日くらいで抑えられるようにスケジュール調整してるの。教室の先生方もそのへんには理解があってね。武道教室は旦那さんが空手の先生で奥さんが合気道の先生だから、うまいこと考えてくれてるの。花耶ちゃん以外にも掛け持ちしてる子多いしね。でも他にもサッカーとか野球が小三の春から始まるから、あちこちから誘われるかもね」
たぶん、試合だけ出るってことで勘弁してもらうことになると思う、だって。人口の少ない村だからそういうのはよくあることだとは言うんだけど…。でもあちこちの試合に出るって、練習しなくて本当に平気なの?
「平気。花耶ちゃんは運動すごく得意なんだよ。あたしと違ってね」
真耶は最後には頭をかきながら答えた。まぁ確かに真耶は体育の授業でも、女子と一緒にやっても下のほうだから…。
「あたし、花耶ちゃんからスキーとか教えてもらってるんだよ。あとハイキングもよく行くの。おかげで坂道登ったりは得意になったかな」
あ、なるほど。石段上るのだけは速い理由が分かったかも。
 「でもスポーツばかりやってないでって希和子さん言ってるかもだけどさ、実際あんまし忙しいと他のことやる時間無いんじゃない?」
あたしは聞いてみた。
「うん? 大丈夫だよ? 夜遅くまでやるとかじゃないし。今日は試合終わったらお友達とバンドの練習やるの。花耶ギターやるんだよ。でも今日はドラムも面白そうだから練習するんだ。あとねあとね、曲弾けるようになったらCD焼いてジャケットのイラスト花耶が描くんだよ」
ええっ、すごい! あたし思わず叫んじゃった。運動だけじゃなく音楽や美術もできるの? でもまだ基本だけだよ? と花耶ちゃん。いや基本だけでも出来なくて挫折する人、世の中にどんだけいると思ってんのよ。しかも自慢せず謙遜するあたり、人間もできてる。
「花耶ちゃんはね、鼻にかけるってことをしないんだよ。自分が出来たら他の子に教えてあげるし、教え方も上手なんだよ。えらいえらい」
花耶ちゃんの頭を撫でる真耶。ありがとう、と微笑む花耶ちゃん。でも、真奈美お姉ちゃんにも本当は試合観に来て欲しいんだけどなー、と言われるとちょっと悪い気がしてくる。
「まあまあ、真奈美ちゃんも久しぶりにお母さんに会えるんだから。今日は我慢しようね?」
と真耶が言うと、素直に従うんだけどね。性格までまっすぐなんだから、参ったって感じ。
 そんなことを話しているうちに朝食も終わり、出かける時間になった。あたしは途中までは一緒だが、やがてみんなと別れて、一人ママの待つ病院へ行くことになる。

 そして。
 病院からの帰り道。ママは案の定元気で、リハビリも順調に進んでいるとか。でも、肝心の真耶の件は。
 はぐらかされた。真耶が男だと知ってたのか、については、
「うーん、どうだったかなー」
の一点張り。そんな態度されるとこっちも思わず、
「考え直してよ!」
と言っちゃう。そしたら、
「女の子みたいな男の子だったら、真奈美ちゃんも抵抗なく男の子に慣れていってくれると思うけどなー」
だって。いやむしろ女だと思ったら男ってほうが驚きも抵抗も大きいし、中身が男だったら同じだってば。
 なんだかもうモヤモヤが続く。つかムカつく。こっちはこっちで折り合いつけて真耶ともうまくやっていこうと思ってたけど、ママにあんな反省の無い態度されると理屈じゃなく感情的にムカつく。
 今度真耶たちも一緒に行った時、あいつの首ひっつかまえて、
「こいつ男じゃんよ!」
とかやってやろうか、っておっといけない。仲良くやらなきゃね、仲良く。

 それにしてもすごいなあ、花耶ちゃん。運動も芸術も得意だなんて。多分あのしっかりした感じだと勉強もできるよね。だいいち可愛いもんなぁ。真耶もそうだけど、ハーフじゃないけど5分の3フランス人だっけ? だから目が青くて、髪も金色で。耳が出るくらいのショートだけど男の子には間違えられないと思う。だって女の子っぽい雰囲気もしっかり身につけてるから。
 でもそれだけじゃないよね、なんていうか、基本笑顔なんだよね。いろんなことを楽しんでるから、自然と輝いて見える、ってあるんじゃないかな。
 それにひきかえ、あたしはなんだかなぁ。勉強苦手だし、運動もそこそこだし。なにより、ここでの暮らしを楽しんでないよ。でもそれも無理ないんじゃない? 真耶のことがあるから。別にあいつが悪いってわけじゃないけど、やっぱりママにはガツンと言わないと気が済まない。

 あー、なんかムシャクシャする。

 家につくとすでに夕焼け空だった。すでに希和子さんが帰ってきて何か作業していた。真耶と花耶ちゃんはまだいない。二人共夕食までには帰ってくると答える希和子さんの顔がこわばっている。
「ど、どうしたんですか?」
おそるおそる聞いてみると、希和子さんが二階を指さした。
「…あ」
 毛布が、テラスの手すりから滑り落ちて、屋根の上に。
「天気良かったから干したんだけど、洗濯ばさみ使うの忘れてて」
あー。ちょっとホコリっぽくなっちゃうかな。でもあれって、毛布一枚だけでしょ? とあたしが言うと、希和子さんが首を振る。
「逆…毛布だけ…無事だったの」
 希和子さんが今度は地面を指差す。あれ、濡れてる。雪が解けたのもあるけど、それ以外にも全体的に舗装された所とかも濡れてる。もしかして、雨でも降ったんじゃあ…。
「布団も干したのよ。午前中は晴れてたじゃない? だからと思って油断してたの。家中のお布団いっぺんにやっちゃえと思って、屋根の上にシート広げて、その上に並べたんだけど…。昼くらいに急に雨が降ったみたいで…」
「布団が、濡れちゃったんですか? でも、雨だけでそこまでひどくなるものですか?」
「雨だけならいいんだけどね…。ほら、雪解けのシーズンでしょ? 雨で屋根の雪が緩んだらしくて、布団の上に…」
ああなるほど。それで余計びしょ濡れになっちゃったわけだ。でも、その布団はどこに?
「しまったわよ、大慌てで。まああとから考えなおせばもう濡れちゃってるわけじゃない? ゆっくり落ち着いてやれば良かったって、今になれば思うわよねぇ…」
ん? その言い方は、なんか嫌な感じだぞ。
「もしかして、ゆっくり落ち着いてやらなかったために、何かが、どうか、なっちゃったんですか?」
おそるおそる聞いてみると、希和子さんが手招きした。
 希和子さんに付いていく。家の中に入って、階段を上る。って、あたしの使ってる部屋だよね。どうかしたのかな?
「入っちゃダメ!」
希和子さんが叫んだ。ケガするから! と。どういうこと? 外から覗いてと希和子さんが言うので、そのとおりにする。
 希和子さんが言っていたとおり、濡れた布団が積んである。…あ。なんか床に、キラキラするものが散らばってる…。
「とにかく布団をしまおうと思って大慌てでね? 出るときに窓を閉めたの忘れてたのよ。布団持ったままガラス戸に体当りしちゃって。それは一瞬で体勢持ち直したのよ? でもね? まさかそこにファンヒーターがあるなんて思わないじゃない?」
この家はボイラーで沸かしたお湯を家中に循環させて暖房してるみたいなんだけど、あたしの部屋はそれが調子が悪い。そこでファンヒーターを借りてたんだけど、古いやつなので天気がいいうちに中を掃除しようと思って、布団を干す前にテラスに出しておいたんだって。
「なんて準備がいいんだろう私、って自画自賛してたんだけどねーそのときは。急に雨が降ってきたことですっかり忘れてたから…」
私はケガせずに済んだんだけど、ね、と苦笑いしながら部屋の中を指差す希和子さん。その指の先には。
 横倒しになったファンヒーターと、キラキラ光る、ガラスの破片。

 「希和子さんってさぁ、意外と後先考えずに突っ走っちゃう所あるんだよねー」
「おっちょこちょいだしねー」
と話しあう真耶と花耶ちゃん。二人共夕食の時間に合わせて帰ってきたのだけど、希和子さんがその準備どころではない事を知るやいなやカレーを作っている。
「ごめんー、ホントごめんー。あたしは寝袋で寝るから、ね?」
その横でサラダを作りながら話す希和子さん。でも、そう言われてもねぇ…。
「だけど不幸中の幸いってやつだよ。寝る場所無くなったわけじゃないし」
「あ、花耶たちは気にしなくていいからね? 結構慣れてるからさ」
いや、そういうことじゃなくてさ。
「シーツとか枕カバーは交換しておくから。東京のお家でベッドだったかどうか分からないけど、上か下かは話しあって決めてね」
希和子さんはそう言ってくれるけど。いやだから、東京でもベッドだったし二段ベッドもちっちゃい頃アニキと使ってたから初めてじゃないけどさ、問題はそこじゃなくてさ。

 真耶と一緒の部屋で寝るのが大問題なんだってば!

 えっと、まとめると。
 布団がすべてびしょ濡れになって、もちろんその中にあたしが使ってた布団もあって。普段から布団で寝ていた希和子さんもアウト。近くにふとん屋さんなんて無いし、車も無いから代わりの布団を遠くまで買いに行くのも無理。しかもあたしの部屋はガラス窓が割れて、割った原因であるファンヒーターも壊れちゃった。どうあってもしばらくは、あの部屋で寝るのは無理。
 布団についてだけど、希和子さんは昔使っていたという寝袋で寝るとのこと。学生時代キャンプとかで使ったらしいんだけど、薄手でしかも下が板の間だと痛そう。悪いけどあたしは勘弁させてもらった。ここは慣れてる私が、と言う希和子さんに甘えようと思う。
 じゃああたしはどうするかというところで、希和子さんからの提案。普段から真耶たち姉妹は二段ベッドで寝起きしている。そこでベッドの上下いずれかに真耶と花耶ちゃんが一緒に寝れば、一人分のスペースが空く。体格的には真耶と花耶ちゃんはひとつの布団に二人で寝られるので問題ない、と。
 いや、君たちは問題ないかもしれないよ? でもさ。

 あたし的には、男と同じ部屋で寝起きするのは、大問題だって言ってるのっ!
 男の体で産まれてきながら、女として育てられた、認定的女の子嬬恋真耶。その一挙手一投足にも慣れてきたし、学校でも家庭でもそれなりに折り合いつけてやれるようになっては来ましたよ、ええ。でもね。

 同室寝泊まりはまずいでしょうよ!

 生物としてはオスよ? オス。メスであるところのあたしと一緒に、ってそりゃあイカンでしょうよ。

 という不満をさし挟んではみたものの、布団と自室がダメになったという事実には勝てない。結局その決定を覆すことができぬまま夜はどんどん更けていった。
 できるだけリビングで粘っていたけど、明日は学校だから早く寝たほうがいいよと、真耶が人の気も知らずに言ってくる。そりゃあんたの生き物としての性別があたしと同じだったら躊躇なく、感謝と共にベッドを使わせてもらうわよ。でもあんたがあたしとは明らかに違う身体をしている以上、そう簡単にはここを動くわけにはいかないよ、もう。
 しかし。抵抗むなしく眠気によってベッドへと誘われるあたしなのであった。身体も重い。なんかここに来てからの疲れが一気に出たっぽい。今日のお見舞いもなんだかんだで病院まで結構遠かったし初めての場所だったから、心身ともに疲れちゃったし。
 背に腹は代えられない的心境で、二階にある真耶と花耶ちゃんの部屋へ。よく考えたら中一と小三で同じ子供部屋って珍しいんじゃないかな、しかも部屋余ってるじゃない、あたしが今使ってるとことか、なんてことを思いつつ真耶の後について部屋の中へ。まぁおそらく、女の子女の子した、乙女ちっくでメルヘンな部屋なんだろうな。

 うわぁ。
 あまりに予想通りでびっくり。乙女ちっくそのもの、メルヘンそのもの。
 カーテンはピンク。カーペットもピンク。小物はほとんどパステルカラー。チェストの上にはぬいぐるみが並んで、着せ替え人形もある。本棚には少女漫画と少女小説がズラリ。ふたつ並んだ机の一つにはパソコンがあって、これまた可愛らしいデザインにファンシーグッズでお馴染みなマスコットの壁紙。もちろんその周りはパステルカラーの文具やら雑貨やらマスコット人形やらでいっぱい。そしてそれらの間には花びんやポプリが散りばめられている。
「これって、真耶の趣味? 花耶ちゃんの趣味?」
半ば呆れ顔で聞いたあたしに、屈託ない笑顔で答える真耶。
「両方かな。なんか知らないけどセンスが似ちゃうんだよね。だから物の置き場所で喧嘩したことないなぁ。まぁ喧嘩そもそもしないんだけどね。花耶ちゃんは優しいから」
 「褒めても何も出ないよ? 嬉しいけど」
ベッドの中から声がした。花耶ちゃんが頭まで布団をひっかぶったままこっちを向く。手には何やら雑誌が、って何これ、大人が読む科学雑誌じゃん!
「こないだ図書館で借りてきたの。発売から三ヶ月すると雑誌も借りられるんだよ。さすがに書いてあること全部は分からないけどね。半分位わかったら良いほうかな」
いや、その歳で半分わかれば十分えらすぎるよ。あたしは多分一割も分からない…。
 「あ、あと、これも見てあげて?」
と言いながら真耶は、机の上の壁を指さす。そこにはズラッと賞状が。律儀にもコルクボードを最初に掛けて、壁が傷つかないようにしてから画鋲を刺している。書道大会、読書感想文、スポーツ関係も色々…。
「花耶ちゃんが恥ずかしがるから少ししか飾って無いけどね。あとはこっちに保管してあるよ」
取り出されたファイルの中にこれまたドバっと。
「すごいでしょ。毎月何枚かずつ増えてくんだよ。あたしはからっきしダメなんだけどね」
ぺろりと舌を出す真耶。
「お姉ちゃんは遠慮しすぎなんだよ。もっと色々積極的にやればいいのに。いろんな事やるのって楽しいし、お姉ちゃんなら出来ると思うよ?」
と花耶ちゃん。まぁこの子の姉? だから、たいがいのことは器用にこなすと思う。
「あたしは今が楽しいからいいの。それに、これがあれば十分」
と言って、ファイルのいちばんうしろから取り出した一枚の紙。

 ひょうしょうじょう

 つまごい まやどの
 
 あなたは つまごいかやの
 やさしくて すてきな おねえちゃんであることをたたえ
 12さいのきねんに これをしょうします

  つまごい かや

昔誕生日にもらったの、と言って、賞状をギュッと抱きしめる真耶。よっぽどうれしかったんだな。そして、真耶も、花耶ちゃんも、お互いのことがよっぽど好きなんだな。
 まぁちょっと、やり過ぎかなとも思うけど。

 何がやり過ぎって、抵抗なく二人で一つのベッドに寝ることもなんだけどね。うちはアニキしかいないから分からないけど、女同士だとこんな感じなのかな? まぁ正確には女同士なのかビミョーだけど。
 とりあえずあたしが二段ベッドの上、真耶と花耶ちゃんが下で寝ることになった。小さい子もいるからってことで少し早めのお休み。
 それにしても落ち着かないなぁ。眠れないなぁ。だって。
 男と一緒の部屋で寝るなんて。これまでとは段違いに驚きの度合いが違うもの。身体はぐったりだけど、頭はキッチリ冴えちゃってるよ。このまま朝まで行っちゃうんじゃないかなぁ…。

 はっ。
 眠れないとか何とか言いつつ、ずいぶん爆睡しちゃったような。でもなんか変な時間…。夜中も夜中、真夜中だよね、きっと。
 真耶は…。寝てるよね。とりあえず寝ている間に襲われるとかなかったみたいだし、ってそんなことするヤツじゃないか。それはあまりに信用しなさすぎ。反省。
 あれ、下からなんか聞こえる。もしかして起きてる? なんか声が聞こえる。でもこれ、真耶じゃない…。

 泣き声?

 「花耶ちゃん…しちゃったの?」
これは真耶の声。ということは泣いてるのは花耶ちゃんだ。
「う…ぐすっ…真奈美お姉ちゃん…ううっ…いるのに…ぐすっ…こんな日に…ううっ…」
「ごめんね。一緒におトイレ行っとけばよかったのに。気づかなかった。ごめんね?」
「お姉ちゃん悪くない…花耶が…花耶がおこちゃまだから…花耶ばっちい子だよぉ…真奈美お姉ちゃんに笑われちゃうよぅ…うっ、うっ、うえ~ん」
「大丈夫、大丈夫、真奈美ちゃん笑ったりしないって。出ちゃったものはしょうがないよ? ほら、お姉ちゃんがお着替え手伝うから。ズボン濡れたまんまじゃ冷えちゃうよ? ね?」
ああ、そういうことか。

 あたしが身体を起こした音が聞こえたらしい。
「あ、ごめん、真奈美ちゃん起こしちゃった? あ、実は…」
真耶が二の句を継ぐより先に、
「笑わないよ?」
あたしはきっぱり言った。
「でも、でもぉ…お姉ちゃんのお布団汚しちゃったよぉ…お姉ちゃんのパジャマぬらしちゃったよぉ…花耶悪い子だよぉぉぉ…」
「花耶ちゃんは悪い子じゃないよ!」
真耶の声が急にピシっとなった。
「子供は、誰だってやっておかしくないの。治るのが早いとか遅いとか、関係ないよ。それにお姉ちゃんはね?」
またいつもの優しい口調に戻って、真耶が言う。
「花耶ちゃんのおしっこだったら、全身びしょぬれになってもいいよ」
おいおい、いくらなんでもそれはないだろう、と思ったけど、言わないでおいた。
 花耶ちゃんを思いやる優しさが抑えきれなかったんだと思う。

 「花耶ちゃん、まだおしっこ残ってない? 残ってたら出しちゃってね。あ、結構残ってるね。そっか、途中で気づいて止めたのかもね。えらかったね。全部出た? じっとしててね、今着替えさせてあげるから。んっと真奈美ちゃん、そこにピンクのバスケットあるでしょ? そうそれそれ。その中のパジャマ渡してもらえる? あ、合図してからでいいよ、下に投げ込んでくれれば。うんありがと。さ、花耶ちゃんパンツ脱ぐよ? 脱げた? あっ、お布団をはいじゃダメ、おしっこ冷えちゃうから。今タオルお布団の中に入れるから。…オッケー、拭けたね。じゃあ一気に出るよ? 真奈美ちゃんパジャマお願い! せーの!」
あたしがパジャマを下のベッドに放り込み、同時に花耶ちゃんが布団から這い出る音がした。そのあとゴソゴソ音が続いたので、真耶が素早くパジャマを着せたんだと思う。
「それじゃ、悪いけど花耶ちゃん。ちょっとだけベッドの外に出てもらえる? あ、あとね…真奈美ちゃん…」
真耶が困惑したのが、声で分かった。
「あたしのパジャマ、取ってもらえるかなぁ…」

 あっという間にお着替え完了。花耶ちゃんは再び眠りについた。今度はしっかりおむつをはいている。
「最近はね、小学生用とかもあるんだよ。ほら、可愛いイラストも付いてるの」
現物が目の前にある。へえー。おむつっていうけどパンツみたくはけるんだね。そんなに分厚くもないみたい。
 すっかり目が冴えたあたしたちは、ベッドを出て、勉強机の前でお茶をしている。お茶といっても寝てる時間にカフェインは良くないのでカリン湯。部屋に保温ジャーがあって、そこにお湯が常時キープしてあるのだ。
「だいぶ良くなってはいると思うんだよ? 去年までは毎日してたから。夏くらいからしない日も増えてきたんだけど、寒くなってからまた増えてきたかなぁ。三日に二日くらい? でもそれで、昨日もおとといもしてるから逆に今日は大丈夫だろう、って計算だったみたいなんだけど…。そのへんの準備は普段花耶ちゃんに任せてるんだけど、ただ春になっても減る気配が無くてねぇ…」
そりゃそうだよ、春って言っても寒いもん。
「お医者さん、ってミッキー先輩とこの岡部医院だけど、心配してくれてるの。暖かくなっても続くようなら泌尿器科の紹介考えなきゃ、って。頻度が多いって言うのね」
「小三でおねしょって、そんなに珍しくないと思うけどな」
正直な感想を言ってみた。あたしはしたこと無いけどアニキが結構治るの遅くて、小三の終わりごろまで時々してた。
「それはあたしも思うし、小三ならまだクラスに何人かいるはずだ、って岡部先生も言ってた。だから花耶ちゃんには気にしないように言ってきたつもりだけどね。ただ、クラスに何人か、っていうのをどう取るか、だよね。最後の一人になったらヤダとかあるかもしれない。それに誰も自分からは言わないでしょ? あたしおねしょしてますなんて。だからもしかして自分だけなんじゃないかって思ってるのかもしんない」
あー、男の子と女の子でまた違うかもなぁ。女の子の場合は、おねしょしてても言わない子が多いかもしれない。
「花耶ちゃんはクラスではおねしょしてること言ってるの? あ、自分もみんなも言ってないから自分だけなんじゃないかって思っちゃうのかな?」
「そういうこと。でも花耶ちゃんにはね、おねしょするからって恥ずかしいとか、悪いことしてるとか思って欲しくないの。そういうプレッシャーみたいのって良くないと思うし。ただ今日は、真奈美ちゃんがいたから。やっぱ花耶ちゃんもいいカッコしたかったんだよ」

 「本当は寝るときにはおむつさせてもいいと思うんだけどね。でもおむつしてると油断していっぱいおねしょしそうな気がするからって、花耶ちゃんが。実際そういうことも無いらしいんだけど、本人の気持ちって大事じゃない? だからできるだけおむつはしないようにしてるの。そのかわり、いろいろグッズ使ってるんだよ?」
しばらく沈黙が続いたあと、真耶がそう言うと、チェストの中から色々取り出してきた。
「これがおねしょシート。下におしっこがしみないようになってるの。今日もお布団に敷いてたから、花耶ちゃん言ってたみたく汚したってことはないんだよ? いま花耶ちゃんが濡らしたやつは洗濯機に入れてきたから、お布団はキレイなまんまなの」
へぇーなるほど、裏はゴムみたいな生地だけど、表はちゃんとふわふわしてるんだ。あ、キャラクターのもある。
「これはおねしょパジャマ。防水パジャマとも言うけど、裏地がほら、水を通さない素材なの。あとこれはパッと見普通のパンツみたいだけど厚いでしょ? これおしっこを吸収するの。紙おむつと違って濡れた感じが残るんだけど、それが逆におねしょ卒業にいいって人もいるね」
ふーん、色々あるんだね。おねしょとかおもらしとかの対策って、紙おむつぐらいしか思いつかなかった。
「もちろん紙おむつも使うけど、花耶ちゃんが紙おむつあまり使わないのは使い捨てがもったいないって思ってるのもあるみたい。お出かけとかのときはするけどね。他所んちのお布団汚しちゃ悪いから。あと今日は気持ちが沈んでるかもだから、この可愛い絵の付いたやつはかせてあげたの」
だからどんどんおねしょしちゃえばいいんだよ、って真耶は言う。
「でも花耶ちゃんは気にしてるよね? 気にするな、と言われてハイそうですか、とは行かないでしょ?」
うーん、と真耶。
「あたしが見てる限りではそういうところは見えないの。ただクラスとかではどうなんだろ。誰々ちゃんがおねしょ治ったみたい、とか聞くこともあるし、治った方はみんな言いたがるんだよね。だからさっき言ったみたいに、自分がクラスで最後になったらどうしようってのはあるかも。でもね、だから何だって思うの。全部完璧な人なんていないし、いたら多分みんな引くと思う。だから一つくらい、なんていうのかな、お茶目って言うかさ、おねしょも個性だって言い切っちゃえばいいんだよ。だいいちさ、絶対誰か最後の一人になるわけじゃない。その最後の一人を花耶ちゃんが引き受けるんだとすれば、それによってクラスのみんなを最後の一人じゃなくしてあげたってことだよ、って。誇りにしてもいいよって。」
「最後の一人じゃなくてさ、クラスで一人のオンリーワン、とか思えばいいんだよ」
ふとひらめいたことを言ってみた。
「あ、それいい。ちょうだい?」
おお好評だ。もうちょっと思ったこと言ってみよう。
「あと例えばさ、人の欠点みたいのがさ、人を騙すとか、意地悪するとか、そういうのじゃないっていいことだと思う。だってほら、おねしょって他人を傷つけないもの」
あ。なんかあたしいいこと言えたかも。
「真奈美ちゃん、すごい! 是非花耶ちゃんにも言ってあげて! そうだよ、花耶ちゃんは、おねしょする以外完璧だもん! てゆうかおねしょは欠点じゃないよ! おねしょするくらいが可愛くていいよ!」
どんどんエスカレートしていく。
「あとね、おねしょはすごくエコだと思う! いちいちトイレの水流さないし、トイレットペーパー使わないし! あ、タオルではふくけどタオルは洗濯すればいいし!」
うーん、それはこじつけな感じもするけど、花耶ちゃんをとにかく褒めてあげたい気持ちは伝わってくる。
「むにゃむにゃ…」
はっ、寝言、かな?
「…お姉ちゃん…それはいくら何でも引くよ」
ニヤッと笑う顔が見えた。寝たふりして全部聞いてたのか! 恥ずかしい…。でも、花耶ちゃんは言ってくれた。
「ありがと」

 今度こそ花耶ちゃんは眠ったみたい。あたしたちは再びベッドに戻ったけど、上のベッドから下のベッドに小声で聞いてみた。
「ところで、真耶っておねしょしたの?」
あたし? と聞き返した真耶は、
「うーん、無いかな?」
と意味深な答え。その意味はあとで知ることになるのだが。

 それにしても、真耶のパジャマまで濡らしちゃうなんて、あの子達どんだけ密着して寝てたんだろ…。

宗教上の理由 第四話

果たしてこれは「姉妹」なのだろうかと疑問を抱きつつ。真奈美は次第に馴染んできました。
真耶の声なのですが、「男の子の役をやったことがない、もしくはそのイメージが無い」声優さんのイメージでやっています(話を作るとき、登場人物が脳内でアニメのように動きまわるイメージなのです)。最近は坂本真綾さんで落ち着いているのですが、ダジャレだとあとから気づきました。
ちなみに花耶は丹下桜さんのイメージ。

宗教上の理由 第四話

宗教上の理由シリーズの四話目です。今回は真耶の妹、花耶にスポットが当たります。姉妹(?)の愛がテーマ、なのかな? あらすじ:家の都合で親戚の神社に預けられることになった田中真奈美は、神社の子である嬬恋真耶と出会う。真耶は可愛くておしとやかな、典型美少女タイプ。友達になりたいと意気込む真奈美だったが、実は真耶は「女の子」ではなかった! 真耶の妹の花耶、おばで神官の希和子、同級生の苗(ニャン子)、優香(ゆゆちゃん)、担任の渡辺、部活の先輩ミッキー、篠岡姉妹、そして真耶の憧れの人、タッくん。彼らが織り成すほんわかだけどドタバタ、そして真奈美の常識をひっくり返す数々の出来事に彩られた山村ライフ。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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