欲しい物の牢

朝起きて、目覚まし時計が鳴る。目覚まし時計からは毎日違った最新の音楽が流れ、僕は新しいミュージシャンの大人びた歌声に魅了される。目覚まし時計の盤面には流れている音楽が表示されるのですぐに僕は、自分の音楽プレーヤーにそれを買ってコピーする。
この時計は、著名デザイナーがデザインしたもだがもちろん無料だ。

インターネットテレビには、次から次にニュースが流れ、ニュースの脇にはもっと詳しく知るためのボタンがついている。僕は金融関連のニュースをクリックすると、横に関連書籍リストが表示され、その中の一点に非常に興味をそそられた。
ワンクリックでそれは、僕の端末にダウンロードされ、通勤途中に読めるようになる。すべての文字を読むのは面倒なので、端末についている要約ボタンを押せば、30分で読めるほどの分量にコンピューターが書籍を自動で短くしてくれる。

僕は、あまりにも興味深い話題ばかりなので、インターネットテレビにかじりつきそうに成ったが、もう出社しないと間に合わない。
急いで着替えて、イヤホンをつけて、端末を持って外にでる。
電車の前に女性が広告を配っている。配っていると言っても端末から端末にデータをコピーするのを許可するかどうかを判断するだけだ。
女性は僕の顔に彼女が持っている端末をかざすと、にっこり笑っていった。「あなたのような方にとてもよいパートナーをご紹介するサービスがあります。あなたとお知り合いに成りたい女性がたくさんいるのです。」
システムは即座に僕の顔を判別し、僕が30代で独身の男性だとはじき出す。端末に移るのはまじめそうで美しい女性。メール友達を募集しているそうだ。
僕は、彼女からそのマッチングソフトウェアをコピーしてもらい、自分の端末にいれる。
電車に乗ると、早速お友達を募集している女性たちをタッチスクリーンでめくりながら、交流するためのアドレスをアクティブにする。一人アクティブにするごとに金がかかるが、まあよいかと思った。
そのうち時間が経ち、本を読む時間がもうあまりなく、より要約した内容を表示した。たったの5ページに成った本を僕は10分で読破する。

会社に行って仕事をしていると、ディスプレイには、所狭しと広告が並ぶ。無料のコンピューターを大規模にこの企業では導入しているため、広告が画面に常に表示されるのだ。
僕が興味がある数学の書籍、最新の映画、出会い、見る物すべてが欲しいものなこの世界で、僕はどれだけ本当にそれらを得ることが出来るのだろうか?
システムは我々を知っている。知りすぎるほどに。そして深夜まで働いて稼いだ金はポケットの中の硬貨一つまでも根こそぎ持っていかれるのだ。

僕たちは満たされない思いの奴隷となり、欲しい物の囲いから助け出されるのを待っているヒナだ。
システムは消えない記録を駆使して生涯僕につきまとうだろう。

欲しい物の牢

欲しい物の牢

インターネット経由で企業が個人情報を取得し、それを利用するためのアルゴリズムが知らず知らずに発展している。 そのことによってどんな未来が待ち受けているのか少し警笛を鳴らす内容です。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-28

Public Domain
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