漂流者

 休みの日はいつもこのセーター、着てるなあわたし。

 首の詰まった、厚手のたっぷりした水色のセーターに袖を通す。靴下を履いてから、少しだけ隙間のあるスキニージーンズに足をぐいっと押し込む。買った時に裾上げ、してもらえばよかったのに面倒くさくてそのままにしているから、足首のあたりがくしゅっとなっている。憧れていたブランドの黒いコートを上から着こむ。セールの時に半額で買ったけど、それでも高かった。だからこの冬はたくさんこのコートを着るのだ。さらにマフラーを巻いて、くたくたになったトートバックを右肩に提げる。

 12月の昼間時、それでもこの町いちばんの大きな公園には遊具で遊ぶ親子や、ベンチに座って物思いに耽るおじいさん、池のボートでふたりだけの世界を楽しむ恋人たちで溢れていた。ひとりでいるときの、公園に流れている時間が好きだ。穏やかな日が差して、鳩がよちよちと歩いて、風が吹いて、池の漣を眺めていると、この世の幸福がすべてここにあるような気がしてくる。

 



文化的な日々、ゆとりのある生活。ご飯を食べた後に喫茶店で飲む珈琲、昼間から観る映画、大きな公園の小さなベンチで池を眺める時間、誰かのことを想う時。そういう小さなことを、変わらずに大切にしていたい。そういう些細なしあわせを、喜べる自分でいたい。

漂流者

漂流者

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-15

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