エッセイ 星についての一考察あるいは幻想の未来……

 我々の星系の中心に位置する太陽が50億年後膨張した赤色矮星となりその寿命を閉じるとしても、今生きているたかだか100年の寿命を享受する僕らにとってそんな情報は殆ど無に等しい。

 あるいは、無限にも等しい。
空を見上げれば、星々の輝きは無数に存在し、そこにも無限がまぎれもなく存在する。
ビッグ・バンの後膨張しつづける宇宙の大きさは137億光年といわれても、それは、僕らにとってとてつもなく無限である。あるいは、無意味な数値の羅列でしかない。
 考えてもみたまえ、光の速度(宇宙での真空中の速度:30万Km/秒)で、137億年かかるって!?この距離って君たち、もちろん僕も含めて想像すらできないでしょ……。

 この星に起因する生物の連鎖は、この星を抜け出せない以上(例えアポロが月面に到達したとしても)この地球という星で完結する。
 ありとあらゆる生物の連鎖は、この地球上の空と大海原と大地で完結するのだ。
しかるに、原始の大地で生物に紛れていた人類の祖先は、モノリスの掲示によって、道具を持ったその瞬間から、この星の生物連鎖からまったく切り離された、あるいは意識的に隔絶した存在としてこの星に君臨する。

 この星に生きる60億の人類……これもまた無限数に近い。
仮に1日に一人と出会ったとして1600万年もの年月を要するのだ。1日10人で160万年だ。
 これらの人類がこの星の生物連鎖とは無関係に日々この星の大地を、空を、大海原を侵食しつづけている。
 
 人類が生存するという行為はこの星の寿命を縮めるという行為と等しい。
地球にとって、生物の連鎖と切り離された人類の増殖は脅威以外のなにものでもない。
まるで、特効薬のないエイズ・ウイルスのようなものだ。
 日々この星の大地を、空を、大海原を、汚染し、枯渇させ、疫病をばらまき、その速度は衰えることをしらない。
 交通網の発達によって距離の短絡化が進むほどその速度は増殖する。
しかし、それすらも、現実の問題としては捉えにくい。なぜなら、それは我々の短命に起因するからだ。

 短命だからこそありもしない希望や夢などに縋れるとも言える。
この世界の環境が劇的に変化することなどありえないし、
 冷戦が終結しても、新たな問題が山積する。

 世界各地のテロリズムは、むしろ、大国のエゴから脱却し、縦横無尽に世界を侵食する。
それもまたこの星の寿命を縮めている。

 この星に君臨する人は愚かなのだと気付いて然るべきなのに、一向に気付く素振りすら見せず、世界の警察を自認する大国、人口の爆発的増加に暴発寸前の国内に、多くの矛盾を抱える13億の民を抱える国、自国の疲弊をも省みず、ミサイルを打ち上げる国、隣国への憎悪を糧に邁進する国、そして島国根性から脱却できず、安全神話の中で未だに神風が吹くことを盲目的に信ずる馬鹿な平和ボケした1億2000万の民を擁するクニ……。

 しかし、科学の発達は大戦とは無縁ではない。
 人殺しの技術こそが科学を進歩させる礎だったのだ、などと考えて見ると、人類とはかくも愚かな過ちを幾度となく繰り返してきたという眼前の事実は拭うべくもないのだ。

 しかし逆説的ではあるが、加速する科学技術は二つの大戦で大きく進歩したのだ。
 ここにきてその科学的進歩も日に日に鈍化の傾向を見せる。
インターネットの普及は人類になにものの幸福すら与えなかったと言うべきか……人類皆が、物欲の虜になったようにすら見える。
 キーボードの前で億単位の金をやりとりする世界など考えられなかったではないか、株で儲けた金と汗水垂らして得た金とは聡かに等価ではありえない。

 しかし、この収入の格差はネットの普及とともに右肩上がりに推移してゆく、今後も間違いなく。

人類の叡智などというまやかしの仮面が今にも剥がされようとしているようにさえ僕には見える。
この星の疲弊を食い止める手立ては今の科学ではありえないのだ。
 明日、無公害の夢のようなエネルギーが手に入りさえしない限りはだが。
 原子力発電から出る核の廃棄物を完全に無害にする手立てはないし、原子力の平和利用などというのは、幻想の未来に過ぎない。
 
 しかし、ここまで現代の進歩を享受してきた人々にこの星の生物の連鎖の中に埋没するなど、できるわけがないのだ。

 かくして、人類はこの星の連鎖の呪縛から逃れるしか生きる術はないという決断に迫られる。
しかし、唯一移住できそうな火星でさえ、1年という距離でしか到達できないほど、今の科学技術は脆弱なのだ。

 空にはそれこそ無限の星々が散りばめられているというのに、人類の孤独は癒されはしない。
やがて死んでゆくであろうこの星の中でしか生きてゆく術は今はない。

 神はいったいこの辺境の惑星になぜ60億の人類という愚か者を作り出したのか……。
生物連鎖の呪縛から解き放った、まさにその瞬間、人類の命運は決まってしまったのだ。

 食いつくし、消費しつくした果ての未来の姿は、まさにその時に決定事項として、この星の哀しむべき運命をも予言したのだ。

 幻想の未来、それは間違いなくやってくる……哀しむべき結末とともに……。

エッセイ 星についての一考察あるいは幻想の未来……

エッセイ 星についての一考察あるいは幻想の未来……

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-27

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