ベリィ・ベリィ・イージー
放課後の教室はいつも渇いている。
ような気がする。机の木目の茶色が、そう思わせるのかな。
自分の机を軽くなでて、小さく、自分以外にはけっして聞こえないように、バイバイとつぶやく。これで最後。
今日、私はこの世界にお別れを告げる。
自殺の根拠をあげればきりがない。お母さんとのけんか。バイト先の店長のセクハラ発言。バレー部のレギュラーになれなかった事。近所の良く吠える犬でさえ、その根拠と呼ぶにふさわしい。でも、しいて言えば、あえてきっかけをあげるとすれば、たーくんの浮気現場を見ちゃったことがトリガーであったと言わざるを得ない。
自分で言うのも恥ずかしいけど、私はそんなチンケな理由で死んでしまおうと思いたったのだ。
なんてばかばかしい。
18にもならない小娘が、男の子にちょっと裏切られたくらいで、自殺だなんて。
おおげさ。
自分でも、びっくり。
昨日現場を目撃するまでは、自分がこんなにたーくんに入れ込んでるだなんて、思いもしなかった。ごくごく普通に、ケンゼンなオツキアイをしていたつもりだった。
でも、たーくんが知らない女の子の腰を抱いてプリクラ機の中に入っていくのをばっちりとらえちゃった瞬間、ざわざわざわ、って本当に全身が産毛が逆立ったんだ。足なんかもぶるぶる震えちゃって、家まで帰るのに、何回もしゃがみこんで休憩しないといけなかった。いっしょにいたゆーこには、悪いことしちゃったな。ずっと黙りこくって、でもそばにいてくれた。そんなゆーこが気の毒になって、逃げるみたいに先にして帰っちゃったけど、帰りがけに「いつでも電話してきていいからね」って言ってくれたのは、嬉しかったな。結局、電話できなかったけれど。心配してくれてるんだろうな。私はいい友人を持ったよ。学校でも、たーくんが何にも知らずに私に話しかけるのを止めてくれたし、私が話しかけやすい所に、じっと座っていてくれてた。ああ、でも、ごめんね。私、話かけることもできなくて。ゆーこは悪くないよ。私も、立場が逆だったら、かける言葉、見つけられないよ。ほんとに、ありがとう。
私が死んだら、ゆーこも悲しむかな。ああ、本当にごめん。
身勝手な私を許して、って、なるほど、こういう時のお約束のセリフ、本気で出ちゃうもんなんだね。
思えば、ゆーことの思い出ばっかりが、私の中に残ってる。一緒にいろんな所に行ったね。カラオケで変な曲デュエットしたり、お互いの家に泊まりっこもしたよね。ゆーことのプリクラも写真も、何枚あるかわかんない。そういえば、たーくんで思い出す事って、案外少ないな。だいたい、映画とかにいって、そのへんでごはん食べて、適当にいちゃいちゃして・・・おわり。変わり映えのない、いっつもワンパターンなデート。本当に些細な付き合いだったんだな。あ、そっか。手を抜かれてたってことか。そうだよね。他にも女の子いるんだから、大変だよね。ははは・・・。
それなのに、私、時々たーくんのために、ゆーことの約束ドタキャンしてたなあ。ごめんね、ゆーこ。それでも、ゆーこは優しかったな。「楽しんできてね」って、ちっとも不機嫌にならずに、送り出してくれた。
ほんと、ゆーこいい奴すぎ。
「ゆーこには、幸せになって欲しいなあ」
そう、ポツリとつぶやくと、涙が出そうになった。
けど、その涙はこぼれなかった。
ガラガラと、扉が開く音がしたから。
扉の向こうには、ゆーこが立っていた。
「まきちゃん、帰ろう」
ゆーこの笑顔は、いつもと一ミリも変わらなかった。
「うん」
はぁーあ。ゆーこが、男の子だったらいいのに。
私は、この後なんて言えば失恋した私にユーコがケーキをおごってくれるか考えながら、鞄を持ちあげた。
ベリィ・ベリィ・イージー
こ ん な は ず じ ゃ な か っ た 。
ゆーこがいい奴すぎて、プロットがん無視になってしまった。だから、序盤の文章が浮きすぎてますね。
書いてる間中、「百合展開はだめだ、百合展開はだめだ」って唱えてました。
でも、読み返してみて、百合展開のほうが、結果的によかったんじゃないかなと思いました。
勢いで書いたから、推敲が進んでなくて、公開しながらがんがん加筆修正しますが、百合にはなりません。