魔女ドラゴンヴァルキリー
第Ⅱ部 魔女・ドラゴンヴァルキリー編
第九話
ライバル
「聖女ドラゴンヴァルキリー…」
彼女はそう呟いて頭をガリガリと掻いた。
茶色い長い髪も母親が死んだあの日以来、ちゃんと手入れをしていないのでボサボサであった。
彼女の母親は魔女事件に巻き込まれて殺された。
そう、彼女は信じている。
でなければあんな無残な姿で死ぬのが説明できない。
「何が聖女だ…何が正義の味方だ…!」
魔女事件を調べるうちに「聖女ドラゴンヴァルキリー」の噂に彼女もぶつかった。
しかし、彼女に言わせれば。
「魔女も聖女も同じじゃないか…!!」
彼女の憎しみは魔女よりもドラゴンヴァルキリーに向けられていた。
「聖女ドラゴンヴァルキリー…!必ず母さんの仇を…!!」
彼女の名前は夜葉寺院 友知(やはじいん ともち)。
志穂の親友である。
「いや~ライバル出現っスよ!」
唐突に香矢が話し始めた。
「どうしたのですか?またフラれたんですか?」
志穂がそっけなく返す。
「ちょ、読者の皆さんに誤解を招くような事を!!フラれてません、告ってもいません、恋してません!!発言には気をつけてくださいっス!!!」
香矢が興奮する。
「はいはい、私が悪かったです。それで、何の話ですか?」
「気を付けてくださいっスよ。エンコーするような今時の女子高生と一緒にされたくは…」
「ねっ、恋の話からそこまで飛ぶなっつーの!」
コーチに首筋に氷を当てられる。
香矢は叫んだ。
「あひゃあ!?その攻撃は小学4年の時の学級会で禁じ手になったっスよ!」
「ねっ、お前の過去での決まりごとなざ知るか!!」
「あの~。」
志穂が口を挟む。
「あっ、はいはい。ライバルの話でしたっスね。」
「いや、そうじゃなくてエンコーって何ですか?」
コーチが溜息をつく。
「ねっ、お前の今時はもう死語なんだよ…田合剣、生きていく上で全く必要ない言葉だから忘れた方がいいぞ。」
「はい、コーチ。それでは脱線した話を戻してライバルというのは何の話ですか?」
香矢がブスっとして言った。
「何か今の話題には納得いかない点が何点かあるんっスけど…」
「ねっ、ほらほら話が進まないからさ?」
コーチにうながされて香矢は話し始める。
「先日、ドラゴンヴァルキリーのホームページを立ち上げたじゃないっスか?魔女事件解決のために。」
「そうでしたね、あの恥ずかしいサイト…」
「恥ずかしくないっスよ!そんで似たようなサイトができあがったんっスよ。魔女に対抗するってサイト。」
コーチが言った。
「ねっ、という事は田合剣以外にもドラゴンヴァルキリーが?」
「いや、こっちのサイトは魔女事件の被害にあった人が立ち上げた奴で、正義の味方とかはいないみたいっス。でも、正義の味方を抱え込んでるうちよりもこっちのサイトの方に魔女事件の相談をする人が多いみたいっスよ?世間は分かりませんっスねぇ…」
正義の味方がいると公言している怪しいサイトにまじめに相談にくる人が少ないのが当り前な事に香矢は気づいてなかった。
「でも、危なくないですか?この人達は普通の人間なのでしょ?」
志穂が心配する。
「大丈夫じゃないっスか?本物の魔女事件なんてそう簡単にお目にかかれないっスよ。」
「ねっ、でも私たちはそう簡単に何回もお目にかかってるじゃないの…」
コーチの言葉に香矢はぐぬぬと黙りこむ。
「何とかこの人達に会えませんか?力になれるならなりたいですし…」
志穂の言葉に香矢は少し考え言った。
「ドラゴンヴァルキリーが力を貸します、ってメールすれば出てきそうっスね?」
「ねっ、逆効果だってば。普通に被害者同士、力を貸したいとかメールしなってば。」
とりあえず、志穂の名前と蜘蛛魔女の件を書いて香矢がメールをする事になった。
ドラゴンヴァルキリーのところは伏せて。
次の日、香矢がくると志穂は聞いた。
「返事はきましたか?」
香矢はVサインをし言った。
「ばっちりっスよ!志穂さんの3サイズ書いたのが効果的だったみたいっス!!」
「そんな事を書いたら逆効果でしょう!というか香矢さん、私の3サイズ知らないでしょ?いや、測った事もないのですけど…」
「そこは想像で…」
「しなくていいです!じゃなくてどんな返事だったのですか?」
香矢はプリントアウトしてきた紙を見せて言った。
「会っても良いみたいっスね。3サイズは冗談っスけど小学生っていうのが彼らのツボだったみたいっスね。」
志穂は手紙の文章を読みながら言った。
「…ここに私達にもあなたと同い年ぐらいの子がいます、って書いてありますね。」
「ええ、その年で悲劇に会うなんて神も仏もないっスね…」
同い年…
何か志穂は引っかかった。
そんな志穂の思いも知らずに香矢が話しかけてきた。
「それじゃぁ、時間になったら鳥羽兎に迎えにきますっスね?」
「…すみません、今回は一人で行かせてもらえませんか?」
「えー!!あちきと志穂さんは一心同体なのにー!」
「でも、香矢さんが出したメールは私の事しか書いてありませんよね?それなのに他の人が一緒にきたら怪しまれますよ。」
「ぐぬぬ…香矢、一生の不覚…」
「それに…」
そこまで言いかけて志穂は止めた。
香矢は首をかしげて聞いた。
「それに何っスか?」
「いえ、何でもないです。」
嫌な予感がする。
それは言えなかった。
“魔女対策本部”
それがそのグループの名前であった。
指定されたのは駅前の改札前であった。
見つけやすい場所の定番なのだろう。
(それにしても…)
目印に香矢に渡された巨大なリボンはよく目立った。
(目立ちすぎる!通る人通る人がみんな私の顔を覗き込んで行く…いや、すぐに相手に見つけてもらえそうだけどさぁ…)
「えーと志穂さん?」
声をかけられ顔をあげるとラフな格好をした女性が立っていた。
「はい。」
女性はホっとし言った。
「いや~、人が多いからすぐに見つかるかと思ったんだけど一発で見つかってよかったよ~。」
「…そうでしょうね。」
志穂は自虐気味に笑った。
相手の女性は首をかしげて言った。
「あれ?口調がメールでのイメージと違うかな?」
「メールは私がパソコンを使えないので代わりの人に出してもらいました。内容は大体想像できます。忘れてください。」
女性はそっかと言い自己紹介を始めた。
「私の名前はマリ。私達のリーダーが他の事件を調べてて不在だから代理できたの。ん~。」
マリは志穂の顔をじっと見つめて言った。
「よし、合格!あなた悪い人じゃないわね!!」
「分かるのですか?」
「分かるわよ~、目を見れば。じゃあ、アジトに行こうか?リーダー以外は全員揃って君を待ってるよ!!」
マリは志穂の手を引いた。
しかし、すぐに引っ込めて言った。
「っ冷たっ!もしかして寒かった?ごめんね~。」
「…いえ。」
志穂の体は機械だから体温がないのだがそれはマリが知る由もなかった。
アジトは教会だった。
「こんなところ勝手に使って怒られないんですか?」
志穂の疑問にマリは答えた。
「ここ私のうち。だから問題なしだよ。」
「へー、マリさんってクリスチャンなのですか。」
「私は無宗教だよ。クリスチャンだったのは私の両親。」
だった。
(そうか、この人も…対策本部に集まる人はみんな魔女事件の被害者なんだっけ。)
志穂が暗い顔をしたのを察しマリが元気づける。
「昔の話だって!今はリーダーのおかげで大分元気になったし…志穂ちゃんもそんな同じ想いを味わってるんでしょ?」
そして志穂のポンと叩き言った。
「私達は今日から仲間なんだから!さぁ、紹介するよ!!」
扉を開けるとそこには3つの人影が。
マリが紹介を始める。
「この子が私達の新たな仲間、志穂ちゃんです!可愛いでしょ?そして右から私の親友のユリ。その右がゴロー君。で、その右の子がメールで話した同い年の…」
「ともちゃん?」
志穂は驚いて声を出した。
髪がボサボサになっていて一瞬分からなかったが、それは親友のともちゃんだった。
「…しほちゃん?」
呼ばれて初めて気づいたようだ。
駆け寄ってきて言った。
「やっぱりしほちゃんだ!最初わかんなかったよ。どうしたのそのリボン…」
そこまで言って友知は笑いだして言った。
「ぷくく…何その似合わないリボン!?しほちゃん、クールなイメージがあったのに…本当に何があったの!?ひひひひ!」
その反応に慌ててリボンを外した志穂が言い返す。
「こっ、これはお馬鹿な女子高生に無理やりつけられて…こらっ、笑いすぎだぞ!」
そう言いながらも志穂は嬉しそうであった。
隣にいたゴローも嬉しそうに2人を眺めていた。
「あの事件以来、笑わなくなったともちゃんが笑った…」
ユリと呼ばれた女性も嬉しそうだ。
「小学生をこんな事に巻き込むなとマリに反対したけど…よかったね、よかったね。」
少し落ち着いてから教会の席に座り話し始めた。
「でも、ともちゃんコーチから聞いた話では親戚のところに行ったって聞いたけど?」
志穂の問いに友知は笑顔で答えた。
「そ、その親戚ってのがこのゴローおじさんってわけ!」
「こらこら、おじさんは余計だろ?俺は従兄だろ。」
どうやら親戚同士で、この本部に参加したようだ。
そしてマリが話し始める。
「まぁ、これから仲良くやりましょう?同じ傷を持つ者同士。」
志穂はそこで本来の目的を思い出した。
「この魔女対策本部というのは魔女と戦ったりするんですか?危なくないですか?」
「まぁ、戦えればそうしたいけどね。あなたも知ってるでしょ?魔女の強さは。だから事件を暴くだけ。それがうちらの…リーダーの方針ってわけ。」
志穂は少し安心した。
(この人達は無謀な戦いを挑もうとしているわけではないんだね…)
しかしそれでも危ない事には…
「大丈夫、いざとなればドラゴンヴァルキリーが助けてくれるって!」
突然、ユリが喋りだした。
(この人達もドラゴンヴァルキリーを知ってるのか。いざとなればやっぱり私が守らないと…)
そう、強く心に刻むのだった。
その時、志穂は見た。
みんなユリのドラゴンヴァルキリーの演説を笑いながら聞いている中での友知の顔を。
笑ってはいたが、
それは今まで志穂が見た事のない親友の笑顔だった。
「キィーキ!なるほど。」
どこからともなく声が聞こえてきた。
ユリが叫ぶ。
「どこ?」
ゴローが上を指差しながら叫んだ。
「上だろ!」
そこには蝙蝠の姿をした魔女が逆さまにはりついていた。
「キィーキ!イきチをモトめ、キてみれば…オモシロいハナシをしているものだ。まだ、ワタシタチのソンザイをオモテにダされてはやりにくいのだよ。」
マリが立ちあがって言った。
「こいつ…!」
それは最初に会ったときとは逆に憎しみに満ちた目だった。
「父さん、母さん、妹の由紀子を殺した魔女!」
「キィーキ!おやどこかでおアいしましたかね?」
怒りに震えるマリ。
「マリ!」
親友のユリが叫ぶ。
「忘れたの?私たちじゃ敵わないよ!!逃げるよ!!!」
「キィーキ!ニがすとオモってるのか?」
蝙蝠魔女は壁にかけてあったたいまつを扉に投げつけた。
途端に教会の内部が火の海になる。
「キィーキ!これでおしまいだな!!」
その瞬間、志穂の体が光りだした。
気がつくとマリ達は教会の外にいた。
志穂が空を飛んで天窓から脱出させたのだ。
マリが驚く。
「志穂ちゃんなの…?その黄色い姿は一体?」
「ドラゴンヴァルキリーだぁ!」
ユリが嬉しそうに叫ぶ。
志穂は背中を見せたまま言った。
「逃げてください。いずれまたこちらから連絡をします。」
「逃げるって、あなたはどうするの?」
マリの問いにも振り向かずに答えた。
「マリさんの家族の仇うちに。」
そう言って火の教会の中に飛び込んで行った。
「キィーキ!おマエは!?」
「放火犯には火あぶりがふさわしいんでしょうけど…」
志穂は剣を構えた。
「この姿だと雷しか操れないの…!」
どこからともなく雷雲が現れ、志穂の剣先にカミナリが落ちた。
「今まで殺してきた人達…マリさんの家族の痛みをこの電撃で少しは知りなさい!!」
剣先に溜まった電撃が蝙蝠魔女を襲う。
「キィーキ!」
バチバチっと大きな音の後には黒こげになった蝙蝠魔女だけになった。
「…火でも雷でも最期は一緒か。」
志穂は教会を出た。
どこからともなく消防車の音が聞こえてくる。
対策本部の人達は…
みんな逃げたようだ。
ほっとし変身を解いた瞬間。
「死ねっ!」
突然、電柱の裏から人影が出てきた。
友知だ。
その手にはカッターがあった。
そのまま真っ直ぐ志穂の脇腹めがけてブスリと…
は行かなかった。
服の布を裂いただけで、機械の体には刺さらずポキリと刃が折れた。
その親友の行動に志穂は驚き叫んだ。
「と、ともちゃん!?」
友知は折れたカッターを投げ捨てた
またしても知らない親友の顔がそこにあった。
しかし、今度は笑い顔ではなく憎しみに満ちた顔だった。
友知は憎らしげに言った。
「あんたがドラゴンヴァルキリーだったのね!よくも…よくも母さんを!!」
その言葉に志穂は思い出した。
「どうしてともちゃんがその事を…」
「その事…!それじゃあ、お前が殺していたのか!!」
「!違う!そういう事じゃなくて…」
友知の目には涙が浮かんでいた。
志穂と友知の再会。
それは新たな悲しい物語の幕開けだった。
第十話
消えた少女
志穂と友知の再会から数日が過ぎた。
鳥羽兎の窓際で志穂は外を眺めながらボーっとしていた。
それを遠くから見ていた香矢がコーチに言った。
「窓際でたそがれる美少女…いや~絵になるっスけど、何があったんスかね?」
「帰って来てからずっとあの調子なんだよねっ…」
志穂は親友の言葉を反芻していた。
「何が聖女だ…何が正義の味方だ…お前も魔女じゃないか!!許さない…絶対に許さない!!!」
そう言い捨ててどこかへ去って行ったともちゃん。
(勘違いされた…ううん、おばさんを私が殺したのは本当の事だもの…でも)
例え嫌われようと。
例え憎まれようと。
(ともちゃんは絶対に守らなきゃ…!一体どこに行ったの?)
「しーほさん。」
香矢が抱きついてきた。
しかし、志穂は無反応だった。
「むむ、香矢さんのセクハラ攻撃に耐えるとは…これは重傷っスね。せっかく魔女対策本部の人から連絡がきたのに…」
志穂はガバっと立ちあがり香矢に掴みかかって言った。
「いつですか!?誰から!?香矢さん!!」
香矢はいつもと違う反応に驚きつつも言った。
「いゃん、志穂さん大胆!」
「茶化さないでください!誰から連絡来たかって聞いているのです!!」
「えっと、野郎からですね。ゴローとかいう名前の。」
確かともちゃんの従兄と言う人がその名前だったはず。
「で、どんな内容だったのですか!?」
「ねぇ、田合剣落ち着きなさい。」
コーチに怒られ、志穂は少し冷静になった。
香矢は咳きこみながら言った。
「あ~、びっくりしたっス!」
「…ごめんなさい。」
「いや、そんな深刻に受け止められても…で、何か他の人と連絡とれなくなったから会いたいとかなんとかかんとか。どうします?対策本部を装ったなんちゃって出会い系君の恐れもありやすが…」
「会います。その人とはこないだ会っていますから。」
同じ頃、鳥羽兎から遠く離れた公園のベンチに友知は座っていた。
「そう…あれがドラゴンヴァルキリー…母さんの仇…!」
ブツクサと一人ごとを呟きながら左手に持ったハサミをザクザクと木の椅子に刺していた。
「身近なところに潜んでいたのね…次に会ったら絶対に…!」
そこで自分が持っている刃物を見た。
カッターナイフーをあの体は弾いた。
つまりこんな武器では、あの魔女には勝てない。
「くそっ!」
友知はハサミをぽいっと投げ捨て頭をガリガリと掻いた。
「どうすれば…どうすればいいのよぉ!」
「グブブブ!チカラをカしてやろうか?」
はっと後ろを向いたが木しかなかった。
「空耳?」
「グブブブ!ドラゴンヴァルキリーとかいうコムスメをコロすテツダいをしてやるってイってるんだよ!!」
木だと思っていた物はカメレオンの魔女に変化した。
「グブブブ!そのダイカにおマエのイノチをハラってモラうけどな!!」
志穂は鳥羽兎でゴローと再会した。
「冴えない男っスねぇ…」
「ねっ、関係ないだろ!!」
店の奥でコーチと香矢が勝手な事を話している。
ゴローはコーヒーを一杯飲み干すと話し始めた。
「いや~参ったよ。リーダーの連絡先はマリしか知らないし…知り合ったばかりで他の二人とも連絡はとれないし…マリに君のサイトのURLだけは聞いておいて良かったよ。」
「私のサイトではないのですが…まぁ、マリさんもそのうち連絡してくると思いますよ。」
「ん、そうだね。」
ゴローは2杯めのコーヒーを飲もうとしていた。
志穂はそれを遮って聞いた。
「…あの、ともちゃんはどうなりました?」
「それも困っているんだよ…あの時、一緒に逃げてると思ったらいつの間にかいないし…家には帰ってこないし…まさかと思うけど…」
ゴローは不安そうな顔をした。
「…あの直後なら私が会いました。」
「本当!?でも何で…」
(私を殺しに戻ってきました。)
それは声には出せなかった。
ゴローは志穂の様子に気付かずに喋り続けた。
「あの子も俺も魔女に親を殺されたからね。ようやく仇をうってくれる君という存在がでてきて嬉しかったんだろうな…」
(その仇は私です。)
やはり声には出せなかった。
志穂はそんな考えを出さないように聞いた。
「…どこか行くあてとかありませんか?」
「んー俺は昔から一緒に生活してたわけじゃないからな~。どちらかというと親友の君の方が知ってるんじゃないの?」
友知とは子供のころからの付き合いだ。
(そういえばおばさん…お母さんとけんかした時に行く隠れ家とか教えてもらったっけ。)
ゴローはコーヒーを飲み干すと立ち上がり言った。
「ごちそうさん。じゃあ、進展があったらまた来るね。」
そして扉に向かって歩いて行くところに志穂が聞いた。
「あっ、そういえばゴローさんはどんな魔女事件に巻き込まれたのですか?」
「ん、何か他人に化ける奴でね…君も気をつけた方がいいよ?戦えば君の方が強そうだけどね…」
志穂は昔、友知に教えてもらった町はずれの公園にきていた。
(ここは誰もいないし、存在もよく知られていない隠れるには絶好の場所…確か、ともちゃんはそんな事を言っていたっけ。)
狭い公園なので、木のイスがボロボロになっているのがすぐに目に入ってきた。
ボロボロの傷は人工的に掘られたものであるのが近づくと分かった。
殺、殺、殺、
そんな風に彫ってあるようにも見えた。
(やっぱりここに来たんだ…)
近くを探すと刃がボロボロになったハサミが出てきた。
(こんなもので私と戦うつもりだったの!ともちゃん!!)
しかし、本人の姿が見えない。
(ここは誰かくればすぐに分かるって言ってたから…私の姿を見て逃げたの?)
「グブブブ!よくキたな。」
その聞くも憎たらしい声に志穂は叫んだ。
「魔女!?どこにいるの!?」
志穂は胸の十字架を握りしめた。
声は続く。
「グブブブ!まぁ、マて。ここではタタカうつもりはない。それよりもムスメだ。」
志穂はギクリとした。
「そう、おマエのシンユウだったムスメだ。アンシンしろ、まだブジだ。そのマエにおマエをシマツしようとオモってな。」
志穂は周りを見渡してから言った。
「…その木に化けているのね。」
「グブブブ!?」
「ゴローさんが言っていた化ける魔女ね…確かに見た目は完璧だわ。でも、声がどこから聞こえているのか考えれば、場所の特定は簡単よ!」
「グブブブ!コンゴのサンコウにさせてもらうよ。あのムスメはマチのハズれのモリにツカまえてある。トモにシュクセイしてやるからクるがいい。」
そう言うと、魔女の気配は消えた。
(ともちゃん…!必ず助けるから待っていて!)
志穂は胸の十字架を引き千切りドラゴンヴァルキリーに変身した。
悲しみの青い姿に。
志穂は上空から森を見降ろしていた。
(見つけた!あそこだ!!)
友知の姿を確認してその近くに降りていく。
友知は木に縛られていた。
「…」
黙って近づく。
そしてある程度近寄ったところで剣を振り下ろした。
「グブブブ!?ナゼばれた!?コンドはオトもダさなかったのに!?」
志穂は少し馬鹿にしたように笑い言った。
「あれは嘘。私の目には虚像を見破る力があるの。」
「グブブブ!クソがっ!」
カメレオン魔女は舌を伸ばしてきたが志穂は舌をはらった。
「無駄よ。あんたは戦闘能力が低い…それをごまかすために擬態という能力で戦っていた。そうでしょ?」
「グブブブ!」
「ともちゃんはどこ?」
「グブブブ!イえない…」
「はっ?」
「イったらワタシは…」
カメレオン魔女は怯えているようにも見えた。
「グブブブっ!?」
突然、カメレオン魔女の顔と目が膨らみ始めた。
爆発寸前の風船のように。
「グブブブ!イってない!イわない!!だからタスけて!!!」
その言葉もむなしくカメレオン魔女は弾けた。
志穂は水のバリアで体を覆っていたので爆発に巻き込まれる事はなかった。
「この魔女も誰かに利用されていただけ…じゃあ、ともちゃんはどこに行ったの?」
志穂はその場で立ち尽くしていた。
第十一話
聖女と魔女
「まだ、志穂さんは帰ってきてないっスか?」
香矢がコーチに聞いた。
友知がさらわれた事件から3日程過ぎたが、まだ志穂は鳥羽兎に帰っていなかった。
最も、コーチも香矢も事情を知らないわけだが。
コーチが溜息をついて言った。
「ねっ、ポストに「探し物をしています」という手紙が入っていたから、こないだみたいな失踪とは違うとは思うけど。」
香矢は苦笑いをして言った。
「水臭いっスねぇ?何でもかんでも一人で抱え込もうとするんっスから…」
「ねぇ、それが田合剣の欠点であり、良いところでもあるんだが…」
香矢は力なく笑ってから叫んだ。
「全然っ、いいところじゃないっスよ!!もう少しあちきを頼ってくれてもいいのにっス…」
その時、店のドアが開いて一人の女性が入ってきた。
反射的に香矢が挨拶をする。
「あっ、いらっしゃいませぃー。」
その女性はマリだった。
予想外の店だったためにオドオドしながら言った。
「こっ、こんなところをドラゴンヴァルキリーは住んでいるの?」
香矢は女性をじっーと見つめ言った。
「その容姿…その匂い…そしてその発言…もしやお姉さんはマリさんっスかね?」
マリはビクっとして言った。
「に、匂い?」
コーチがフォローをする。
「ねっ、この娘はちょっとあれなんで気にしないでください。」
「ちょちょちょ、あれって何スか?聞き捨てならぬっスよ!」
マリは少しクスリと笑い言った。
「志穂さんは良い家族に恵まれたみたいね。」
香矢は逆向きに椅子に座り言った。
「やっぱりお姉さんは噂のマリさんだったんスね。」
「どんな噂か気になるけど…ここに来れば散り散りになった仲間と会えるかな?と思って。」
コーチがコーヒーを勧めてきたが断って言った。
「あっ、私苦いの駄目なんで。」
「見た目に反して子供なんっスね~。あちきも乳牛の方が好きっスけど。」
代わりに出されたカフェオレをありがとうございますと飲みながらマリは話し始めた。
「メールで連絡するより直接来た方が早いと思ってきたけど…他のメンバーはきた?」
「あ~、ゴローっつぅおっさんは来ましたね~志穂さんの話だと後メンバーはユリさんって美女とともちゃんってエンジェルでしたっけ?まだ、二人は来てないっすスねぇ。」
「そう…」
マリはカフェオレを飲み干していた。
どうやら甘いものは好きなのかもしれない。
香矢はマリに疑問を投げかけた。
「でも、マリさんもここに来るのに時間がかかったっスね?」
「ん?すぐに行こうと思ったんだけどね。ここに来る途中で魔女らしき姿を見かけたの。すぐに見失ったけど、さっきまで行方を探していてね。」
「その話、聞かせてもらえませんか?」
いつの間にか志穂が店に来ていた。
コーチが心配そうに声をかける。
「田合剣!大丈夫なのか?」
「えぇ、コーチ。それよりもマリさん、その魔女を見かけた場所を教えていただけませんか?」
「え?えぇ、地図ありますか?」
地図を広げ場所を指差した。
「確かこの辺だと思ったけど…」
それは以前に志穂が黒猫と逃げ出した病院だった。
(何で思いつかなかったんだろう?いや、忌わしい記憶を忘れたかっただけかも…)
志穂は鳥羽兎を飛び出していこうとした。
「志穂さん!あちきも行きます!!」
香矢が叫んだ。
志穂は香矢の目を見つめながら言った。
「…危ないですよ?」
「あちきはドラゴンヴァルキリーの相棒っスよ?それに危ないなら志穂さんが守ってくれるっスよね?」
(私に守る力なんて…)
そう思ったが志穂は考えと反対の事を言った。
「…分かりました。」
「うし!じゃぁ、バイク回すっスね!!」
そんな二人を見送りつつマリは呟いた。
「あんなに若いのに…私には何もできないなんて…」
「あの子にはそれだけの力があるからねっ。それにあんたにしかできない事があるでしょ?」
「私にしかできない事?」
「あの子の無事を願う事ねっ!」
二人は病院についた。
志穂にとってはトラウマとなった場所だが、そうも言ってはいられない。
香矢が身震いをし言った。
「うへー、不気味な病院っスね!電気もつけずに真っ暗じゃないっスか!!」
香矢は知らない。
ここで志穂が改造された事を。
改造された。
嫌な言葉が脳裏を通る。
(何を考えているの…ここで目撃されたのは魔女であって、ともちゃんではないんだから…)
「志穂さん?」
香矢が首をかしげている。
志穂は言った。
「…すみません、考え事をしていました。入りましょうか?」
「うひー、中はお化け屋敷ですじゃ~。」
香矢が騒ぎながらピッタリと志穂に体を寄せる。
「つーか、この病院外から見ても変でしたッスけど、中も変!!何で誰もいないっスか!!定休日?」
確かに大きな病院にも関わらず医者も看護師も患者も一人もいなかった。
香矢が力を込めてくる。
「いえ、別に構いませんよ。」
「は?志穂さん誰と話してるっスか?」
「え?今ソーリーって言うからすり寄ってくるのを謝ったのかと…」
「今更、志穂さんの体にすり寄るのに断りいれないっスよ!!」
「じゃあ、今のは!?」
見ると廊下の曲がり角に影があった。
「ソーリーソーリー!シンニュウシャハッケン!!シュクセイします!!」
そう言いながら蠍の姿をした魔女が現れた。
「ででで!?」
香矢が腰を抜かしそうになる。
志穂が叫んだ。
「香矢さん、危ないですから少し離れていてください!!」
志穂は右手で胸の十字架を引き千切り、悲しみの青い姿に変身した。
「ソーリーソーリー!?ウワサのドラゴンヴァルキリーか!?」
その言葉に香矢が感心して言った。
「魔女の間では噂になってるんスね~。」
「香矢さん、馬鹿な事言っていないで隠れていてください!!」
香矢は近くの病室の中に逃げ込んだ。
「この距離ならドラゴンヴァルキリーの戦う邪魔にはならないっスよねぇ~。」
「クスクス」
びくっとして後ろを向くと誰かがベッドの上に座っていた。
香矢は叫んだ。
「誰っスか!?」
「ソーリーソーリー!ワタシのハリをくらえ!!」
蠍魔女の尻尾の針が志穂に向かってきた。
しかし、志穂は水のバリアを出し受け止めた。
「ソーリソーリー!?ナニだこのミズは!ヌけないだと…」
「水はね、物理的な攻撃は吸収するし水圧次第では動きを封じる事もできるの。」
剣で蠍魔女の尻尾を切った。
ダメージに悶え転ぶ蠍魔女。
「ソーリーソーリー!」
その瞬間に志穂の水が蠍魔女の体を覆う。
「…少し話してもらいましょうか。あなたが知っている事を。」
「何か謝っても許しませんよって画みたいっスね。」
香矢が安全になったのを見届け病室から出てきて言った。
「ソーリーソーリー!コロせコロせ!!」
「意外とサムライっスね…その口癖、止めた方がいいと思うっスよ?」
香矢が好き放題に言う。
志穂が剣先を喉元につけて言った。
「話す気はないってわけね…もう人を殺すのを止めるって言うなら見逃してもいいけど?」
「ソーリーソーリー!ニンゲンはスベてシュクセイする!!」
志穂は剣を振り上げたが、すぐに降ろした。
それを見て香矢はホッとして言った。
「良かったっス。志穂さんが怖い人になっちゃったのかと思いましたよ~。」
「…ただ、気分がのらないだけです。」
「またまた、優しいんだからもう~。」
(とはいえ、こいつどうしよう?)
変身を解くと動きを封じている水も消えてしまう。
ここはマリさんに相談してみるか。
香矢ははしゃいでいる。
「そうそ、この施設に女の子がいたんスよ!捕まっていたんスかね?」
志穂は香矢の方を向き聞いた。
「それって…どんな子ですか?」
「志穂さんとは違うタイプの美少女したね。髪が長くて茶髪で。年齢は同い年ぐらいだと思うんスけど…あっ、まだそこの病室にいると思うっスから呼んできましょうか?」
コツコツと病室から足音が聞こえてくる。
「あっ、出てくるみたいっスね?」
扉から出てきた瞬間に影がピョンと
「跳んだ!?」
香矢の驚きの声を背に倒れこんだ蠍魔女の頭の近くに着地した。
手術着を着た少女はゆっくりとこちらを向く。
手術着を着た少女は、
「…ともちゃん。」
「ええええっえっえっ?」
愕然とする志穂と混乱する香矢。
しかし、以前と印象が違う。
それは格好だけではない。
ボサボサだった髪はきれいに整えられ、その顔は自信に満ちあふれていた。
「クスクスクス…」
友知は小さく笑いだした、と思ったら
「あっははははっはー!」
その笑い声は誰もいない病院中にこだました。
志穂はその親友の変化に怯えつつも話しかける。
「ともちゃん、ぶ…」
「無事だったのね、とでも言うつもり!?無事なわけないでしょ!!」
その胸には銀色の十字架のネックレスが揺れていた。
「ソーリーソ…」
「やかましい!今、話してんだよ!!」
そう言うと友知は蠍魔女の頭をグシャっと踏みつぶした。
思わず、顔を背ける香矢。
そんな香矢を嬉しそうに見つめながら友知は言った。
「そういえばそっちのお友達に自己紹介をしてなかったね。はじめまして、こんにちは。こういうものです。」
そう言うと胸の十字架を左手で引き千切った。
友知の体が十字架を中心に銀色に輝きだす。
思わず香矢は目を覆った。
そして十字架は柄の中心が赤い宝石の剣に変化し
茶色い髪は銀色に変わり、
服は全身赤いロングスカートのドレスになり、
胸は膨らみ、
背中には黒い小さなコウモリの羽が生え、
お尻には恐竜のような緑色の短めの尻尾が生え、
そんな姿に、
なった。
「ドラゴンヴァルキリー…」
香矢がそう呟いた。
第十二話
蘇る魔女軍団
「…本当にもう大丈夫なんスか?志穂さん。」
「はい…」
もう一人のドラゴンヴァルキリーが現れた次の日。
鳥羽兎に帰ってきた時、志穂は大怪我を負っていた。
「…やめて。」
志穂はドラゴンヴァルキリーに変身した友知に震えながら言った。
「どうしたのー?アタシ達友達でしょー?ほら、昔みたいに楽しく遊びましょうよー。」
友知は楽しそうに剣をブンブン振りながら言った。
「…やめて!」
志穂は再び叫んだ。
友知はひたすら楽しそうに喋り続けた。
「何シテ遊ぶ?小さい頃みたいに虫の手足をもいでみようか?あんたが虫役でどう?」
「やめて…お願い…」
「それともアタシが大好きなお医者さんゴッコにしようか?はーい、オペを始めまーす。患者さんは大人しく内蔵見せてくださいねー。」
「ともちゃん!!!」
「…ここまで巻き込んでおいて今更なんだ!!!」
友知は走り出し切りかかってきた。
慌てて志穂は剣で受け止める。
友知が志穂の剣を押さえながら言った。
「あっはぁ!やっぱりチャンバラゴッコよね!でも、忘れたの?かけっこではいつも負けてたけど、チャンバラではアタシがいつも白星だったじゃないのー。」
友知は剣を引き一瞬で志穂の足を切り裂いた。
「ぐっ!」
志穂は思わず声を出す。
友知は嬉しそうに笑いながら言った。
「痛い?痛い?痛かった?ごめんね?なぁんて、この嘘つき!この体に痛覚はゼロじゃないの!!あんたの事は同じ体の私が一番分かってるんだからね!!!」
志穂は膝をつきながらも剣を構えたがすぐに降ろした。
「何それ?あたしは炎の魔女。あんたは水の魔女。水の魔法使えば勝てるのに、なーにハンデつけてんの?」
そう言いながら友知は志穂に近づき動かなくなった足に向かって上からザシュザシュと何度も刺した。
「あっははははっは!何かに目覚めそう!!あんたはどう?」
「うわあああああああ!」
その時、香矢が二人の体に体当たりをした。
友知はすっとそれを避け、香矢の体は志穂に覆いかぶさるように倒れこんだ。
友知は怒鳴った。
「ちょっとぉ!危ないじゃないの!!あんたもまぜてほしいの?」
「もう、やめるっスよ!親友同士でこんな…」
「い・や・よ。人の楽しみをとらないでちょうだい。」
「だったらもっと嬉しそうな顔をするっスよ…」
その言葉に友知は顔を歪めて言った。
「あぁん?」
香矢は友知の方を振り返って言った。。
「さっきから目が笑ってないっスよ!まるで今にも泣きそうな…」
その言葉に友知は唾をぺっと吐き言った。
「…あんたいいお尻してるわね。四つにしたらもっといい感じ。切ってあげようか?」
その言葉を聞いた瞬間に志穂の剣から水が放出され、香矢と友知の間に割って入った。
「ふぅん、仲間の危機には使うってわけ?つまんないの…」
友知は蔑んだ目で二人を見降ろした後に背を向けて言った。
「まぁ、いいや。今日は挨拶代わりだから。決着は次にしといてあげる。じゃあ、また遊びましょうねー聖女!あっははははっは!」
笑いながら友知はどこかに消えていった。
志穂は巻いていた包帯をはがした。
傷は完治していなかったので腕の内部の機械が剥き出しになる。
「ちょっと志穂さん!何やってるんスか?」
香矢が慌てて言った。
「行かないと…ともちゃんを止めないと…!このままじゃあの子は本当の魔女になってしまうよ!」
志穂は立ち上がったが香矢は言った。
「…志穂さん、言いにくいスけどあの子はもう…」
それは志穂も分かっていた。
(恐らくあの感じだと脳改造もされているはず。でも…)
志穂は首を横に振り言った。
「私を助けてくれた黒猫さんは偶然、脳改造による洗脳が解けたと言っていました。ともちゃんももしかしたら…!」
「だからってそんなに急がなくても…」
志穂は再び首を振り言った。
「急がないと…!今なら私への怨みで他の人間には興味を示さないと思いますが、いつ本物の魔女になって間違いを起こすか…!!そうなったら手遅れです!」
店の奥で聞いていたコーチが出てきて言った。
「ねっ、本当は見せようか見せまいか迷ったんだがな…」
そして手紙を出して言った。
「ねっ、ポストに入っていたんだ…」
志穂はその手紙をひったくる。
「復讐する。件の病院に来たれ。」
とだけ書かれていた。
志穂はその手紙を握りしめて鳥羽兎を飛び出して行った。
志穂は病院に一人で来た。
「ともちゃん!来たよ!姿を見せて!!」
叫んだが返事は帰ってこない。
しばらくすると聞こえてきた。
「キュブキュブキュブ!」
現れたのは、以前に志穂が倒した蜘蛛魔女だった。
「!生きていたの!?」
志穂の驚きはそれだけではなかった。
「グルグルグル!」
「カサカサ…」
「キチキチキチ」
「トチュトチュトチュ!」
「ァー!」
「キィーキ!」
「グブブブブ!」
「ソーリーソーリー!」
蜘蛛魔女だけではなかった。
犬魔女、ゴキブリ魔女、アリ魔女、冬虫夏草魔女、鮭魔女、蝙蝠魔女、カメレオン魔女、蠍魔女、
いままで志穂が倒してきた魔女達だった。
志穂は叫んだ。
「どうなっているの!?確かに倒したはずだったのに…」
「カサカサ…おマエへのオンネンをあのおカタがサッしてくれヨミガエらしてくれたのだ。」
「グブブブブ!しかし、ワレらのフッカツはフカンゼン!ユエにジカンがない!!
「グルグルグル!ジカンがないのならせめてこのウラみだけでも…!」
魔女達は志穂を囲んだ。
志穂は胸の十字架を掴んで言った。
「…私を殺すために地獄から戻ってきたってわけね。だったら何度でも倒してあげる!!」
十字架を引き千切り変身した。
悲しみの青い姿に。
「キチキチキチ!まとめてかかれ!1タイ1ではカナわないぞ!!」
鮭魔女と蠍魔女が同時に飛びかかってきた。
志穂は鮭魔女に話しかけた。
「!あんたは!もう乙芽ちゃんの事は忘れてしまったの!?」
「ァー!ダレだそれは?おマエはダレだ?ワタシはダレだ!!」
「…もはやあんたは以前とは別人ってわけね…」
志穂は悲しい顔で鮭魔女の体を裂いた。
しかし、その隙を狙った蠍魔女の針に刺される。
「ぐっ…!」
蝙蝠魔女が志穂の目の前に飛び出し言った。
「キィーキ!イゼンはツカうヒマもなかったブキだ!!」
蝙蝠魔女は超音波を発した。
「くっ、平衡感覚が…」
「カサカサ…いまだ取り押さえろ!!」
魔女に押さえつけられる志穂。
「キュブキュブキュブ!やったぞ!!」
「キチキチキチ!ばらばらにしてやる!!」
その瞬間、当たりにフルートの音色が鳴り響いた。
「ソーリーソーリー!ナンだ?」
志穂はこの光景を知っていた。
それはカマキリ魔女の時に気をひくために自分が、香矢がやった事…
そういえば、この場にはカマキリ魔女がいなかった。
(まさか、香矢さん?)
志穂が顔を上げるとそこには香矢、ではなくフルートを咥えた友知がいた。
以前のように手術着ではなくまるでジュニアモデルのような格好をしていた。
友知はフルートから口を外し言った。
「こいつに聞いたんだけど…どうだった、この登場?」
背中に背負っていた物を降ろした。
それはカマキリ魔女の首だった。
どよめく魔女達。
「グルグルグル!ワレらガワのはずのドラゴンヴァルキリーが…」
「トチュトチュトチュ!ウラギったか!」
その言葉に心底つまらなそうな顔をして友知は言った。
「はぁ?別にそんなつもりないけど?」
「キュブキュブキュブ!ならばナゼカマキリ魔女を…!」
「あぁ、これ?だってこいつ弱すぎるんだもん。アタシは弱い奴が大嫌いなの!!」
友知はカマキリ魔女の頭を蹴った。
「カサカサ…ワレらガワのドラゴンヴァルキリーがランシン…!シュクセイせよ…!!」
「ふん、死にぞこないが何言ってるんだか…」
友知はあくびをした後に胸の十字架を引き千切り緑色の姿に変身した。
(ともちゃん…?助けてくれてるの?)
しかし友知の顔はあくまでつまらなそうだった。
「臭い顔近付けないでよ。」
蜘蛛魔女の首を切り落とし
「…フン!」
犬魔女を蹴り殺し
「正直、触りたくないんですけどー。」
ゴキブリ魔女を近くの鉄柱で刺し殺し
「アタシ、あんたを見ると無性に踏みつぶしたくなるのよねー。」
アリ魔女を踏み殺し
「あんた、何か気に入らないのよ。」
冬虫夏草魔女を千切りにし、
「コウモリの生き血って美貌に効くのかしら?」
コウモリ魔女に噛みつき血を吸いつくし
「もう少しものまねの勉強をしてから出直してきなさい。」
カメレオン魔女を袖から伸びた植物で締め上げ
「そういえばあんた殺したのは私じゃなかったっけ?」
蠍魔女の頭を叩きつぶした。
(強い…)
志穂はその光景をただ見ていた。
「さってと」
全ての魔女を秒殺し、柔軟体操をしながら
「前座は終わり。遊びましょうか聖女さん。」
剣を志穂に向けた。
「ともちゃん、正気に戻って…」
「何で戦闘能力の低い緑色の服を選んだか分かる?だって聖女さんまた青い服なんだもんねー。植物の力で聖女の体中の水を吸いつくそうかなって。」
「聞いて、ともちゃん!」
「お前こそ聞け!!」
友知は切りかかってきた。
志穂は水のバリアを張った。
友知は嬉しそうに言った。
「今度は魔法戦?そうそう、これこそアタシが求めていたものよ!!」
友知の袖から再び植物が伸び、水のバリアを吸収した。
「はい、ごちそうさま。」
そのまま植物は伸び続け、志穂の体に巻きついた。
友知はニヤリと邪悪に笑い言った。
「やったー、聖女を捕まえたぞ!チャンバラに続きアタシの2連勝だね!あっ、これで終わりだから完勝かぁ。」
友知は無邪気にピョンピョン跳ねている。
志穂はもがきながら言った。
「負けられない…ここで負けたらともちゃんはもう戻れなくなる…」
その言葉にピタと友知は止まり言った。
「そうだね…これはゲームです。聖女が負けたら罰ゲームは人間の皆殺し…つ・ま・り・これから人間が滅ぶのは全部アンタのせい。罪深い聖女ですねぇー。あっははははっは!」
「私が…勝ったら…」
「あん?」
小さな声だが強い意志を持ったその声は友知に届いていた。
「つまりアタシへの罰ゲーム?言ってみなよ。なるべくソフトなのをお願いしますぅー。聖女様ぁ―。」
祈るポーズをとりながら馬鹿にする友知に今度は力強く志穂は言った。
「私の命はあげる!それでともちゃんの気が済むのなら!!でも、これからは私の代わりにドラゴンヴァルキリーとして生きて!魔女の手から人間を守って!!」
友知は無表情で何か考えた後に言った。
「…勝ってもあんた死ぬじゃん。」
「それが…」
志穂は再び力強く言う。
「それが私の罪ならば…ともちゃんのお母さんをともちゃんを巻き込んだ罪は償わないと。」
友知は後ろを向き呟いた。
「開き直ってんじゃねーよ。」
そして志穂を解放し立ち去ろうとする。
その後ろ姿に志穂は話しかけた
「と、ともちゃん?」
友知は変身を解いて後ろも向かずに言った。
「…勘違いすんなよ。アタシがまだ遊び足りないだけ。ここでエンディング迎えるのが気に入らないだけ。もっと楽しませてもらうよ。」
そう言って去って行った。
その姿を見ながら志穂はまだ友知に人間の心があると思うのだった。
第十三話
弱点
志穂は鳥羽兎の店先の掃除をしながら物思いにふけていた。
(ともちゃんを止めるには言葉だけじゃ駄目なのかな…)
靴の先を何かが舐める感じがした。
どこから迷い込んできたのか、柴犬がいた。
人懐っこいので人に飼われているのかもしれない。
志穂は柴犬に話しかけた。
「どうしたのですか?お腹でも空きましたか?」
柴犬は志穂の方を見ながら尻尾を振っている。
その時、店の中から香矢とルリが出てきた。
「志穂さん、掃除終わりましたっスか?」
「あー!どうしたのそれ?可愛い!!」
ルリが柴犬の頭をなでる。
志穂はその光景に微笑んで言った。
「分かりません。お客さんの犬とは違うみたいですし…」
何かを思いついたのか香矢の目がひかり、言った。
「何を隠そう、そいつはあちき愛用のバターけ」
言い終わる前に、ルリの平手が飛んできた。
「そういえば、今日から新しいバイトが来るってね。」
店の中に入ってルリが話し始めた。
ほほを撫でながら香矢が答える。
「あぁ、ひとみさんが辞めたからその代わりっしたっけ?いいなぁー結婚退職!」
志穂がそれに驚き言った。
「えぇ!?ひとみさんって結婚して辞めたのですか!?」
ルリが溜息をつき言った。
「香矢~、分かりにくい冗談言うのやめなって!彼氏が出来て忙しくなったから間違ってはいないかもしれないけど・・」
香矢が目を輝かせながら言った。
「いいな~、ひとみさん。きっと「君の瞳に乾杯」とか言われてるっスよね~。羨ましい話しっスよ…」
「…ねっ羨ましいか、それ?」
そんなバカ話をしているとコーチが帰ってきた。
「ねっ、買い物ついでに新人を連れてきたよ。」
そう言うコーチと一緒に入ってきたのはマリだった。
「マリさん!?」
香矢と志穂が同時に声を出す。
ルリもその声に驚く。
「えっ、二人の知り合い?」
マリはペコリとおじぎをし、言った。
「今日からお世話になります。名前は…」
と自己紹介が終わる前に
「クーン」
と先ほどの犬がマリによってきた。
マリは驚いて言った。
「あれ?マユ!何でお前がここにいるの!?」
マユと呼ばれた犬はマリのズボンを必死に引っ張っている。
志穂が聞く。
「その犬さんと知り合いですか?」
マリはマユと呼ばれた犬の頭を撫でながら言った。
「うん、私とユリが小さい頃に拾った犬でね…ユリが前に住んでいたアパートの大家さんに預けてたはずだったんだけど。何でここにいるんだろう?」
マユは必死にマリを引っ張っている。
「…もしかしてこの子、ユリさんの居場所に案内しようとしているのでは…」
そう言うと、志穂はエプロンを外しながら言った。
「行きましょう。マリさん。」
マリはうなずいた。
二人が出て行った後に香矢が言う。
「あのー本来ならここでマリさんとバイト交代のシフトっスが…」
コーチが香矢の肩をポンと叩き言った。
「ねっ、緊急事態により、このまま香矢のシフトに変更!」
「そ、そんなー!」
香矢がおおげさにリアクションする。
ルリはクスリと笑い言った。
「いいじゃん、家帰っても暇なんだから。」
ここはある町の防空壕。
ユリはこの奥に捕まっていた。
その目の前には彼女の両親の仇…ワニ魔女がいた。
「ニニニ!イマ、おマエのリョウシンにアわせてやるからな!!」
そう言うと、口を大きく開けてユリを飲み込もうとした。
「おあずけ。」
そう言ってワニ魔女を蹴りあげる人物がいた。
友知であった。
「そいつはドラゴンヴァルキリーをおびきよせる大事な囮だよ。食うのはその後。」
ワニ魔女はひるみつつも従った。
どうやら魔女は友知の命令に従っているようだ。
力の差ゆえだろうか。
友知はユリの猿ぐつわを外して言った。
「はーい、元気してる?」
ふざけた事をいう友知を見つめながらユリは言った。
「夜葉寺院ちゃん…もう、私の知っている子ではなくなってしまったのね…」
それに対し友知は小馬鹿にしたように笑い言った。
「そうだね、夜葉寺院 友知はもう死んだんだよ…ここにいるのは復讐だけが生きがいの哀れな道化魔女でございまーす。」
「ニニニ!ダレかキた!!」
ワニ魔女の声に友知は振り向き言った。
「…こっちから教える前に来るとはね。鼻が効く事で。さぁて、今日はどう遊ぼうかな?あっははははっは!」
志穂とマリはマユの案内で防空壕の前にいた。
マリが言った。
「この先にユリが?」
「マリさん、マユさんと一緒に隠れててください。敵が出てきました。」
志穂がそう言うと、防空壕の奥からワニ魔女が出てきた。
ワニ魔女は志穂の姿を確認し言った。
「ニニニ!おマエをコロしたらあのオンナをクっていいってドラゴンヴァルキリーサマはイってくれた!」
志穂は胸の十字架を握りしめた。
「…ともちゃんもいるのね。」
十字架を引き千切り、黄色い姿に変身した。
「ニニニ!ガァー!!」
ワニ魔女は大口を開けて突進してきた。
口をかわし、腹に蹴りを入れる志穂。
ワニ魔女は吹っ飛んでいく。
志穂は叫んだ。
「こんなもので…私を倒せると思っているの!?」
「思ってるわけないじゃん。」
防空壕の中から友知が出てきた。
「やっぱり、ともちゃんだったのね…」
「ニニニ!ドラゴンヴァルキリーサマ!チカラをカしてクダさい!!」
「じゃ・ま」
駆け寄ったワニ魔女を友知は蹴りあげた。
再び吹き飛ばされていくワニ魔女。
志穂の方を見て友知は言った。
「今日は決意の黄色か…ついに本気を出してくれるって事?嬉しいよ、聖女。」
志穂は剣を握りしめながら答えた。
「言葉だけじゃ…ともちゃんは止められないと思ったから!!」
「その通り!体張ってどっからでもかかってこい、つーの!!」
友知も胸の十字架を引き千切り志穂と同じ黄色い姿に変身した。
「さぁてと魔女と聖女の電力、どっちが上か…勝負といこうか!!」
雷雲が現れる。
二人は同時に剣を構える。
カミナリは…片方の剣にしか落ちなかった。
友知の剣にしか。
「あっはははっは!この勝負、アタシの勝ちだね!それじゃあ、痺れちまいな!!」
志穂の体に電撃がぶつけられる。
しばらくバチバチとうるさい音して、それが消えると、志穂は倒れていた
そんな志穂を見て友知が言った。
「あっはははっは!黄色い服で良かったね!他の服なら電気に耐性なくてっ即死だよ!!」
動けない志穂に近づいて行き、友知は言った。
「さてと、どうするかね?」
「ニニニ!さすがはドラゴンヴァルキリー様!!」
元気になったワニ魔女がかけよってくる。
それを不機嫌そうに見つめた友知が言った。
「あん?まだいたのお前?」
「ニニニ!?」
「アタシはねぇ。弱い奴が嫌いなの!!」
一瞬でワニ魔女を真っ二つにした。
「…ったく、何かの役に立つかと思ったらとんだ役立たずだよ。」
ふーと深呼吸をしてから再び志穂を見つめて言った。
「あんたにも幻滅ぅ―。ちょっと早いけど、ここでエンディングにする?」
志穂は電撃の痺れで答えられなかった。
「無視すんなこら。」
友知は志穂の頭をカンと蹴った。
その時けたたましく
「ワンワンワン!」
という犬の鳴き声が鳴り響いた。
「駄目!マユ!!」
マリの叫び声も聞こえる。
志穂は目を開いた。
おぼろげな目に友知に吠えるマユの姿が映る。
(駄目!逃げて!!)
友知は自分に吠え続ける犬をジーとしばらく見つめた後に、変身を解いた。
「…次は楽しませてよね聖女さん?じゃあねー。」
友知はそう言って去って行った。
「志穂ちゃん!大丈夫!?」
マリがかけよってきたが電気を発している志穂には近寄れなかった。
(何で助かったんだろう?)
マユはまだ吠えている。
ふと昔の事を思い出す。
友知は小さい頃に犬にお尻を噛まれた事があった。(もっとも自分でちょっかい出した結果で自業自得なのだが。)
それ以来、どんな小型犬にも近寄れなくなるぐらい犬が苦手になったのであった。
(フフフ、まさかね。)
マリは少し電気が抜けた志穂の顔を覗き込み言った。
「あれ志穂ちゃん、何か笑ってない?」
第十四話
父との再会、そして
(ようやく、奴らの尻尾がつかめそうだぞ…)
彼はあるビルの地下に潜入していた。
そこは世間で魔女と呼ばれる者達のアジト…とでも呼ぶべき場所だった。
(この場所を暴いてマスコミにでも持っていけば…今なら魔女の数より普通の人間の方が多いからまだ間に合う。)
彼は魔女対策本部のリーダーであった。
(マリ達の方は大丈夫だろうか?有力な人材を見つけたと言っていたが…)
しかし、このアジトの潜入でいっぱいいっぱいだった彼は返信のメールを送れずにいた。
(ある程度の証拠を掴んだら返信を送らな)
そこまで考えたところで後ろに気配を感じた。
「しま…!?」
遅かった。
サイの姿をした魔女に捕まってしまった。
「サイサイ!シンニュウシャ、ツカまえた!」
ぐったりした彼を引きずりながらサイ魔女は歩いていた。
「サイサイ!ショケイ!どんなショケイ?クルしいショケイ!!」
「待ちな。」
いつのまにか友知が立っていた。
「何か楽しそうな話をしてるな…」
「サイサイ!これはドラゴンヴァルキリーサマ!シンニュシャミつけた!!」
「侵入者?」
友知は捕まった男の顔を見て言った。
「こいつは魔女対策本部のリーダーじゃないか…そういえば魔女のアジトに潜入するとか言ってたっけ?」
「サイサイ!ショケイ!シュクセイ!」
友知は少し考えて言った。
「そういえばこいつは…処刑よりも良い事を思いついたぞ。」
友知はニヤリと笑い呟いた。
「ここらでゲームをもっと盛り上げないとね、聖女さん?」
鳥羽兎には新しい兎…の姿をした店員が二人いた。
マリとユリだ。
値踏みするように二人を見ながら香矢が言った。
「さすがに大人の色香?みたいなものがあるっスね…目の保養?でも、肌をもっと出してくれたほうがもっとこう…」
ユリがクスりと笑い言った。
「田鶴木ちゃんも同じものを着なくちゃいけないのを忘れてない?」
「だー!やっぱやめやめっスよ!こう見えて毛深いんっスから!!ねっ、志穂さん?」
「…何でそこで私にふるんですか…」
自分に話がフられるとは思わなかった志穂が答えた。
「ほら、思い出してっス?あの夜の事を…」
「そんな夜ありません!」
そこで携帯の音が鳴った。
3人がその途端に自分のポケットを探す。
「あっ、そういえば家に忘れてきたんだっけ。」
とユリが言った。
「あっ、そういえばパソコンにつないだまましたっス。」
と香矢が言った。
最後にマリが取り出し言った。
「ごめん、私のだった…!リーダーから連絡だよ!」
全員がマリの携帯を覗き込む。
ユリが驚いて言った。
「何これ…HELPって!?」
しかし、それよりも志穂が驚いたのは
「…この送信者名…田合剣 一志?…!」
マリが志穂の方を振り返って言った。
「うん、リーダーの名前…言ってなかったっけ?」
その名前は志穂がよく知る…
香矢が言った。
「田合剣って志穂さんと同じ名字っスね。珍しい名字だと思ってたんスけど…」
志穂は答えた。
「それはそうですよ。私のお父さんの名前です。」
3人は驚く。
マリが口を開いた。
「…そうだったの。リーダーは私達の心配ばかりをして自分の事は全く話さないから知らなかったわ…」
志穂はため息まじりに言った。
「…そういう人なのですよ。昔から自分の事より他人を優先する人なのですよ…」
「はぁー血っすかねぇ?」
香矢が変な感心をする。
志穂は続けて聞いた。
「マリさん、他には何か書いてありませんか?」
「えっ?何か地図が添付されてるけど…」
それを聞いたユリが肩を震わせて言った。
「それってどう考えても…」
「罠…っスよね?」
香矢も同意する。
しかし、志穂は言った。
「そうかもしれませんが…行くしかないと思います。少しでも手掛かりがあれば…」
志穂は父親が捕まったビルに着いた。
(ここにお父さんが…?)
そう思いつつも信じてはいなかった。
ビルの中に入ったが静まりかえっていた。
(この雰囲気…あの病院に似ている…)
嫌な予感がする。
地下に降りる階段を見つけたので降りて行った。
(お父さん…無事でいて…!)
ビルの地下はとても広かった。
何部屋もあり、開けた部屋の中には見るのもおぞましい手術器具や何かのホルマリン漬けがあちこちに置いてあった。
志穂の中の嫌な予感が膨らみ始める。
(ここは…やっぱり…)
考えているところにフルートの音色が鳴り響く。
振り向くと、廊下の奥から友知が歩いてきた。
フルートを投げ捨てると友知は言った。
「よくここまできたな、聖女…だが、おぬしの冒険はここまでじゃ!」
志穂は胸の十字架を握りしめて言った。
「やっぱり、あんたの仕業だったのね…」
「あっはははっは!分かっててくるとか、聖女さん、勉強はできるけど頭は悪いタイプですかぁー?」
「それは…お父さんがいるから…お父さんは無事なの!?」
「知りたければこいつを倒して行くのじゃ。」
その言葉の後に壁を突き破ってサイ魔女が現れ、志穂を吹き飛ばした。
「サイサイ!シュクセイする!!」
慌てて胸の十字架を引き千切って黄色いドラゴンヴァルキリーに変身した。
それを見ながら嬉しそうに友知が言った。
「あっはははっは!こいつは今までのザコ魔女と違って強いよ?自由に好きな姿に変身できない聖女さんに勝てるかなぁー?」
「サイサイ!」
突撃してくるサイ魔女を志穂は受け止める。
しかし、ジリジリと志穂の方が押されていく。
(こいつ…!力は私の方が負けてるの!?)
「だったら!」
サイ魔女から離れて剣を構える。
電撃をサイ魔女にぶつけた。
しかし、電撃はサイ魔女の体にぶつからず、鼻先の角に集中した。
「なっ!?」
「サイサイ!このツノはヒライシンだ!そしてジュウデンカンリョウ!!」
さっき以上の勢いで突っ込んでくる。
志穂は壁を何枚も破って吹き飛ばされた。
それを見た友知は嬉しそうにピョンピョン跳びはねながら言った。
「力でも駄目!魔法でも駄目!!もう聖女さんには手札がありません!!」
志穂は立ち上がりその言葉を考えていた。
(もう、手札はない…本当にそう?力では負けた。魔法も防がれた。防がれるどころか充電されて相手を強化させてしまった…充電?)
「サイサイ!まだジュウデンはノコってるぞ!とどめだ!!」
再び突進しようと構えたが、その時志穂が再び剣を構え雷雲を呼び出した。
「サイサイ!またジュウデンしてくれるわぁ!」
カミナリが剣先に落ち、電気を帯びたまま自分の体に突き刺した。
「サイ!?」
バチバチとすごい音がし、おさまった後に志穂はふーと安堵の息を吐いてから言った。
「危険な賭けだったけど成功したみたいね…雷の力を操る姿だからあんたみたく充電できるのじゃないかと思ってね…」
「サイサイ!」
再びサイ魔女が突っ込んできた。
しかし、今度は吹っ飛ばされたのはサイ魔女の方だった。
志穂は倒れこむサイ魔女の角を切り落とした。
「サイ!?」
「これでもう充電はできないでしょ?」
再びカミナリを剣先に落としサイ魔女にぶつけた。
「サイサイ!!!」
サイ魔女は消し炭になった。
「…ともちゃんは?」
いつの間にか友知は姿を消していた。
「どこ!?」
志穂は走り出し、まだ開けていない部屋の扉を開けた。
そこには
「…お父さん…嘘でしょ…」
父がいた。
しかし、ホルマリン漬けにされたように水槽の中を漂っており、その頭はまるで中身を持ち去ったかのようにパックリと割れていた。
「何でこんな事を…」
その時、再びフルートの音色が鳴り響いた。
友知が姿を現して言った。
「何かお探しですか、聖女さん?」
友知の白々しい発言に志穂の声も震える。
「あんたが…あんたの仕業なの!?」
ニヤニヤと笑いながら友知は言った。
「別にいいじゃん。あんたはアタシの大事な物を奪った。これでお互い様でしょ?」
「ともちゃん!!」
「お互い様ではないな。まだ、間に合うかもよ?元に戻せば。」
そう言うと、友知は自分の服をビリビリと裂いた。
そこに出てきたのは肌と乳首…はなく、友知の体は透明のガラスの水槽になっており、その中に脳味噌が漂っていた。
志穂はその脳の主が自分の父親のものだとすぐに分かって言った。
「ともちゃん!!何て事を!!」
友知はニヤニヤと邪悪に笑いながら言った。
「そんなに見つめないでよね、エッチぃー」
「返して!今すぐ!!」
志穂は剣を構える。
友知は言った。
「随分と好戦的になったものね…」
「返しなさい!!」
怒る志穂を嬉しそうに見つめながら友知は胸の十字架を引き千切って紫の戦う姿に変身した。
そしてあっかんべーしながら言った。
「やなこった。」
第十五話
感情のその先に
「今回は相手が悪すぎなのかもしれないっスね…」
相変わらず、店の窓から空を見上げている志穂を見ながら香矢が呟いた。
あの、お父さんを助けに行くと行った日…
志穂は友知に無残にやられた姿で鳥羽兎の扉の前に投げ捨てられた。
店の中から飛び出してきたコーチ、香矢、マリ、ユリの方も見ずに志穂に向かって友知は言った。
「強くなりなさい…せめてアタシを楽しませるぐらいにね!!その時まであんたの父親は殺さずに大切にとっておくから。」
そう言って持っていた志穂の左手を投げつけた。
志穂の左手はすぐにくっついたが…
「心の傷の方が大きいみたいだねっ…」
コーチが頭をかかえる。
マリも頭を抱えながら言った。
「それにしても、リーダーの脳を奪われるなんて…」
3人とも事情は知っていた。
志穂が自ら話したのだ。
いつもなら巻き込みたくないと話したがらないのに。
香矢が言った。
「そんだけ落ち込んでるって事っスか…」
香矢も落ち込んでいるみたいだった。
コーチが志穂に近くに行き、言った。
「ねっ、田合剣!」
「あっ、コーチ。」
「ねっ、お前がそんな事でどうする?今もユリちゃんが魔女の事を調べているっていうのに…」
「でも、私じゃともちゃんに勝つ事が…」
「ねっ、それがどうした。」
コーチは冷たく言い放つ。
「勝てないのなら何故、勝てないのか考えなさい。ねっ、次は勝てるように。」
(勝てない理由…)
身体能力は互角のように感じた。
だとすると精神的な面で劣っているように思える。
志穂は呟いた。
「脳改造…」
「何?何?」
マリも話に入ってくる。
友知は脳改造のおかげで自由に戦う姿を選べる。
一方、志穂は感情がそのまま戦う姿に影響を与えるため自由に変身ができない。
そこに差が出ているようにも思える。
コーチが言った。
「ねっ、あるじゃないか理由が。」
そこに香矢が割り込んで言った。
「ってコーチ…そりゃ無茶っスよ。脳改造を受けろとでも言うんスか?」
「その必要はないね。訓練すれば感情のコントロールも可能だ。」
マリも言う。
「そんなの口で言うのは簡単ですけど…」
「やります。」
志穂は言った。
「ともちゃんに勝てる可能性が少しでもあるのなら…教えてください、コーチ!感情をコントロールする方法を!!」
「喝っ!」
「痛っ!」
志穂とコーチと香矢の3人は山奥のお寺に来ていた。
「ててて…何であちきまで…もっと言えばマリさんとユリさんはスルーっスか?」
愚痴る香矢にコーチが言った。
「お前は煩悩が多すぎるからねっ。ついでに鍛えておけ。」
とまたバシっと叩く。
「痛っ!それにしても志穂さん、やる意味があったんスか?さっきから1度も叩かれてないっスよ…最初から悟りをひらいてたんじゃ?」
「ねっ、やる意味はあるさ。瞑想してるだけでも自分の心の内が見えてくるもんさ。」
志穂には二人の声は耳に入ってこなかった。
こんな体に改造され、怒りに燃えた時…赤い姿になった。
ともちゃんのおばさんに殺してくれとせがまれ、悲しい思いをした時…青い姿になった。
香矢の勇気をみて戦う決意をした時…黄色い姿になった。
オットセイ達の海を慕う姿をみて優しい思いになった時…緑色の姿になった。
乙芽を差別した人達を憎く思った時…紫色の姿になった。
5つの感情…
怒り、悲しみ、決意、優しさ、憎悪。
これを変身する時に思い出せば…
志穂は静かに目を開けた。
その時、山寺に誰かが来た。
ユリだった。
「やっと着いた…魔女のアジトを一つ見つけたんですけど…」
香矢は叩かれた肩をさすりながら言った。
「でも、まだ訓練中っスよ…」
「いいえ。」
志穂が微笑んで言った。
「もう大丈夫です。」
「ヒーマー!」
そのアジトにはヒマワリの姿をした魔女がいた。
「ヒーマー!ハヤくニンゲンをシュクセイしたいよ!メイレイはまだか?」
「残念だけどその日はもうこないわよ。」
いつのまにか志穂がヒマワリ魔女の後ろに立っていた。
「ヒーマー!おマエはニンゲンガワのドラゴンヴァルキリー!チョウドイイ、おマエをコロしてナをアげてやる!!」
志穂は胸の十字架を引き千切り、赤い戦う姿に変身した。
「ヒーマー!?アツいよ!」
ヒマワリ魔女は志穂の炎で簡単に燃え尽きるのであった。
そこでフルートの音色が鳴り響いた。
友知であった。
「運のいいですこと。そいつの弱点の姿になるなんて…そいつ結構強かったんだよ?」
一呼吸置いて、また話し始めた。
「てっきり悲しみで青くなると思ったけど…それは何?アタシに対して怒ってるとか言いたいわけ?聖女のくせに生意気だぞぉー!」
そう言って胸の十字架を引き千切り青い戦う姿になった。
「代わりにアタシが青くなったよぉー!なんてね。炎は水をかければ消えるのよ。これぞ必殺、後出しじゃんけん!!」
そう言いながら楽しそうに水の渦を剣先から作り出していると、志穂が変身を解いた。
友知が意外そうな顔をしながら聞いた。
「あんた何やってるの?やけになった?ヤケ酒はハタチになってからにしなさい。」
志穂はふっと笑い言った。
「私の後出しじゃんけん…見せてあげる。」
再び変身した。
今度は緑色の姿に。
今度は驚いて友知は言った。
「どういうことよ!あんたも脳改造を受けたわけ!?」
「必要ないよ、そんなの…人間の心はそんなに弱くないよ!!」
しかし、そんな志穂を嬉しそうに見ながら友知は言った。
「あっはははっは!嬉しいよ、聖女!私を楽しませるためにそこまでしてくれるとは!!ご褒美をあげましょう!!」
そう言って変身を解除しようとしたが志穂の袖から伸びてきた植物が襲ってきた。
慌てて、剣で応戦する友知。
「こらっ、卑怯だぞ!」
「無理だよ、ともちゃん…再変身する隙を与えた時点でもう終わっているんだよ。」
「だってだって…アンタが再変身するなんて思わなかったから…触るな!エッチ!スケベ!変態!!」
必死に植物を払おうとしていたが無理だった。
やがて植物に巻きつかれ動けなくなる。
志穂は動けなくなった友知に近づき言った。
「終わりだね、ともちゃん。」
しかし、友知は睨み返して言う。
「終わり…?あっそう、今までありがとうねバイバイ。…殺しなさいよ、アタシの母さんを殺したみたいに!!」
その言葉に志穂はもう、うろたえなかった。
「そんなつもりはないよ…私はただお父さんを…ともちゃんを取り戻したかっただけ…」
「フン、取り戻せて良かったね。これからは聖女の肉奴隷として生きていきます。楽しかった日々よサラバ!」
「ムササビ!!」
その時、白いムササビの姿をした魔女が突然飛びかかってきて、強酸を志穂に向かって吐き出した。
意表を突かれた志穂は思わず、友知を縛っていた植物の力を緩めてしまう。
緩められた途端に友知は植物から抜け出す。
「ムササビ!ダイジョウブですか、ドラゴンヴァルキリーサマ!!」
友知は憎らしそうにムササビ魔女を睨んだが言った。
「ふん、一応礼だけは言っておいてあげる。バーカ。」
それから志穂の方を向き言った。
「今日はこれくらいにしといてやろう…。なんてね。」
そう言ってムササビ魔女と共に姿を消した。
後には志穂だけが残る。
「今回は運が良かっただけ…次はうまくいくかどうか…」
そして変身を解き呟いた。
「決着をつける時がきたのかもしれない。」
第十六話
さらば志穂!決着の時
友知は写真を眺めていた。
自分と母親と志穂の3人が写った写真を。
それはデジカメを初めて買った日に撮った写真。
「家族の写真に一緒に写るわけには…」
そう言ってしぶる志穂に友知は言った。
「何言ってんのよ!ほら、早く撮ろう!!」
お尻をペチッと叩いて無理やり写らせた写真。
「ムササビ!ドラゴンヴァルキリーサマ!!」
ムササビ魔女に突然話しかけられ、写真をしまうと友知はムササビ魔女の方を向いて聞いた。
「…うるさいわねぇー。何の用よ?」
「ムササビ!あのおカタがもっとツヨくしてやるからモドってこいと…」
友知はムササビ魔女を睨みつけて言った。
「何それ?アタシが聖女に負けてるとでも?」
「ムササビ!いえ、ワタシはそのようには…」
「いいわ。」
友知は立ちあがって言った。
「聖女を殺してから再改造を受けるわ…そうだ!聖女の腕をもいで取り付けてもらいましょうか!!これは名案!!」
そう言って友知は深呼吸をした。
「罰ゲーム…忘れてないよね、聖女さん?」
同じ頃、志穂も写真を見ていた。
友知と同じ写真を。
鳥羽兎の自分の部屋から出て、店の中に出るとコーチ、香矢、マリ、ユリ、ゴローがみんないた。
コーチが言った。
「ねっ、行くのか田合剣…」
志穂はコーチにペコリとお辞儀をし言った。
「お世話になりましたコーチ。」
香矢は泣きじゃくりながら志穂に話しかけてきた。
「志穂さん…絶対戻ってきてくださいっスよ!!」
志穂は香矢の手を握りしめて言った。
「香矢さん、帰ってきたら少しは女の子らしくしてくださいね。」
マリは涙をこらえながら言った。
「あなたには命を助けられたのに…何もできないなんて…」
志穂は笑顔で首を振り、
「いいえ、助けられてきたのは私の方ですよ。」
ユリも目に涙をためながら言った。
「どうして…こんな親友同士で争うような事を…」
志穂はマリの次にユリの手を握りながら言った。
「親友だからこそ、私が助けたいのですよ。ユリさんにも分かりますよね?」
最後にゴローが言った。
「志穂ちゃん。友知がこんなことになってしまって何てお詫びを言えば良いのか…」
志穂は口に手を当てて言った。
「悪いのはゴローさんじゃないですよ。だから謝らないでください。」
店を出るとマユがすり寄ってきた。
志穂はマユの頭を撫でながら言った。
「そういえばマユさんにお礼を言ってなかったですね…助けてくれてありがとう!」
そして鳥羽兎を後にしようと立ち去ろうとして、振りかえり香矢の元に行った。
「香矢さん、これを預かってもらえますか?」
「!そんなのいやっスよ!!形見を渡すみたいな…」
志穂はニコリと笑い言った。
「大事なものだからなくしたくないだけですよ。ちゃんと返してもらいますよ?」
そして胸の十字架を引き千切り、赤い戦う姿になって飛んで行った。
「そろそろ最後のゲームを始めましょう?」
そういう手紙が来て指定されたその日であった。
指定された場所は富士の樹海であった。
恐らく、邪魔が入らない場所にしたかったのだろう。
「来たよともちゃん!出てきなさい!!」
志穂が叫ぶとフルートの音色が鳴り響いた。
友知がコツコツと歩いて来てフルートを投げ捨て話し始めた。
「逃げずによく来たね。まぁ、当り前か。この胸にあんたの父親の脳があるんだからね!」
自分の胸をポンと叩きながら話を続ける。
「見たい?最後のお別れに。いやーん、聖女さんのエッチぃー。」
友知の言葉を返さずに志穂は剣を構えて言った。
「…早く戦う姿になりなさい。」
「あっはははっは!そんなに早く殺し合いがしたいわけぇー?まぁ、もう少しお話しましょうよぉー。最後なんだし。」
「もう、話が通じないのは分かっているわ。だから戦う!戦って全てを取り戻す!!」
「ふぅん。ずるいんだな。アタシはもう取り戻せないのに。神様は不公平。」
「今更、そんな言葉に惑わされると思っているの!?」
その言葉が戦いの合図であったかのように友知は青いドラゴンヴァルキリーに変身して言った。
「じゃんけんで言えばグーとパーね!アンタがグーでアタシがパー!!…パー?やっぱ訂正、アンタがパー!!!」
剣先から水を放出し志穂にぶつけようとする。
ギリギリで志穂は避ける。
友知が言った。
「あっはははっは!やっぱアンタがパー!何で最初から変身してくるわけ?弱点ついてくださいって言ってるようなもんじゃん!!」
「読みが甘いよ。」
志穂が素早く赤から緑色の姿に変身した。
「へー、つまり青くなるのを誘ってたわけ?少しは考えてるじゃん!えらいえらい。」
友知は楽しそうに青から赤に変身した。
「ほーらほら、火気厳禁。」
志穂は袖からの植物を出すのを止めて黄色い姿に変身した。
「また、電力勝負?あんた前に負けたの忘れたの?」
しかし、志穂はカミナリを友知に向けてではなく自分に向けて放った。
「あーそんな技もあったね。相手に利用されるぐらいならってかぁー?」
友知も黄色い姿に変わり自分に電撃を放った。
「充電完了ってね。」
その瞬間に志穂が切りかかってきた。
「うぉ!危ね!?」
寸前で受け止める友知。
「チャンバラかね?言ったでしょ、チャンバラはいつもアタシの勝ちだったって!」
キィンキィンと剣を切り結びながら友知は余裕の様子だ。
志穂は力を振り絞りながら言った。
「いつもアンタが勝っていたわけじゃないでしょ!!」
そういうと友知の胴に剣が入り、友知は後ずさった。
友知はそれでも余裕の表情を崩さずに言った。
「おしい!皮一枚!!でも、いいのかね?アタシの体を下手に切り裂くとファザーの脳はザバーですよん?」
志穂は紫の姿に変身をし腐食のガスを剣先から放出した。
「おぉ怖い怖い。そのガスはアタシ達の中で最強の攻撃力を持っているからね。」
そう言いながら青い姿に変身する友知。
「そしてこの水はアタシ達のなかで最大の防御方法。さて問題です。最強の盾と矛。勝つのはどちらでしょうか?」
友知が出した水が彼女の体を覆い、腐食のガスを防ぐ。
「答え。盾。」
しかし防ぎきれなかったのか、彼女の右足が少しボロボロであった。
志穂は緑色の姿に変身をし、空に向かって飛んで行った。
「空中戦?面白そう!!」
友知は赤い姿に変身して志穂を追いかけて行った。
空を二つの色が舞う。
赤、青、黄、緑、紫、
次々に変化しながら二つの色はぶつかり合う。
やがて片方の色が赤に変化したところで青に変化した方に富士山の山頂に向けて叩き落とされた。
富士の火口付近に不時着したのは…
志穂だった。
羽根を斬られ、体中は傷だらけであった。
そして青い姿の友知が近くに降りてくる。
「撃墜ぃー。良い格好ね、聖女?いやぁーん、アタシ興奮しちゃうぅー!」
そういう友知の姿もひどかった。
羽根が折れていないとはいえ手足の傷は志穂以上であった。
志穂を見下ろしながら友知は言った。
「ところでさ、さっきから青い姿に変わらなくなったのなんで?もしかして気づいちゃいけない事にアタシ気づいちゃったのかなぁー?」
志穂は剣を杖代わりにして立ちあがり言った。
「分かっていると思うけど、さっきの空中での切り合いで青くなる力がなくなったの。そういう装置?そんなのが傷ついたみたいね。」
「あっらぁー、お気の毒に!よりにもよって防御の要を失うとはね!それでどうするの?見た感じ紫に変わる力も失ったみたいだけど?この後、腐食攻撃しちゃうけどどうやって防ぐつもり?」
そう言って友知は紫の姿に変身した。
それに対して志穂は赤い姿に変わった。
友知は不愉快そうな顔をして言った。
「何のつもり?頭の装置まで壊れましたかぁー?」
志穂は剣を天高く掲げて言った。
「私が何も考えずにここに落とされたと思っているの?」
「はい?」
「私の後ろには富士山が…今は眠っているけど大地が生んだ大きな炎があるのよ!」
途端に富士山の火口から炎が噴き出し志穂の剣先に集まっていく。
友知はそれをじっと見つめながら言った。
「へーよくそんな能力知っていたね。」
「思いつき。」
「…嫌いじゃないよ、そういうの。」
「これだけの炎の力、いくらドラゴンヴァルキリーの水の盾でも防ぎきれないわよ?」
友知は剣を構えながら答えた。
「だから?」
「…」
「だから、降参しろとか言うんじゃねぇだろうな!!防いでも無駄?はっ、だったら守るより攻めろってね!!ちょうどいい、今はドラゴンヴァルキリーで最も攻撃力の高い姿だ!あんたの炎とアタシの腐食ガス。どっちが先に体を貫くか早撃ち勝負だ!!」
お互いに最後の攻撃を放った。
早撃ち勝負は…わずかに友知が早かった。
志穂が剣を振り下ろす直前に志穂の目前までガスは来ていた。
「くっ…!!!」
そのまま志穂の体を…覆わなかった。
左にそれてその後ろの
「ムササビ!」
志穂の後ろから狙っていたムササビ魔女の体を腐らせた。
「ざまぁみろ…2度もアタシを侮辱しようとしやがって…」
そして炎が友知を包み込む。
炎が消えても友知は燃え尽きたりしなかった。
しかし、変身は解けて地面に倒れた。
「ともちゃん…!」
志穂が友知のところに駆け寄って行く。
友知は志穂に抱きかかえられながら言った。
「どうだい…アタシの方が早かったろ…だからゲームはアタシの勝ちぃー。」
「…」
「何てね。あんたの勝ちだよ聖女。でも、悪いけどあんたとの罰ゲームは守れそうにないね…」
「ともちゃん、しかりしてよ!!」
「でも、あんたのお父さんはまだ間に合いそう。持って行きな。アタシが死んだ後にでも。」
「いやよ!いやいや!!ともちゃん死なないで!!」
「あっはははっは!最後まであんたはわがままだなぁー。そうだ、これ持っといてよ。」
ポケットをゴソゴソと探って取り出したのは写真だった。
志穂が香矢に預けたのと同じ写真。
友知と友知の母と志穂が写った写真。
「!ともちゃんこれ…」
「最後に恨みごとの一つでも聞いてくれるかなぁ?」
志穂は黙って次の言葉を待った。
友知は目を閉じて言った。
「ごめんね、しほちゃん。」
それが魔女ドラゴンヴァルキリーの最後の最後の言葉であった。
第Ⅱ部完
魔女ドラゴンヴァルキリー