牛として

牛として

高いところを飛ぶ
鳥をまねて鳴いてみたけれど
四角いからだは重く
脚は泥へめりこんで
わたくしの喉から生まれた音は
ただ ただ
枝を鈍感にふるわせるだけ
鳥の笛にはほど遠く
ヴァイオリンもはるかかなた
わたくしの獣を思い知らされるだけでございます
かろやかに
舞う羽のひとひら
うつくしく
蠅うるさく
むち打つ尾の
はなはだ痛く
尾には泥だか糞だか
こびりついて固まって
これはひとつの武器なのでございます
風渡る鳥は
きっと性根も空気でできていて
匂いがなく
あったとしてもかぐわしく
わたくしときたら
泥だか糞だか肉だか涙だか
重たく臭くねっとりしたもので
できあがった性根なもので
そもそも性質が異なるのでしょうから
鳴きまねのうまくできないことも
いたしかたないのでございましょう
わたくしは
時には熱く時に冷たい
野原へ立ち
蠅を叩き
空を仰ぎ
もうと鳴きましょう
そして咀嚼しましょう
なんども
なんども
倦むほど
呆れられるほど
ばかにされるほど
石を投げられるほど
咀嚼しつづけましょう
鳥のように鳴けない
牛として

牛として

牛として

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-12

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