質問の多い料理店

 久しぶりの休日に山道をドライブしていた長谷川は、そろそろ昼時なのに食事ができる場所が見つからず焦っていた。焦って知らない道に入り込み、余計に人里離れた場所に迷い込んでしまったようだ。
 ようやく、レストランらしき建物を見つけ、ホッとして車を止めた。古びた木造の建物で、看板には『本格西洋料理レストラン・ワイルドキャット』と書いてあった。もっとも、この山中にあるような店だから、レストランという言葉が気恥ずかしくなるような、さびれた感じの料理店である。
 とりあえず中に入ってみると、ランチタイムを過ぎたためか、店内には他の客は一人もいない。無愛想なウエイトレスに窓際の席に案内され、大きなメニューを渡された。そのまま立ち去ろうとするウエイトレスを、長谷川は呼び止めた。
「もう、何にするか決めてるんで、注文してもいいかな」
 ウエイトレスは何故か、一回深呼吸のような仕草をした。
「はい、承ります」
「表にサンプルが出てた、シェフのおすすめハンバーグランチってやつを頼む」
 ウエイトレスは宙を睨み、記憶を呼び覚ますためか、二三度モゴモゴと口の中で呟いてからしゃべり始めた。
「かしこまりました。おすすめハンバーグランチは、スープ・サラダ・パン又はライス・デザート・ドリンク付きでございます」
「うん、それでいい。早く持ってきてくれ」
 ウエイトレスは長谷川の言葉が耳に入らなかったらしく、しゃべり続けた。
「それぞれお好みによって、数種類の中からお選びいただけるようになっております。まず、スープですが、コンソメスープ・オニオングラタンスープ・パスタ入りトマトスープ・コーンクリームスープ・パンプキンスープ・野菜たっぷり田舎風スープがございます。どれになさいますか」
「何でもいいよ。とにかく、腹ペコなんだ」
 ウエイトレスの眉間に縦ジワが入った。
「ひとつ、お選びください」
「え、うーん、じゃあ、コンソメでいいよ」
「サラダのドレッシングですが、フレンチ・サウザンアイランド・シーザー・和風ゆずポン酢ジュレ・明太子入りマヨネーズとございますが」
「ええと、まあ、フレンチかな」
「パンとライスはどちらにされますか」
「パンで」
「パンには、バゲット・チーズ・胡桃・ハードロール・ソフトロール・ライ麦パン・雑穀パンがございます」
「ああ、普通のフランスパンでいいよ」
「それでは、バゲットで。バター・マーガリン・オリーブオイルなどはいかがでしょう」
「バターだな」
「メインのハンバーグですが、濃厚ドミグラスソースハンバーグ・チーズハンバーグ・ペッパーハンバーグ・和風おろしハンバーグのどれにいたしましょう」
「うーん、濃厚ドミなんとかでいいや」
「大きさは150グラム、200グラム、250グラム、特大400グラムとありますが」
「そうだなあ、200かな」
「付け合せのポテトですが、フレンチフライ・マッシュポテト・ブラウンオニオンポテト・ジャーマンポテトがございますが」
「ポテトなんかどれでもいいだろう。え、だめ。じゃ、フライドポテトだ」
「では、フレンチフライで。デザートは、ティラミス・マンゴープリン・チョコレートムース・ヨーグルトアイス・抹茶アイス・バニラアイスのどれがお好みでしょうか」
「もう、もう、アイス、バニラアイスでいいよ」
「最後のドリンクですが、ぶどう果汁100パーセントジュース、ブレンドコーヒー、アメリカンコーヒー、エスプレッソ・カプチーノ・カフェオレ・ダージリンティー・アールグレイティー・ハーブティーがございます。なお、ハーブティーは、ローズヒップ、カモミール、レモングラス、ミントからお選びください」
「あー、うー、えー、申し訳ないけど、キャンセルしてくれないか」
「はい、どこかチョイスをご変更ですね」
 長谷川はため息をついた。
「いや、そうじゃない。聞いてるだけで、お腹がいっぱいになった。もう、帰るよ。道を教えて、あ、いい、いい、自分で調べるから」
(おわり)

質問の多い料理店

質問の多い料理店

久しぶりの休日に山道をドライブしていた長谷川は、そろそろ昼時なのに食事ができる場所が見つからず焦っていた。焦って知らない道に入り込み、余計に人里離れた場所に迷い込んでしまったようだ。 ようやく、レストランらしき建物を見つけ…

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted