天才女子の卓球人生
2301年。部活動は劇的な進化を遂げた。それぞれの学校に「領土」が与えられ、領土で練習に励み、強くなっていく。その領土にいるメンバーは練習場所を優先的に確保できる。そして、その領土を賭けて「領土戦」を仕掛ける事ができる。負けた学校は勝った学校に忠誠を誓い、いわば「奴隷」と化するのだ。
2311年。学校間でも派閥に分かれる事ができるようになる。それぞれ、「パーティー」を組む。こちらに人数制限はない。そのかわり、持てる領土に制限があり、大会も少ない。パーティーを組み合わせると「レギオン」となる。「レギオン」になるには、種目ごとに必要最低限の人数は決まっている。しかし、領土制限は飛躍的に軽くなり、都道府県を支配できる。大会もたくさんある。もし、レギオンを超えたいのなら、「ギルド」を作る事ができる。ギルドには、選手の人数、マネージャーなどの補佐役の最低人数も決まっており、レギオンよりも必要となる。さらに、2つ以上の学校が合わさらなければならない。その代わり、領土制限はなく、世界征服も可能。尚、すべてにおいて男女制限はなく、中体連も男女混合となっている。
そんな激動の時代。ある女の子が誕生した。
第1章第1部〜俺らのエース〜
桜が舞うこの季節。俺こと渡辺千紘は今日、文月学園中等部に入学する。小等部の頃からここにいて、やっと中等部に来た。3人の卓球仲間と共に。
「千紘ー?起きてるー?」
あの声は、反町だな。反町がいるって事は…
「早く出てこねーと置いてくぞー!」
出た、和田ちゃん。
「今行く!」
そう叫ぶと、俺は家を飛び出した。
「今日から中学一年生か!」
「卓球部に入りたい。」
思い思いのことを口にしながら歩いていく。あいつの家は少し俺らと離れているから、俺ら3人で歩く事になるのだが。
「そうだ!競争しようよ!」
「良いぜ。今日こそは勝ってやる。」
「いっくよー、よぉ〜いどん!」
…あれ?俺、置いてかれてる?
「待てよー!俺は!?」
俺は走り出した。輝く中学校生活へ。そして。
「また競争してたの?」
俺らのエース…緑川なおのもとへ。
「今日は僕が勝ったね!」
「…明日は負けねぇ」
「ほらほら、遅刻するから早くしなさい!」
ぜぇはぁ言ってる俺ら3人を気遣いながら、なおは歩いていく。
なおは、今日もポニーテールだ。サラサラの髪、キラキラの瞳、その甘さを隠すかのような眼鏡、すらっとした手足、女子の中では高めの身長。胸はないけど、むしろその方が絶対良い。即ち、美人。男女問わず人気がある。その上、頭も良いと来たもんだ。
だが、俺はなおの本当の凄いところを言ってない。なおの一番凄いところ。それは…
「なお、卓球部入るのー?」
「うーん…今、迷ってるんだよね。」
「えぇ!?負けた事無いのに?」
なおの凄いところ。それは、卓球で、1度も負けた事が無い。
第1章第2部〜
「何で何でなんで?」
反町が身を乗り出して聞いていた。なおは少し困った顔をしてから、
「だって、部活にはダブルスもあるだろうし、知らない子と団体戦をやるかもしれないし…私みたいな人が入るようなところじゃ無いと思う。」
相変わらずマイナスな捉え方だなぁ。まぁ、心で言ったって聞こえ無いけど。
「勿体無いよー。なおは卓球が大好きなのにー。」
反町は泣かんばかりの顔だった。和田ちゃんは、何かを考えているようだ。そして、口をひらいて
「あほ反町。そんなんで世界一のダブルスパートナーになんて絶対なれないぞ。まだ時間はあるんだ。しっかり部活の雰囲気を見て、焦らず決めた方がいい。」
「でも、本当に入らないのは勿体無いよ!」
2人はギャーギャー言い始めた。その様子を見ていると、なおがこっちに向かって、
「ちぃちゃんは?部活に入るの?」
と言ってきた。俺は咄嗟に答えが頭に浮かんだ。しかし、これを言ってよいものか。これは、俺の自己満足だ。他の3人に迷惑にもなる。・・・でも。
「あぁ、入るぞ。そして・・・もう一回、STAR☆ANISを復活させる。」
・・・言ってしまった。聞こえていたのか、和田ちゃんと反町の口げんかもぴたりと止んだ。なおは、一瞬驚いたような顔をした。しかし、すぐに戻った。代わりになおの、試すような、探るような、挑戦的な眼が向けられた。俺も、本心で言ったのだから、負けるわけにはいかない。見つめ返した。
「・・・STAR☆ANISはなくなったの。・・・きっと、一生取り戻せない。」
そういい残すと、なおはさっさと歩き始めた。その後ろを、三人で歩いていく。無言で。
桜の花びら散る道を。
校門前に着いた。なおは、とまった。その右隣に、反町が。左隣に俺が。俺の右に、和田ちゃんが来た。この並び方は、パーティー、STAR☆ANISを組んでたときに、よくやった。気づかずに俺らはこの並びになっていたらしい。でも、あの時と違うのは。空気が重い。こんなとき、何て言えばいいのか。俺にはわからない。
不意に口を開いたのは、反町だった。
「もし・・・もしさ。部活に入って・・・ううん、入らなくっても。STAR☆ANISを続けたいって。そう思う心が、少なくとも僕にはある。準備ができたら呼んでよ、すぐに飛んでいくから。」
反町は歩き出した。それに引っ張られたように和田ちゃんは、
「ったく・・・。俺にもあるっつーの。その気持ち。スタアニは、俺の大事な場所なんだ。」
追い抜かす勢いで歩いていった。
「あぁ!僕の方が先にいったのに、抜かされてる!」
「お前がチビだから、さ。歩幅もちっせーんだろ。」
「むぅ!そんなことないもーーーん!」
二人の声と姿は同じく入学してくるやつに紛れてわからなくなった。残ったのは俺となおだけ。さて、何と言ったものか。
「・・・おかしいでしょ。」
なおは急に自虐的な微笑をうかべた。
「STAR☆ANISは解散したって言いながら、心で存続を願ってる。今だって、エースとか、そんなこと言っておきながら、新しい場所に怖くていけない。たった一本の線を越えることができない・・・。もう、こんなの、笑いものにしかならないよね・・・。」
どこか遠い空を見るようにして、、なおは打ち明けた。・・・なおを助けてやれる方法は、きっと一つ。俺は一歩前に出た。そしてなおの手をとり、こっちへ引っ張ってやる。
「ちぃ・・・ちゃ・・・?「もっと頼れよ。」
今度は俺が、なおを見つめた。なおの目は、少し赤くなっていた。
「一人が怖いなら、俺がついてってやる!俺一人じゃ、役不足かもしれないけどさ、そしたら、和田ちゃんも、反町も、一緒に行くぜ。なおは、強い。だから、無理に解散する必要なんてないんだよ。なおが続けたければ、続ければいい。怖いなら、頼ればいい。それが・・・チームってやつだろ。」
なおの手を強く握り、言葉を選んで話す。すると、なおは笑った。さっきの自虐的な笑いと違い、軽い、楽しそうな笑い方だった。
「・・・うん、ちぃちゃんは、大分成長したね。でも、まだリーダーとして決定的に足りないものがある。それを手に入れたら・・・」
-STAR☆ANISをやりなおそう。一緒に。
第2章第1部
俺は一年二組か。反町や和田ちゃんとはクラス別れたが、俺としてはまぁ、嬉しい面もある。委員会で、一緒になれる!という、簡単な話だが、結構重要な事。本当は、卓球に集中するためにこんな事したくないのだが。それ以上に、なおが卓球出来なくなるかもしれないのだ。それは阻止しなくちゃいけない。・・・のだが。
がららら。扉が開いた。そして、クラスの喧騒もピタリと止んだ。なおが入って来たんだろうな。男子女子、性別問わずある1点を見つめている。今は自由に座っていいそうなので、俺ははしっこの席を取ったから隣は居ない。すると、事もあろうことか俺の隣に座った。クラスの注目が一気にこっちへ集まる。あのかわいい子だれ?隣の奴とどんな関係?等のヒソヒソ声まで聞こえてくる。ああー。目立ちたく無かったんだけど・・・。
「ちいちゃん、もう友達出来たんだ。」
・・・は?なお、ちょっと待ってくれ。どこをどう見たらそうなる?
「注目の的だよー。皆こっち見てるし。」
いや、こんな状況を見て友達とかよく言えるな。あと、俺じゃなくて、なおをみてるんだよ!なおが来るまで俺は1人だったよー!・・・を、まとめると。
「見てるのは、俺じゃなくてなおだ。」
「そんなことない。現に私は、まだ誰にも声を掛けられてない。」
あ、ちょっと拗ねてるな。皆緊張しちゃって話し掛けらんないんだろ。
「いいな・・・友達がたくさんいて・・・。」
なお・・・。必ず俺がこのクラスに友達を作ってやるよ。・・・なんて思ってたら。
「おはよー・・・。」
お?新しい奴だ。何かぱっとしねーな。俺が言えた事じゃねーけど。
「・・・絃人!?」
どうしたなお!?知り合いか!?
「あ・・・なお?なおなの?」
「ええ。なおよ。久しぶりね。フェアリー・ミュージカルはどう?」
・・・フェアリー・ミュージカル?まさか。
「・・・フェアリー・ミュージカルの佐々木絃人!?」
しまった。大声を出してしまった。・・・しかし、皆そんなの気にしてる場合では無かった。
事もあろうことか、二人は一緒に教室から出ていった。・・・え。えーっと・・・
「フェアリー・ミュージカル・・・。」
それは、恐らくこの地区で活動中のパーティーの中で最強だろう。活動中の、な。しかし、あいつらはてっきり蘭越中とか、北沢中にでもいくのかと・・・。あいつらの頭脳じゃあ行けるやつと行けない奴がいると思うのだが・・・?来たのは佐々木絃人だけなのか?いったい何がどうなっているんだあああぁぁぁ!!!・・・今なら間に合う筈だよな・・・。和田ちゃんは1組だったはず。今すぐ報告して何とかしないと!!
という焦りを胸に、固まったままの教室から出た。焦っていたからか、誰かとぶつかった。その人も、1組に入ろうとしていたようだが。ちょうど、俺の頭にその人の顎が乗った様にぶつかった。こいつデカイ。頭の中でそう思いつつ、すいません。と謝る。そこで初めて顔を見た。つり目・・・なのだろうか。それとも怒っているのか。全身真っ黒だが、纏ってるオーラも黒いので恐らく前者ではないだろう。しかし、胸ぐら掴まれる事はなく、
「いえ、おきになさらず。・・・少し、ぼーっとしていた僕が悪いので・・・」
むっちゃ穏やか~な話し方だった。もっと"どこ見て歩いとんじゃい!"とか言われるかと思った・・・。内心冷や汗をかいていたら、ずずいっと顔を近づけられた。
「な・・・何ですか?」
どうにかそれだけ言うと彼は実際に汗をかいていた。暑い・・・のか?
「渡辺・・・?渡辺千紘?」
え。知り合いだったっけ。俺の記憶に無い。
「はぁ・・・。俺は渡辺千紘ですが。・・・知り合いでしたっけ」
今度はあっちが、え。という顔をした。待ってくれ。本当に知り合いだったか?俺が忘れているだけ?鏡を見たら大爆笑の顔だな、多分、今の俺。
「いや、知り合いもなにも・・・一緒に卓球、やってたけど。」
彼は呆れ顔だった。
「・・・ほぇ?あの・・・人違いでは?」
どうしてーーーーーーーーも思い出せない。
「とりあえず・・・僕の名前は・・・」
「あ、響希だ~~~!」
ばっと後ろを見ると、フェアリー・ミュージカルの佐々木絃人となおがいた。・・・響希?
「思い出したようだけど、一応言っておく。・・・僕は・・・」
ーーー鉄壁砲弾・名古谷 響希ーーー
そういい残し、彼ーーー名古谷は隣を歩いていった。
「・・・て、あ。和田ちゃん忘れてた。」
「人の事を忘れるな。」
「・・・和田ちゃん!?いつから!?」
後ろには、涼しい顔をした和田ちゃんが仁王立ちで立っていた。声は至って穏やかだが、顔が笑っていない。俺の後ろをいつの間にとった。
「お前らが場所もわきまえずに抱き合っていたところ辺りだな。」
「全部じゃねーか!あと、抱き合ってたわけではない!ぶつかっただけだーーーーー!!」
ああ、完全に遊ばれてるな。なおといい、和田ちゃんといい、皆酷ぇ。でも、さっきの震えそうな気配はない。
「・・・で?佐々木絃人と名古谷響希?あの二人だけじゃないだろ。」
「ああ。あと4人。来ないかどうか、心配になってきた。」
「来てるだろうな。」
「・・・え?」
「耳を澄ましてみろよ。」
少し呆れ気味の和田ちゃん。で、よーく聞いてみると・・・
ーーーりょーこちゃん!?久しぶり!!!!!ーーー
ーーー反町!?あんたもいたの!?ーーー
・・・・・・・りょーこちゃん?
「知り合いだったか?」
「お前はボケ老人か。富樫涼子だよ。」
ああー、富樫涼子。・・・誰。
フェアリー・ミュージカルと言えば、名古谷響希、佐々木絃人、爲國直樹、・・・あとは・・・
「・・・本当に覚えてねぇのかよ。」
「すまん・・・。」
「・・・まあ、富樫は反町に任せたとして。・・・どうする?」
「何を?」
「後ろ」
何だ何だ。後ろには何もないじゃないか。いきなりどうした。なのに。どうして今頬に指があるのだろう。だれかいるのか?だれだー!
「・・・さっきから、邪魔。・・・入れないんだけど。」
!?眼鏡君、という渾名は君のものというくらい眼鏡が似合う男の子。いつのまに!?入れないっていってたってことは結構前からいたよな。
「・・・ねぇ・・・聞いてる?・・・入れないんだってば」
あーっと。こいつも1組なのかい?
「・・・それ以外何があるのさ。」
!?!?!?!?今、俺の心を読んだ!
「・・・あれ?君、渡辺千紘だよね・・・。」
「そうだ、爲國。」
和田ちゃん!!!助けてくれたのか。あれ。でも、爲國って眼鏡だっけか。
「・・・別に、目が悪くなったから。」
こいつ、心を読めるのか?
「・・・あのさぁ、心を読めるのは、卓球だけじゃないよ。」
そうそう、こいつは心を覗いてくるんだ。
「・・・じゃあ、また今度。」
・・・今年の文月は大波乱の予感。
「じゃあ、俺も行くわ。」
「あ、おう。また後でな。」
・・・もうすぐ入学式だ。
第二章第二部
「それでは、入学式を始めます。」
・・・ねみぃ。最っ高にねみぃ。あれ、昨日8時間は寝た筈だよな・・・もう寝ようかな・・・おやすみなさーー
「ちーちゃん?寝ようとしてないよね・・・?」
・・・なおがいるんだったー。これじゃ寝れん。でも、周りを見ると和田ちゃんも寝てるし、爲國も寝てるし、よく見たら殆ど全員寝てるし!
「これからしばらくしたら校歌を先輩達が歌うんだから、しっかり聞いててよー。」
え?何でそんなの・・・
「・・・後で覚えれば良いじゃんか・・・」
「テストはどうする気ー?」
天才女子の卓球人生