初恋

一年中冬が恋しいのは、冬のはじまりに出会い、冬の終わりにさよならしたいくつもの思い出を頼りに、常にその思い出への憧れを抱きながら、そうでない季節を生きているからなのだと気づいた。

春、空気や風のおと、地面のにおいから感じる生きる歓びに心が震える。夏の夜の、川沿いに連なる屋台の柔らかな灯りに郷愁を感じ、秋深く、空高く、街の色が少しずつ落ち着きを取り戻した頃に、その季節はやってくる。

少しずつ、しかし確実に近づいてくる。

吐いた息の白さに、よく冷えた朝の陽の光に、真っ白な雪原を踏みしめるその瞬間に、毛糸のセーターに袖を通す時に、また新しい季節が来たのだ、とわたしは思う。

既にどこかで出会ったはずの思い出が、いつだってわたしには初めてのように感じられる。毎度心が動き、泣きたくなるほど嬉しくなる。冬になると、毎日がそんな気持ちで溢れている。

まだ見たことのない冬の世界に、わたしはいつだって恋い焦がれている。何度季節が巡っても、出会う度に思う。これが初めての恋だと。

初恋

初恋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted