静かにながるる
(お昼から学校へ行った)
「お昼から、がっこーへ行った」
(ゼミのレジュメの準備をして)
「ゼミ、のれ、じゅめを、準備して」
(それからバイトに行った。今日はオープン以来初の新入りバイト君が来る日で、)
「そーれーから、バイトにいっ、た。きょーは、おーぷん以来はつのしんいりばいと、くん?が、くるひで」
(水嶋ヒロ似のイケメンだという噂があったのでかまえていたら)
「みず、ああ、水嶋ヒロ似の、イケメンだ、と、いううわさが、あったのでかまえ、ていたら」
(実際ビジュアル系に近くて、え、ヒロというよりはIZAM系じゃね?と思った)
「実際び、ビジュアル系?笑 そーなの?草食系じゃなかったんだ」
「うん」
「残念だったね、え、IZAM?」
「うん、だから話しやすかったよね逆に」
「あはは」
(話してみると、すごくいい子で安心した。よく働くし、素直だ)
「はなしてみる、と、へー、よく働くし、素直、ね」
(寒い中、おうちへ帰ってきたら、こたつがつけたままだったので、萎えた)
「さむいなか、おうちへ、帰ってきたら、こたつ、がー?つけたまま、だったのでー萎えたー」
「萎えたわーほんとに」
「萎えるねー」
(これで、わたしの11月29日のお話は、終わり。)
「これで、わたしの、じゅういちがつにじゅうくにちの、お話、あ、終わり」
「おしまい」
コトン、と机の上にペンを置いた。終わりかあー、と言って、炬燵の真向かいに座った彼は、今にも寝そうな顔をして頬を机にぺたんとつけた。わたしはわたしの今日が描かれた便箋を四つ折りにして、すぐそばにあった文庫本の――それは以前から彼が貸してほしいと言っていた本で――ちょうど80ページと81ページの間に栞のようにして、挟んだ。
同じように右の頬をぺたん、と机にくっつけた。冷たい。そのまま余った左手で、自分の眼元にあった鉛筆を中指でぱちん、とはじいてころころころ、向かいの彼のもとへ、旅立たせる。
そうして彼はさっきの姿勢のまま、ゴソゴソと鞄の中から何かの授業の裏半紙を取り出して、鉛筆を握り直す。
「じゃあ次俺ね」
「うん」
(今日は朝から寒かった)
カリカリカリ、鉛筆の黒が白を埋める音がして、懐かしい気持ちになった。わたしはぐい、と態勢を直して、重ねた両の手に顎を乗せた。
「きょうはーあさ、から、さむかった、っと」
(13時から授業だったので、ゆっくり準備をした)
「じゅうさんじからー、授業だったーのでー」
「あ、お前もう眠いんだろ」
「ゆっくりいー準備をー」
「おい寝るなよ」
「した。おしまい」
「おいっ」
静かにながるる