捨てないで
「足が痺れている。
日1日だけで、自らと世界とのズレがあまりにもリアルで、なんだか疲れてしまった。
東京、吉祥寺には現時点でわたしの求めるものが全てあった。ビルの場所もカフェの場所も古本屋の場所も駅の位置もそれなりに覚えて、だんだんと地図を見る回数が減って、迷わずにまっすぐ井の頭公園に行けるようになっても、ここを生活圏にしたいという想いだけが残り続けた。でもまだこの街はわたしという人間を受け入れようとしていない、という印象も同時に受けた。
足りない、圧倒的に、社会的なステータスが、内定、正社員、住居、資格、語学、人間性、地元、経験、知識、その全てにおいて、誰と比べるでもなく、今のわたしは足りないのだ。
悔やんでばかりいる。知らないままで、やらないといけないことはわかっているから、やるんだろうけど、終わったことを、終わっていないことを、そして、始まってもいないことを悔やんでいる。泣いている。
夜が廻っている。今日見た満月は明日は見られないし、そんなことわかっていて満月を見ることをしなかったわたし、そのことが本当に重要なことなのかさえ考えぬまま、ただただ見なかったことを明日の朝悔やむような、今のわたしはそんな風に無駄足を踏んでいる気がする。」
「可能性を棄てるよねすぐに、ううん全部だよ全部、俺に対してもそうだよ。」
「え?」
「なんでもない。とりあえず泣くのやめたら、つまんないし」
「うん」
「頑張れるでしょ、まだ」
「うん」
「寝る?」
「寝る」
「おやすみ」
「おやすみ」
捨てないで