涙袋
はなればなれになることが決まった。変えようのない事実としての距離が、もうすぐわたしたちを待っている。
パソコンに映る画面の中では、軽快なリズムの音楽に乗せて少年たちが踊っていた。キッチンから戻ってきた彼に、この赤髪の子が好きだと指をさせばどこが良いのと聞かれて、一重なのに涙袋があるところ、と答えた。
俺もあるよ、と声が降ってきた。
視線は自然に彼の切れ長の目をさす白い人差し指に移る。ぐい、と引き込まれるように瞳を覗き込めば確かに、涙袋。
ほんとだ。
でしょ。
知らなかったことを、またひとつ知った夜だった。それはとても嬉しくて、でもすごく寂しい。
当たり前に右腕に触れる左腕の優しさが、今はただただ安心を産み落としていく。こんな気持ちになることは二度とないかもしれない、そんな経験を二度、三度と言わず数え切れないほどしてきたくせに、今日だってわたしは同じことを思ってしまうのだ。終わりの見える関係は今までにだって有って、でもわたしはそれをどうやり過ごしてきたのだろう?上手く思い出すことができない。終わりたくない、なら終わらせなければいいのに、きっとわたしは、そして彼も、全てを距離と自分たちの不器用さを理由にこの関係を終わらせてしまうのだろう、と彼女は感じていた。
近づきすぎてしまった、そんな風にだけは思いたくない。思ってほしくない。わたしは彼が、すごく、すごく。
君についてわからないことのほうが多いけど、その涙袋と長い指は好きです。
涙袋