半透明
手のひらに確かに感じていた冬の感触が、確かにわたしから離れて行った。
朝8時。半透明のごみ袋45リットル右手で掴んで、投げる、ゴミ捨て場の前。鮮やかなピンク色のダウンベストは、わたしの大切な誰かが、誰かの大切なわたしを、見失わないようにするための、目印。
でもじゃあ、どうしてわたしはまだ誰かを待っているの。
「ひねくれて、ひねくれ続けて、型が付いちゃって、元に戻らなくて、まあいいやって、それが自分だし、その道程すら自分だし」
ふたつの細い目が彼女を見て笑う。何泣いてるの、って。彼女が泣いている時、ふたつの細い目はいつだって笑っているのだ。でもなんだかそれは、単純に泣き方を知らない、というのと同等であるようにも思える。
ふたつあることに慣れてはいけない。いつだってひとつなのだ、昨日も今日も明日も。
さよならさよなら。階段を上がった先に高く広がった東京の空。この空をわたしは忘れない。さよならさよなら。もう言葉は、要らないね。
半透明