半透明

手のひらに確かに感じていた冬の感触が、確かにわたしから離れて行った。

朝8時。半透明のごみ袋45リットル右手で掴んで、投げる、ゴミ捨て場の前。鮮やかなピンク色のダウンベストは、わたしの大切な誰かが、誰かの大切なわたしを、見失わないようにするための、目印。

でもじゃあ、どうしてわたしはまだ誰かを待っているの。

「ひねくれて、ひねくれ続けて、型が付いちゃって、元に戻らなくて、まあいいやって、それが自分だし、その道程すら自分だし」

ふたつの細い目が彼女を見て笑う。何泣いてるの、って。彼女が泣いている時、ふたつの細い目はいつだって笑っているのだ。でもなんだかそれは、単純に泣き方を知らない、というのと同等であるようにも思える。

ふたつあることに慣れてはいけない。いつだってひとつなのだ、昨日も今日も明日も。

さよならさよなら。階段を上がった先に高く広がった東京の空。この空をわたしは忘れない。さよならさよなら。もう言葉は、要らないね。

半透明

半透明

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted