Eat me!
テーブルの上にどんな美味しそうな料理が乗っていても、お腹がいっぱいの人やその料理に関心のない人達にとっては何の価値もない。 ー21世紀のある詩人の名言ー
男は女を抱きたいと思わなくなっていた。
女は男に抱かれたいと思わなくなっていた。
政府の調査では若者の性に対する欲求の減少は著明であり、原因を調査すると、そこには現代を生きる人間の現代病とも言える性質が明るみになる結果となった。
除菌、滅菌を推奨されている現代人は潔癖過ぎる位に潔癖症な人々が蔓延している。他人が触った吊革を滅菌しなければ触れない、他人が座った便座に消毒しなければ座る事が出来ない…そんな人々が果たしてセックスを行う事が出来るのだろうか?
セックスとはそもそも汚い行為だ。互いの身体に触れ合い、舐め合い、本来は汚いであろう部分を結合させる…潔癖症の人間にとっては苦痛でしかないのかもしれない。
しかし性欲が全く無い訳では無い。特に男性であれば多少の性欲は持ち合わせているだろう。そしてその爪に火を灯す程の性欲でも処理しなくてはならない。ではそれをどう処理すれば良いのか?その方法は簡単に解決出来ていた。
インターネット社会の現代においては、性欲を満たす事が出来る映像を簡単に見る事が出来るからだ。ワンクリックすれば、淫らな映像は直ぐに手に入り、自らで性欲を満たす事が出来る。昔は卑猥な雑誌や映像を手に入れるにはかなりの勇気と労力が必要とされていたのに…
一人で映像相手に性欲を満たす事は、生身の女性を相手にするより、なんて手軽で気を遣わなくて良いんだろう!生身の女は非常に面倒くさい。そうして男達は女を抱きたいと思わなくなっていった。
女達もインターネットのシュミレーションゲームで自分の理想のタイプを選び疑似恋愛が出来る現代において、生身の男に興味を失っていった。
ゲームの男達は、見た目も完璧で性格もパーフェクト。自分の思う通りに動いてくれる。壁ドンだって朝飯前だ。それに比べて生身の男は、見た目も自分の理想に遥か及ばず、女心を少しも理解してくれない。そんな男を相手にするのは時間の無駄だと考え、そうして女達は男に抱かれたいと思わなくなっていった。
このままではますます出生率が下がると危機感を感じた政府は、性交推奨をスローガンに様々な対策を打ち出した。
まずはインターネットの規制が強化された。卑猥な画像を提供しているサイトは徹底的に排除され、罰則も設けられた。罰金はとんでもない額が設定され、卑猥な画像を提供するサイトは以前に比べると格段に減った。もちろん視聴する人間も徹底的に調べられて多額の罰金を払う事になり、そんな事ならもう見るものか、と男達はインターネットで卑猥な画像を検索する事を止めた。もちろん全部を取り上げると性犯罪の増加が危惧されるので、昔ながらのエロ本と呼ばれる雑誌は今でもひっそりとコンビニエンスストアの隅っこに存在している。
女達が夢中になってたいたシュミレーションゲームも、女達がいかにも好きそうなイケメンばかりの設定は廃止され、デブやハゲの中年親父達ばかりが登場するようになり、女達はこれなら生身の男達の方がまだましだわ、とシュミレーションゲームは淘汰された。
そして性交が汚い行為だという概念を払拭するべく、食べたら皮膚が甘い味になるセックスサプリという商品が開発された。甘い味なら舐めても嫌悪感が減少するはず。他にも色々な味が開発された。スイーツはもちろん、アルコール好きの人の為にビールやワイン味も発売された。中にはラーメン味など一風変わったものもあり一部のマニアには好評だった。
今日は何味にしようか?
性交を楽しむ若者達が徐々に増え始め、政府の政策はまずまずの成功を治めた。けれどまだ性交に対して嫌悪感を抱いている若者達はごまんと存在する。完璧な潔癖症、もしくは完全に他人を愛せない若者。自己愛ばかりが強すぎて他人を愛する事が出来ない…正しいセックスには愛というスパイスが必要不可欠だ。その難題にどう取り組めば良いのかー
政府の探究はまだまだ続く事になりそうだ。
Eat me!