夜とシャンパン
長い間、彩音は夢の中にいた。目を覚ますと視界はぼんやりとしていた。半分開いた窓からは涼しい風が部屋の中に吹き込んでいた。部屋の中はしんと静まり返り、カーテンが揺れる音しかしなかった。ゆっくりと体を起こすと、どこか体はだるく、頭が重かった。
ベッドから降り、小さな丸テーブルの上に置いてあった携帯電話を確認すると恋人の直樹から連絡が来ていた。
―昨日は大丈夫だった?ずいぶん遅くまで仕事していたんだろ。今日はゆっくり休めよ。
直樹は無愛想だけれど、相手を気遣う優しさを持っていて、彩音はそんなところが好きだった。直樹と付き合い始めてからもう二年が経つが、出会ったころのように喧嘩をすることもなくなり、仲は深まっていた。そろそろ結婚の話も出るんじゃないかと彩音は密かに期待していた。
―大丈夫だよ。連絡ありがとね。
彩音は直樹にそう返信した。直樹が自分の返信を見てどう思うのか想像しながら、携帯電話をそっとテーブルに置いた。外をふと眺めていると、ちょうど学校帰りの小学生が歩いているところだった。小学生たちは大きな声で話しながら時折みんなで笑っていた。彼らが通り過ぎていくと、また外は静かになった。大通りから少し外れた場所に自分の住んでいるマンションはあるので、この辺りを通る車は少なかった。向かいの家には植物が植えられていて、緑色の葉が生い茂っていた。
彩音は部屋のクローゼットを開けて中から服を取り出した。この前直樹と二人でショッピングモールに行った時に買った服だった。今着ている服を脱ぎ、それをベッドの隅に置いて、新しい服に着替えた。
夜とシャンパン