公認ストーカー

リクエスト*岩泉夢


『はあぁ岩泉先輩今日もかっこいい…』

「…大鹿、怖い」

『だって岩泉先輩かっこいいじゃん!』

「いや、まぁ…うん」



こりゃだめだ、と国見英は大きなため息をついた。
バレー部に良く見学に来る女子…大鹿浩菜は、岩泉先輩のことが好きなのだ

好きというか、大好きなのだ。
いやむしろ愛しているのだ。
周りが引く程に。


『あ、金田一君!見た?今の岩泉先輩っ!!』

「あー…うん」

「(絶対見てなかっただろ…)」

『かっこいいよー…もう好きすぎて辛いよー』



なんて言いながらにへにへと破顔させる浩菜は、ちっとも辛そうには見えないが…

散々岩泉一のカッコよさを語られている国見は、「女子は大変そうだ」といつものように適当に、適切に頭の中で処理させてから練習に戻った



**



「……ねぇ岩ちゃん」

「あ?」

「今日もあの子いるけど」

「知ってんだよンな事」

「もうそろそろ付き合ってあげなよ!可愛そうだよあの子!もう一週間だよ!?」

「うっせ」

「ギャンッ」


いきなり声を荒げる及川にいつも通り蹴りを入れてから、後ろの女子に気付かなかったことにして歩を進める。


こんなふうにストーキングされるのも、もう一週間。
朝から晩まで、付きまとわれている。
授業中は流石にいないが、昼休みなんかはもうずっとだ。


…おはようからおやすみまで、大鹿浩菜の提供だ。



「…大体なんで俺だよ…」

「うーん…岩ちゃんあの子になんかしたの?」

「人聞きのわりぃ事言うな。何もしてねーよ」


及川ならまだわかる。ファンも多いし周りに女子がいなかったことがないくらいだ

なのになんで自分なのか、不思議だった。

 



 


『うーん…今日もかっこいい…』


今日もまた元気にストーキングをする浩菜。
いつも通りの日常。

いつも通り、だったのだが…。



「ねぇちょっと君1年?」

『…はい?』

「最近良くここらへんで見るよねー。もしかして及川くんのファン?」

『え、えぇと…』



短いスカートに茶色に染められた髪の彼女たちは、「及川くん」と呼んでいるあたりおそらく三年なのだろう。

険しい目つきをして、こちらを睨んでいる


「及川くんのことストーカーしてるんだって?」

『いや…』


それは及川先輩が目的なのではなく、あくまで及川先輩と岩泉先輩が一緒にいるから必然的にそうなるのであって。
決して及川先輩が目的なのではない。

そう断言したいのは山々なのだが、彼女たちが果たして聞いてくれるのかどうか…



「あんたのせいで及川くんが迷惑してんだよ!」

『っきゃ…』


まるで漫画のように、取り巻き女子に突き飛ばされた。
みっともなく尻餅をついて立てずにいると、胸ぐらを掴まれ、拳を振りかぶられて…


う、わ…これダメなやつ。

殴られ──


「おい、何してんだよ」

『……え?』

「い、岩泉…」


顔面に当たると思った衝撃は、何故か岩泉先輩の掌で止まっていた


「おい、何してるって聞いてんだけど?」

「や…その…」

「まぁ確かにこいつのストーキングは半端なくウザったいけどよ。
それについては俺から言っておくから。お前らもう帰れよ」


文面だけ見ると冷静に見える。
が、実際はキレそうになるのを必死に抑えてるだけなのだ。

そんな様子に彼女たちは、若干泣きそうになりながらもその場を後にした。



そして残された二人。
先に口を開いたのは、岩泉だった



「……お前には負けたよ」

『?』

「毎日ストーカー行為されて正直ウザかったけど、いないと、…なんつーかこう…
……あーもー!!」

『へ?あ、ちょ岩泉せんp…わぁ!?』



ぐいっと浩菜の手を取り立ち上がらせ、そして体同士が密着……抱きしめられた



「…お前のせいだからな。」

『な、何がですか?』

「お前が付きまとうから、お前のこと…気になってしょうがねぇんだよ」

『!?』



耳を疑った。
あの岩泉先輩が…



『ゆ、夢かなにかですか…?』

「は?意味のわかんねぇこと言ってんなよ。
とりあえずお前、名前教えろ」

『名前ですか?…お、大鹿、浩菜です…』

「大鹿、な。俺は岩泉一だ。まぁお前のことだから俺のことはいくらでも知ってんだろうけど…そうだな」


何かを決意した様子でニィっと歯を見せて笑う。
その表情に、浩菜の心臓は大きく跳ねた



「したっけ、大鹿の知らない俺をこれから見せてやるからな。覚悟しとけ!」

『は、はいっ!』


遠くで見てた時もかっこいいけど、

やっぱり、近いほうがかっこいい。



この心臓の高鳴りが、これからも何度となく味わえるのかと思うと、楽しみで仕方が無かった。


End

公認ストーカー

公認ストーカー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-07

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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