笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(9)
九 そして一人
師匠の高座が終わった。
「さあ、銀河系最高のお笑い芸人たち六組とトリを務められた師匠の計七組の舞台が終わりました。最後の師匠の得点は・・・」
電光掲示板が動く。
「数字が出ました。一桁から順に、〇、〇、〇、〇・、あっ」
司会者の驚きの声とともに、電光掲示版が燃え上がった。
「こ、こ、こ、これはどういうことでしょうか」
ブオオオオオン。
銀河系に莫大な笑いが起こった。その笑いから、観客の息が放出された。息は竜巻となり、アンドロメダ星雲にぶち当たった。アンドロメダ星雲は二つに大きく分れ、銀河系の星とアンドロメダ星雲の星は衝突することなく、アンドロメダ星雲は、銀河系を素通りしていった。おかげで、銀河系の人々は、これまでと同じ生活をすることができた。ただし、これをきっかけに、年に一回、更なる、お笑いの技術発展を目指して、銀河系お笑い選手権大会が開催され、銀河系中に放映されることになった。このお笑い選手権大会については、後日、機会があれば、お話ししたいと思う。
「どうでしょうか。今度の、「笑いは銀河系を救う「お笑いバトル合戦」」の台本なんですが・・・・」
私はプロデューサーの秋本の横顔を見た。足を組んだまま、一通り、台本に目を通した秋本は、まあ、考えておくよ、と言うなり、私の台本を机の上に放り投げた。
「でも、さあ。これ、なんで、関西弁なの。銀河系の人類は、みんな、関西弁なの。それに、関西弁にしては、ちょっと田舎なまりが入っているようなんだけど」
「いやあ。個人的に関西弁が好きなのと、私自身、関西の生まれじゃないんで、つい田舎の言葉が混じるんです」
「まあ、それはいいけど。それに、笑いで銀河系を救うと言われてもねえ。ほかに、何か、もっと、現実的なものは救えないの。世界では、イスラム国の勢力拡大やエボラ出血熱の流行とかで困っているでしょう。日本だって、少子高齢化で自治体が消滅するとか、認知症患者の徘徊やデング熱の発症などが問題になっているでしょう」
「はあ。銀河系を笑いで救えれば、世界や日本の問題も解決できるんじゃないかと思いまして。笑いの壮大な力を信じているんです」
「壮大な力ねえ。あんたが力を信じていても、一般の人は、そんな力を信じてなんかいないよ。なんか、リアル感がないんだよね、この台本。笑いで銀河系を救うと言われても。まあ、もう、一回読み直してみるよ」
「続編の「銀河系お笑い選手権大会」の台本もあるんですけど」
「まずはこのホンからだよ。あんまり、期待しないでね」
そんなこと言うもんじゃないよ。と、私は心の中で呟きながら、それを口に出すこともできずに、じゃあ、よろしくお願いします、と、頭を下げ、プロデューサーの部屋から出た。
外はもう真っ暗だった。空を見上げると、星が輝いていた。七つの星だ。お笑い北斗七星だ。遥か彼方の星では、一体、どんな笑いが受けているのだろう。流行っているのだろう。
全宇宙までとは言わないまでも、銀河系とは言わないまでも、全世界までとは言わないまでも、日本中とは言わないまでも、せめて、この地域だけでも、自分の作品が笑ってもらえ、その結果、笑いの力で、地域や日本、世界、銀河系の問題が解決して欲しいと、お笑い北斗七星に願いながら、私は一人で家路に向かうのであった。
笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(9)