お兄ちゃん(仮)

リクエスト*一護夢




二月も中旬。
世間ではバレンタインが近づいていた

世の女の子達は好きな男の子にチョコをあげるためにそわそわし出す頃だろう

そして、彼女─黒崎萌恵もまた、例外ではなかった。



「ねー、萌恵ってバレンタイン誰にあげるの?」


クラスの友達に毎年決まって聞かれる。


そして萌恵は、毎年決まってこう答える


『お兄ちゃん…と、お父さんかな』

「クラスの男子とか先輩にあげないの?」

『うん、好きな人とかいないし』

「へぇ、私はやっぱり田中くんかなー」

『田中くん?』

「ほら、前に話したじゃん!バスケ部の!!」

『…そうだっけ?』

「もー、萌恵って本当に男に興味がないんだから」

『あはは…』


なんてやり取り、もう何回目だろう。
クラスの男子にも、先輩にも全く興味がない。


いや、確かにサッカー部の先輩とかをかっこいいと思う時期はなかったわけではないけど
それでもやっぱり好きという感情には至らない


それはきっと、萌恵の心の中にもう決まった人がいるからなのだろう


『…お兄ちゃん…』


 

 



 

それから数日後。バレンタイン当日



『えーと…ここで生クリーム…』

「萌恵ねぇなにしてんの?」

『っわぁ!?』



家族がいないのを見計らって、バレンタインのチョコ作りをしていた…のだが。

いつの間にか帰ってきたらしい遊子と夏梨が後ろに立っていた


「いい匂い…チョコレート?」

「あぁ、そういえばもうすぐバレンタインか」

『遊子と夏梨にもあげるからね、もう少し待ってて?』

「やったぁ!夏梨ちゃん、手洗ってこよ?」

「ちょっと遊子走ると転ぶよ!」



可愛い妹たちをぼんやりと眺めたあと、ハッとして作業に戻る。

急がないと今度は一護が帰ってきちゃう。
その前に作り終わってラッピングをしないといけないのに


『…よし、もうひと頑張り!』



 




**



【夕食後】




『…できた!』


遊子や夏梨や、お父さんよりも少しだけ豪華なラッピング。
…変じゃない…よね?


そろそろお風呂から上がってきた頃だろうし…よし、がんばれ私!!


ぴしゃりと頬を叩き、気合を入れて一護の部屋をノックする



コンコン


『お、お兄ちゃん?私だけど…』

「おー、萌恵か、どうした?」

『入ってもいい?』



ガチャっとドアが空き、お風呂上がりの一護が少し不思議そうな顔をして出迎える

部屋に入り、なんとなくいたたまれなくなって正座をするが、そんなもので緊張が取れるわけがない


「どうした?」

『あ、あの……これ…』



包を渡すと、一瞬きょとんとしながら受け取る


「あぁ、そういや今日バレンタインだっけか。クラスの女子が騒いでたのもそのせいか」

『め、迷惑じゃかった?』

「迷惑なもんかよ、ありがとうな」



にこっと笑い頭を撫でられ、萌恵は思わず顔を赤らめる

あぁ、だめだ。どうしよもなく好きだ。



「でも毎年俺にくれてるけどよ、萌恵は好きな奴とかいねーの?」

『い、いないよっ!』

「ほら、サッカー部のやつとか…」

『お兄ちゃんの方がかっこいいもん!』



あ。


しまった。つい思わず言ってしまった。そんなこと言う気もなかったのに

嫌な顔をされるだろうな、と恐る恐る顔を見てみる



「お、おう、…そっか、サンキュ」



予想に反して、一護もまた少し顔を赤らめていた
そして、意を決したように口を開く


「…萌恵」

『な、何?』


ベッドに腰掛けている一護が、ぽんぽんと膝を叩く
…す、座れということなんだろうか

隠せないほど赤くなった顔で、萌恵が膝に座ると、優しく抱きしめられる



『!?!?』

「あ、わりぃ。嫌だったか?」

『い、嫌じゃない、けど、えーっと、その…っ!!』



脳が大混乱している。
どうしよう、どうしよう。
ドキドキしているのも、顔が熱いのも、きっと伝わってしまう



「嫌じゃないなら、少し聞いてくれるか?」

『う、うん…』



後ろで深呼吸をする声が聞こえる。



「…よし、やっと覚悟ができた」

『…?』

「萌恵がもし、今年も俺にこうやってしてくれたら、言おうと思ってたんだ」



そこで萌恵は気づいた。
背中に伝わる鼓動は、自分のものじゃなくて…



「…これは本命ってことでいいんだよな…?」



─彼もまた、人に伝わるほどにドキドキしているんだと。



「俺‘も’好きって、言ってもいいんだよな?」

『ッ…!!』


ど、どうして。

どうしてどうして。

どうしてこんな奇跡があるんだろう。



『え…えっと、』


恐る恐る振り返ってみると、そこには今まで見たことのないくらい赤い顔をした一護がいて

そして、今の言葉が幻聴じゃないことに気づく



『お、お兄ちゃ…井上さん、じゃなかったの?』

「井上?なんでそこで井上が出てくるんだよ」

『だって…』



彼女は多分、誰が見ても一護のことが好きだ。
そして一護もまた、彼女が好きなんだと、

そう、思っていた。のに…



「俺が好きなのは、萌恵だよ」

『わ、私も、…だけど、お兄ちゃん…私はそうゆう好きじゃなくって…』

「知ってる。
…兄妹だからな、みんなには内緒だ」

『知って…?』


知られてたの?いつから?というか本気で?

未だ起こったことに頭がついていかず、ぐるぐるとめまいがしそうだった

一護はさっきリンゴのように赤かったのが嘘のように、萌恵の見たことのない、男らしい顔をしている



『お兄ちゃ…』

「二人の時は一護。」

『へ!?』


これじゃまるで恋人同士じゃないか。
いや、そういえば両想いなのか


『い、いち、ご…』

「おう。慣れるまでいっぱい呼べ」

『~~っ、が、がんばる…』

「…高校卒業したら、一緒に住むか」

『今から考えるのは早くない…?』

「まぁ、焦ることはないよな。」


そう言って一護は、口に…
いや、口の端ギリギリにキスを落とした。



願わくば、いつまでもあなたと共に。




End

お兄ちゃん(仮)

お兄ちゃん(仮)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-07

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work