生存率1%の勇者
知らない世界
水色の果てしない空。大地は黄緑色に生い茂り、その近くには街らしき建物が僕を待ち構えてるかの様に建っている。
僕は大葉子 勇(おおばこ ゆう)普通高校に通う高校一年生だ。
何不自由なく生活し、楽しく毎日を過ごしてるーーはずだった。
今、僕は今年・・・いや、人生で一番最悪な危機に直面している。
それは・・・
『知らない世界にトリップしてしまったという事』
*
〜少し前〜
「今日も疲れたな」
帰宅部で幼なじみの貴史との帰宅中の事。勇は授業で疲れた重い体を引きずり歩く。
「確かに疲れたな」
貴史は勇と同様に疲れた表情で歩いていた。
信号まで来ると「やっと信号までこれたよ」とホッと一息つく勇。だが信号はすぐさま青へ。普通なら嬉しいが、今日は違う。『少しでも休みたい』そんな気持ち。
青になったのを確認して重い足を進める。その瞬間、一台の車が信号を無視して進んできた。
「ゆう!危ない」
ドゴッ
貴史の叫びも虚しく勇の体は車に乗り上げ、横断歩道は赤に染まった。
「・・・ゅ・・ぅ?」
相当なショックを受けたのだろう、貴史の顔は青ざめ目の焦点が合わないままでいた。
はっと我に帰った貴史は震える手でケータイを握りしめ、すぐさま救急車を呼び寄せる。
救急車が来たのは勇が轢かれてから数分後のことだった。
*
「ここどこだよ」
思わず心の声が漏れる。誰もいないというもの寂しさから目の前が真っ暗になった。
「これからどうしろって言うんだよ。でも確か俺は信号を渡って・・・うぅ、思い出せない」
分からないことだらけでイライラが頭いっぱいに広がっておかしくなりそうだ。
「分からないものはしょうがない。まず街に行ってみるか」
特に何も考えず、軽い気持ちで街へ足を運ぶ事にした。
*
街に着くと勇は驚くものを目にした。
ザワザワと賑わいを見せる街。そんな街の景色は色とりどりの服を着た人々が彩っていた。
所々に店があって縁日の屋台を連想させるような光景だ。
ドンッ
男とぶつかった衝撃で勇はしりもちをついてしまう。
その男は勇と同じくらいの身長で見た感じ40〜50歳位のダンディーなおじさまだった。トロンとした目に上がった口角はその男の『優しさ』を表現しているかのようだ。
「すまん」
男は軽く頭を下げた後、しりもちをついた勇に手を貸した。
「お、新入りかい?」
「ここは何処なんですか?」
勇の質問に男は目を細めて言った。
「ここはねぇ現世とあの世の境目さ」
「それはどういう事ですか?」
「君は事故か病気かで今、眠りについてるはずだ。ここの世界は現世と連動していて、ここで死ぬと現世でも死ぬんだ」
「なら帰るためにはどうすればいいんですか?」
男はガサゴソとポケットの中の何かを探し始めた。そしてポケットの中から紙を取り出し勇に見せる。
そこにはモンスターリストと書いてありその横には意味不明なパーセンテージが並んでいた。
「これの数字は何ですか?」
「これは『生存率』だよ」
「せいぞんりつ?」
男の言葉に戸惑いの色を隠せなかった。
「ああそうさ、その生きるの『生』に存在の『存』と書いて生存率」
「でも、生存率とモンスター、何の関係があるんですか?」
「君の生存率によって最終的に倒すモンスターが決まるんだよ」
話がぶっ飛び過ぎてついていけない。モンスターを倒す?RPGの世界にでも迷い込んだのかよ。
「生存率ってどこで分かるんですか?」
「生存率は情報屋で教えて貰えるはず・・・」
それから男と別れ情報屋に向かう事にした。
*
やっとの末に情報屋に着くことができた。外見は普通の店だ。外壁に使ってある石レンガはすごくRPGっぽく、勇の興味を惹いた。
ドアを開け中に入ってみると、石の床に木製のカウンターが勇を迎えた。
そのカウンターには情報屋の店主らしき人が待ち構えていた。
黄緑色の髪色で見た目からして、20歳後半くらいだ。でも、どこか僕たちと違う雰囲気をかもし出している。RPGでいうNPC(ノンプレイキャラクター)という存在だろうか?
「すいません。僕の生存率を教えてください」
「はい。少々お待ちください」
と言うと店主は目を閉じて静止した。何かを検索しているのだろうか?そんな事を思って見ていると店主は目を開け、勇に告げた。
「貴方の生存率は1%。貴方が倒すモンスターは魔王。それでは行ってらっしゃい」
勇の能力
「生存率1%!?う、うそでしょ?もう一回検索し直してよ!」
「嘘ではありません」
「・・・やだよ・・かえしてよぉぉぉぉ」
無情にもそんな声は悲しみの暗闇に消えた。
もう家族にも友達にも会えない。そう思えば思うほど勇の目からは大粒の涙が頬を伝いこぼれ落ちた。
それを見ていた店長は救いの手を差し伸べた。
「あ、そういえば以前3人ほど生存率10%以下の人が訪ねて来ました。今は何処にいるかは分かりませんが、目指すところが同じなので会ってパーティーを組んでみては如何ですか?」
「それともう一つ----」
*
ドアを閉め、吹っ切れた面持ちで前を向く。手には謎の箱を持っていた。
この箱は情報屋から貰ったもので旅人を助けるアイテムらしいが、どうなのだろう?
開けると自分の中に秘める能力が覚醒して、この世界にいる間、条件を満たせば能力が使えるというものだ。
早速箱を人気のない場所で開けてみることにした。
箱の蓋を持ち、心を落ち着ける。
この箱は大事なアイテムだ。もし、弱い能力だったら与えられた希望を無下にしてしまうだろう。
唾をゴクリと飲み込み一息に開ける。
すると中には玉のようなものが入っていた。開けた瞬間に能力が手に入るのだと思っていたが、緊張して損した気分だ。
「なんだこれ」って思いながら箱から取り出して見た。そして考えた結果。
「で、本当になんだこれ」
*
「情報屋さん!この玉なんですか!?」
ドアを開けるなり息を切らして、カウンターに頭を伏せた。
「そういえば言ってませんでしたね。アハハ」
爽やかな笑いに興奮冷めあらぬ気持ちを収めるほかない。
「試しにその玉を床に向かって力一杯投げてください」
「こ、こうですか?」
おおきく振りかぶり精一杯の力を込められた玉は目にも留まらぬ速さで床に打ち付けられる。
すると床に投げた玉がべちゃっとスライムみたいなに床に張り付き、モコモコと盛りがあってきた。
そして玉はじわじわと変化しどんどん小さくなっていく。見ていると、何処と無く生命を感じる。
興奮した面持ちで目を輝かせていると形はリング状へと変化した。
「これはなんですか?」
「多分指輪かと見受けられます。ちなみにこの形は人によって違うんです」
勇は完成した白銀の指輪を拾い上げ、店内の光に当てながら輝きを見ていた。
「それは魔装といって、魔を帯びた装備です」
「ま・・そう・・・?」
「そうです、魔装です。その魔装をつけることによって魔法が使えるようになるのです」
早速、魔装を自分の指にはめた。
その指輪は何故か僕の指にフィットし、はめた瞬間力が湧く感じだ。
「試しに意識を指輪に集中して、空中に円を描いてください」
目を閉じ、体全体に散らばった魔力を指輪に込めるイメージで意識を集中させた。
「今です!空中に円を描いてください」
言われたままに指で円を描く
すると光り輝く白の線が疎らに丸を描いた。
「お、これは光属性ですね。珍しいですよ」
「でも、形が綺麗な円じゃないです」
「最初はこんなものです。うまく魔力を操作できれば綺麗な円が描けるようになりますよ」
「どうやったら上手く魔力を操作できるんですか?」
「イメージ力が豊かになれば上手く操作出来るのでは無いでしょうか」
そっと目を閉じ、両手に集中した。
すると店の窓から光が漏れるほど白い光が店内を照らす。
店長は眩しさのあまり目を覆い隠した。
「こんなに早く上達するなんて、もしかすると本当にいけるかも知れません、魔王討伐」
「本当ですか !?」
「はい、旅はこれからです。お気をつけて」
勇は店を後にし、仲間探しへと心を切り替えた。
「頑張ってくださいね。勇さん」
生存率1%の勇者