前世療法

《さあ、あなたはどこにいますか》
「ええと、ヨーロッパの教会です。皆で祈りをささげています。ぼくは一番若い修道士なので末席にいます。国は、国は、ああ、ハンガリー帝国です」
《もう少し、さかのぼってみましょう》
「はい。場所は草原です。空気が乾燥して冷たい。遠くから馬の足音が響いています。仲間がハーン、ハーンと叫んでいます。多分、モンゴルです」
《さらに、さかのぼりましょう》
「海にいます。わたしは褐色の少女です。友達と海に潜って貝を採っています。ハワイかポリネシアのあたりです」
《もっと、さかのぼりましょう》
「はい。暑いです。湿度が高く、じっとりしています。おや、神官たちが騒いでいる。未来の暦が2012年で終わると言っています。中南米でしょう」
《思い切り、さかのぼりましょう》
「やはり暑いですが、空気は乾燥しています。おれは粘土板に文字を刻んでいます。ハムラビ王の命令だそうです。ここはバビロニアという国です」
《いいでしょう。それでは三つ数えたら、目が覚めます。一、二、三、はい》
「あ、ああ。戻ったんですね。なんだかすごく疲れました。やっぱり、催眠術で前世にさかのぼって外国にいた頃の記憶をよみがえらせるよりも、普通に海外旅行に行きたいです」
(作者註:タイトルは『前世旅行』の間違いでした)
(おわり)

前世療法

前世療法

《さあ、あなたはどこにいますか》「ええと、ヨーロッパの教会です。皆で祈りをささげています。ぼくは一番若い修道士なので末席にいます。国は、国は、ああ、ハンガリー帝国です」《もう少し、さかのぼってみましょう》「はい。場所は草原です…

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-05

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