銀のスカイライン

 自分が10歳頃の話なんですけど。当時、団地に住んでて、近くに背中から肩にかけて刺青を入れたおじさんが住んでました。団地に刺青の人自体は珍しくなくて銭湯に行けばそこそこ居たし、会えば挨拶してくれるおじさんも居ましたが大抵は職人さんとかでした。件の刺青のおじさんは働いてるのかどうかも分からず職業不詳なのでした。そのおじさんはシルバーのスカイラインに乗っていて、どうしたわけかいつも仮ナンバーのままでした。赤い斜めの線が入ったやつです。

 ある日そのスカイラインが落書きされました。赤のスプレーでボディーの横っ腹に『コロス』と描かれていました。文字から赤い塗料が垂れてホラー映画のタイトルロゴのようになっていたのを思い出します。その日の内にクラス中と云わず学校中に広まって、学校の帰りに自分の案内で見に行ったりもしました。

 『コロス号』というあだ名がついたそのスカイラインは、意外にも色んな所で見掛けられました。近くのスーパーの駐車場やガソリンスタンド、国道を走っていたとか、河川公園の駐車場に居たとか。コロス号を見たら悪いことが起こるというような迷信なのか都市伝説なのかよく分からない噂まで飛び交いましたが、そうこうしている内にスカイラインは真っ黒に塗り替えられて、以後この事は話題にもならなくなりました。

今思うとあれくらい心臓が強ければな、と思って。極端過ぎるけど。

銀のスカイライン

銀のスカイライン

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-03-05

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