一人と独り

とどまることなく過ぎていくこの時間

同じような日常を過ごして

生きている人々は少しずつ変わりながら

日付とともに

いずれ消えていくこの命の灯火を燃やし輝かせて

生きていく。

そんな時間の間で

そんな人々の間で

私だけが変わることができなくて

変わりたいのに変われなくて

みんなが変わっていく中私だけが変われなくて

それはまるで私だけが変わっているみたいに。

そんな風に感じた。

「Ⅰ」

なんでこんな風になってしまったのだろう。

こんな風になるはずじゃなかった。

確かに過去には

友達と心から笑っている私がいたはずなのに。

辛いことや悲しいことがあっても立ち直れる私がいたはずなのに。

楽しい時には心から笑って

悲しいときには声を上げて泣くことができる

そんな私がいたはずなのに。

どうしてこんな風になってしまったのだろう。


「Ⅱ」

重たい鞄をもって重たい足取りで学校に向かう。

今日も同じだ。

憂鬱な朝

重たい鞄

「はぁ・・・。」

ため息が耐えない毎日。

きっと本当にため息で幸せが逃げてしまうなら

私の幸せはもう残っていないだろうな。

寒くて長い道のりを歩いて学校の間近に来る。

一瞬体がこわばった。

毎朝学校を拒否してか痛くなる私のお腹と頭がジンジンと激しく痛くなる。

ここで負けたらだめだよね。

ここで負けたら前と同じだ。

「歩くんだ・・・歩くんだ私。大丈夫なはずだから・・・」

だれかに言っているわけではなく自分自身に言い聞かせながら私は歩いた。

あぁ・・・もうすぐ学校に着くな・・・。


「Ⅲ」


私が通う教室は4階にある。

あぁ重たい。

鞄も脚も気持ちも全てが全て重たい。

苦しい、苦しい。

痛い、痛い。

体がじゃない。

手首がじゃない。

心が・・・心が重たくて苦しくて痛い。

ぎゅううっと胸をつかまれているような感覚。

教室の近くに行くともっと苦しくて痛い。

震える手で教室の扉に手をかける。

大丈夫・・・ここまでこれたんだ

大丈夫・・・今まで何度こんな思いで扉を開けたか思い出すんだ。

大丈夫、今日も一日を過ごせるはずだ。

手に力を込めて扉をなるべく音を立てないようにしてあけた。

教室にいる8人くらいの目が一瞬私を捉える。

机の近くにいた男子はさぁっと移動した。

だからといって毎日特に何かをされているわけではないのだから気にすることはないはずだ。

ドラマやテレビであるようなことをされているわけではないのだから。

私がやられていることはきっと友達をいじるようなそんな感覚で

きっとみんなは言っているはずだから。

特に気にすることはないのだから

大丈夫、大丈夫。

鞄を置いて席に座って1日の用意をする。

そういつも通りだ。

今日もいつも通り。

何も変わりはない。

もうすぐ20分になる。

チャイムが鳴り何人もの人が教室に駆け込んできた。


「Ⅳ」


1日が始まった。

あぁ・・・始まった。

先生も入ってきて学級委員が連絡して係りが仕事をして朝の会が終わって掃除の時間になった。

「宮ちゃん~っ行こう?」

中野さんとは掃除場所が一緒なので毎朝一緒に掃除場所へと向かう。

「うんっいこっか!」

2人で話しながら音楽室に歩いていった。

話に盛り上がっているとばしゃっと水がこぼれた。

「はわっ・・・水こぼれちゃった・・・」

中野さんは背が小さくて声が高くてとっても優しい女の子で

なんだか子猫のような子だ。

笑いながら2人でこぼした水をふいた。

今笑えたかな。

きっと笑えてるよね?

中野さんのこと友達って思っていいのかな。

というか友達って何?

くだらなくベタベタ馴れ合って

行きたくもないトイレについていって

馬鹿みたいに笑って

目があったら微笑んで

平和な日常を過ごすために作る上っ面だけの関係が友達なら私はそんな友達いらない。

掃除場所で掃除をするときはまじめに掃除した。

何も考えないでいいように。

しゃべってる女子とかじゃれあっている男子もいる。

そんな人たちを見て子供だなぁって思う私は変なのかなぁ・・・。

時々本当に同い年なのかなって思う。

あぁ・・・やっぱり私変わっているのかな。


「Ⅴ」


授業時間まじめに聞くでもなくしゃべるみんなの声が頭に響く。

あぁ五月蝿い・・・五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い。

馴れ合って馬鹿みたいに騒ぐ同級生

あぁ馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい

みんなが先生をからかって笑う。

先生も笑う。

笑って笑って笑って笑って笑う。

あぁ消したい消したい消したい消したい消したい消したい。

全部全部目障りで、全部全部消してしまいたい。

そんなことを思う私が醜い。

汚らわしい。

本当に私って価値がない。

汚らわしくこの世界が見えるけれど

もしかするとこの世界が汚らわしいのではなくて

私の目が心が汚れているのかな?

・・・そうなのかもしれないな。

私はマスクの裏で力なく独り笑った。

誰にも気がつかれないように小さな愛想笑いを。


「Ⅵ」

あっという間に4時間の授業は終わった。

4時間このクラスが静かになることはなかった。

もう給食時間だ。

私は手をさっと洗って席に着いた。

今週が当番ではないので席で本を読む。

毎日5冊本を読むのが目標の私は現実逃避の意味も込めて本を読む。

これは3冊目。

私が大好きな「西の魔女が死んだ」

内容にすごく共感できる。

多分10回以上読んだ本だ。

給食が私の机に配られた。

食べたくないけれど食べなければいけない。

薬飲まないといけないから・・・。

給食を何回か食べて牛乳を飲んだ。

お腹らへんからなにかがこみ上げてくるのがわかった。

「ぅ・・・やばい・・・」

席を立って先生のところに行く。

「先生・・・ちょっとトイレいってきていいですか?」

「あっうん。いいよ」

先生から許可をもらってすぐ教室を飛び出してトイレに向かった。

「げほっ・・・ごほっ・・・うっ!・・・はぁ・・・はっ・・・。」

頭痛からかお腹からか吐き気が襲ってきた。

私にはよくあることだった。

もう慣れていた。

慣れているはずなのに。

「泣きそうになってきた・・・。」

上を向いて涙をぐっとこらえて教室へと戻った。


「Ⅶ」


昼休み。

学校で1番辛い時間。

大丈夫、担任がいればアレは絶対されない。

されないけれど・・・。

現実はそんなに甘くなかった。

担任は教室から出て行ってしまった。

「あ・・・。」

ダメだよ。

行かないで。

行かないで先生。

教室にいるメンバーが一気に五月蝿くなる。

それと同時に男子が近寄ってきた。

あぁ・・・またか・・・。

「ねぇ何の本読んどるん?」

五月蝿いお前に関係ない。

本を読んで無視する私に男子は笑って去っていった。

またじゃんけんをして今度は違う男子が来る。

「その本面白いと?」

五月蝿い。話しかけないで。

「この前なんで休んだと?」

お願いもう話しかけないで。

「この筆箱どこで買ったと?」

黙って。お願い話しかけないで。

「この眼鏡どこで買ったと?」

関係ない。お前に関係ない。

「ねぇ何で無視すると?」

読んでいる本を取り上げられた。

やめて。返して。

触らないで。話しかけないで。

こっちにこないで。

これ以上干渉してこないで。

それでも私が無反応なのを見て笑いながらさっていった。

本を乱暴において・・・。


「Ⅷ」


昼休みのせいで5、6時間目は全然集中できずに終わった。

やっと帰れる。

帰れる・・・。

「「さようなら」」

あれ?いつの間に帰りの会終わったんだろう。

なにしてるんだろう・・・私。

鞄を背負わずにトイレに駆け込んだ。

そこから少しの間は映像をただ無関心に見ているようだった。

いつのまにか左腕に無数に傷つけられた傷から血が出ていた。

あぁ・・・切ってしまったんだ。

またやってしまったんだ。

痛い。

痛い。

傷よりも心が痛い。

こんな傷痛くない。

痛くないよ。


「Ⅸ」


ただただ悲しかった。

弱くて変われない自分が

みんなに迷惑をかけてしか生きられない自分が

人を傷つけてしか生きられない自分が

自分を傷つけてしか生きられない自分が

自分を守ってしか生きられない自分が

大嫌いだった。

ねぇ・・・どうしたら辛さがなくなるのかな?

切れば少しは治ると思っていたんだ。

こんなに弱い自分や心の傷が治ると思ってたんだ。

心と体が引き裂かれるような感覚。

心が叫んでも笑った。

でも何も変わらなかった。

「大丈夫?」

そんな言葉要らない。

「頑張れ」

何を頑張るの?頑張れなんてそんなの重荷なんだよ

「負けるな」

 違う

「あきらめるな。」

 違う

「自分だけじゃない」

 違う

辛いんだよ。

苦しいんだよ。

もう疲れたんだよ。

楽になりたいんだよ。

いっぱい泣いたんだよ。

カッター握って

腕に押し付けて

このままじゃダメだって

消えるのは怖くて

一人は大丈夫でも

独りは怖くてさびしくて

自分がどうしたいのか自分でもわからなくて。

強くて優しい人になりたいと思うけど

人の心配しかできないんだ

本当に情けないなぁ。

消えてしまいたいなぁ。

そう毎日願うことしか私はできない。


「Ⅹ」


毎日の時間割や出来事を書いて提出するノートの先生のコメントを見て涙が出た。

「何かあるときは話にきて下さいね!」

ほかの人が見たらたったそれだけのことかもしれなかった。

でも私にとっては大きなことだった。

頼れる人は沢山いるのに

私はいまだ心を開けていないんだね。

ふと先生の顔が浮かんだ。

「大丈夫よ」

そういって笑ってくれる先生を。

でも私知ってるんだ。

人を観察するのだけは得意だから。

先生が誰とも話していないときは小さなため息をついていること

眉間にしわを寄せている。

だけど誰かと話すときはすぐに笑う。

きっと先生すごく疲れているだろうな。

ごめんね。先生。

先生にまた無理させちゃったね

沢山迷惑と心配かけてごめんね。

ありがとう。先生

だけどきっと今見ている先生は本当の先生じゃないだろうから。

いつか大人になって先生自身を見たいな

今度は私が先生の相談にのれるようになりたいな

ごめんね

もっと伝えたいことはあるけれど

口が心に追いつかないんだ。

だけど、だけど

ありがとう。


「XI」


沢山の人に支えられている私は

きっと明日も憂鬱に過ごすかもしれないけれど

また沢山の人に迷惑かけるかもしれないけれど

明日を生きていける・・・そんな気がした。

「明日もいろいろあるかもしれないけれど生きてみようかな」

一人と独り

これはまぁ今現在の私の気持ちでもあります。
まとめて書いたつもりですが・・・どうでしょうか?
そもそもこれを書こうと思ったのは担任と木曜日に話したときです。
沢山迷惑をかけた担任にⅩで感謝を伝えようと思ったのですが伝わったでしょうか・・・。
担任へのちょっとしたお手紙です(笑)
それ以外のシーンは実体験です。
最後の締めにすごく悩みました。
なにしろこの話は現在進行形なものですから・・・。
ですが毎日は繰り返しです。
なので完璧に前向きになったわけではなく少し上を向けたかな・・・くらいで終わらせました。
この物語があなたの心になにか残すものでありますように。
また、このお話で不快になられた方は本当にごめんなさい

一人と独り

中学2年生の私が生きる憂鬱な1日 今日もいろいろあった きっと明日もいろいろあるだろう それでも一歩一歩踏みしめて生きていけるといいなぁ

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-25

Copyrighted
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