UFO
「なんだかよどんだ空だね、この世が終わってまた小さく始まりそうな」
たかみちは時々不思議なことを言う。
今まさに夏の中間地点にいて、立ち尽くしている彼に私はただ「うん」とだけ答えて、また窓の向こうの空を見た。
ほんとは彼の言葉の意味の半分も理解できてないのに答えた「うん」は、彼にとっては半分も理解できれば十分だ、そんな風だ。
彼の言葉の意味を理解できなくとも、彼の姿勢を理解できればいいのかな。
なんだ、私は彼を理解したいのかな?
ええー・・・・。
なんだ、よくわかんないや。
このごろ夏にバテてより細身になった私は、左肩あたりの鎖骨と皮の距離が近くなったことを右手の中指あたりで感じた。
すりすりこすりながら、色んなことを考えてしまう。
これ、私の癖なんだ。
そのうちこすりすぎて赤くなってしまう。
それを見て家族や友達はこう言う。
「虫さされ?」
それを見てたかみちはこう言う。
「考えすぎ」
彼の鳥を数えるようなかすかな視線は、私の頬まで赤くする。
砂時計の砂がさらさらすべり落ちるように、私の胸にもじわじわ砂が盛り上がる。
「あっ、UFOだ」
たかみちはぼそっとつぶやいた。
夏も終わりの出来事だった。
空いちめんに広がる夕焼けが胸に染み入りそうで、私は苦しみの渦中にいたその時だった。
堤防沿いの何もない、本当にまるで何もない、空だった。
私が苦しいのぐっとこらえて空を見上げると、彼は何かを求めるような視線をじっとよこした。
何なのよ、何なのさ。
私はそこにあるはずもないUFOを探すふりを必死に始めた。
焦がしたりんごみたいな瞳があんまり美味しそうで、じっと見つめ返してみたかったけれど、それはできなかった。
何故だろう。
それはありもしないUFOを探すように。
この時の中はわからないことだらけだから。
でもみんなどっかわかってるふりをしていて。
だから彼はあるはずもない不思議があるふりをして。
だから私はあるはずもない不思議を探すふりをして。
答えのない世界だから、答えはきっと焦がしたりんごの先にあるはずだと信じて。
私は彼を見つめ返した。
音もたてずに。
じりじりと果実が煮立って、甘い雫が滴る。
恋は一千光年の光みたいに不思議なものだ。
UFO